10 / 18
10
しおりを挟む
「エド……あなたはもっとクロリエ様の話を聞くべきです」
「キャディ?」
こうなれば仕方ない、速やかに軌道修正を試みる必要がある。
幸いまだ手遅れじゃないはずだ。
初面識は済ませてあるし、二人の会話の回数が増えればシナリオの強制力みたいなものが生じて恋に芽生える可能性は少なくない。
「可哀想なクロリエ……きっと心に抱えた闇を誰にも相談できずにいるのでしょう。誰かが包み込んであげなければ」
「キャディは優しいね。テイラー嬢に話してみなよ、きっと喜ぶよ」
いやお前がやるんだよ。
「小さい頃から外見のことで虐められ……さぞ辛かったでしょうね。これは同じく幼少期から虐めを受けていたあなたしか理解できません」
「ん~僕の場合はキャディから虐めを受けていたっていうか……今思えば愛情表現? みたいな?」
おいそこ勝手に過去を美化してるんじゃない。間違いなく私は毎日のように虐めて泣かせてたよ! 自分の命が惜しくてな!
そこ間違えるんじゃない。
「いいえ!! クロリエ様を理解できるのはエドしかいないのです!! ほら!! わかったら今すぐ話しかけに―――」
「ねえ、さっきから妙にテイラー嬢のこと推すけど、何がしたいの?」
強引に話を収束させようとしたら何かに思い至ったようなエドウィンに邪魔されてしまった。
何がしたいのかだって? そんなのエドウィンとクロリエをくっつけたいに決まってる。そして自由を得るのだ!
「キャディが優しいのはわかった。でも冗談でも他の女の子と仲良くしろだなんて言わないで?」
「別に冗談では……」
「―――は? 本気で言っているの?」
……ッ!
その時確かに、ゾワリと寒気が背中に走った。
エドウィンのルビー色の瞳はかつてないほど冷たく、ふんだんに威圧が込められているように感じる。
「エ、ド……?」
「そんなわけないよね? 僕は婚約者だもんね?」
「あの……でも、私はクロリエ様との恋を応援していますよ?」
「……」
だって君らがくっつかないと私自由になれないもん。早くこの呪いも解いてほしいし。
しかし、本音を言ったらさらにエドウィンの周りの空気が凍りついた。あれ、なんかめちゃくそ怖いんだけど。
え、大丈夫? 泣き虫エドウィンどこ行った?? 今にも私が泣き出しそうなんですけど。
「はあ……アイツもキャディも、どうして彼女とくっつけようとするんだ……」
「アイツ……?」
「とにかく、君は僕の婚約者だ。近い将来、君と僕は結婚するの。それを拒むなんて……たとえキャディでも許さないよ?」
「ヒッ……」
いやほんとに大丈夫!? 私殺されそうな勢いだよ!? こっわ!!
まさかクロリエのことを勧めただけでこんな豹変するなんて……信じられないけど、もしかしてエドウィンって―――
「エド……つかぬ事をお聞きしますが、まさか私のこと好きなんですか?」
「なに今更。当たり前じゃん」
はあああああ!? 聞いてませんけど!!?
おかしいだろ!! 何故そうなる!? 私はずっとお前を虐めてたんだぞ!?
「エ、エド、落ち着いてください。落ち着いてもう一度よく考えましょう。私はあなたを幼少期からこれでもかというほど泣かせてきたんですよ? そんな女を好きになるなんて正気の沙汰とは思えません」
早くコイツの目を覚まさなくては! と語りかけるように説く。
しかしエドウィンは穏やかな顔で首を振った。
「そんなことないよ。だってキャディは優しいじゃん。虐めてたのだって本意じゃなかったんでしょ?」
「まあそうですけど……でも百パーセント自分の為です。自分が生き抜くためにあなたを虐めてました」
「うん、それでも。虐めた後はちゃんと謝ってくれたし、誠意を示してくれた」
「そ、それも自分のためです。あのまま虐めてるといずれあなたに殺されると思って……」
こ、これは少し暴論か? シナリオがそうなってるんです!! って言っても信じてもらえないだろうしな……。
エドウィンを見るとこれ以上ないくらい眉間に皺を寄せている。
うううこわっ!
「アイツもそんなこと言ってたな……ふっ、そんなわけないのにね。僕がキャディを殺すなんて……」
いやだからアイツって誰だよ。
「ああでも、こうやって僕から必死に逃げようとするキャディを見てるといっそ殺してでも自分のものにしたくなるよ」
「は、はい!?」
なんでそうなる!? お前言ってることヤバイなんてもんじゃないぞ!?
「確かに僕は正気の沙汰じゃないかもしれない。キャディ、責任とってよ」
「!!!」
いや、ちょ、待てって。だから落ち着けって。
なんなのコイツ完全にイカれちゃってるよ。
誰がお前と結婚するって!? もうお前がバッドエンドみたいなもんじゃん!!
そんなの、そんなこと……
「むむむ無理ィイイイイイイ!!!!」
気付いたら教室を飛び出していた。
「キャディ?」
こうなれば仕方ない、速やかに軌道修正を試みる必要がある。
幸いまだ手遅れじゃないはずだ。
初面識は済ませてあるし、二人の会話の回数が増えればシナリオの強制力みたいなものが生じて恋に芽生える可能性は少なくない。
「可哀想なクロリエ……きっと心に抱えた闇を誰にも相談できずにいるのでしょう。誰かが包み込んであげなければ」
「キャディは優しいね。テイラー嬢に話してみなよ、きっと喜ぶよ」
いやお前がやるんだよ。
「小さい頃から外見のことで虐められ……さぞ辛かったでしょうね。これは同じく幼少期から虐めを受けていたあなたしか理解できません」
「ん~僕の場合はキャディから虐めを受けていたっていうか……今思えば愛情表現? みたいな?」
おいそこ勝手に過去を美化してるんじゃない。間違いなく私は毎日のように虐めて泣かせてたよ! 自分の命が惜しくてな!
