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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎

Love to give you 2

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「……っ、も……悠理」  
 あどけなさの中に色香を孕んだ表情は、彬の背すじを撫で上げ、本能を刺激する。
 彬は悠理の口元をナプキンで拭き取り、力任せにテーブルの下から引きずり上げて再び膝に乗せた。腰を跨いでいる悠理の足を後ろでクロスに絡ませて、すぐさま立ち上がる。

「わっ……」
 
 急に体が浮いた悠理は彬にしがみつき、彬は長い足を大きく捌いて寝室に向かった。
 二人のベッドには昨夜の情交の乱れがまだ残っている。彬はその中心に悠理を落とすと、着替えたばかりのシャツに皺が寄るのも厭わず裾をたくし上げて一気に脱ぎ去り、床へと落とした。

「俺が我慢してるのに……一体なにを思ってる?」

 言いながらジーンズを剥いでいけば、触れてもいないのに悠理のものは先から蜜を溢れさせている。

「やだ、見ちゃやだっ……」

 いつももっと淫らな姿を見られているのに、嫉妬からこうなったことを知られたくない。
 悠理は恥部を隠そうとするが間に合わず、伸ばした手を強く掴まれてしまった。

「悠理、言って。なにか不安でも? 俺、なにかした?」
  
 悠理はぶるぶると首を振った。
「違っ……いいから、彬さん、早く入れて」

「悠理、駄目。言うまでしてあげない」

 彬は片腕で悠理の両手首を固定し、残った片手の人差し指を使って、懇願するみたいに零れる悠理の蜜を掬う。けれどそれを鈴口に塗りつけるだけで、他には動こうとしなかった。
 彬自身も本当は待つのが辛いのだが。

「や、やだ、触って欲しい。早く入れてっ……早く俺だけのになって……!」     
 焦らされて苦しくて、腰を捻りながら本音が漏れた。

「……俺は悠理だけのだよ」
 なんとなく悠理の言葉の意味がわかって、そう囁いた。だが、確かに悠理に再会する迄の彬は品行方正と言うばかりではなかった。

 忠彬と同じに愛情に恵まれすぎて、家族以外の他者への執着や愛情は感じたこたがない。それでも年齢相応の体の欲を、短い付き合いの相手に放ったり、時には誘われて一度限りの関係を持ったこともある──いつもどこか乾いた心を癒やしたかったから。どこかにいるであろう、心から愛する者を探していたから。

「これからも……もしまた生まれ変わってもきっと、悠理を見つけてまた好きになる。俺にはずっと悠理だけだよ」
 どうしたら伝わるだろうか。胸を割いて開けるのなら、そうしてやりたいと思う。

(ああ、そうだ)

 彬は悠理の膝の裏を圧して臀を高く上げた。現実、自分の胸は割けないが、代わりに目の前の細い脚を大きく両側に割ることはできる。
  そうしてあらわになったのは、彬を欲しがる悠理の双丘の狭間。

「えっ」 

  声を出した時には彬の舌が菊座を濡らしていた。

「いやっ……、そんなとこ、やだっ」

「どうして? 宗光にはさせたんでしょ?」

 ──体を売る陰間でも容易たやすくは許さない、特別な相手にしか許さない「真心」を。

 悠理の顔がかあぁっと熱くなった。
「な、なんで。なんでそんなの知って」

「……なんでだろうね。でも知ってるよ。ここを舐められたら、嫌だと言いながらも体はせがむんだって」
  
 宗光が、斜めに顔を向けて得意気に言っていたのが昨日のことみたいに思い出された。

「そんなことない……あ、あぁ……!」
 皺を伸ばされ、熱い舌が這う。広げられ、中まで濡らされ、また入り口に戻り、それを執拗に繰り返される。

 悠理はぽろぽろと涙を流しながらも腰を揺らし、一度も扱かれていない昂ぶりから白濁を放った。

「……過去に嫉妬してるのは悠理だけじゃないよ。俺だって、楓にも宗光にもどうしようもないくらいに嫉妬した。楓真とのドラマだって……見てるようなこと言ったけど、本当は見てないんだから」

