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事故つがいの夫は僕を愛さない

顔を見ながら、たくさんキスをして

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 家に帰る道。
 いったん冷静になった僕たちは、なんとなく無言で歩いていた。
 けれど自然と隣同士で歩く距離が縮まり、手の甲が触れ合う。

「天音」
「は、はい!」

 思わず敬語になってしまう。神妙な面持ちだった理人が、くすっと笑みをこぼした。

「なんで敬語? 普通にしてよ……あ……」
「あ……」

 初めてお互いを認識した中学生の頃も言ったよね、と笑い合う。

「手を……繋いでもいい?」

 理人が言って、僕は顔を熱くしながらこくこくとうなずいた。

 指の形までかっこいい理人の両手に手を挟まれる。でもこれじゃあ繋いでいるというより、包まれているという感じだ。

「理人?」
「ごめん……天音、謝っても俺がしたことが消えるわけじゃないけど、もう一度謝らせて。同意なくつがいにしたこと、束縛して勝手に自爆して、天音をずっと不安にさせてたこと、それから……運命に流されたこと。本当にごめん」

 理人は包んだままの僕の手を、ぎゅっと額に押し当てた。まるで、神様への懺悔だ。

「……もう謝らないでって言ったでしょ? 僕は理人に謝られるたび、逆に自分の方が悪いのにと思って、なにも言えなくなってた。余計につらくて、悲しくなってた」
「ごめん……あ……また……ごめん。あ」

 理人は困り顔になり「どうしよう、でも他に言葉が」とつぶやいている。

「ごめんって、もう言わないで。代わりに言ってほしい言葉がある」
「?」
 
 理人が僕の目を覗き込む。僕はこくんと唾を呑み込んでから、勇気を出した。

「あ、愛……愛し……アイシテルッテ……」

 恥ずかしくて語尾が萎んでしまう。目を合わせてもいられなくて、僕はうつむいて目をぎゅっと閉じる。

「……愛してる」
 
 すると、囁くような優しい声が降ってきた。

「……あ……」
「愛してる。天音。言って拒否されたらと思うと、怖くて言えなかった。随分遅くなったけど、愛してるよ。天音」
「理人……」

 鼻の奥がじんとして、目に涙が浮かぶ。僕がずっとほしかった言葉。やっと、やっと言ってもらえた。

「理人。僕も、理人を愛してる」

 僕がずっとずっと言いたかった言葉。やっと、やっと言えた。

 僕たちは誰もいない深夜の道で手を取り合い、見つめ合う。

 僕たちを見ているのはきっと、空に輝く星と月くらいだ。

 だから僕は、少しばかり大胆になれる。

「理人、キス、したい」
「……いいの? 俺は彼と……んっ」

 彼と、と言われて、僕は唇をぶつけて理人の言葉を塞いだ。
 ふにゅ、と唇の柔らかい感触はしたけれど、勢いをつけ過ぎてちょっと痛い。

 一瞬のキスで僕が離れると、理人も痛かったのか、唇に手を当てた。

「天音……」
「僕は初めてだから、理人からちゃんとして! 僕と何万回もキスして、上書きして! あの人のこと、もう思い出さないくらい、僕とだけ」

 すべてを言い切る前に、今度は僕が唇を塞がれる。

「ん、んんっ」

 固く抱きしめられ、唇の形が変わってしまうくらいに強く押し当てられて、挟まれて、吸われて……まるで、食べられているみたい。

「天音、かわいい、我慢できなくなる」
「ん……はぁ……しない、で。もう我慢も嫌だ」

 甘く激しいキスに息を切らしながら言うと、理人は指を絡めて僕と手を繋ぎ、強い力で引っ張って歩き出す。

 理人は足が長いながら速歩だけれど、僕は小走りだ。
 けれど鼓動が早くなるのは、そのせいだけじゃない。

 僕は理人の熱い手と、余裕なく家への道を急ぐ理人の背中に、さらに鼓動を早めていた。




 自宅に帰り着くと、部屋に入る時間も惜しんで、玄関で抱き合って唇を重ねた。

 理人の貪るような舌の動きに、僕も必死で応える。

「天音……っ」

 理人が僕の服をめくり、僕も理人のベルトを外す。

「理人、理人ぉ」

 乱暴に脱がされて、床に押し付けられても今日は痛みを感じない。与えられるすべての行為が快感に変化し、もっとしてほしいと心も身体も求めている。

 発情期じゃないのに、身体が熱い。理人への気持ちが熱を持って溢れ、顔は涙で濡れているし、僕の熱芯の先からは蜜がしたたり、後孔はもっとぐしょぐしょに濡れている。

「もうこんなにして……すごいね、天音。淫らでかわいい」
「言わないで。恥ずかしいから……」
「恥ずかしくないよ。俺を愛してくれているからだよね? もっと濡れて」
「や、あぁん!」

