上 下
102 / 222

XXXII 忠告と犯意-IV

しおりを挟む
--

Dear Miss Reynolds,《親愛なる ミス レイノルズ》

It is your job to stop his actions.《彼の行動を止めるのは貴女の仕事》

If you don't want to lost your loved one anymore.《愛する人をもう失いたくないのなら》

Plan your murder carefully.《殺人計画は慎重に。》

Mabel Balfour《メイベル・バルフォア》

--

 ゴールドのインクで書かれた文字は、まるで手本の様に美しく癖が無い。こんな字を書く人物はそう居ないだろう。
 しかし、肝心のメッセージは全く意味が理解出来なかった。カードの最後に書かれた差出人らしき名前も、覚えの無い名前だ。
 ――彼の行動、愛する人、失う、殺人計画。
 やけに引っ掛かる単語の数々。カードを封筒の中に戻し、ぼんやりと赤い封蝋を見つめる。
 だが今は、この手紙の意味を考えている場合では無い。早く、セドリックを探さなくては。
 紅茶が入った紙袋の奥底に手紙を仕舞い込み、ズキズキと痛む頭を押さえながらセドリックを探そうと通りを駆けた。


 ――遠目に見えた、セドリックの姿。煉瓦の壁に凭れ掛かり、何かを注視している今の彼はやや不審だ。彼の見つめている先が無性に気になり、そっとセドリックに近付く。

「そんな所でなにしてんの?」

 彼の背に声を掛けると、今迄に見た事が無い程大きく彼の肩が跳ねた。そして振り返った彼は血相を変え、素早い動きで私の口を強く塞ぐ。

「静かにしろ」

 落としそうになった紙袋を抱え直し、現状を理解しようと頭を回す。
 この場に流れるのは、緊迫した空気。彼からは、焦燥感に似た感情が伝わってくる。只事では無い状況だという事を理解し、了承の意味を込め私の口を塞ぐ彼の手を軽く叩く。すると、やや躊躇いがちにその手が緩められた。止まった呼吸を再開する様に深く息を吸い込み、彼の視線の先に目を向ける。
 そこに居たのは、私達と然程歳の変わらないであろう男3人組。彼等の間には、穏やかでない空気が漂っている。
 遠くて感情を読む事までは出来ないが、聞こえてくる会話内容からしてあの3人は今世間を賑わせている婦女暴行事件の犯人、もしくはそれに関わる人物で間違いないだろう。

「――でも珍しいな、フレッドがそんな風に言うなんて」

 聞こえてきた男の声に、チクリと記憶が刺激される。

「……フレッド?」

 何処かで、聞いた事のある名前だ。それによく見てみると、フレッドと呼ばれた人物の顔も見た事がある様な気がしてくる。

「……ファーストネーム? ……それとも愛称かな」

 隣のセドリックが私の言葉に反応を示したのを感じ取りながら、腕を組み壁に凭れ掛かった。

「……なんか、あの男の顔何処かで見た事ある気がする。それに、名前も……」

「なんだよそれ」

 自身と関りのある人物だろうか。街で知り合った? それとも、仕事で関わったか。
 私達は基本、街で人と知り合う事は無い。知り合ったとしても店の主人等であり、顔見知りの関係にまで発展する事が殆どだ。
 となると、仕事関連だと考えるのが妥当だろう。
 私は、仕事関係では貴族の女性としか出逢う事は無い。それに比べて、セドリックは貴族から下層階級、男性女性、若者から老人などと様々だ。そう考えれば、セドリック経由で知った可能性が最も高い。
 しかし、どれだけ記憶を巡らせてみても明確な事が何も思い出せない。酷くもどかしく感じ、眉間に皺を寄せ親指を強く噛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...