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第一章
就寝タイム
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「千秋っ! お前どこ行ってたんだよ!」
旅館に戻ると、第一声に誠至の咎めるような声が聞こえ、顔をしかめる。
「うるさいな。散歩してくるって言ったじゃん」
「散歩の範疇超えてんだろーが。スマホだって置いていきやがるし……」
あーもううるさい。お前は私のママか。
まだギャースカ騒いでいる誠至は放っておいて、部屋に足を踏み入れた。
「千秋ー! 心配したんだぞ!」
「……千秋遅い」
すると先輩と琳門が駆け寄ってきて、すぐに身動き取れなくなる。
そんな時間経ってたかな? 気付かなかった……。倭人と会ったせいで時間感覚おかしくなったな。
2人に囲まれながらもチラリと倭人へ視線を向けてみる。するとスマホをいじっていた倭人が私の視線に気付いたのかニヤァと口角を吊り上げた。
っ、あの表情……心臓に悪い。
すぐにぷいっと逸らすと、顔を向けた先にいたのは満面の笑みを浮かべた礎先輩……って、え。なんでそんな笑ってんの? 怖いんだけど。
「ちーあき! 早く寝るぞ~! 俺と一緒だっ」
「!?」
「「チッ」」
先輩の弾んだ声と、2人の舌打ち。
うわ、そうだ。忘れてた。そういえば私の隣に寝るのは誰か決めてたんだった……。
クソ、よりによって先輩かよ。
誠至と琳門からジロリと睨まれているにも関わらずにっこにっこと私の手を掴んで布団へと誘導する。その姿はまさしくご主人様の帰還を喜ぶわんこそのもの。
「はい、千秋はここねー」
連れてこられたのは一番奥の布団。
もうここまできたらどうにでもなれと大人しく布団に入る。すると間髪入れずに先輩もやってきて、私の身体をギュ、と抱き締め……
「――って、なに一緒の布団入ってきてんの!?」
「えー、ダメ?」
「あったりまえでしょ!? 先輩の布団はそれ! 入ってくんな!!」
「ちぇー、わかったよ」
そう言ってもそもそと布団を移動する先輩。
はあ、全く手のかかるわんこだ。まあ聞き分けがいいことは唯一の救いだな……って。
「あの、先輩。この手は何ですか?」
「んー? 握手?」
「離してください」
「やだ」
前言撤回。
やっぱりコイツは人の言うことを聞かない駄犬だ!
それから何度か言い合いを繰り広げながらも、なんとか就寝タイム。寝る場所は手前から倭人、琳門、誠至、先輩、私の順だ。
電気を消してからかれこれ30分は経つ。けれどいつになっても眠れそうにない。理由は勿論……
「先輩、いい加減寝てください。そんなに見られてると気が休まりません」
「ふふ、千秋可愛い……」
「聞け」
そう、この駄犬のせい。
駄犬がずううっとこちらをガン見してくるのだ。目をつぶっても感じる視線に、眠気なんてとうの昔に飛んでいった。手を握られてるせいで寝返りも打てないし……これはどんな悪夢ですか。
「はあ、言うこと聞かないならもう手は繋ぎません。さようなら」
そう言って強引に手を振り払う。不意をつかれたのか、案外簡単に先輩から逃げることができた。
やっとのことで反対方向を向き、一息つく。ふぅ、これで先輩のことは気にせず安心して眠れる。
……そう思ったのだが、次の瞬間背中に熱を感じて身体が強張った。
「ちょ、先輩!! なに抱き着いてんですか!! 布団入ってくるなって言ったでしょ!?」
「えー、だって寂しんだもん」
だもんじゃねよ!! 微塵も可愛くないんですけど!?
