上 下
3 / 59
事故つがいの夫は僕を愛さない

初めてのヒートはとても怖かった。

しおりを挟む
 初めてのヒートはとても怖かった。

 体がかあっと熱くなって、肌の表面がびりびりと痺れた。
 うなじには熱いものがつきんつきんと突き刺さる感覚がして、口の中は唾液が溢れていっぱいなのに酷く喉が乾いて、水筒を出そうとカバンのファスナーを開けたときだった。

 両わきの下から、後ろにいる大きな体の男の人の手が入ってきて、羽交い締めにされた。

 驚いて体をよじると、隣にいたスーツ姿の男の人が目を血走らせて僕の体を引き寄せ、肩をかかえこんだ。

 二人は「こんなに匂いを振りまいて」といまいましそうに言うのに、僕の体をまさぐり、うなじやのどに吸いついてくる。

「やめて、助けて……」

 恐怖のため、そう言えていたのかはわからない。それでも懸命に声を絞り出した。

 そうしたら。

「宮野君!」

 名前を呼ばれて、僕を羽交い締めにしていた男の人との間に割って入り、もうひとりの男の人の胸を押しのけてくれた人がいた。理人だった。

 理人の行動で周囲も気づき、僕は事なきを得て次の駅で降りることができた。

 けれどそのとき、高熱に浮かされたように頭がクラクラして、「なにか」が欲しくて欲しくてたまらなくて……それなのにそれがなんなのかわからない。

 僕は自分を持て余し、駅員に助けを求めようとした理人にすがってしまった。

 多分「行かないで」と言って「欲しい」と何回も言ったと思う。今の僕がそうだから。

 理人は性急に僕の肩をかついで駅のトイレに入った。理人の体もとても熱くて、息を切らしていたのを今でも忘れない。

 個室に二人で入ると、理人は余裕なく僕と自分のベルトを外し、トイレの上蓋に僕をうつぶせにさせた。

 それから間髪入れずに、すでにぐずぐずに濡れている僕の中に入ってきて、トイレの蓋ががんがんと揺れるくらい強く突いてくるのに、僕はちっとも痛くなくて。

 思考が全部溶けてしまいそうな快感の中、「高梨君」と切れ間なく叫び続けて腰を揺すっていたら、理人は僕に覆いかぶさり、べろ、べろ、とうなじを舐めた。

 最高に気持ちがよかった。性行為をしている自覚はないのに、うなじを舐められながらお腹の中を掻き回されると、どうしようもなく気持ちがよくて、僕は「欲しい」とまた言った。

 何度も、何度も、なにが欲しいかわかってもいないのに、「欲しい」と言い続けていたんだ。

 理人は「わかってる。わかってるから」と答えてくれて、そのあと僕のお腹の中でいっそう大きくなり、熱いしぶきを放ったと同時に、僕のうなじを噛んだ────

 それで、気がついたら病院のベッドの上。

 病室の外で僕の両親が泣きわめき、理人と理人のご両親が謝っているのが聞こえてきて、目が覚めた。

 あとから知ったことだけれど、駅のトイレには警察官も駆け付け、大変な騒ぎになっていたらしい。

 僕はそんなことを知らなかったから、
「どうして謝る必要があるの? 高梨君は助けてくれたのに」
 そう言いたくて、ベッドから体を起こした。そのとき、うなじがズキッと痛んで反射的に手を持っていくと、そこが大きなガーゼで覆われていることに気付いた。

 そして、思い出したんだ。

 理人が僕のうなじに消えない咬み痕をつけたこと。

 ──僕たちが、事故つがいになったということを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

記憶喪失の君と…

R(アール)
BL
陽は湊と恋人だった。 ひねくれて誰からも愛されないような陽を湊だけが可愛いと、好きだと言ってくれた。 順風満帆な生活を送っているなか、湊が記憶喪失になり、陽のことだけを忘れてしまって…! ハッピーエンド保証

処理中です...