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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎
Eternal Love 4
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「かわいいやろ? 俺な、猫大好きやねん」
「そっか。猫、好きなんだね……ありがとう。大事にする」
悠理はその場にしゃがみ、みっくんに目線を合わせて礼を伝えた。
「うん、なぁほら、もう泣いたらあかん。泣いたら幸せが逃げるんやで。パパが言ってた」
みっくんは悠理の頬を小さな手で挟み、親指で涙を拭ってくれた。
────百合ちゃん、泣くな。俺が幸せにしたるって言ったやろ?
みっくんに、宗光の声と姿が重なる。
この子が宗光である確証はなに一つなく、悠理の思い込みかもしれない。
それでも、宗光を思わせる言動や、みっくんが優しいパパとママ……宗光が心から欲していた暖かい家族に囲まれて暮らしているらしいことは、悠理の胸を充たした。
「これはね、悲しくて泣いてるんじゃないんだ。なんだかとても嬉しくて……」
「嬉しい涙?」
そう。自分の今の生活だけじゃない。大好きな人達が、それぞれに幸せを感じる日々を過ごしていること。それがこんなにも……
「うん、嬉しい。みっくん、あのね、俺、今とても幸せなんだ」
────必ず幸せになるんやで。
宗光が最後にかけてくれた言葉への返事をみっくんに伝える。みっくんは少し真顔になってから、弾けるような笑顔を見せた。
「良かったなあ。百合ちゃん」
細い腕が伸びてきて悠理の身体を抱きしめた。その暖かさを、悠理の身体は覚えている。
「……むね」
悠理が宗光、と呼びかけようとしたところで母親のスマートフォンが鳴った。
「大変や、みっくん、早く戻らないと! 先生探しておられるわ。鏑木さん、すいません、失礼します。ありがとうございました。これからも頑張って下さいね」
余韻もなく、母親はみっくんの手を取り駆け出す。みっくんは急いで悠理に手を振って「百合ちゃん、俺、ずっとずっと応援してるから頑張ってな! そんで、また絶対会おな!」と言って、母親と一緒に背を向けた。
(宗光、ありがとう……うん。必ず、またどこかで……)
二人の姿が見えなくなっても、悠理はしばらくそこで立ち尽くしていた。
「悠理、ごめん、待たせたね。悠理?」
新しい曲の構築作業を終えた彬がライオン舎の前でぼんやりとしている悠理の顔を覗く。眼鏡もマスクも外して、その上明らかに泣いた様子の悠理を見て、なにかあったのかと不安に駆られた。
だが、悠理は彬と視線が合うとふんわりと笑った。
「さっきね、宗光に会ったんだよ」
「宗光?」
彬の記憶から、また宗光のことが抜け落ちている。けれどもう思い出させる必要もない。悠理は緩く頭を振って、トラ猫のぬいぐるみを彬に見せた。
「これ、さっきファンの男の子がくれてね。可愛くて嬉しくなっちゃった」
「そうなの? 騒がれなかった? ……大丈夫みたいだね。うん、可愛いね。これ、なんだか悠理に似てる」
彬は小さなぬいぐるみの頭を人差し指で撫でつつ、悠理と見比べて微笑んだ。
「ふふ。昔……凄く昔、そう言ってくれた人がいたよ。……ねぇ、彬さん、俺お腹が空いちゃった。そろそろホテルに行こう?」
マスクと眼鏡をつけ直し、甘えるように彬の腕に絡みつく。彬は悠理の手を取って握り、優しく頷いた。
***
ホテルのレストランで豪華な食事を済ませたあと、彬が予約してくれたスイートルームの広いバスルームで二人、ゆったりとバブルバスに浸かった。
熱すぎない湯の中で滑らかな肌が擦れ合い、いつまでもこうしていたくなる。
「ねぇ、彬さん、もうちょっとだけ」
甘えた声で彬の唇を舐め、浴槽の栓を抜こうとする彬を引き止める。
彬は舌で返事を返してくれ、悠理の唇を割って口内を優しく撫でる。舌を掬い取られて吸われると、悠理の背中にぞくぞくと電気が走った。
「ん……彬さん、彬さん」
もっと欲しくて、彬の首に腕を回して引き寄せる。自ら唇を深く重ね、身体全部を彬に押し付けた。だが、そうされたら彬ももう待てなくなる。
「悠理、部屋に戻ろう?」
唇を離した彬が恋しい。一時でも離れていたくない。だけど、耳元で優しく囁かれたら、脳が蕩けて思考を奪われてしまう。
悠理は頷いたか頷いてないのか自分でもわからなくなっているが、彬の首に回した腕はさっきよりも強く絡まっている。
彬は悠理を促してバスローブを着せ、頬や瞼に口づけを落としながらベッドに誘った。
彬の唇が首に滑り、鎖骨を這う。やがて胸先の薄桃色に辿り着くと、軽くかじられただけなのに、悠理は肋骨の下縁が隆起するほどに背中を反らせた。甘い痺れが全身を伝う。
「彬さん……ねぇ、好きって言って。江戸に言ってくれなかった分も、たくさん、たくさん」
「前? 俺は前からずっと言ってるよ。言われすぎて忘れちゃった?」
彬は一旦顔を悠理の前に戻し、額をコツンとぶつけた。
(……ああ、彬さんはもう……)
「そっか。猫、好きなんだね……ありがとう。大事にする」
悠理はその場にしゃがみ、みっくんに目線を合わせて礼を伝えた。
「うん、なぁほら、もう泣いたらあかん。泣いたら幸せが逃げるんやで。パパが言ってた」
みっくんは悠理の頬を小さな手で挟み、親指で涙を拭ってくれた。
────百合ちゃん、泣くな。俺が幸せにしたるって言ったやろ?
