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第一章
side 誠至③
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次に篁琳門。千秋と同い年。
極度の女嫌いらしいが、女が放って置かない外見のせいで苦労しているようだった。そんな奴が何故客が女しかいないようなバイトをやる気になった?……まあ勿論千秋が原因だ。
『一緒にリハビリすることにした!』とか千秋が嬉しそうに話していたが、普通拒絶反応まで出るレベルの恐怖対象に『千秋がいるなら』なんて理由で関わろうとはしない。
千秋に特別な感情を抱いている証拠だ。
千秋は控えめに言って馬鹿だから『男装だってバレたら嫌われるっ』とか何とか言っているが……篁の千秋を見る目は本当に友情としてなのか疑わしくなる。
ただのホモだったら危惧することはない。正体をバラせば済む話だ。
だが……正体が女だと知っても、今と同じ感情を抱き続けたら? 友愛からただの愛に変わる例なんて、珍しくもなんともない。というか俺がそのパターンだ。
しかも千秋のやつ篁には滅法甘い。駄犬なんて比にならないレベル。
目に入れても痛くないとでも言うように猫可愛がりする千秋を見ていたら……もし篁が『付き合って』とかほざきでもしたらうっかり聞き入れてしまいそうだ。
そんな未来考えたくもない。
そして最後はアイツ……蘇芳倭人。千秋と同級生でオーナーの弟。
オーナーと血が繋がっているのを証明するかのような女好き。しかしただ言動がチャラいオーナーとは違ってこれ以上ないくらいの俺様。
全てのことは自分の思い通りになると信じて疑っていないタイプだ。まあ確かにその外見なら、少なくとも女は自分の言うことを聞いただろう。
そしてそんな男が千秋に興味を持った。
うむ、ほぼ間違いなく正体勘付かれてるな。ただ証拠がないうちは手を出すのを我慢しているといった感じだ。
だから何が何でも隠し通さなければならなかったのに……本当にお前は何やってんだ!!
「バレたって……決定的な証拠を掴まれたのか?」
「き、着替えを、その……見られました」
「着替え?」
途端、恥ずかしそうにもごもごと口籠る千秋。なんだその乙女みたいな顔。全くもって似合わない。気持ち悪い。
しかし次の瞬間、その表情の理由がわかる。
「む、胸を……」
「はああああ!!?」
思わずたった今言われた部位を見てしまう。そこにはストン、と真っ平らな壁が。
「どういうことだよ、お前サラシ巻いてんじゃねえか」
「いや~ちょっと緩んでたからさ」
「……解いたのか?」
「あは」
「あはじゃねえよボケが」
はあ……馬鹿だ馬鹿だと思ってたけどここまでとは……。
思わずその場にうずくまる。10年分くらいの溜息を吐く俺を千秋は不思議そうに見て同じようなポーズをした。
なんだそのキョトン顔は。お前のことで頭抱えてんだよこの野郎。
全く、コイツのこの危機感のなさはどうなってる? 性別偽ってる自覚あるのか? ないだろ。
「誠至ー?」
じゃあ何か? この女は自分の胸をどこの馬の骨ともわからない野郎相手に(蘇芳だが)晒したってことか?
「……、」
「誠至ってば~、ってちょ、痛い痛いどうした急に」
「……俺だってまだ見たことないのに」
「はあ? 何言ってんの? ……っていい加減手を離せハゲるわ」
どうしようもない怒りをとりあえず目の前の頭頂部目掛けて発散してたらバシッと叩かれる。
「お前が悪い」
「なんでやねん!!」
理不尽だ! とかなんとか喚いて頭頂部をさする千秋。もういっそそのままハゲてしまえ。そうでもしないとこの女からは永遠に男が途絶えない気がする。
……待てよ。相手はあの蘇芳倭人だよな? 胸見られてハイ終わりなんてことあるか?
「……千秋、」
「何!?」
「お前、蘇芳に何かされた?」
「!!?」
怒り気味に顔を上げた千秋の表情がピシリと固まる。コイツやっぱり……!
「おい……ッ」
「されてない! 何もされてない! 正体バレただけ! ほんとそれだけだから!!」
「おい千秋ッ」
「いい!? 何もされてないからね!? 私はピュアなままだから!!」
じゃあね!!! と勢いのまま走り去っていく千秋。
いやガッツリされてんじゃねーか!! 一体何されたんだ!? キスか? タッチか? それいじょ……はないだろさすがに。バイト先の更衣室だし。蘇芳がそこまで狂人ではないと信じたい。
ああああ"クッソ……内容はどうであれ何かされたのは確定か……ふざけんなよ……俺が何年我慢してると思ってんだ……。
つーか千秋意味不明なこと言ってたし。何がピュアなままだよ。既にヤりまくってんだろお前。
と、そこでもう一つ肝心なことを思い出した。そうだった、蘇芳倭人を危険視する理由―――それは他でもない、千秋自身も本来はソッチ側だからだ。
今は男装なんて酔狂なものにハマって本来の奔放な姿が出てきてないが、事実アイツは手のつけられないレベルの快楽主義だ。蘇芳倭人と全く同じ性質。
もし女の姿で大学に通っていたら出会った瞬間ヤり始めていたのではと思ってしまうくらいあいつらは似てる。……これからはより一層注視しないとだな。
はあ……勘弁してくれ……。
馬鹿で阿呆で間抜けで無駄にエロい女を好きになってしまった代償が、まさかこんな抱えきれないほどの気疲れだったとは……。
お願いだからこれ以上面倒ごとを増やさないでくれよ。
極度の女嫌いらしいが、女が放って置かない外見のせいで苦労しているようだった。そんな奴が何故客が女しかいないようなバイトをやる気になった?……まあ勿論千秋が原因だ。
『一緒にリハビリすることにした!』とか千秋が嬉しそうに話していたが、普通拒絶反応まで出るレベルの恐怖対象に『千秋がいるなら』なんて理由で関わろうとはしない。
千秋に特別な感情を抱いている証拠だ。
千秋は控えめに言って馬鹿だから『男装だってバレたら嫌われるっ』とか何とか言っているが……篁の千秋を見る目は本当に友情としてなのか疑わしくなる。
ただのホモだったら危惧することはない。正体をバラせば済む話だ。
だが……正体が女だと知っても、今と同じ感情を抱き続けたら? 友愛からただの愛に変わる例なんて、珍しくもなんともない。というか俺がそのパターンだ。
しかも千秋のやつ篁には滅法甘い。駄犬なんて比にならないレベル。
目に入れても痛くないとでも言うように猫可愛がりする千秋を見ていたら……もし篁が『付き合って』とかほざきでもしたらうっかり聞き入れてしまいそうだ。
そんな未来考えたくもない。
そして最後はアイツ……蘇芳倭人。千秋と同級生でオーナーの弟。
オーナーと血が繋がっているのを証明するかのような女好き。しかしただ言動がチャラいオーナーとは違ってこれ以上ないくらいの俺様。
全てのことは自分の思い通りになると信じて疑っていないタイプだ。まあ確かにその外見なら、少なくとも女は自分の言うことを聞いただろう。
そしてそんな男が千秋に興味を持った。
うむ、ほぼ間違いなく正体勘付かれてるな。ただ証拠がないうちは手を出すのを我慢しているといった感じだ。
だから何が何でも隠し通さなければならなかったのに……本当にお前は何やってんだ!!
「バレたって……決定的な証拠を掴まれたのか?」
「き、着替えを、その……見られました」
「着替え?」
途端、恥ずかしそうにもごもごと口籠る千秋。なんだその乙女みたいな顔。全くもって似合わない。気持ち悪い。
しかし次の瞬間、その表情の理由がわかる。
「む、胸を……」
「はああああ!!?」
思わずたった今言われた部位を見てしまう。そこにはストン、と真っ平らな壁が。
「どういうことだよ、お前サラシ巻いてんじゃねえか」
「いや~ちょっと緩んでたからさ」
「……解いたのか?」
「あは」
「あはじゃねえよボケが」
はあ……馬鹿だ馬鹿だと思ってたけどここまでとは……。
思わずその場にうずくまる。10年分くらいの溜息を吐く俺を千秋は不思議そうに見て同じようなポーズをした。
なんだそのキョトン顔は。お前のことで頭抱えてんだよこの野郎。
全く、コイツのこの危機感のなさはどうなってる? 性別偽ってる自覚あるのか? ないだろ。
「誠至ー?」
じゃあ何か? この女は自分の胸をどこの馬の骨ともわからない野郎相手に(蘇芳だが)晒したってことか?
「……、」
「誠至ってば~、ってちょ、痛い痛いどうした急に」
「……俺だってまだ見たことないのに」
「はあ? 何言ってんの? ……っていい加減手を離せハゲるわ」
どうしようもない怒りをとりあえず目の前の頭頂部目掛けて発散してたらバシッと叩かれる。
「お前が悪い」
「なんでやねん!!」
理不尽だ! とかなんとか喚いて頭頂部をさする千秋。もういっそそのままハゲてしまえ。そうでもしないとこの女からは永遠に男が途絶えない気がする。
……待てよ。相手はあの蘇芳倭人だよな? 胸見られてハイ終わりなんてことあるか?
「……千秋、」
「何!?」
「お前、蘇芳に何かされた?」
「!!?」
怒り気味に顔を上げた千秋の表情がピシリと固まる。コイツやっぱり……!
「おい……ッ」
「されてない! 何もされてない! 正体バレただけ! ほんとそれだけだから!!」
「おい千秋ッ」
「いい!? 何もされてないからね!? 私はピュアなままだから!!」
じゃあね!!! と勢いのまま走り去っていく千秋。
いやガッツリされてんじゃねーか!! 一体何されたんだ!? キスか? タッチか? それいじょ……はないだろさすがに。バイト先の更衣室だし。蘇芳がそこまで狂人ではないと信じたい。
ああああ"クッソ……内容はどうであれ何かされたのは確定か……ふざけんなよ……俺が何年我慢してると思ってんだ……。
つーか千秋意味不明なこと言ってたし。何がピュアなままだよ。既にヤりまくってんだろお前。
と、そこでもう一つ肝心なことを思い出した。そうだった、蘇芳倭人を危険視する理由―――それは他でもない、千秋自身も本来はソッチ側だからだ。
今は男装なんて酔狂なものにハマって本来の奔放な姿が出てきてないが、事実アイツは手のつけられないレベルの快楽主義だ。蘇芳倭人と全く同じ性質。
もし女の姿で大学に通っていたら出会った瞬間ヤり始めていたのではと思ってしまうくらいあいつらは似てる。……これからはより一層注視しないとだな。
はあ……勘弁してくれ……。
馬鹿で阿呆で間抜けで無駄にエロい女を好きになってしまった代償が、まさかこんな抱えきれないほどの気疲れだったとは……。
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