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第一章
わんこの部屋
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「えっと……? 先輩、これはどんな状況……?」
「千秋途中で寝ちゃったから、俺の家に運んどいたんだ! 千秋んちより近かったからな!」
「え……」
「もう平気かー? 喉渇いたろ?」
そう言いながらペットボトルの水を手渡してきた先輩。
なんで俺んち知ってんだコイツというツッコミは無駄だろう。だって相手は先輩だし。ストーカーだし。
俺が知りたいのはそれより……。
いつまでも水を飲もうとしない俺を不思議に思ったのか、先輩が首を傾げる。
「そんな躊躇しなくてもそれには何も入ってないぞ? あの女とは違うからな!」
あの女、とはレズっ子のことだろう。
あの子はフロランタンに睡眠薬を盛ったから、確かに口に入れるものは注意しなければならない。
だけど眠る前も思ったけど、問題はなんで先輩がそのことを知っているのかであって……
「先輩、よく俺が薬盛られたってわかりましたね」
「ああ、だって見てたからな」
……はい?
今なんて言ったコイツ。
「見てた……とは?」
「さっきの女――あ、名前は漆原沙希っていうんだけどな? そいつが千秋のこと好きなの知ってたし、最近それがエスカレートして脅迫したり物盗んでたみたいだし、そろそろ何かやらかしそうだな~と思ってたら案の定」
「……」
「でもまさか睡眠薬盛るとはねぇ。外で何やってんだとも思ったけど遅効性のやつとはよく考えたよ。最初は意識が朦朧とするだけだから傍目には具合が悪くなった千秋を支えてるようにしか見えないもんなぁ」
うん、あのさ。
さっきから当然のようにベラベラ喋ってるけどさ? ツッコミどころがありすぎるんですけど!?
え、なんなの!?
まずなんでレズっ子のことそんなに知ってるの!? 名前とかどうやって調べたんだよ!!
てか彼女のストーカー行為やっぱり知ってたんじゃん!! 知ってたなら言えよ!! 注意喚起しろよ!! そしたらこんな目に遭わずに済んだのに……
いや、待てよ? 逆になんで言わなかったんだ?
俺が危険な目に遭っても良かったってこと? むしろそれを望んでた?
……このわんこみたいな先輩が? なんで?
いや、俺がいくら考えたところでこの人の頭の中を知ることなんてできるわけがない。
「先輩、全部知ってて、最後の最後まで助けなかった理由はなんですか?」
「困ってる千秋が可愛くてついっ」
「……」
理由しょうもねええええええ。
はあ!? ついじゃないよ!!!
何言ってんのコイツ!? おかしいでしょ!!
「大丈夫だ、盗まれたものもちゃんと全部取り返したから」
そういう問題じゃねーよ。こいつ絶対頭おかしい。
……あ、でもそういやレズっ子が言ってた脅迫文はいくつか聞き覚えないやつだったな……もしかして、俺が怖がると思って先輩が抜き取ってくれてたのか?
そう思って聞いてみると。
「ああ、それな~。千秋が真に受けて俺と話してくれなくなったらやだったから抜き取っといた」
「……」
あ、はい。なんとなく予想はしてました。
結局全部自分のためかい。どんだけ己の欲に忠実なんだよ。
おかしいな、記憶の中の先輩は天然で空気読めないけどなんだかんだ気は遣えるし優しかったのに……。
ていうか、さっきから身体中にヒシヒシと何かを感じるんだけど。これはなんだ……?
にこにこと満面の笑みを浮かべる先輩。
その笑顔はいつものわんこと変わらないのに、目の奥が笑ってないっていうか、歪んでるっていうか……
「あ、あの……先輩、」
「ん? なんだ?」
「えっと、休ませてくれてありがとうございました。そろそろ俺は帰っ……」
「あ、そうだ! 千秋お腹空いてるだろ? 今軽く食べれるもん作ってくるからちょっと待っててな~」
「えっ、あ、ちょ――」
先輩! と呼び止めようとしたらバタンと閉まったドア。
えーーーーー。毎度のことながらアイツ話聞かねーーーー。
もうこっちは帰りたいんですけど。
ずっとレズっ子の前で気張ってたせいで疲れた。一刻も早く自分の部屋で休みたい。自分の部屋で。
助けてくれたのは感謝してるけどよりによって先輩か……。ちゃんと家に帰してくれるのか不安だ。さっき俺の言葉遮ったのだって不自然すぎるし。
まあお腹空いたのは事実なので、ご飯食べたら速攻帰ろう。
先輩が戻ってくるまで暇を潰そうとチラリと部屋に目をやる。
ふーん、意外と整理されてるんだ。青や白で統一されている部屋は爽やかな先輩らしい。セミダブルのベッドに、俺のより大きいテレビ、隅っこには勉強机が設置されていて……。
……先輩、勉強とかするんだ。
いやいや、いけないよね。人を外見で判断しちゃ。てっきり体動かす事しか能のない脳筋だと思ってたけど……ゴホン。
机の上には一冊のノートが置いてあった。なになに、『観察日記』……?
へーえ、先輩日記帳とか作るタイプなんだ。意外とマメだな~。
……ちょっとくらい覗いてもいいよね? いや、別に他人のプライバシーを侵害する趣味はないけどさ?
あのいっつも何考えてるかわからない先輩だよ? これくらいハンデあっても許されるよね? うん我ながら意味不明な言い訳だ。
つまりはめちゃくちゃ気になります。
そしていざ、ノートを開く。
――――先に言っておこう。ソレは間違いなく開いたら終わりのパンドラの箱だった。
「千秋途中で寝ちゃったから、俺の家に運んどいたんだ! 千秋んちより近かったからな!」
「え……」
「もう平気かー? 喉渇いたろ?」
そう言いながらペットボトルの水を手渡してきた先輩。
なんで俺んち知ってんだコイツというツッコミは無駄だろう。だって相手は先輩だし。ストーカーだし。
俺が知りたいのはそれより……。
いつまでも水を飲もうとしない俺を不思議に思ったのか、先輩が首を傾げる。
「そんな躊躇しなくてもそれには何も入ってないぞ? あの女とは違うからな!」
あの女、とはレズっ子のことだろう。
あの子はフロランタンに睡眠薬を盛ったから、確かに口に入れるものは注意しなければならない。
だけど眠る前も思ったけど、問題はなんで先輩がそのことを知っているのかであって……
「先輩、よく俺が薬盛られたってわかりましたね」
「ああ、だって見てたからな」
……はい?
今なんて言ったコイツ。
「見てた……とは?」
「さっきの女――あ、名前は漆原沙希っていうんだけどな? そいつが千秋のこと好きなの知ってたし、最近それがエスカレートして脅迫したり物盗んでたみたいだし、そろそろ何かやらかしそうだな~と思ってたら案の定」
「……」
「でもまさか睡眠薬盛るとはねぇ。外で何やってんだとも思ったけど遅効性のやつとはよく考えたよ。最初は意識が朦朧とするだけだから傍目には具合が悪くなった千秋を支えてるようにしか見えないもんなぁ」
うん、あのさ。
さっきから当然のようにベラベラ喋ってるけどさ? ツッコミどころがありすぎるんですけど!?
え、なんなの!?
まずなんでレズっ子のことそんなに知ってるの!? 名前とかどうやって調べたんだよ!!
てか彼女のストーカー行為やっぱり知ってたんじゃん!! 知ってたなら言えよ!! 注意喚起しろよ!! そしたらこんな目に遭わずに済んだのに……
いや、待てよ? 逆になんで言わなかったんだ?
俺が危険な目に遭っても良かったってこと? むしろそれを望んでた?
……このわんこみたいな先輩が? なんで?
いや、俺がいくら考えたところでこの人の頭の中を知ることなんてできるわけがない。
「先輩、全部知ってて、最後の最後まで助けなかった理由はなんですか?」
「困ってる千秋が可愛くてついっ」
「……」
理由しょうもねええええええ。
はあ!? ついじゃないよ!!!
何言ってんのコイツ!? おかしいでしょ!!
「大丈夫だ、盗まれたものもちゃんと全部取り返したから」
そういう問題じゃねーよ。こいつ絶対頭おかしい。
……あ、でもそういやレズっ子が言ってた脅迫文はいくつか聞き覚えないやつだったな……もしかして、俺が怖がると思って先輩が抜き取ってくれてたのか?
そう思って聞いてみると。
「ああ、それな~。千秋が真に受けて俺と話してくれなくなったらやだったから抜き取っといた」
「……」
あ、はい。なんとなく予想はしてました。
結局全部自分のためかい。どんだけ己の欲に忠実なんだよ。
おかしいな、記憶の中の先輩は天然で空気読めないけどなんだかんだ気は遣えるし優しかったのに……。
ていうか、さっきから身体中にヒシヒシと何かを感じるんだけど。これはなんだ……?
にこにこと満面の笑みを浮かべる先輩。
その笑顔はいつものわんこと変わらないのに、目の奥が笑ってないっていうか、歪んでるっていうか……
「あ、あの……先輩、」
「ん? なんだ?」
「えっと、休ませてくれてありがとうございました。そろそろ俺は帰っ……」
「あ、そうだ! 千秋お腹空いてるだろ? 今軽く食べれるもん作ってくるからちょっと待っててな~」
「えっ、あ、ちょ――」
先輩! と呼び止めようとしたらバタンと閉まったドア。
えーーーーー。毎度のことながらアイツ話聞かねーーーー。
もうこっちは帰りたいんですけど。
ずっとレズっ子の前で気張ってたせいで疲れた。一刻も早く自分の部屋で休みたい。自分の部屋で。
助けてくれたのは感謝してるけどよりによって先輩か……。ちゃんと家に帰してくれるのか不安だ。さっき俺の言葉遮ったのだって不自然すぎるし。
まあお腹空いたのは事実なので、ご飯食べたら速攻帰ろう。
先輩が戻ってくるまで暇を潰そうとチラリと部屋に目をやる。
ふーん、意外と整理されてるんだ。青や白で統一されている部屋は爽やかな先輩らしい。セミダブルのベッドに、俺のより大きいテレビ、隅っこには勉強机が設置されていて……。
……先輩、勉強とかするんだ。
いやいや、いけないよね。人を外見で判断しちゃ。てっきり体動かす事しか能のない脳筋だと思ってたけど……ゴホン。
机の上には一冊のノートが置いてあった。なになに、『観察日記』……?
へーえ、先輩日記帳とか作るタイプなんだ。意外とマメだな~。
……ちょっとくらい覗いてもいいよね? いや、別に他人のプライバシーを侵害する趣味はないけどさ?
あのいっつも何考えてるかわからない先輩だよ? これくらいハンデあっても許されるよね? うん我ながら意味不明な言い訳だ。
つまりはめちゃくちゃ気になります。
そしていざ、ノートを開く。
――――先に言っておこう。ソレは間違いなく開いたら終わりのパンドラの箱だった。
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