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第一章
わんこ系③
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「はあっ、はあっ、」
「ま、だまだ……っ」
「いい加減、諦めてくださいよ……っ」
あれからどれくらい経っただろうか。少なくとも長い針は二周してる気がする。
休憩なしでこんだけ体動かすのなんて現役時代ですらなかったよ。つまりもう体はボロボロ。汗はダラダラ。いつ呼吸困難になってもおかしくない状況。
なんでこの俺がかきたくもない汗を青春漫画よろしく垂れ流して必死にやっているのかというと、『敗者が勝者の言うことをなんでも聞く』なんてありがちなセリフを先輩がほざいたからだ。
しかもその直後に『ちなみに俺が勝ったら毎週俺と遊ぶ時間を作れ』とのたまうのだ。こんなスリル満点の遊びをしてる俺からすれば、誰かと長時間一緒にいることは致命的。
言うまでもなくそんな事態は避けねばならないので、全力で勝ちにいく必要がある。
一気に本気モードになった俺に先輩は嬉しそうに(たまに落ち込んでた)、向かってきた。
はっきり言って、総合力は五分五分。俺がどんな難しい技を打っても、先輩は持ち前の反射神経とパワーであっさり返してくるのだ。
したがってもう長い間ラリーが終わらない。心なしかギャラリーが大勢いるような……。
俺か先輩が打ち返す度にあがる歓声。普段だったら喜んでお応えしたいところだけど今は勿論そんな余裕は持ち合わせていない。
こんなこと続けてたらマジで明日一歩も動けなくなる……っ。
―――と、思ったその刹那。
「しまった……!」
先輩の焦ったような声に、ポーンと軽やかにボールが飛ぶ音。
見上げれば、汗で滑ったらしい先輩が打ち損ねていい感じのロブになったテニスボールが天高く泳いでいた。
なんという絶好球。このチャンスを逃す手はない。
「これで……終わりだ!」
くたばれ先輩いいいいい!!
なんて親の仇かと思うくらいのパワーを乗せてスマッシュを打った。
打ったぞ! よっしゃああ! ……と、勝利を確信したその時。
――――ブチブチブチ!
「はあああ!!?」
強烈な一撃をかましたその瞬間、胸に途轍もない違和感を感じた。すんげえ嫌な予感がするんだが。
おい嘘だろ、誰か嘘だと言ってくれ……。
―――サラシの感覚が全くないんですけど!!?
「は!? えっ、嘘だろ……!?」
「お、おい千秋。どうした?」
勝負には俺が勝ったのに、いきなり奇声をあげる俺を心配して先輩が駆け寄ってくる。
しかしそんなことに構ってる余裕はなく、とりあえず今凄いことになってる胸を隠そうと前屈みになってうずくまる。
さっきのエグい音絶対サラシ破れたね! 最悪かよ!? サラシって破れんの!? 聞いたことねーわ!
スーパーサイ◯人じゃないんだからちょっとパワー込めたくらいで簡単に粉々になってんじゃねーよ!
「千秋ッ、お腹痛いのか!? 俺なんかできることあるか!?」
キャンキャンと吠える先輩のせいで野次馬集まってきてるじゃねーか。ここでバレたらマジでシャレにならない。
「じゃあ、今すぐ帰ってください……っ」
「はあ!? 何言ってんだよ! こんな状態のお前を置いて帰れるわけ、」
「勝負は俺が勝ちましたよねッ? だから、早く……!」
「~~ッッ」
言いたいことはわかる。先輩の性格の良さはお墨付きだしいかにもヤバイ状態の俺を残せるわけがない。
でも、マジで。今だけは……! さっさと帰れよこの駄犬がああああ!!
……はい。そんな俺の切なる願いが届いたのか大人しく帰ってくれましたとさ。
「ま、だまだ……っ」
「いい加減、諦めてくださいよ……っ」
あれからどれくらい経っただろうか。少なくとも長い針は二周してる気がする。
休憩なしでこんだけ体動かすのなんて現役時代ですらなかったよ。つまりもう体はボロボロ。汗はダラダラ。いつ呼吸困難になってもおかしくない状況。
なんでこの俺がかきたくもない汗を青春漫画よろしく垂れ流して必死にやっているのかというと、『敗者が勝者の言うことをなんでも聞く』なんてありがちなセリフを先輩がほざいたからだ。
しかもその直後に『ちなみに俺が勝ったら毎週俺と遊ぶ時間を作れ』とのたまうのだ。こんなスリル満点の遊びをしてる俺からすれば、誰かと長時間一緒にいることは致命的。
言うまでもなくそんな事態は避けねばならないので、全力で勝ちにいく必要がある。
一気に本気モードになった俺に先輩は嬉しそうに(たまに落ち込んでた)、向かってきた。
はっきり言って、総合力は五分五分。俺がどんな難しい技を打っても、先輩は持ち前の反射神経とパワーであっさり返してくるのだ。
したがってもう長い間ラリーが終わらない。心なしかギャラリーが大勢いるような……。
俺か先輩が打ち返す度にあがる歓声。普段だったら喜んでお応えしたいところだけど今は勿論そんな余裕は持ち合わせていない。
こんなこと続けてたらマジで明日一歩も動けなくなる……っ。
―――と、思ったその刹那。
「しまった……!」
先輩の焦ったような声に、ポーンと軽やかにボールが飛ぶ音。
見上げれば、汗で滑ったらしい先輩が打ち損ねていい感じのロブになったテニスボールが天高く泳いでいた。
なんという絶好球。このチャンスを逃す手はない。
「これで……終わりだ!」
くたばれ先輩いいいいい!!
なんて親の仇かと思うくらいのパワーを乗せてスマッシュを打った。
打ったぞ! よっしゃああ! ……と、勝利を確信したその時。
――――ブチブチブチ!
「はあああ!!?」
強烈な一撃をかましたその瞬間、胸に途轍もない違和感を感じた。すんげえ嫌な予感がするんだが。
おい嘘だろ、誰か嘘だと言ってくれ……。
―――サラシの感覚が全くないんですけど!!?
「は!? えっ、嘘だろ……!?」
「お、おい千秋。どうした?」
勝負には俺が勝ったのに、いきなり奇声をあげる俺を心配して先輩が駆け寄ってくる。
しかしそんなことに構ってる余裕はなく、とりあえず今凄いことになってる胸を隠そうと前屈みになってうずくまる。
さっきのエグい音絶対サラシ破れたね! 最悪かよ!? サラシって破れんの!? 聞いたことねーわ!
スーパーサイ◯人じゃないんだからちょっとパワー込めたくらいで簡単に粉々になってんじゃねーよ!
「千秋ッ、お腹痛いのか!? 俺なんかできることあるか!?」
キャンキャンと吠える先輩のせいで野次馬集まってきてるじゃねーか。ここでバレたらマジでシャレにならない。
「じゃあ、今すぐ帰ってください……っ」
「はあ!? 何言ってんだよ! こんな状態のお前を置いて帰れるわけ、」
「勝負は俺が勝ちましたよねッ? だから、早く……!」
「~~ッッ」
言いたいことはわかる。先輩の性格の良さはお墨付きだしいかにもヤバイ状態の俺を残せるわけがない。
でも、マジで。今だけは……! さっさと帰れよこの駄犬がああああ!!
……はい。そんな俺の切なる願いが届いたのか大人しく帰ってくれましたとさ。
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