 いつの間にか下着もすべて脱がされ、僕の下腹に顔を下ろした理人の口に、熱芯を含まれる。
 同時に熱い指を後孔に入れられて、全身が震えるほどの快感を与えられる。

 僕はあっという間に達してしまった。

「ん、んんっ……」

 体が痙攣して、理人に抱きつきたいのに、動けない。

「おいで、天音」

 理人が抱き上げてくれる。お姫様抱っこをして、頬に何度もキスをしてくれる。

 どれも全部初めてのことで、ドキドキしておかしくなりそう。

「天音、もう目をそらさないで」
「あっ」 

 恥ずかしさにそむけた顔を、唇へのキスで戻される。

 頭の後ろを強く支えらえて、深く挿しこまれた舌が僕の口の中をゆっくりと動く。

 上顎、歯の上と下、ほっぺたの内側、舌の裏も全部、全部。

 ていねいに味わわれているみたいで、すごく恥ずかしい。僕の口おかしなところはないだろうか。変な味はしないだろうか。

「天音の濡れてるところ、全部甘いね」
「……っ!」

 心の中、読まれてた?

「だからほら、目をそらさないでってば。やっと顔、見れるんだ」

 またキスをされて、唇を甘噛みされて、ちゅるんと舌を吸われた。

「今まで、天音の感じてる顔を見たら自制できないって思ってたから、我慢してた。でも、もう我慢しなくていいんだよね?」
「そ、そうだったの……? てっきり僕の顔を見たくないのかと思ってた」
「そんなわけない」

 即答すれば、頬や首にも唇を落としてくれて、行きついた先は浴室。

 理人と二人で熱いシャワーを浴びる。
 その間にもキスや全身への愛撫は絶え間なく続いていて、 指の間に胸の飾りを挟まれて先をひねられ、反対の手で、シャワーで流しても溢れてくる先走りを塗り付けるように、熱芯を上下される。

「んっ、あ……っふ……ね、ねえ、理人、腕が濡れちゃうよ? 傷が悪化しちゃうから……」
「大丈夫だよ、これくらい。それよりほら、集中して」
「うぅ……ん、りひ、理人ぉ……欲しい、欲しいよぅ」

 後孔をほぐされると、頭の芯まで熱を持って蕩けてしまう。

 だけど、でも。
 お腹側の硬いところをトントンとノックされるのや、三本の指で内壁を広げてこすられるのも息をするのを忘れるくらい気持ちがいいけれど、早く理人の熱いのを、僕の中に挿れて満たして欲しい。

 ────理人の、全部が欲しい。

「……わかってるよ」

 わかってる。あのときも理人はそう言っていた。

 十五歳の冬、駅のトイレの個室。

 わけがわからないまま繋がって……ううん、違う。

 あのときすでに、理人は僕を抱きたいと思ってくれていた、つがいたいと心に決めてくれていたんだ。
 わかっいてなかったのは、僕だけ。

「わかってるよ、天音。俺のが欲しいと思ってくれてるんだよね?」

 でも理人もまだ少しだけ不安そうだ。

 可愛いな。アルファの理人が、泣きそうな顔をして僕の気持ちに不安になってるだなんて。

「言ったでしょ? 僕は理人が大好きなんだって。欲しいのは理人のだけ。初めての日も、僕が欲しかったのは理人だけ」

 だからお願い。

「理人の全部、早くちょうだい……!」
「天音……! 愛してる。俺のつがい」

 見つめ合い、たくさんキスをする。それから濡れたまま理人の寝室に行って、正面から身体を重ねて繋がった。

 初めて見る、しているときの理人の顔。

 お腹をすかせた狼みたいに獰猛で、でも泣きそうに眉を歪め、額に汗を浮かべてどこか苦しそうでもある。 

 そのギャップがとても煽情的だ。

「天音の感じる顔を見られるのは嬉しいけど、余裕がなくなる。俺、酷い顔してるだろ? 怖がらせたくないから、ずっと隠してたっ……」

 そう言いながら息を切らし、激しく腰を振る理人。

 そっか、僕の顔を見るのも自分の顔を見せるのもしなかったのは、そんな理由もあったんだね。

「怖くないよ。好き……」

 首に手を回して引き寄せる。僕からキスをして舌を絡めると、お腹の中の理人がいっそう大きくなった。

「……ホントに、もう我慢しないからね」

 ぱんっ、と腰を押し付けられ、抽挿が激しくなる。

 膝の裏を支えられて高く掲げられ、奥をぐりぐりと突かれながら、大きく揺さぶられる。

「ぁ、あぁっ、ん、んん! 理人、理人、理人ぉ! あっ、ぁっ、きもち、いっ……!!」

 目の前で小さな光がいくつもはじけた。頭の中が真っ白になり、僕は二度目の白濁を放ち、理人も僕の中を熱いもので満たした。
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