そこ間違えるんじゃない。
「いいえ!! クロリエ様を理解できるのはエドしかいないのです!! ほら!! わかったら今すぐ話しかけに―――」
「ねえ、さっきから妙にテイラー嬢のこと推すけど、何がしたいの?」
強引に話を収束させようとしたら何かに思い至ったようなエドウィンに邪魔されてしまった。
何がしたいのかだって? そんなのエドウィンとクロリエをくっつけたいに決まってる。そして自由を得るのだ!
「キャディが優しいのはわかった。でも冗談でも他の女の子と仲良くしろだなんて言わないで?」
「別に冗談では……」
「―――は? 本気で言っているの?」
……ッ!
その時確かに、ゾワリと寒気が背中に走った。
エドウィンのルビー色の瞳はかつてないほど冷たく、ふんだんに威圧が込められているように感じる。
「エ、ド……?」
「そんなわけないよね? 僕は婚約者だもんね?」
「あの……でも、私はクロリエ様との恋を応援していますよ?」
「……」
だって君らがくっつかないと私自由になれないもん。早くこの呪いも解いてほしいし。
しかし、本音を言ったらさらにエドウィンの周りの空気が凍りついた。あれ、なんかめちゃくそ怖いんだけど。
え、大丈夫? 泣き虫エドウィンどこ行った?? 今にも私が泣き出しそうなんですけど。
「はあ……アイツもキャディも、どうして彼女とくっつけようとするんだ……」
「アイツ……?」
「とにかく、君は僕の婚約者だ。近い将来、君と僕は結婚するの。それを拒むなんて……たとえキャディでも許さないよ?」
「ヒッ……」
いやほんとに大丈夫!? 私殺されそうな勢いだよ!? こっわ!!
まさかクロリエのことを勧めただけでこんな豹変するなんて……信じられないけど、もしかしてエドウィンって―――
「エド……つかぬ事をお聞きしますが、まさか私のこと好きなんですか?」
「なに今更。当たり前じゃん」
はあああああ!? 聞いてませんけど!!?
おかしいだろ!! 何故そうなる!? 私はずっとお前を虐めてたんだぞ!?
「エ、エド、落ち着いてください。落ち着いてもう一度よく考えましょう。私はあなたを幼少期からこれでもかというほど泣かせてきたんですよ? そんな女を好きになるなんて正気の沙汰とは思えません」
早くコイツの目を覚まさなくては! と語りかけるように説く。
しかしエドウィンは穏やかな顔で首を振った。
「そんなことないよ。だってキャディは優しいじゃん。虐めてたのだって本意じゃなかったんでしょ?」
「まあそうですけど……でも百パーセント自分の為です。自分が生き抜くためにあなたを虐めてました」
「うん、それでも。虐めた後はちゃんと謝ってくれたし、誠意を示してくれた」
「そ、それも自分のためです。あのまま虐めてるといずれあなたに殺されると思って……」
こ、これは少し暴論か? シナリオがそうなってるんです!! って言っても信じてもらえないだろうしな……。
エドウィンを見るとこれ以上ないくらい眉間に皺を寄せている。
うううこわっ!
「アイツもそんなこと言ってたな……ふっ、そんなわけないのにね。僕がキャディを殺すなんて……」
いやだからアイツって誰だよ。
「ああでも、こうやって僕から必死に逃げようとするキャディを見てるといっそ殺してでも自分のものにしたくなるよ」
「は、はい!?」
なんでそうなる!? お前言ってることヤバイなんてもんじゃないぞ!?
「確かに僕は正気の沙汰じゃないかもしれない。キャディ、責任とってよ」
「!!!」
いや、ちょ、待てって。だから落ち着けって。
なんなのコイツ完全にイカれちゃってるよ。
誰がお前と結婚するって!? もうお前がバッドエンドみたいなもんじゃん!!
そんなの、そんなこと……
「むむむ無理ィイイイイイイ!!!!」
気付いたら教室を飛び出していた。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
軽いノリでチョコレートを渡したら、溺愛されまして
夕立悠理
恋愛
──俺だってずっと、君をみてた。
高倉理沙(たかくらりさ)には好きな人がいる。一つ年上で会長をしている東藤隆(とうどうりゅう)だ。軽い気持ちで、東藤にバレンタインの友チョコレートをあげたら、なぜか東藤に好意がばれて、溺愛され──!?
さらには、ここが、少女漫画の世界で、理沙は悪役だということを思い出して──。
ヤンデレ腹黒先輩×顔がきつめの後輩
長いものに巻かれてたら、溺愛されました!?
夕立悠理
恋愛
──だってどうしても、君が、良かった。
西ヶ原菫は、超がつくお嬢様お坊ちゃん学園の新入生。家柄は、学園の中でいうといたって普通。平穏無事に学園生活が過ごせるように、長いものには巻かれろ精神で、適当に暮らしいていると、生徒会執行部役員に任命される。しかし、その生徒会で溺愛され──!?
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
執事が〇〇だなんて聞いてない!
一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで……
ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。
※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。
完結感謝。後日続編投稿予定です。
※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。
表紙は、綾切なお先生にいただきました!
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!
高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる