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LIII 2体の人形-I

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 マクファーデンとの関係は、“あの日”を境に少し変わった。彼は前ほど私を束縛する事はしなくなり、少し穏やかになった様にも感じる。首輪は未だ私の首に嵌ったままだが、それでも私が伝えたライリーの言葉に、彼なりに何か思う事があったのだろう。
 彼との衝突も無く、すれ違いも無く、今はただ甘く優しい日々を送っていた。

 丁度、4日前の事になるだろうか。マクファーデンと私の元に、喜ばしい知らせが入った。
 エルが無事、子を出産したらしい。担当した助産婦は、マリアがノエルを出産した時に立ち合った助産婦だったらしく、マクファーデンもかなりの信頼を置いている様だった。腕の良い助産婦が担当した事で、難産になると想定されていた出産もスムーズに進み、大きな問題も無く今は母子共に健康に過ごしているらしい。
 出産を終えた翌日、マクファーデンがエルと子供の診察の為に彼等の住家を訪ねた様だが、産まれてきた赤子はまるで人形ドールの様に美しい双子の女の子だったそうだ。その話を聞いて、私は早く2人の元へ行きたいと、赤子の顔が見たいとマクファーデンにせがんだ。しかし、今はまだ母体も安定していない上に、家族の時間もあるだろうとの事で酷く反対をされた。
 そして4日が経過した今日。漸く彼から「そろそろ見舞いに行っても良いのではないか」とお許しが出た。
 街でフルーツのバスケット盛りを買い、それを抱えて彼等の住家迄の道のりを歩く。弟の様な存在であるセドリックが娶ったエルは、私にとって妹同然だ。そんな彼女が子を産んだとなれば、自然と心が浮ついてしまう。
 晴れた空を見上げ、1人笑みを零した。

 辿り着いた家の前。ドアノッカーを握り、小さく息を吐く。
 彼等の子供を見る事への緊張からか、酷く鼓動が高鳴っていた。子供は私に、笑いかけてくれるだろうか。私の行動で、子供を泣かせてしまわないだろうか。様々な期待と不安が胸の中を渦巻き、緊張感が高まっていく。
 しかし、いつまでも此処で立ち止まっている訳にもいかない。意を決し、控えめにドアノッカーを叩いた。
 扉が開くまでのこの瞬間が、最も緊張する時間だ。そわそわと落ち着かず、辺りを見渡してはフルーツが入ったバスケットを強く抱きかかえる。
 それから数秒後、カチ、と耳に心地よい音が響き、扉が解錠された。ゆっくりと扉が開き、見慣れた人物が顔を見せる。

「久しぶり、セディ」

「あぁ、お前か」

 彼は訪問者が私だと分かるなり、警戒心も無く扉を大きく開いて中に入る様促した。彼がこれ程快く私を中に入れてくれるのは初めてかもしれない。そんな事を思いながらも緊張が解れず、「あの、えっと」等と言い淀みながら扉の前で立ち尽くした。

「……? どうした」

「いや、その、突然人が来たことで赤ちゃん泣いちゃったりしない?」

「……まぁ、お前が騒げば泣くかもな」

 彼の言葉に思わず口を噤み、家に入るべきか、それともフルーツのみを渡して今日は帰るべきかと思い悩む。しかし、そんな私を見て彼が呆れたように溜息を吐いた。

「ついさっき授乳が終わった所でな、今は2人共良く寝てる。人が来た位で泣いたりは……まぁ、しないと思う」

「そこは断言して欲しい所だけど……、じゃあ、少しだけお邪魔しようかな……」

 セドリックの顔色を伺いながらも怖ず怖ずと、家の中に足を踏み入れる。
 家の中は以前訪れた時と然程変わらないものの、目立つ場所に大きめのベビーベッドが置かれ、そしてテーブルの上には赤子用の玩具が幾つか置かれていた。子を産んだ、というのは事実なのだと、改めて思う。

「――あら、マーシャだったのね」

 ベッドの方から聞こえたのは、何処か落ち着く様な、安心するような穏やかな声。視線を其方に向けると、オフホワイトのネグリジェに身を包んだエルがベッドに座っていた。その両腕には、御包みにつつまれた2人の赤子が抱かれている。

「ごめんなさいね、こんな姿で。数日はあまり動き回らないように、とお医者様からもセドリックからも言われているの」

「全然大丈夫だよ。寧ろ、大変な時に来ちゃってごめんね」

「いいのよ。マーシャの顔が見れて嬉しいわ」

 彼女と顔を合わせるのは、広場で話をした時以来だ。あの時から変わっていないその穏やかな表情に、少しだけ安堵する。
 フルーツを詰めたバスケットをセドリックに預け、そっと足音を立てないようにエルに近付いた。
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