「彬さん……うそ……」

 鈴口から最後の一雫の白濁が垂れ、体がぴくぴくと震える。頭はぼんやりとしているが、彬のふてた顔を見逃したくなくて手を伸ばした。

  彬は自分より一回り小さな手を迎えてやり、胸に当てる。
「嘘じゃない。悠理が他の男に抱かれたかと思うと、ここが苦しくて張り裂けそうだ」

 彬の胸から悠理の手へと心臓の拍動が伝わる。ドクドクドク、と大きく跳ねていて、この穏やかな人にも自分と同じ感情が潜んでいたんだと不思議に安心した。

「嬉し………」
「……悠理?」

 悠理の手の力が抜け、瞼がゆっくりと閉じて、細く並んだ睫毛が揺れた。

「……悠理……まさか寝た……?」
 彬の欲情を残して腹を白く濡らしたまま、悠理は静かな寝息を立て始める。

「……またか」
 ガックリと肩を落とした。
 二人で暮らし始めてからも幾度も、悠理は同じように彬を置き去りにしている。それでもいつもなら弛緩した体が再び緊張を持つまで挿入して突いて、意識を保たせるのだが。

「今日は無理はさせられないしな。それに……」  
 百合しごとなら相手より先に果てることは絶対にしない。それだけ彬に心も体も委ねていると言うことだ。

 諦めと、けれどとても幸せなため息をついた彬は悠理の身体を清潔にし、夜中からの仕事を頑張れるように、とこの世で一番大切な温もりを背中から包み込んで眠りを共にした。


***


 悠理の新しい仕事は、過去に楓真とダブル主演をしたドラマの映画版だ。

 儲けはないが、祖父から引き継いだ探偵事務所を営む青年と、若き新人監察医がタッグを組んで事件の謎を解明していくミステリードラマで、破天荒な探偵を悠理が、クールで切れ者の医師を楓真が演じて大ヒットとなっている。

「おー、今回の衣装も派手派手」
  悠理はスタッフに渡された探偵役のアロハシャツに着替えていく。同じく、楓真も糊のきいた白衣に袖を通そうとして、悠理の声に反応して後ろを振り返った。

「鶴亀柄か…。良く探してくるよな。っ……ッ!」
 かけた声が詰まる。

 上半身裸の悠理の胸の下……心臓が位置する部分に赤い痣が印されていた。
 悠理が眠ったあと、今回は肌を晒すシーンはないと知っている彬が悠理の身体を拭きながら付けたものだった。

  悠理は気づかずに衣装を羽織っている。
「楓真?」

「あ、いや、なんでもない。クランクイン、よろしくな」

「こっちこそ。また楓真とやれて嬉しい」

  悠理は無邪気に笑うと、衣装のボタンをすっかり締めてメイク室へと向かった。


   悠理の心が自分に向くことはないのだとわかっていても、彬と悠理の睦言を想像させられるのはきつい。
  気持ちは理屈ではない。楓真だって三百年と言う長い時間、百合を思ってきたのだから。

  少し先を歩く悠理の背を見つめる。
(少し背が伸びたかな。現代で色んな役をやるのに身体も鍛えただろうし。相変わらず薄いけど、今抱きしめたらどんな感触なんだろう)

  親友ポジションである悠理と楓真は肩を組むことだってあるし、軽いハグはもちろん何度もしている。でも、一年前のドラマ「この世界の果てまでも」以降、楓真は愛情を伝えるような触れ方は一度もしていない。キスも、ドラマ前に練習だと嘘をついて奪った、あれ切りだ。

(……きっつ)
 先程の紅い痣が頭に浮かび、払い除けるように頭を振る楓真だった。
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