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序章: 幼少期

剣術を磨きます

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「せいっ! やっ!」

 現在、私は子供用の剣で素振りをしています。

 三ヶ森家は剣士の家系だ。
 そのため三ヶ森の血筋を引くものは揃いも揃って剣豪ばかり。
 そして私の従兄弟である海ちゃんは、三ヶ森の歴代の強者と並ぶと謳われる程。

 流石、海ちゃん。
 可愛いだけじゃなくてかっこいい。

 かくいう私はゲーム内では名も出ないモブ令嬢だったわけですが、実際のところ三ヶ森の女剣士としては将来有望と言われる程です。

「綾子お嬢様、そろそろおやつの時間です。」

 緋堂さんが家の窓をガラガラとあけて、庭で剣を振ってる私に言う。

「待って、あと、100回!」

 こういう地道な鍛錬こそ強靭な肉体を作り上げるのだ! 目指せ細マッチョ、目指せ板チョコ腹筋。

「99、100!」

 私は素振りをやめて、ふぅと一息つく。
 なんせ何百回と素振りをしたのだ、体力的にも辛い。
 しかし、ここが頑張りどころ。
 もう少しで新たな技を会得出来そうなのだ。

「おつかれさま、綾子。」
「あ、お兄様!」

 私はパタパタとお兄様に駆け寄る。
お兄様…三ヶ森みかのもり 篤也あつやが突撃する私をぎゅっと抱きとめる。

「お家にいたのなら、私の練習に付き合ってくれればよかったのに。」

 私は少し残念そうな顔と声のトーンを作ってお兄様に言う。

「ごめんね、連日の任務で疲れが溜まっていたんだ。」

 お兄様はとても申し訳なさそうだった。
 そんな顔をさせてはいけない! と私はすぐに首を横に振った。

「ううん!私こそワガママ言ってごめんなさい、お兄様が無事で何より!」

 私はニッコリと笑みを浮かべる。

 私はお兄様のことが大好きで尊敬していて何よりも自慢だ。
 どこまでも強くて、優しくてなんでも出来る頼りになる兄様。

 まだ13歳なのに魔物討伐の任務をこなしていて、私はいつか兄様の手助けをしたいと思っている。
 ちなみに、お兄様は10歳の頃から任務をこなしています。

 お兄様は、三ヶ森家の中では特に期待をされている人材。
 それは次期当主となるはずの海ちゃんより。

 だけれどお兄様は権力になんて少しも興味がない。

「そうだ! お兄様も一緒におやつを食べようよ! その後、手合わせをお願いしたいな。」

 お兄様がニコリと笑って、私の申し出にコクリと頷く。

「勿論だよ。綾子がどれだけ成長しているか、とても楽しみだね。」

 私は意気揚々とお兄様の手を取り、部屋の中へと入っていく。
 靴をガッと脱ぎ捨てたので、緋堂さんが少し呆れながらそれを直したのが横目に見えた。

「今日のおやつは、緋堂特製のフォンダンショコラでございます。」

 私は目の前のお菓子に目を輝かす。
 緋堂さんの作るお菓子は一流のパティシエ並みに美味しい、お世辞ではなく本気で。

 緋堂さんが来てから早数ヶ月。
 週に3回のペースで作ってくれる。
 そのおかげで最近顔まわりに、肉が…お腹にも、肉が…。

 将来、ふくよかな体型になってしまいそうで怖すぎる、緋堂さんのお菓子には私の外見へとんでもない殺傷能力があるみたいだ。

「やはり、緋堂のお菓子は一流ですね。僕の密やかな楽しみです。」

 お兄様が柔らかな口調で緋堂さんに言うと、緋堂さんはありがとうこざいますとお礼を言いながらペコリと頭を下げる。



 お兄様といくらか談笑しながらおやつを食べた後、私たちはもう一度庭に出る。

「では、よろしくお願いしますっ!」
「うん、お手柔らかにね。」

 私は剣を構えて向かっていく。
 お兄様もニコリとしていた顔を真剣な表情に変えて剣を構えた。

「はっ!」

 私は剣をぶんっと振る。
 お兄様はそれを軽々と剣で防いだ。

「甘いね。」

 お兄様は私の剣を滑るように返してから剣をついてくる。

はやいっ!

 私が右側へ避けると左側にヒュッと音を鳴らして剣が通る。
 少しだけ私の髪が切れた。
 はらはらと漆黒の髪が地面に落ちていく。

「遅いね。」

 お兄様は剣をそのまま横に振る。

「まだま、だ!」

 私はサッとしゃがんでから、立ち上がりながら剣を下から上にぶんっと振る。
 お兄様はそれを軽く後ろに宙返りして避けた。

「前よりもまた強くなったね、綾子。じゃあこれは避けられるかな?」

 お兄様は、顔の横に剣を構える。

三ヶ森流みかのもりりゅう壱ノ舞いちのまい 炎舞えんぶ!」

 お兄様は剣に青い炎を宿してそれを舞うように振っていく。
 次から次へと襲ってくる剣を私は避けることしか出来ない。

 私は一か八かの賭けに出る。

神道綾瀬流しんどうあやせりゅう春風はるかぜ!」

 ざっと勢い良く低姿勢になり、そこから相手の足元まで一気に詰め寄って剣をお兄様の喉元まで突き刺す。

 勝った。

 そう思った私だったが形勢は一気に逆転する。

 お兄様は私の剣を一瞬にして自分の剣の軌道に乗せて弾き、剣を持たなくなった私の手を捻った。
 お兄様に後ろから抱きつかれる形になり、首筋には彼の剣が添えられる。

「参りました、お兄様。」
「僕の勝ち、まだまだ甘いね。」

 お兄様が顔に笑みを戻して私を離す。

「でも、剣筋も良くなったね。まさか三ヶ森流を全て避けて、更に神道綾瀬流を叩き込んでくるとは思わなかったよ。あれは僕も少し危なかったな、順調に強くなってて僕も嬉しいよ。」

 いつもの優しい口調でお兄様は私を褒めてぽんぽんと頭を軽く撫でる。
 私はそれが嬉しくてえへへっと笑った。

 やはり私はお兄様が大好きだ。




※ 三ヶ森流…三ヶ森家の流派で代々受け継がれている。高い剣術と共に魔力が必要となる。

※神道綾瀬流…綾瀬家の流派(綾子と篤也の母の家の流派)である。どこまでも剣術を突き詰めている、魔力は不必要だが相当高いレベルの剣術が必要となる。
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