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XXXII 忠告と犯意-IV
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Dear Miss Reynolds,《親愛なる ミス レイノルズ》
It is your job to stop his actions.《彼の行動を止めるのは貴女の仕事》
If you don't want to lost your loved one anymore.《愛する人をもう失いたくないのなら》
Plan your murder carefully.《殺人計画は慎重に。》
Mabel Balfour《メイベル・バルフォア》
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ゴールドのインクで書かれた文字は、まるで手本の様に美しく癖が無い。こんな字を書く人物はそう居ないだろう。
しかし、肝心のメッセージは全く意味が理解出来なかった。カードの最後に書かれた差出人らしき名前も、覚えの無い名前だ。
――彼の行動、愛する人、失う、殺人計画。
やけに引っ掛かる単語の数々。カードを封筒の中に戻し、ぼんやりと赤い封蝋を見つめる。
だが今は、この手紙の意味を考えている場合では無い。早く、セドリックを探さなくては。
紅茶が入った紙袋の奥底に手紙を仕舞い込み、ズキズキと痛む頭を押さえながらセドリックを探そうと通りを駆けた。
――遠目に見えた、セドリックの姿。煉瓦の壁に凭れ掛かり、何かを注視している今の彼はやや不審だ。彼の見つめている先が無性に気になり、そっとセドリックに近付く。
「そんな所でなにしてんの?」
彼の背に声を掛けると、今迄に見た事が無い程大きく彼の肩が跳ねた。そして振り返った彼は血相を変え、素早い動きで私の口を強く塞ぐ。
「静かにしろ」
落としそうになった紙袋を抱え直し、現状を理解しようと頭を回す。
この場に流れるのは、緊迫した空気。彼からは、焦燥感に似た感情が伝わってくる。只事では無い状況だという事を理解し、了承の意味を込め私の口を塞ぐ彼の手を軽く叩く。すると、やや躊躇いがちにその手が緩められた。止まった呼吸を再開する様に深く息を吸い込み、彼の視線の先に目を向ける。
そこに居たのは、私達と然程歳の変わらないであろう男3人組。彼等の間には、穏やかでない空気が漂っている。
遠くて感情を読む事までは出来ないが、聞こえてくる会話内容からしてあの3人は今世間を賑わせている婦女暴行事件の犯人、もしくはそれに関わる人物で間違いないだろう。
「――でも珍しいな、フレッドがそんな風に言うなんて」
聞こえてきた男の声に、チクリと記憶が刺激される。
「……フレッド?」
何処かで、聞いた事のある名前だ。それによく見てみると、フレッドと呼ばれた人物の顔も見た事がある様な気がしてくる。
「……ファーストネーム? ……それとも愛称かな」
隣のセドリックが私の言葉に反応を示したのを感じ取りながら、腕を組み壁に凭れ掛かった。
「……なんか、あの男の顔何処かで見た事ある気がする。それに、名前も……」
「なんだよそれ」
自身と関りのある人物だろうか。街で知り合った? それとも、仕事で関わったか。
私達は基本、街で人と知り合う事は無い。知り合ったとしても店の主人等であり、顔見知りの関係にまで発展する事が殆どだ。
となると、仕事関連だと考えるのが妥当だろう。
私は、仕事関係では貴族の女性としか出逢う事は無い。それに比べて、セドリックは貴族から下層階級、男性女性、若者から老人などと様々だ。そう考えれば、セドリック経由で知った可能性が最も高い。
しかし、どれだけ記憶を巡らせてみても明確な事が何も思い出せない。酷くもどかしく感じ、眉間に皺を寄せ親指を強く噛んだ。
Dear Miss Reynolds,《親愛なる ミス レイノルズ》
It is your job to stop his actions.《彼の行動を止めるのは貴女の仕事》
If you don't want to lost your loved one anymore.《愛する人をもう失いたくないのなら》
Plan your murder carefully.《殺人計画は慎重に。》
Mabel Balfour《メイベル・バルフォア》
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ゴールドのインクで書かれた文字は、まるで手本の様に美しく癖が無い。こんな字を書く人物はそう居ないだろう。
しかし、肝心のメッセージは全く意味が理解出来なかった。カードの最後に書かれた差出人らしき名前も、覚えの無い名前だ。
――彼の行動、愛する人、失う、殺人計画。
やけに引っ掛かる単語の数々。カードを封筒の中に戻し、ぼんやりと赤い封蝋を見つめる。
だが今は、この手紙の意味を考えている場合では無い。早く、セドリックを探さなくては。
紅茶が入った紙袋の奥底に手紙を仕舞い込み、ズキズキと痛む頭を押さえながらセドリックを探そうと通りを駆けた。
――遠目に見えた、セドリックの姿。煉瓦の壁に凭れ掛かり、何かを注視している今の彼はやや不審だ。彼の見つめている先が無性に気になり、そっとセドリックに近付く。
「そんな所でなにしてんの?」
彼の背に声を掛けると、今迄に見た事が無い程大きく彼の肩が跳ねた。そして振り返った彼は血相を変え、素早い動きで私の口を強く塞ぐ。
「静かにしろ」
落としそうになった紙袋を抱え直し、現状を理解しようと頭を回す。
この場に流れるのは、緊迫した空気。彼からは、焦燥感に似た感情が伝わってくる。只事では無い状況だという事を理解し、了承の意味を込め私の口を塞ぐ彼の手を軽く叩く。すると、やや躊躇いがちにその手が緩められた。止まった呼吸を再開する様に深く息を吸い込み、彼の視線の先に目を向ける。
そこに居たのは、私達と然程歳の変わらないであろう男3人組。彼等の間には、穏やかでない空気が漂っている。
遠くて感情を読む事までは出来ないが、聞こえてくる会話内容からしてあの3人は今世間を賑わせている婦女暴行事件の犯人、もしくはそれに関わる人物で間違いないだろう。
「――でも珍しいな、フレッドがそんな風に言うなんて」
聞こえてきた男の声に、チクリと記憶が刺激される。
「……フレッド?」
何処かで、聞いた事のある名前だ。それによく見てみると、フレッドと呼ばれた人物の顔も見た事がある様な気がしてくる。
「……ファーストネーム? ……それとも愛称かな」
隣のセドリックが私の言葉に反応を示したのを感じ取りながら、腕を組み壁に凭れ掛かった。
「……なんか、あの男の顔何処かで見た事ある気がする。それに、名前も……」
「なんだよそれ」
自身と関りのある人物だろうか。街で知り合った? それとも、仕事で関わったか。
私達は基本、街で人と知り合う事は無い。知り合ったとしても店の主人等であり、顔見知りの関係にまで発展する事が殆どだ。
となると、仕事関連だと考えるのが妥当だろう。
私は、仕事関係では貴族の女性としか出逢う事は無い。それに比べて、セドリックは貴族から下層階級、男性女性、若者から老人などと様々だ。そう考えれば、セドリック経由で知った可能性が最も高い。
しかし、どれだけ記憶を巡らせてみても明確な事が何も思い出せない。酷くもどかしく感じ、眉間に皺を寄せ親指を強く噛んだ。
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