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事故つがいの夫は僕を愛さない
シャツのほころびに決意をこめて ②
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改めてシャツを干し、理人が作ってくれたおかゆを感謝して食べてから僕も出勤した。
僕の姿を見つけるとすぐ、真鍋さんが声をかけてくれる。
「高梨君、大丈夫だったか?」
「はい、昨日はすみませんでした。体調はもう大丈夫です」
「いや、体調もだけど、旦那さんとは?」
「……あ、えっと」
いろいろと相談しているとはいえ、体調だけでなく理人とのことまで気にかけてくれるなんて、真鍋さんも本当にいい人だ。
理人とはつがいを解消しようと思ってる、なんて言ったら、もっと心配をかけてしまうだろう。
それに夫夫間のことで、僕だけの話じゃないし、理人と話して正式につがい解消が決まるまでは、真鍋さんにも黙っておこうと思う。
「大丈夫です。仲直り、しました。運命のつがいでもないし、キスして見えたのも転倒したのを抱き止めたのがそう見えたんだろう、って大笑いされました!」
もちろん嘘だけど明るく言うと、真鍋さんは眉を寄せたまま静かに息を吐いた。
「そっ、か。……良かったな。 じゃあ、俺のせいで怒られることもなかったんだな?」
「怒る? 真鍋さんのせいで? あっ、そうか。昨日の理人、真鍋さんに失礼でしたよね。最初、真鍋さんだってわからなかったんだと思います。すみませんでした」
「いや。高梨君もそうだったように、自分のつがいを他のアルファが触ってたら嫌だろう?」
そう言われて、理人と運命の彼の場面を思い出し、胸がきゅ、と痛んだ。
「そう、ですね……でも、真鍋さんは鍵を探してくれただけですし、理人は……」
理人は、そんなふうに思ったりしない。今は大丈夫になったのに、僕が対人恐怖症になった過去があるから過敏になっていただけだ。
そう、高校生のころなんかはもっと過敏だった。
通信制高校だった僕のたまの登校日には、「学校を休んで着いて行く」とまで言って互いの両親に反対され、結局僕の母が送り迎えをして保健室登校をすることで納得していた。
学校が終わってスマートフォンを見ると、様子を聞いてくるメッセージがたくさん届いていたっけ。
あのころの僕は、確かに互いの両親と理人しか安心して話せる人がいなかったから、嬉しかったな……。
理人は責任感がとても強くて、いつも僕を危険から守ろうとしていてくれた。
大人になるに連れ減ってきたけれど、昨日怒って見えたのはその名残だ。
「いや、あれは激しい威嚇だったぞ。初めてここに挨拶に来た日を凌ぐ迫力だった。高梨君に触れたら許さない! って感じで、ビリビリきたからな。……まあ、俺が悪いんだけどさ」
「はは……」
真鍋さんが悪いなんて少しも思わないけれど、過去にアルファに襲われたから心配されてただなんて、本当のことは言えないから愛想笑いでやりすごす。
「高梨君?」
真鍋さんが表情を曇らせ、僕の顔を覗き込んだ。
「やっぱりまだ思いつめた顔してる。なんていうか、話とかいつでも聞くから……なんでも言えよ? 力になれることなら、するからさ」
「真鍋さん……ありがとうございます」
労わりの気持ちが染みた。少しだけ滲んでしまった涙を、真鍋さんは今日は親指で拭ってくれる。反射的に目を閉じると、指が目から離れて頬を包んだ。
「? 真鍋さん?」
「っあっ! わ、悪い。大福みたいでうまそうなほっぺただな、って思って!」
いつの間にか僕の顔と近距離にあった顔を真っ赤にして、真鍋さんは急いで手を離し、体を後ろに反らせる。
「もう、また僕をいじって……」
トン、と胸板を叩くと、真鍋さんは僕から目をそらして、なんだかぎこちない動作で厨房に入っていった。
僕の姿を見つけるとすぐ、真鍋さんが声をかけてくれる。
「高梨君、大丈夫だったか?」
「はい、昨日はすみませんでした。体調はもう大丈夫です」
「いや、体調もだけど、旦那さんとは?」
「……あ、えっと」
いろいろと相談しているとはいえ、体調だけでなく理人とのことまで気にかけてくれるなんて、真鍋さんも本当にいい人だ。
理人とはつがいを解消しようと思ってる、なんて言ったら、もっと心配をかけてしまうだろう。
それに夫夫間のことで、僕だけの話じゃないし、理人と話して正式につがい解消が決まるまでは、真鍋さんにも黙っておこうと思う。
「大丈夫です。仲直り、しました。運命のつがいでもないし、キスして見えたのも転倒したのを抱き止めたのがそう見えたんだろう、って大笑いされました!」
もちろん嘘だけど明るく言うと、真鍋さんは眉を寄せたまま静かに息を吐いた。
「そっ、か。……良かったな。 じゃあ、俺のせいで怒られることもなかったんだな?」
「怒る? 真鍋さんのせいで? あっ、そうか。昨日の理人、真鍋さんに失礼でしたよね。最初、真鍋さんだってわからなかったんだと思います。すみませんでした」
「いや。高梨君もそうだったように、自分のつがいを他のアルファが触ってたら嫌だろう?」
そう言われて、理人と運命の彼の場面を思い出し、胸がきゅ、と痛んだ。
「そう、ですね……でも、真鍋さんは鍵を探してくれただけですし、理人は……」
理人は、そんなふうに思ったりしない。今は大丈夫になったのに、僕が対人恐怖症になった過去があるから過敏になっていただけだ。
そう、高校生のころなんかはもっと過敏だった。
通信制高校だった僕のたまの登校日には、「学校を休んで着いて行く」とまで言って互いの両親に反対され、結局僕の母が送り迎えをして保健室登校をすることで納得していた。
学校が終わってスマートフォンを見ると、様子を聞いてくるメッセージがたくさん届いていたっけ。
あのころの僕は、確かに互いの両親と理人しか安心して話せる人がいなかったから、嬉しかったな……。
理人は責任感がとても強くて、いつも僕を危険から守ろうとしていてくれた。
大人になるに連れ減ってきたけれど、昨日怒って見えたのはその名残だ。
「いや、あれは激しい威嚇だったぞ。初めてここに挨拶に来た日を凌ぐ迫力だった。高梨君に触れたら許さない! って感じで、ビリビリきたからな。……まあ、俺が悪いんだけどさ」
「はは……」
真鍋さんが悪いなんて少しも思わないけれど、過去にアルファに襲われたから心配されてただなんて、本当のことは言えないから愛想笑いでやりすごす。
「高梨君?」
真鍋さんが表情を曇らせ、僕の顔を覗き込んだ。
「やっぱりまだ思いつめた顔してる。なんていうか、話とかいつでも聞くから……なんでも言えよ? 力になれることなら、するからさ」
「真鍋さん……ありがとうございます」
労わりの気持ちが染みた。少しだけ滲んでしまった涙を、真鍋さんは今日は親指で拭ってくれる。反射的に目を閉じると、指が目から離れて頬を包んだ。
「? 真鍋さん?」
「っあっ! わ、悪い。大福みたいでうまそうなほっぺただな、って思って!」
いつの間にか僕の顔と近距離にあった顔を真っ赤にして、真鍋さんは急いで手を離し、体を後ろに反らせる。
「もう、また僕をいじって……」
トン、と胸板を叩くと、真鍋さんは僕から目をそらして、なんだかぎこちない動作で厨房に入っていった。
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