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XLV 病気-III

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「例えば、貴女が風邪を引いた時に服用する薬がありますね。一般的な解熱剤としましょう。……適正量を遥かに超えた量を服用したらどうなると思いますか?」

「え……」

「薬の種類にも依りますが、何事もラインを超えると毒になる。つまり、“致死量”という事です」

「あの人を、殺したの……?」

「殺すなんて物騒な。治療をしただけですよ。ただ先程も申し上げた通り、Gamma-Hydroxybutyric Acidについては不明な点が多すぎる。つまり、どの程度服用すれば致死量になるか、というのも分かっていないんですよ。致死量を調べる事も、治験になります。ちなみに、Gamma-Hydroxybutyric Acidは副作用に変性意識状態、見当識障害、嘔吐、呼吸停止などがあるそうです」

「さっきから、言ってる事が矛盾してるんじゃない?」

「人間の言葉など、普段から矛盾だらけでしょう?」

 腕を緩めた彼が、私を見て優しい笑みを零した。そして唇が触れそうな程、顔を近付ける。

「……狂ってる」

「……それを、貴女が言いますか?」

 まるで、私が過去企てた“あの事件”の事まで見透かしているかの様な彼の言葉。
 そうだ、私は過去に人を殺している。直接的に手を下していないとはいえ、私がやった事は紛れもない殺人だ。それも、非道徳極まりない。
 そんな私が、今の彼を責める事なんて出来やしない。

「案外似た者同士なのかもね」

「僕は、最初から貴女とは相性がいいと思っていましたが」

 まるで、これ以上言葉は不要だとでも言う様に、彼が私に口付けを落とした。
 ファーストキスは蜜の味、なんて言われるのを良く耳にする。しかし、実際は違う。私と彼のファーストキスは、まるでその唇から猛毒を注がれている様な、危険な味がした。
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