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ちぎりきな かたみに袖を

蜜月 壱 ❁✿✾ ✾✿❁︎

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 手のひらを壁に突っぱねて支えていた体は、いつの間にか上半身全てを壁に任せないと立っていられなくなっていた。

 臀を後ろに突き出した姿は、誰かが見れば滑稽だろう。けれどここには俺と楓しかいない。
 在るのは遠く聞こえる三味線の音と虫の音だけ。

 帯は全て解かれ、浴衣ははだけている。後ろから楓の手が伸びて、しこりになった胸先と、物欲しそうに頭をもたげる熱塊を同時に刺激される。
 唇はうなじを吸い、時に獣の求愛行動の様に舐め上げてみ、すぐに俺を限界に連れていった。

 「あ……あァ……」
  白い粘液が太ももを伝って地面にポタポタと落ちると、膝が震え出した。立っているのもやっと。

 それでもなお、楓は俺の浴衣の裾をまくり、片手で持つように言った。

  「楓……?」
 言われた通り、腹の前でクシャクシャに纏めた裾を持つと、楓が俺の双丘に手をかけ、左右に開いた。
 不意なことで裾から手が離れそうになる。

  「……やっ…………!」
 臀に楓の頬の柔らかさを感じたと思えば、さらに双丘を広げられ、菊座の表面を生温かい柔らかさが滑った。
  「やめ、楓。そんなとこ、やだっ……」

 体をよじっても、楓は俺の腰と臀をしっかりと掴み、微動だにしない。なのに舌だけは生き物みたいに動いていて、菊座の外も中もしっとりと濡らしていく。

  「ふ、うぅ……、ンンっ……汚いから……やめて……あッ……」
  逃げ出したいのに、感じたことのない滑らかな湿度にがんじがらめにされる。

 この時代でも菊座に口を運ぶことは特別なことだ。
 
 楓、知らないわけないよね? これが「あなたに全てを捧げます」という意味の「真心」と呼ばれる行為だって。
 ねぇ、わかってしてくれてるの? 俺に全てをくれるつもりなの? ねぇ、楓、こんなことされたら俺……!

   「汚くないよ。百合のここ、紅色の花が開いたみたいで可愛い。好きだよ」
  言葉の終わりに、ちゅる、じゅ、と音が響いた。

  「や、んッ……吸ったら、やだ……」
 恥ずかしい。
 恥ずかしい。
 恥ずかしい。

 なのに、

 気持ちいい。
 気持ちよくて、おかしくなりそう。

 快感の波に連動して再び顔を持ち上げる俺の肉欲。楓の指はすぐにそこに伸びる。

  「あ、あ、やっ、いっしょにするの、だめぇ……!」
 言いながらも、俺の体は楓を拒否しない。それどころか、四本足の動物みたいに臀を突き出してしまう。
  
 ────もうなんだってどうだっていい。楓に見られて恥ずかしいところなんかどこにもない​。楓がしてくれること、全てが嬉しい。好き。楓が好き。 
 楓、楓、楓……!

「ァ、あぁっ……!」
 菊座が蕩けそうになる頃、楓の指の動きが早まり、俺は二度目の白濁を洗い場の床に放った。


 とうとう膝が崩れ、壁に支えられていた上半身がずり下がって落ちてくる。
 楓は俺の腰と腕を取り、へたり込むのを助けた。

  「楓…………して……?」
 楓の頬に手を伸ばす。

 これだけ感じてなお、その先を望み、ご法度だってわかっていても、願う。
 だって、きっと楓も着物の下に欲を潜めているはずだから。
 楓の欲を、愛情を、俺の中で受け止めてあげたい。気が済むまで俺の中にそれを放って欲しい。

 楓は首を横に振りながら俺を抱きしめ、唇で頬を慰める。
  「……煽るな。こんな所じゃ抱けないよ。最後までする時は、あったかくて柔らかい布団の上で、夢見てるみたいに気持ち悦くしてやる」

