123 / 222
XXXVI 罪の意識-I
しおりを挟む
丁度、職場と貧民街の中間辺りだろうか。
アリアから入手した、ウォーレン・バークレイの住所を元に歩いていると、やや廃れた住宅街に辿り着いた。
自身の知らない街だからだろうか、どの家も同じ様な造りをしていて区別がつかない。1つ1つの家を確かめていけばいずれは辿り着くのだろうが、そんな事をしていたらウォーレンと出合う前に日が暮れてしまう。
困ってしまった。呆然とその場に立ち尽くし、重い溜息を吐く。
「――お嬢ちゃん、見ない顔だね。迷子かい?」
ふと突然聞こえてきたのは、嗄れた女性の声。声の方向に視線を向けると、煙草を片手に持った40代程の女性が家の窓枠に肘を突いて此方を見つめていた。
「迷子って年齢でも無いんだけど、そうだね。迷子みたいなものかも」
ふらりと女性に近付き、その顔を見上げる。
「ウォーレン・バークレイって人の家を探してるんだけど、お姉さん分かる?」
「あぁ、あんたウォーレンの知り合いだったのかい。分かるも何も、あの子はここらでは有名人だよ」
「有名人?」
「あぁ、正義感が強くて心優しくて、面倒な仕事でも何でも進んで引き受けてくれるんだ。皆あの子を慕ってる」
女性が煙を吐き出し、笑って見せた。しかしそんな笑顔も束の間、直ぐに悲し気な表情に変わる。
「でも、あの子最近変わっちまってね。いつも笑顔だったのに、急に笑わなくなって、日に日に窶れていった。お嬢ちゃん、あの子の知り合いなんだろう? どうしてああなっちまったのか、知ってるなら教えてくんないか。今迄良くして貰った分、あたし等も力になってやりたいんだ」
「――……」
女性の言葉に、嘘偽りがない事は分かっている。しかし、今は彼女に何も言う事が出来なかった。
心を痛めながらも、彼女から視線を外し俯く。
「ごめん、私彼の事何も知らないんだ。今日は……えぇと、知り合いの代わりに彼に会いに来ただけなの」
「……そうかい。悪かったね、こんな事言って。この先に十字路がある。そこから見える、赤い花が植えられた花壇がある家が、ウォーレンの家だよ」
「ありがとう」
彼女に手を振り、十字路の方向へと足を向ける。
ウォーレンはこの街の人から慕われていた。アリアから聞いていた人物像と一致する。
やはり彼は、アルフレッドに無理に従わされているだけなのだ。出来る限り早く、彼を解放してあげなければ。
十字路で立ち止まり、周囲を見渡す。すると、あの女性が言っていた通り赤い花が植えられた花壇が見えた。その花壇を持つ家に駆け寄り、腐って今にも崩れそうな木の柵を通り抜ける。
家の中から物音は聞こえないが、僅かに人の気配を感じた。彼が素直に出てきてくれるとは限らないが、あまり手荒な事はしたくない。
玄関扉の前で深呼吸を繰り返し、ドアノッカーに手を掛けた。ゆっくりと、4度ノックする。
――待つ事、十数秒。玄関扉が解錠される音がした後、扉が開かれた。
顔を見せたのは、目の下に濃い隈を作った若い男性。昨晩、あの橋のたもとで見た男で間違いない。目の前の彼が、紛れもないウォーレン・バークレイなのだろう。
今は酷く窶れているが、顔立ちも悪く無く人懐っこそうな男だ。笑顔が良く似合う青年だった事が、易々と想像できる。故に、酷い窶れと目の下の隈が現実の重さを物語っている様で心が痛んだ。
アリアから入手した、ウォーレン・バークレイの住所を元に歩いていると、やや廃れた住宅街に辿り着いた。
自身の知らない街だからだろうか、どの家も同じ様な造りをしていて区別がつかない。1つ1つの家を確かめていけばいずれは辿り着くのだろうが、そんな事をしていたらウォーレンと出合う前に日が暮れてしまう。
困ってしまった。呆然とその場に立ち尽くし、重い溜息を吐く。
「――お嬢ちゃん、見ない顔だね。迷子かい?」
ふと突然聞こえてきたのは、嗄れた女性の声。声の方向に視線を向けると、煙草を片手に持った40代程の女性が家の窓枠に肘を突いて此方を見つめていた。
「迷子って年齢でも無いんだけど、そうだね。迷子みたいなものかも」
ふらりと女性に近付き、その顔を見上げる。
「ウォーレン・バークレイって人の家を探してるんだけど、お姉さん分かる?」
「あぁ、あんたウォーレンの知り合いだったのかい。分かるも何も、あの子はここらでは有名人だよ」
「有名人?」
「あぁ、正義感が強くて心優しくて、面倒な仕事でも何でも進んで引き受けてくれるんだ。皆あの子を慕ってる」
女性が煙を吐き出し、笑って見せた。しかしそんな笑顔も束の間、直ぐに悲し気な表情に変わる。
「でも、あの子最近変わっちまってね。いつも笑顔だったのに、急に笑わなくなって、日に日に窶れていった。お嬢ちゃん、あの子の知り合いなんだろう? どうしてああなっちまったのか、知ってるなら教えてくんないか。今迄良くして貰った分、あたし等も力になってやりたいんだ」
「――……」
女性の言葉に、嘘偽りがない事は分かっている。しかし、今は彼女に何も言う事が出来なかった。
心を痛めながらも、彼女から視線を外し俯く。
「ごめん、私彼の事何も知らないんだ。今日は……えぇと、知り合いの代わりに彼に会いに来ただけなの」
「……そうかい。悪かったね、こんな事言って。この先に十字路がある。そこから見える、赤い花が植えられた花壇がある家が、ウォーレンの家だよ」
「ありがとう」
彼女に手を振り、十字路の方向へと足を向ける。
ウォーレンはこの街の人から慕われていた。アリアから聞いていた人物像と一致する。
やはり彼は、アルフレッドに無理に従わされているだけなのだ。出来る限り早く、彼を解放してあげなければ。
十字路で立ち止まり、周囲を見渡す。すると、あの女性が言っていた通り赤い花が植えられた花壇が見えた。その花壇を持つ家に駆け寄り、腐って今にも崩れそうな木の柵を通り抜ける。
家の中から物音は聞こえないが、僅かに人の気配を感じた。彼が素直に出てきてくれるとは限らないが、あまり手荒な事はしたくない。
玄関扉の前で深呼吸を繰り返し、ドアノッカーに手を掛けた。ゆっくりと、4度ノックする。
――待つ事、十数秒。玄関扉が解錠される音がした後、扉が開かれた。
顔を見せたのは、目の下に濃い隈を作った若い男性。昨晩、あの橋のたもとで見た男で間違いない。目の前の彼が、紛れもないウォーレン・バークレイなのだろう。
今は酷く窶れているが、顔立ちも悪く無く人懐っこそうな男だ。笑顔が良く似合う青年だった事が、易々と想像できる。故に、酷い窶れと目の下の隈が現実の重さを物語っている様で心が痛んだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる