上 下
8 / 38

gninetsiL 話4第

しおりを挟む

 ティミリアと食事をした日から、ジェラルはずっと怒ったままだ。
 仕事はしっかりとこなすが俺と最低限の会話以外しない。

 ティミリアとも、あれ以来一度も会っていない。何度か見かけはしたが、俺の姿を一瞬でも見ると彼女はピュンッと逃げていった。声をかける暇すらなかった。

 一体何が悪かったのか、首を捻るが解決はしなかった。
 とにかく時間が解決するだろうと特にアクションは起こさずにそのままにしている。

 やっと仕事がひと通り終わり、書類から目を離す。
 何となく執務室の窓から外を見てみると、中庭でティミリアとジェラルが仲睦まじい様子で話しながら園芸を楽しんでいた。

 もしも彼女がジェラルを恋人に選んだとしても、俺は何も言う資格はない。俺がそれを認めたのだから。

 ただその場合、あの輪に俺は入れないのだと思うと少しだけ寂しかった。

 それはジェラルが従者でありながらも数少ない友人だからか、ティミリアがたった一人の俺の家族となったからか、それともそのどちらもか。

 コンコン、執務室の扉がノックされた。

「入れ。」

 俺が入室を許可すると入って来たのはレミーエだった。

「旦那さま、紅茶でもどうぞ。」
「……ジェラルに言われたか。」

 レミーエはティミリアに付いている使用人だ。それが今ここにいてジェラルがティミリアに付いているということは……。

「ええ、奥さまのガーデニングを手伝うから代わりに紅茶をお持ちしてくれ、と。」
「そうか。」

 俺はレミーエの淹れてくれた紅茶を一口飲み、それから再び外へ目を向ける。

「奥さまのことが気にかかりますか?」
「……そういうわけではないが。」

 ただ、食事の時に向けられた笑顔が、また見れる日は来るのだろうかと不安になる。

 俺の両親はあまり仲が良くはなかった。いつも不機嫌そうな母と、温和で怒らない父。ただ、一度父がとても怒った時があったっけ。それはいつだっただろう。

 俺は、ティミリアと結婚する時、両親のようにはならないように気をつけようと思っていた。
 しかし、結局今はどうだ? 彼女には避けられ、怖がられている。

 夕食の時に、明確なコミュニケーション不足を感じた。だから、コミュニケーションを取ろうとしているが、それすらも避けられていてはどうしようもない。

「彼女は日頃何をしているのだ。」

 俺はレミーエに問いかける。

「奥さまは、ガーデニングが大好きで毎日花をやり美しい花が咲くことを楽しみにしておられます。そのほかには、シェフと共にお菓子を作ったり、本を読んだりしながら過ごしておられます。」

 花に料理、本。
 淑女らしいような、そうではないような。世の貴族女性はガーデニングや菓子作りをするものなのだろうか。

 よく分からないが、彼女がそれを好きだというのなら自由にやれば良いと思う。

「何かプレゼントでもされたら如何ですか? 奥さま、喜ばれると思いますよ。」
「プレゼント、か。」

 レミーエの提案に俺はうーんと考え込む。プレゼントといっても一体何をあげれば良いのか。

 高価な宝石やドレス、アクセサリーを贈れば喜ぶだろうか。そうしたらまた、怖がらずに話してくれるようになるのだろうか。

「考えておく。」

 俺は一言そう告げて、再び紅茶を飲みながら窓の外を眺めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...