 いやだ。そんなことしなくていい。今、お前を気持ち良くさせたいんだ。二人で、どこまでも一緒にって約束したじゃないか。

 だから
  「一緒に気持ち良くなりたい。楓の気持ちいい顔、俺も見たい……なぁ、入れて……?」
 首にすがりつき、喉仏に吸い付く。

  「……っ。だめだ。ここまでやっといて今更だけど、皆に了解を得たからって華屋ここにいるうちは行為はご法度……最後までするのは俺が一人前になってからだ。
 それに……やっちゃうと一回じゃ終われないと思うから……」
 照れ笑いをしながら優しく頭を撫で、頬を擦り付けてくれる。
 声も、手の温かさも、全身から俺を大切にしようと思ってくれる気持ちが伝わってきて、鼻の奥がじん、とした。

  「なら……」
 楓の腕から体をずらし、おくみを開く。
 すぐに現れた楓の下帯の一部はしっとりと濡れていて、その中にあるのは俺への気持ちそのままの熱い塊。
 下帯の端からそれを取り出すと、思っている以上に硬く張りつめていて、足先の方に向けるのには抵抗があった。
  
 下帯を解いて、星空に向かう形のままに両手で包む。顔を近づけると、楓が今日流した努力の汗の匂いがした。男形の楓の、むせ返るような色気にクラクラする。

  「百合、俺は風呂に入ってないからいい」
 楓の腰がわずかに退いても逃がさなかった。幹をつかみ、一気に口の中に迎え入れる。

 あっ、と言う小さな声が楓から漏れた。けれどすぐに甘い吐息に変わる。

  「……っ……は、……あ、百合……」
 片膝を立てた楓の脚の筋肉が浮き出て、力が入ったのがわかる。俺の耳を撫でていた手にも力が入り、指が髪に絡まった。

 口の中、熱い。
 大っきくて、喉が苦しい。でも、俺も楓の全部を愛したい。舌を這わせて、吸いついて、蕩けさせてあげたい。

 頬の内側に擦り付ければ、楓の裏の筋や、怒張している血管の形までわかる気がして、ますます夢中で咥えこんでいた。
 
  「ああ、百合、すぐに達しそうだ……」
 少し緩めてくれ、とでも言うように眉を寄せて目を細め、俺の顎を撫でる。その仕草は俺の「男」の部分をも呼び起こした。

  ────イかせたい……。

 口淫はまだ、仕事でも得意じゃないけれど、音を立てて深く中に含み、舌を幹に当てながら強く吸い上げる。根元を両手で握り、くびれを通る時には歯を軽く当てた。

  「……ふっ……百合……もう……」
 楓の手が俺の両頬を挟んで、腰が後ろにずれた。
 俺は首を伸ばし、楓を追って離さなかった。

 口の中でどくん、と跳ねて、根元が強度を増す。
  「馬鹿、離せ、……出るからっ…………あァっ……………!!」

 口の中に青臭い粘りが広がった。
 俺が出した唾液と混ざり、含み切れずに口の端から流れ出てくる。

  「馬鹿、早く出せ」
 片手で頬を挟まれ、おちょぼみたいに開いた口から流れ出る精液。
 楓は俺から離れて水を汲み、手のひらに水をすくって俺の口を洗った。

  「いいのに」
 客のだって飲まされることはあるし、もっと酷い藤江様のだって……。

  「嫌だよ。どんなに不味いか俺だって良く知ってる。それに、飲むと後で胃が重くなるだろ?」

 ああ、確かにそうかも。
 楓の方が褥仕事の歴が長いし、経験も豊富だから、流石に良くわかってる。

  「ふ……」
 今のやり取りが陰間の俺達らしくておかしいのと、楓のかわいいイキ顔を拝めたことが嬉しくて笑いが込み上げた。

  「なんだよ?」
 楓が不思議そうに言う。

  「いや、幸せだなって」
 今、俺は満たされている。
 体に沢山の楓の匂いを染みつけて、楓でいっぱいになっている。

  「ああ、そうだな。……宴に戻るのも面倒だな。もう少しここにいようか」
 楓は俺の浴衣と自分の着物を直したあと、隣に座って肩をくっつけた。

  「そうだね。星を見てたって言えばいいよ」


 空を見上げる。

 澄んだ江戸の空。夏の大三角がはっきり見えた。白鳥座が大きく羽を広げている。

 まばゆいばかりにきらきらと光る星達が、まるで俺達を祝福しているみたいだと、そう思った。
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