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ミックス番外編SS集(なんでも許せる方むけ)
牡丹に蝶 2
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結局、人間なんてそうそうは変わらない。江戸、大正、昭和の人生、俺はどの時代でも体を使ってのし上がってきた。性別は障りにならなかった。皆、美しくて淫靡なものに誘われる。
俺は持って生まれたこの才能を惜しみなく使っているだけだ。
「常務、イイコ。ここ、悦くして?」
常務はMっ気があるから俺が導いてやる。ほら、嬉しそうに俺の下半身に顔を埋めて、涎を垂らしながら貪るんだ。上手だよ。
反対に専務は自己中心的なところがあるから好きなようにやらせてやる。激しいのを女が嫌がるらしくて、俺がよがるのを見るのが喜び(演技だけどね)。ノーマルだけど俺を抱くのを楽しみにしてる。それだから仕事を切れずに入れてくれるしさ。
「あっ……専務、もっと、もっと突いてっ……」
一人二役ってとこ。
華屋では増大寺の坊さんを一度に四人とか相手してたこともあるからなんてことない。それに、俺は気持ちのいいことが好きだ。
本能の赴くままに快感に身を委ねた時の、トぶ感じが好きだ。
───あとに残るのが虚無感だけだとしても。
「七緒さん、お疲れ様でした。ご自宅までお送りします」
「接待」が終わった座敷から出るとすぐ、いつものように前島が俺に声をかけた。この男はいつも、俺が「接待」をしているあいだ、酒の一滴も飲まずに襖一枚隔てただけのこっちの部屋で待っている。二時間ほどもあるのに、上司の乱れた声や音を聞いてて退屈しないの? まるで金剛みたいだね。まぁ、前島は俺の為にいるんじゃなくて、上司の言いつけを守ってるだけなんだろうけど。
「ああ、どーも。いつも悪いですね。常務が激しすぎて腰が痛むから助かります」
「いえ」
営業マンらしく、顔に笑顔を貼り付けちゃって。まあ、そんなくらいじゃないと、この大きい企画のリーダーにはなれないよな。こいつも俺と同じ類の人間ってこと。
***
「ねぇ、前島さんはさ、こっちに興味ないの?」
普段なら無言の車内。今日は新月のせいかいつもより胸がスカスカで、誰とでもいいからくだらない会話をしたくて声をかけた。
「おや、私の名前をご存知でしたか。名を呼ばれたことがないのでご興味はないかと思っていました」
「流石に四回仕事したら知ってるでしょ。ね、アンタはどうなの。この「接待」どう思ってるわけ?」
「四回目だとお口も柔らかくなるんですかね。そんなふうに話されるのは初めてですね。良いでしょう。私も腹を割りますよ」
前島はふ、と鼻で笑って、後部座席にいる俺をミラーで一瞬見た。
「……俺には無理だね。理解できない」
だよね。俺もわかってて聞いたから。
「あはは。気持ちいいくらい有り体だね。でも仕事だもんね。これからもあんたはその笑顔を貼り付けて「接待」の場を用意するんだろうね」
「どうだろうね。俺はここで終わるつもりもないし。……七緒さんこそ、いつまで体で仕事を取るつもり?」
言い方に棘がある。枕営業を容認して準備をするくせに、やってる俺に嫌悪感丸出しかよ。
「そんなのアンタに関係ない。やれるうちはやるだけさ。体一つで何千万も取れるんだから」
「……着きましたよ」
車のシフトレバーがPに入り、車が停まる。俺の住むマンションがすぐ目の前の歩道の路肩。二十三時過ぎているから人通りは無いに等しい。
前島はいつものように先に運転席を降りて、後部座席のドアを開けに来た。
「お疲れ様でした。次回の打ち合わせも宜しくお願いします」
言葉も表情も、もう元通り。爽やかな営業マンの前島だ。
うさんくさい笑顔しやがって。でも、前島の顔、嫌いじゃない。あっさりしていてくどくなくて、江戸ならイケメンの部類。それに鼻筋が通っていて肌も綺麗だ。あぁ、俺、唇の下のこのほくろが意外と好きなんだよな。妙に色気がある。
「七緒さん? 酔われてます?」
百八十センチはある長身を屈め、後部座席を覗き込む前島の顔がさらに近づく。
俺は前島の洒落たネクタイを引っ張り、自分の顔を近づけた。
「んっ……!」
前島の声が漏れるが、構わず唇を吸い、開いた隙間から舌を差し入れた。江戸時代からの秘技だよ。上手いだろ? 男とか女とか関係ない。気持ちいいことは誰だって気持ちいいんだ。無理なんて言わずに溺れてみれば?