みっくんに、宗光の声と姿が重なる。
この子が宗光である確証はなに一つなく、悠理の思い込みかもしれない。
それでも、宗光を思わせる言動や、みっくんが優しいパパとママ……宗光が心から欲していた暖かい家族に囲まれて暮らしているらしいことは、悠理の胸を充たした。
「これはね、悲しくて泣いてるんじゃないんだ。なんだかとても嬉しくて……」
「嬉しい涙?」
そう。自分の今の生活だけじゃない。大好きな人達が、それぞれに幸せを感じる日々を過ごしていること。それがこんなにも……
「うん、嬉しい。みっくん、あのね、俺、今とても幸せなんだ」
────必ず幸せになるんやで。
宗光が最後にかけてくれた言葉への返事をみっくんに伝える。みっくんは少し真顔になってから、弾けるような笑顔を見せた。
「良かったなあ。百合ちゃん」
細い腕が伸びてきて悠理の身体を抱きしめた。その暖かさを、悠理の身体は覚えている。
「……むね」
悠理が宗光、と呼びかけようとしたところで母親のスマートフォンが鳴った。
「大変や、みっくん、早く戻らないと! 先生探しておられるわ。鏑木さん、すいません、失礼します。ありがとうございました。これからも頑張って下さいね」
余韻もなく、母親はみっくんの手を取り駆け出す。みっくんは急いで悠理に手を振って「百合ちゃん、俺、ずっとずっと応援してるから頑張ってな! そんで、また絶対会おな!」と言って、母親と一緒に背を向けた。
(宗光、ありがとう……うん。必ず、またどこかで……)
二人の姿が見えなくなっても、悠理はしばらくそこで立ち尽くしていた。
「悠理、ごめん、待たせたね。悠理?」
新しい曲の構築作業を終えた彬がライオン舎の前でぼんやりとしている悠理の顔を覗く。眼鏡もマスクも外して、その上明らかに泣いた様子の悠理を見て、なにかあったのかと不安に駆られた。
だが、悠理は彬と視線が合うとふんわりと笑った。
「さっきね、宗光に会ったんだよ」
「宗光?」
彬の記憶から、また宗光のことが抜け落ちている。けれどもう思い出させる必要もない。悠理は緩く頭を振って、トラ猫のぬいぐるみを彬に見せた。
「これ、さっきファンの男の子がくれてね。可愛くて嬉しくなっちゃった」
「そうなの? 騒がれなかった? ……大丈夫みたいだね。うん、可愛いね。これ、なんだか悠理に似てる」
彬は小さなぬいぐるみの頭を人差し指で撫でつつ、悠理と見比べて微笑んだ。
「ふふ。昔……凄く昔、そう言ってくれた人がいたよ。……ねぇ、彬さん、俺お腹が空いちゃった。そろそろホテルに行こう?」
マスクと眼鏡をつけ直し、甘えるように彬の腕に絡みつく。彬は悠理の手を取って握り、優しく頷いた。
***
ホテルのレストランで豪華な食事を済ませたあと、彬が予約してくれたスイートルームの広いバスルームで二人、ゆったりとバブルバスに浸かった。
熱すぎない湯の中で滑らかな肌が擦れ合い、いつまでもこうしていたくなる。
「ねぇ、彬さん、もうちょっとだけ」
甘えた声で彬の唇を舐め、浴槽の栓を抜こうとする彬を引き止める。
彬は舌で返事を返してくれ、悠理の唇を割って口内を優しく撫でる。舌を掬い取られて吸われると、悠理の背中にぞくぞくと電気が走った。
「ん……彬さん、彬さん」
もっと欲しくて、彬の首に腕を回して引き寄せる。自ら唇を深く重ね、身体全部を彬に押し付けた。だが、そうされたら彬ももう待てなくなる。
「悠理、部屋に戻ろう?」
唇を離した彬が恋しい。一時でも離れていたくない。だけど、耳元で優しく囁かれたら、脳が蕩けて思考を奪われてしまう。
悠理は頷いたか頷いてないのか自分でもわからなくなっているが、彬の首に回した腕はさっきよりも強く絡まっている。
彬は悠理を促してバスローブを着せ、頬や瞼に口づけを落としながらベッドに誘った。
彬の唇が首に滑り、鎖骨を這う。やがて胸先の薄桃色に辿り着くと、軽くかじられただけなのに、悠理は肋骨の下縁が隆起するほどに背中を反らせた。甘い痺れが全身を伝う。
「彬さん……ねぇ、好きって言って。江戸に言ってくれなかった分も、たくさん、たくさん」
「前? 俺は前からずっと言ってるよ。言われすぎて忘れちゃった?」
彬は一旦顔を悠理の前に戻し、額をコツンとぶつけた。
(……ああ、彬さんはもう……)
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