後ろからすっぽりと抱き込まれてるせいで抗おうにも思うように身体を動かせない。これじゃあまるで拘束されてるみたいじゃないか。しかも先輩の脚が私のソレに絡みついてきて、故意か知らんがさわさわと撫でてくるし。
「あーもう!! いい加減離れ――――うわ!?」
変な感覚に陥る前に先輩を引っぺがそうとした時、突如感じた衝撃。
ドン! と何かがぶつかったようで、先輩が激しく揺れたため私にもその余波がくる。
「!? 何事!?」
「いってー。やめろよ誠至」
先輩の口から出た名前に驚いて振り返ってみると、確かに誠至の足がこちらへ向いてる。
「うるせえ。お前が千秋から離れるまで蹴り続けてやる」
そう言ってる間もゲシゲシと蹴るのをやめない誠至。
あの、誠至さん。あなたが蹴る度もれなく私にも被害が出るんですけど。痛みは感じないけど、その代わりに先輩との距離が縮まるんですけど!?
しかも先輩の息が段々上がってきて……
「千秋……飴と鞭ってこういうことかな。でも千秋を抱けるなら……」
気持ち悪い。
もう鳥肌マックスだし、蹴られるたび衝撃が来て全然身体が休まらないし、やっぱり温泉なんか来なきゃ良かった……と後悔していると、
「いい加減うるさい!! それ以上喋るならみんな舌引っこ抜くから!!」
琳門のぷりぷりした声に助けられました。
ありがとう琳門!! ちょっと発言が怖いけどそんな琳門もグロ可愛いね!!
その後先輩にはまだハグより手繋ぎの方がマシだと解放してもらい、誠至も渋々と言った感じで静観。
はああああ~これでやっと眠りにつける……わけないよね。だってただ振り出しに戻っただけだもん!!
――――そして翌日。
「僕の貴重な睡眠時間を奪いやがって」
「千秋の寝顔見るのに夢中で寝れなかったっ」
「佐伯がいつ襲うか気が気じゃなくて寝れなかった……」
「俺はぐっすり眠れたぜ? 夢の中で千秋チャンと何度も何度も―――」
「続き言ったらブチ殺すぞ」
よし、早く帰ろう。
こうして長い長い一泊二日の温泉旅行は幕を閉じたのでした。
旅館に戻ると、第一声に誠至の咎めるような声が聞こえ、顔をしかめる。
「うるさいな。散歩してくるって言ったじゃん」
「散歩の範疇超えてんだろーが。スマホだって置いていきやがるし……」
あーもううるさい。お前は私のママか。
まだギャースカ騒いでいる誠至は放っておいて、部屋に足を踏み入れた。
「千秋ー! 心配したんだぞ!」
「……千秋遅い」
すると先輩と琳門が駆け寄ってきて、すぐに身動き取れなくなる。
そんな時間経ってたかな? 気付かなかった……。倭人と会ったせいで時間感覚おかしくなったな。
2人に囲まれながらもチラリと倭人へ視線を向けてみる。するとスマホをいじっていた倭人が私の視線に気付いたのかニヤァと口角を吊り上げた。
っ、あの表情……心臓に悪い。
すぐにぷいっと逸らすと、顔を向けた先にいたのは満面の笑みを浮かべた礎先輩……って、え。なんでそんな笑ってんの? 怖いんだけど。
「ちーあき! 早く寝るぞ~! 俺と一緒だっ」
「!?」
「「チッ」」
先輩の弾んだ声と、2人の舌打ち。
うわ、そうだ。忘れてた。そういえば私の隣に寝るのは誰か決めてたんだった……。
クソ、よりによって先輩かよ。
誠至と琳門からジロリと睨まれているにも関わらずにっこにっこと私の手を掴んで布団へと誘導する。その姿はまさしくご主人様の帰還を喜ぶわんこそのもの。
「はい、千秋はここねー」
連れてこられたのは一番奥の布団。
もうここまできたらどうにでもなれと大人しく布団に入る。すると間髪入れずに先輩もやってきて、私の身体をギュ、と抱き締め……
「――って、なに一緒の布団入ってきてんの!?」
「えー、ダメ?」
「あったりまえでしょ!? 先輩の布団はそれ! 入ってくんな!!」
「ちぇー、わかったよ」
そう言ってもそもそと布団を移動する先輩。
はあ、全く手のかかるわんこだ。まあ聞き分けがいいことは唯一の救いだな……って。
「あの、先輩。この手は何ですか?」
「んー? 握手?」
「離してください」
「やだ」
前言撤回。
やっぱりコイツは人の言うことを聞かない駄犬だ!
それから何度か言い合いを繰り広げながらも、なんとか就寝タイム。寝る場所は手前から倭人、琳門、誠至、先輩、私の順だ。
電気を消してからかれこれ30分は経つ。けれどいつになっても眠れそうにない。理由は勿論……
「先輩、いい加減寝てください。そんなに見られてると気が休まりません」
「ふふ、千秋可愛い……」
「聞け」
そう、この駄犬のせい。
駄犬がずううっとこちらをガン見してくるのだ。目をつぶっても感じる視線に、眠気なんてとうの昔に飛んでいった。手を握られてるせいで寝返りも打てないし……これはどんな悪夢ですか。
「はあ、言うこと聞かないならもう手は繋ぎません。さようなら」
そう言って強引に手を振り払う。不意をつかれたのか、案外簡単に先輩から逃げることができた。
やっとのことで反対方向を向き、一息つく。ふぅ、これで先輩のことは気にせず安心して眠れる。
……そう思ったのだが、次の瞬間背中に熱を感じて身体が強張った。
「ちょ、先輩!! なに抱き着いてんですか!! 布団入ってくるなって言ったでしょ!?」
「えー、だって寂しんだもん」
だもんじゃねよ!! 微塵も可愛くないんですけど!?
後ろからすっぽりと抱き込まれてるせいで抗おうにも思うように身体を動かせない。これじゃあまるで拘束されてるみたいじゃないか。しかも先輩の脚が私のソレに絡みついてきて、故意か知らんがさわさわと撫でてくるし。
「あーもう!! いい加減離れ――――うわ!?」
変な感覚に陥る前に先輩を引っぺがそうとした時、突如感じた衝撃。
ドン! と何かがぶつかったようで、先輩が激しく揺れたため私にもその余波がくる。
「!? 何事!?」
「いってー。やめろよ誠至」
先輩の口から出た名前に驚いて振り返ってみると、確かに誠至の足がこちらへ向いてる。
「うるせえ。お前が千秋から離れるまで蹴り続けてやる」
そう言ってる間もゲシゲシと蹴るのをやめない誠至。
あの、誠至さん。あなたが蹴る度もれなく私にも被害が出るんですけど。痛みは感じないけど、その代わりに先輩との距離が縮まるんですけど!?
しかも先輩の息が段々上がってきて……
「千秋……飴と鞭ってこういうことかな。でも千秋を抱けるなら……」
気持ち悪い。
もう鳥肌マックスだし、蹴られるたび衝撃が来て全然身体が休まらないし、やっぱり温泉なんか来なきゃ良かった……と後悔していると、
「いい加減うるさい!! それ以上喋るならみんな舌引っこ抜くから!!」
琳門のぷりぷりした声に助けられました。
ありがとう琳門!! ちょっと発言が怖いけどそんな琳門もグロ可愛いね!!
その後先輩にはまだハグより手繋ぎの方がマシだと解放してもらい、誠至も渋々と言った感じで静観。
はああああ~これでやっと眠りにつける……わけないよね。だってただ振り出しに戻っただけだもん!!
――――そして翌日。
「僕の貴重な睡眠時間を奪いやがって」
「千秋の寝顔見るのに夢中で寝れなかったっ」
「佐伯がいつ襲うか気が気じゃなくて寝れなかった……」
「俺はぐっすり眠れたぜ? 夢の中で千秋チャンと何度も何度も―――」
「続き言ったらブチ殺すぞ」
よし、早く帰ろう。
こうして長い長い一泊二日の温泉旅行は幕を閉じたのでした。
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