「んんっ……!?」
今度は俺の声が漏れる。
前島が俺の頭と顎を掴み、舌を巧みに動かしたからだ。
「ん、ん……っ」
なん、だ、これ。
口の中が熱い。激しくて強いのに痛くなくて……むしろ、気持ちよくて、脳みそとけそ……っ……
「……感じちゃいました?」
前島の腕をぎゅ、と掴んだ時、顔が離れた。前島の唇は俺の耳に移っていて、頭の中に直接響くように囁く。
「……そん、なわけ……」
強がりたいのに強がれない。俺は体の熱さを持て余して、前島の鎖骨辺りに顔を押し付けた。
「枕営業を喜んでやるビッチのくせに、可愛いところあるじゃないですか」
蔑称されているのに、項を撫でられて体がひくつく。
なんで、こんなの、何万回もされてるのに……!
「……るさい。酒に酔ってるだけだ」
「そうですか。……七緒さん、歩けます? 部屋までお連れしますか?」
爽やかな営業マンの顔が、やけに艶っぽく見えた。キスのあとだから? 駄目だ。これ、部屋に連れて行ったらやばい。
──そう思うのに、前島の体から離れられなくて、寄りかかったまま頷いた。
今日は新月だから、なんとなく寂しいだけ。今日の接待があんまり良くなかったから、体が寂しいだけ。そう胸の中で繰り返しながら。
俺は持って生まれたこの才能を惜しみなく使っているだけだ。
「常務、イイコ。ここ、悦くして?」
常務はMっ気があるから俺が導いてやる。ほら、嬉しそうに俺の下半身に顔を埋めて、涎を垂らしながら貪るんだ。上手だよ。
反対に専務は自己中心的なところがあるから好きなようにやらせてやる。激しいのを女が嫌がるらしくて、俺がよがるのを見るのが喜び(演技だけどね)。ノーマルだけど俺を抱くのを楽しみにしてる。それだから仕事を切れずに入れてくれるしさ。
「あっ……専務、もっと、もっと突いてっ……」
一人二役ってとこ。
華屋では増大寺の坊さんを一度に四人とか相手してたこともあるからなんてことない。それに、俺は気持ちのいいことが好きだ。
本能の赴くままに快感に身を委ねた時の、トぶ感じが好きだ。
───あとに残るのが虚無感だけだとしても。
「七緒さん、お疲れ様でした。ご自宅までお送りします」
「接待」が終わった座敷から出るとすぐ、いつものように前島が俺に声をかけた。この男はいつも、俺が「接待」をしているあいだ、酒の一滴も飲まずに襖一枚隔てただけのこっちの部屋で待っている。二時間ほどもあるのに、上司の乱れた声や音を聞いてて退屈しないの? まるで金剛みたいだね。まぁ、前島は俺の為にいるんじゃなくて、上司の言いつけを守ってるだけなんだろうけど。
「ああ、どーも。いつも悪いですね。常務が激しすぎて腰が痛むから助かります」
「いえ」
営業マンらしく、顔に笑顔を貼り付けちゃって。まあ、そんなくらいじゃないと、この大きい企画のリーダーにはなれないよな。こいつも俺と同じ類の人間ってこと。
***
「ねぇ、前島さんはさ、こっちに興味ないの?」
普段なら無言の車内。今日は新月のせいかいつもより胸がスカスカで、誰とでもいいからくだらない会話をしたくて声をかけた。
「おや、私の名前をご存知でしたか。名を呼ばれたことがないのでご興味はないかと思っていました」
「流石に四回仕事したら知ってるでしょ。ね、アンタはどうなの。この「接待」どう思ってるわけ?」
「四回目だとお口も柔らかくなるんですかね。そんなふうに話されるのは初めてですね。良いでしょう。私も腹を割りますよ」
前島はふ、と鼻で笑って、後部座席にいる俺をミラーで一瞬見た。
「……俺には無理だね。理解できない」
だよね。俺もわかってて聞いたから。
「あはは。気持ちいいくらい有り体だね。でも仕事だもんね。これからもあんたはその笑顔を貼り付けて「接待」の場を用意するんだろうね」
「どうだろうね。俺はここで終わるつもりもないし。……七緒さんこそ、いつまで体で仕事を取るつもり?」
言い方に棘がある。枕営業を容認して準備をするくせに、やってる俺に嫌悪感丸出しかよ。
「そんなのアンタに関係ない。やれるうちはやるだけさ。体一つで何千万も取れるんだから」
「……着きましたよ」
車のシフトレバーがPに入り、車が停まる。俺の住むマンションがすぐ目の前の歩道の路肩。二十三時過ぎているから人通りは無いに等しい。
前島はいつものように先に運転席を降りて、後部座席のドアを開けに来た。
「お疲れ様でした。次回の打ち合わせも宜しくお願いします」
言葉も表情も、もう元通り。爽やかな営業マンの前島だ。
うさんくさい笑顔しやがって。でも、前島の顔、嫌いじゃない。あっさりしていてくどくなくて、江戸ならイケメンの部類。それに鼻筋が通っていて肌も綺麗だ。あぁ、俺、唇の下のこのほくろが意外と好きなんだよな。妙に色気がある。
「七緒さん? 酔われてます?」
百八十センチはある長身を屈め、後部座席を覗き込む前島の顔がさらに近づく。
俺は前島の洒落たネクタイを引っ張り、自分の顔を近づけた。
「んっ……!」
前島の声が漏れるが、構わず唇を吸い、開いた隙間から舌を差し入れた。江戸時代からの秘技だよ。上手いだろ? 男とか女とか関係ない。気持ちいいことは誰だって気持ちいいんだ。無理なんて言わずに溺れてみれば?
「んんっ……!?」
今度は俺の声が漏れる。
前島が俺の頭と顎を掴み、舌を巧みに動かしたからだ。
「ん、ん……っ」
なん、だ、これ。
口の中が熱い。激しくて強いのに痛くなくて……むしろ、気持ちよくて、脳みそとけそ……っ……
「……感じちゃいました?」
前島の腕をぎゅ、と掴んだ時、顔が離れた。前島の唇は俺の耳に移っていて、頭の中に直接響くように囁く。
「……そん、なわけ……」
強がりたいのに強がれない。俺は体の熱さを持て余して、前島の鎖骨辺りに顔を押し付けた。
「枕営業を喜んでやるビッチのくせに、可愛いところあるじゃないですか」
蔑称されているのに、項を撫でられて体がひくつく。
なんで、こんなの、何万回もされてるのに……!
「……るさい。酒に酔ってるだけだ」
「そうですか。……七緒さん、歩けます? 部屋までお連れしますか?」
爽やかな営業マンの顔が、やけに艶っぽく見えた。キスのあとだから? 駄目だ。これ、部屋に連れて行ったらやばい。
──そう思うのに、前島の体から離れられなくて、寄りかかったまま頷いた。
今日は新月だから、なんとなく寂しいだけ。今日の接待があんまり良くなかったから、体が寂しいだけ。そう胸の中で繰り返しながら。
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