男装ヒロインの失敗

藍原美音

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第一章

会話かxxxか

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「じゃあね!!!」

 と、更なる攻撃を受ける前にあの場から逃げ出してしまった。
 だって誠至妙に鋭いんだもん。
 でも言えるわけないじゃん? あれだけ大丈夫だと自信満々に言い放っといて呆気なく唇奪われたとかさ……。

 あの日からも隙あらば近付いてこようとするし。しかも陰湿なことに二人きりになった時を狙ってくる。
 まあみんなの前で公開処刑されるよりはマシだけど……、でも周りに人がいないと強く抵抗できないんだよ!!
 なんなのほんと!? どんだけ経験積んだらあんな蕩けるようなキスができんの!?
 気持ち良すぎて抵抗できな……いやいやいや!! 別にそんなんじゃないけどね!? ちゃんと最後は突き飛ばしてるよ!?

 全く……俺より上手いとか……プライドが許さない!! 次会ったら覚悟しておけよ!!

「よう」
「ひいいい!? ううう嘘ですごめんなさい覚悟するのは俺の方ですううう」
「……何言ってんだ?」

 胸に炎を宿した瞬間物陰から現れた人影に、全身防御の型を取って思わず情けない声を出してしまった。
 うっ、相手なんて知りたくもないけどこの声はアイツしかいない。

「や、倭人……」
「どうした? 千秋チャン」

 ガードした手を解き俺より高い身長を見上げれば、余裕そうな笑みで見下ろされる。
 ……クソッ、相変わらずかっこいいな! そして無駄にエロい!!

「神出鬼没も大概にしろ」
「俺はお前のことを待ってただけなんだけどねぇ? 何故だかいつも逃げちゃうから」
「そ、それは……お前が“こういうこと”をしてくるからだろ!!」

 今だって、話している最中に音もなく近寄り腕を回してくる。
 っ、こんなとこ誰かに見られたらどうすんだ!! お嬢様だって大学の子だっているかもしれないのに……また喜ばれて変な噂が流れるだろ!?

「こういうことって……コレのこと?」
「ッ!?」

 回された腕を捻り上げていたら、その手さえも掴んできてぐぐっと距離を縮められる。
 そしてそのまま顔を引き寄せられ……ってこのままじゃまた流される!!

「ちょ、おま……っやめろよ!」

 今回は唇が触れ合う寸前で倭人の厚い胸板を押し退けることに成功した。
 ふんだ!! そう何度も思い通りになると思うなよ!?

 しかしそんな俺を一瞥した倭人から余裕の態度が消え去ることはない。

「言っとくけどお前拒める立場じゃねえからな? 今まで騙してたのは誰だ?」
「ぐぬ……ッ」
「まだバラされたくない――よな?」

 俺が言い返せないことを確信しきった表情。
 数秒後またもや接近してくる倭人の顔は……やっぱり憎たらしいほどに整っていた。


 ◆◇◆


「ふっ、ふっ、はあ……」
「ご馳走様」

 ようやく解放された唇。
 乱れた息を整えていれば、ニヤリと艶やかな唇が歪む。
 ああもう!! また抵抗できなかった!!

「ふざけ、なよ……ッ」
「って言う割には毎回気持ち良さそうにしてるけどな? 大して嫌がってないんじゃねえ?」
「ギクッ……いや何言ってんだ!! 嫌に決まってるだろ!?」
「今ギクッて言っただろギクッて」

 ななななんのことだよそんなわけないだろアハハハ。
 ……ゴホン。まあ正直な話、こんなやり取りずっと続けてるわけにもいかないんだよね。
 今俺はまさに崖の上を命綱なしで渡っているようなもの。一歩踏み間違えれば奈落の底へ真っ逆さま。こんなのスリル満点……どころじゃない。

「倭人……もう気が済んだだろ? そろそろマジで終わりに――――」
「ああそろそろ我慢の限界だな。もう観念してヤられろって」
「いやヤるの前提かよ!?」

 とんでもないなコイツ!! まあ知ってたけど!!

「? 他に何かすることあっか?」
「いやいやいや!! なんだその男と女がいればセックス以外することはないみたいな暴論!!」
「間違ってねぇだろ」
「ブッブー!! 間違ってます!!」
「じゃあ何すんだよ」
「……ほら、その……まずはお話、とか?」
「はあ? 話だあ?」

 俺の渾身の提案に怪訝な表情をする倭人。
 まあですよね。お前性欲モンスターだもんな。歩く子作りマシーンが“お話”なんて笑わせるなって感じだよね……。

 でも!! セックスはダメ!! 絶対!!
 そりゃしたくないわけじゃないけど!! あんだけキス上手かったらそれ以上もヤバイでしょ! みたいな期待してなくもないけど!!
 でも俺が《俺》である限りダメ!!!

 一縷の望みを抱いて倭人を窺うと、何やら暫く考え込んでいた様子のソイツは閃いたような顔で口を開いた。

「話がしたい、か……つまりお前は、まず俺と仲良くなりたいんだな?」
「はいいい!? な、仲良く!? 何でそうなる!?」
「たまにいんだよな~いきなりはイヤとか言ってどうでもいい話したがる奴」
「うんあのね、いきなりはイヤとかじゃなくてセックス自体御免被りたいんだけど??」
「まあめんどくせぇから適当に言い包めてヤることヤっちまうけど」
「なあ話聞いてる!? 俺は!! お前とはヤらないってば!!」

 もうほんとやだコイツ。
 耳付いてる?? 俺の声が一切聞こえてないみたいにさっきから自分ワールド全開なんですけど??

 ――――だがその時。
 まるでギャースカ騒ぐ俺のことが煩いとでも言うようにキラリと目を光らせた倭人。
 その姿は獲物を捉えたケモノそのもの……いや別にビビってなんかないからね!?

 そのまま流れるように顎に手を添えられ、俺より身長が高いヤツの方へと顔を上げさせられる。
 あれ、これって世間で騒がれてる“顎クイ”……ってなんじゃあこの体勢!!?

「普段ならヤる相手と“お話”なんて無駄なことしねぇが……千秋チャンとならいいぜ? お前は特別だ」

 蕩けるような視線。身も震えるような艶やかな声。
 なんか良い匂いもするしフェロモン大放出どころじゃない。この体勢も相俟って、どこからどう見ても口説かれてるようにしか見えない。

 けど……あのさ、何度も言ってるけどさ?

「だーかーら! お前とは絶っっっっ対にヤらないってば!!!」
「talk or fuck」
「Let’s talk!!!!!!!!」

 焦燥に満ちた俺の顔を見て満足げにニタリと笑った倭人。

 ―――もうどうにでもなれ!

 頭の中で女の姿をした千秋チャンが何やら喚いていたけど、千秋クンはもう疲れました。
 千秋チャン……後は任せた……。
 ってどっちも俺なんだけどね!?
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