32 / 38
noitcudbA 話61第
しおりを挟む
「ティミリアが、いなくなった?」
その知らせを受けたのは、俺がティミリアの家へ訪問しようと支度を始めた時だった。
彼女の家に通うことは既に日課のようになっていて、だけれど未だに会話を交わせずにいた。
「奥さまは侍女と共に街に出ていたようです。侍女が冷菓子を買いに行っている少しの間に消えてしまったと。」
「捜索はどうなっている。」
「リージョン家が騎士団に伝え、従者と騎士たちで街中を捜索しているようです。」
リージョン伯爵家はティミリアの実家である。彼らは事態がわかってすぐに動いた上で俺に連絡を入れたのだ。
正直、もっと早く連絡を貰いたかったが、妻に出ていかれてしまった身なので家族からしたら信用できないということだろうか。
「大方、見当はつく。」
「ネイト侯爵ですか?」
「そうだ、それ以外に誰がいるのだ。」
いつ彼が動くか心配で仕方がなかった。
彼が動く前にティミリアに戻ってきて欲しいと思っていたが、上手くいかなかったみたいだ。
「俺たちもすぐ捜索にあたるぞ。騎士団に連絡しているなら、総司令官も協力してくれるだろう。」
俺とジェラルはすぐに公爵邸を出てティミリアの捜索を始めた。
彼女が消えた場所で捜索、聞き込みをした結果揃ってひとつの回答が得られた。
"ネイト侯爵と共に歩くティミリアを見た"
正直、意外だった。
ティミリアに何かあったとき、最後にネイト侯爵といたと誰かが証言したら不利になる。
では、なぜ彼はわざわざティミリアと一緒にいた? それを周囲にわかるようにした理由は?
「ネイト侯爵と奥さまは、街中で分かれたそうです。」
「ティミリアは1人でどこかへ失踪した……ネイト侯爵はそう思わせたいみたいだな。」
ジェラルの報告に俺は自信を持って考えを口にする。
側から見たら彼女がただ姿を消しただけに思えるが、ネイト侯爵がティミリアに接触していたという今までと俺に対して何らかの恨みのようなものを持っているという事実がネイト侯爵による犯行であると断定させる。
「早くティミリアを見つけなければ……何か、何か手がかりは無いだろうか……?」
俺はタンタンタンと足を鳴らしながら考える。1分1秒が運命を変える、そんな気がしてならない。
「奥さまは路地裏に消え、ネイト侯爵の足取りも追えませんでした。アレクセン様、奥さまは自ら歩いていたのです……本当にネイト侯爵は関係しているのでしょうか?」
ジェラルの言葉に、俺はキッと鋭い視線を向ける。
「それでは何だ? ティミリアは自ら行方をくらませたと?」
「お、お言葉ですが! 奥さまはとても悲しみ塞ぎ込んでいらっしゃったのです!」
「だから何だ?」
ジェラルの怒りを込めるように言い方に俺もきつく言葉を返す。
「ティミリアは全てを放って逃げ出すほど弱い女性ではない。彼女は、葛藤しながらも真っ直ぐぶつかってくる、そんな女性だ。ジェラルはティミリアが逃げるような弱い女性だと思っているのか?」
俺の問いかけにジェラルはハッとした表情をする。それから、ぶんぶんと首を横に振った。
「ならば考えるのだ、ネイト侯爵が一体どこに彼女を隠しているのか。」
侯爵邸? いや、それはない。
姿を見せることはしても、決定的な証拠は残したくないはずだ。
路地裏で雇ったゴロツキに拐わせた?
いや、それなら何かしらの目撃証言があるだろう。
だったら他にどこがある?
俺たちが見つけ出せない場所だ、突飛だと思えるような場所。
「アレクセン様、奥さまは自分で歩いて行方をくらませたんですよね?」
「そうだ、ネイト侯爵と歩いていたという証言がある。」
「その"歩いていた"というのがどうも引っかかるんです。」
ジェラルは腕を組み、うーんと考え込む。どこか引っかかるような点はあっただろうかと俺はあまり良くわからなかった。
「だって、奥さまがネイト侯爵と並んで歩いていたことやその後別れて自分で歩いてどこかへ行ってしまったから、簡単に言えば家出なのではないかという疑問は無くならないわけですよね?」
「あぁ、そうだな。」
「もしも、忽然と消えてしまったら拐われたと断定したわけですよね?」
俺はコクリと頷いてからジェラルの言いたいことに気がつき、ハッとした。
そうだ、ネイト侯爵はティミリアを見つけて欲しくないわけではないんだ。すぐに見つけられたら困る、というだけなんだ。
ティミリアの足でこんな短時間にどこかへ行くにはそんなに遠くないだろう。
そんな勝手な予想で捜索範囲は狭まっているが、もしも彼女の意思とは全く関係なく歩かされていたら? どんなに足が痛くても怪我をしても歩くようにされていたら?
例えば、催眠をかけられていたら。
「ジェラル、騎士団へ連絡し捜索範囲を広げて人目につかないような場所がないか探すんだ。休まず歩いて辿り着けるような場所を。」
「はい!!」
俺が命令をするとジェラルはすぐに動いた。
待っていてくれ、ティミリア。
俺が必ず君を助ける。
そして話をしよう。
俺の思いを全て伝えよう。
俺はもしかしたら、君に"愛情"を抱いているかもしれないんだ。
その知らせを受けたのは、俺がティミリアの家へ訪問しようと支度を始めた時だった。
彼女の家に通うことは既に日課のようになっていて、だけれど未だに会話を交わせずにいた。
「奥さまは侍女と共に街に出ていたようです。侍女が冷菓子を買いに行っている少しの間に消えてしまったと。」
「捜索はどうなっている。」
「リージョン家が騎士団に伝え、従者と騎士たちで街中を捜索しているようです。」
リージョン伯爵家はティミリアの実家である。彼らは事態がわかってすぐに動いた上で俺に連絡を入れたのだ。
正直、もっと早く連絡を貰いたかったが、妻に出ていかれてしまった身なので家族からしたら信用できないということだろうか。
「大方、見当はつく。」
「ネイト侯爵ですか?」
「そうだ、それ以外に誰がいるのだ。」
いつ彼が動くか心配で仕方がなかった。
彼が動く前にティミリアに戻ってきて欲しいと思っていたが、上手くいかなかったみたいだ。
「俺たちもすぐ捜索にあたるぞ。騎士団に連絡しているなら、総司令官も協力してくれるだろう。」
俺とジェラルはすぐに公爵邸を出てティミリアの捜索を始めた。
彼女が消えた場所で捜索、聞き込みをした結果揃ってひとつの回答が得られた。
"ネイト侯爵と共に歩くティミリアを見た"
正直、意外だった。
ティミリアに何かあったとき、最後にネイト侯爵といたと誰かが証言したら不利になる。
では、なぜ彼はわざわざティミリアと一緒にいた? それを周囲にわかるようにした理由は?
「ネイト侯爵と奥さまは、街中で分かれたそうです。」
「ティミリアは1人でどこかへ失踪した……ネイト侯爵はそう思わせたいみたいだな。」
ジェラルの報告に俺は自信を持って考えを口にする。
側から見たら彼女がただ姿を消しただけに思えるが、ネイト侯爵がティミリアに接触していたという今までと俺に対して何らかの恨みのようなものを持っているという事実がネイト侯爵による犯行であると断定させる。
「早くティミリアを見つけなければ……何か、何か手がかりは無いだろうか……?」
俺はタンタンタンと足を鳴らしながら考える。1分1秒が運命を変える、そんな気がしてならない。
「奥さまは路地裏に消え、ネイト侯爵の足取りも追えませんでした。アレクセン様、奥さまは自ら歩いていたのです……本当にネイト侯爵は関係しているのでしょうか?」
ジェラルの言葉に、俺はキッと鋭い視線を向ける。
「それでは何だ? ティミリアは自ら行方をくらませたと?」
「お、お言葉ですが! 奥さまはとても悲しみ塞ぎ込んでいらっしゃったのです!」
「だから何だ?」
ジェラルの怒りを込めるように言い方に俺もきつく言葉を返す。
「ティミリアは全てを放って逃げ出すほど弱い女性ではない。彼女は、葛藤しながらも真っ直ぐぶつかってくる、そんな女性だ。ジェラルはティミリアが逃げるような弱い女性だと思っているのか?」
俺の問いかけにジェラルはハッとした表情をする。それから、ぶんぶんと首を横に振った。
「ならば考えるのだ、ネイト侯爵が一体どこに彼女を隠しているのか。」
侯爵邸? いや、それはない。
姿を見せることはしても、決定的な証拠は残したくないはずだ。
路地裏で雇ったゴロツキに拐わせた?
いや、それなら何かしらの目撃証言があるだろう。
だったら他にどこがある?
俺たちが見つけ出せない場所だ、突飛だと思えるような場所。
「アレクセン様、奥さまは自分で歩いて行方をくらませたんですよね?」
「そうだ、ネイト侯爵と歩いていたという証言がある。」
「その"歩いていた"というのがどうも引っかかるんです。」
ジェラルは腕を組み、うーんと考え込む。どこか引っかかるような点はあっただろうかと俺はあまり良くわからなかった。
「だって、奥さまがネイト侯爵と並んで歩いていたことやその後別れて自分で歩いてどこかへ行ってしまったから、簡単に言えば家出なのではないかという疑問は無くならないわけですよね?」
「あぁ、そうだな。」
「もしも、忽然と消えてしまったら拐われたと断定したわけですよね?」
俺はコクリと頷いてからジェラルの言いたいことに気がつき、ハッとした。
そうだ、ネイト侯爵はティミリアを見つけて欲しくないわけではないんだ。すぐに見つけられたら困る、というだけなんだ。
ティミリアの足でこんな短時間にどこかへ行くにはそんなに遠くないだろう。
そんな勝手な予想で捜索範囲は狭まっているが、もしも彼女の意思とは全く関係なく歩かされていたら? どんなに足が痛くても怪我をしても歩くようにされていたら?
例えば、催眠をかけられていたら。
「ジェラル、騎士団へ連絡し捜索範囲を広げて人目につかないような場所がないか探すんだ。休まず歩いて辿り着けるような場所を。」
「はい!!」
俺が命令をするとジェラルはすぐに動いた。
待っていてくれ、ティミリア。
俺が必ず君を助ける。
そして話をしよう。
俺の思いを全て伝えよう。
俺はもしかしたら、君に"愛情"を抱いているかもしれないんだ。
2
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
【完結】愛とは呼ばせない
野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。
二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。
しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。
サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。
二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、
まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。
サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。
しかし、そうはならなかった。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる