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LVII 身体の変化-III

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 ――それから、約2週間。マクファーデンからの夜の誘いも断り続け、食事や間食、紅茶の暴飲等も徹底して控えた。最初の1週間は耐え難かったが、慣れてしまえば不思議なもので、“食べたい”という欲が無くなる。
 診療所の二階。入浴後、脱衣所で1人鏡に向かった。身体に巻き付けたタオルを外し、まじまじと自身の身体を鏡越しに見つめる。
 余分な肉は一切無く、もう“太った”などとは言わせない曲線美。以前より、綺麗な体型になったのではないか。嬉しさに頬が緩むのを感じながら、様々な角度から自身の裸体を眺める。

「――マーシャ」

 ノック無しで、脱衣所の扉が開く。普段の私なら、きっと殴らんばかりの勢いで怒鳴っていただろう。しかし今は、以前より美しくなった自身の身体を彼に見せたい気持ちの方が強く、怒る事無く無言で鏡越しに彼を見つめた。

「――……」

 私の身体を見た彼が、一瞬だけ驚いた様な表情を見せる。そしてぽつりと、「痩せましたね、凄く」と言葉を漏らした。

「先生に太ったって言われてから、頑張ったんだよ私」

「えぇ、それは……見たら分かりますが……」

 私の言葉に、彼が曖昧な反応を示す。こんなにも綺麗な身体になったというのに、何故そんな顔をするのか。最早羞恥など無く、自身の努力と手に入れた美しさを声高に自慢して歩きたい程だというのに。

「僕が余計な事、言った所為ですかね」

「余計な事?」

「太った、と思ったのは事実です。ですが、貴女は平均体重を下回っていますよね。だから少し心配で、太った事に安堵していたのですが……」

「はぁ!? なにそれ! そういうのはもっと早く言ってよ!」

「いや、だって僕の口を塞いだまま離してくれなかったじゃないですか。それに、逃げる様に脱衣所へ行ってしまいましたし……」

「……」
 
 込み上げる怒りと羞恥心に、言葉が出ない。無言できつく彼を睨みつけると、彼が少々きまり悪そうに顔を逸らし、「すみません」と呟いた。

「でも、医者としては心配ではあるんですが――」

 彼の足の下で、木の床がぎし、と音を立てる。私の背後に回り込んだ彼が、そっと私の腰や腹に手を這わせた。

「1人の男としては、そそられますね。芸術品の様に綺麗です」

 胸の輪郭をなぞる様に触れたと思ったら、今度は下腹部、そして脚へと愛でる様に肌の上を掌が滑ってゆく。

「二週間も僕を拒んだのは、その所為ですか?」

「……うん」

「全く、貴女って人は……」

 彼の両手が腰を掴み、ぐいと強く引っ張る。腰を付き出す様な体制になった私の臀部に、彼の腰辺りがぶつかった。

「――!」

 スラックス越しに伝わる、硬い感触。それが何か、瞬時に理解してしまう自分が嫌になる。

「貴女がもし仮に、見るに堪えない程太ってしまったとしても、僕は貴女を愛してますよ? ……まぁ、医者として指導はするかもしれませんが」

「……一言余計なんだけど」

「それは失礼しました」

 台に突いた自身の手を、彼がするりと撫でる。

「――どうでしょう、たまにはベッド以外の場所で、なんて」

「此処でするの?」

「二週間も不明確な理由で断られ続けた僕の気持ちが分かりますか? 多少は僕に非がありますが、少しくらいご褒美をくれても良いのでは?」

「これがご褒美になるのかな」

「ベッドより明るいですし、それに、貴女の身体を背後からも、鏡越しでも堪能できますからね」

「……変態」

 夜はまだ始まったばかり。眠るまでにすべき事は殆ど終わらせているが、それでも眠るには早い時間だ。そんな時間に、更には脱衣所で、彼と身体を重ねてしまって良いのだろうか。そんな事を考えるも、不意に秘部をなぞった彼の指先に思考は解け、拒絶しようとした言葉は吐息に変わった。
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