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 それから時は流れ、私達は16歳になった。前世では高校生に当たる。
 現世でも教育機関はちゃんと存在し、貴族の子息令嬢達がこぞって通う専門の高等学校がある。
 15歳までは主に教育は家庭教師だけだったけど、社交の場としてそういう場所は必要らしい。
 勿論年が近い私とエドもそこに通うことになった。

 そして忘れてはいけないことが、その学校が乙女ゲーム開催場所、すなわちこの世界のメイン会場になることだ。他の攻略対象達もみんなここに通い、ヒロインと出会う。
 まあ私はエドウィンルートでしか登場しないライバルキャラなので他の攻略対象達とは関わりはないのだけど。
 私のバッドエンドに密接なのはエドとヒロインのみ。

 ちなみにヒロインも私達と同い年だ。
 名前はクロリエ・テイラー。テイラー伯爵のご令嬢で、黒髪黒目の儚げな美少女。
 この世界での黒髪は非常に珍しく、不吉の象徴として忌み嫌われる。したがって学園でも当然のように虐められるのだ。
 そして人を虐めるのを生き甲斐としているキャンディスも当然のように虐めに加わる。

 しかし私は乙女ゲームの中のキャンディスとは違い善良な人間だ。
 自分が生き抜くためには誰かを泣かせることを厭わないが、至って善良だ。
 誰が何と言おうと善良である。

 だからクロリエのことを虐める気はさらさらないが……

『わかってるよね』

 そう、私はこのクソ紙クズ野郎の奴隷。
 神が作ったシナリオ、すなわち乙女ゲーム通りに事を進行しなければいけない。ここで下手に逆らったらまた最低最悪の呪いをかけられるのがオチだ。

 だから私は日々仕方なくクロリエを虐めている。
 といっても、本編のキャンディスとは違って陰湿な虐めはしない。
 あくまで私の役割はエドウィンやクロリエを虐めて、二人の恋のキューピッドになること。

 したがって前もってクロリエ嬢に宣言しておいた。

「私はこれから仕方なくあなたを虐めますが、辛くなったらすぐにおっしゃってください。そうですね……エドウィン様辺りがあなたを助けてくれるでしょう。しかしあくまで私が『仕方なく』やっていることを忘れずに」

 と、『本当はあなたのこと虐めたくないんですよ~』アピールも欠かさなかった。
 こうすることで私がそこまで悪い令嬢ではないと、純粋無垢なクロリエは信じてくれるに違いない。

 あのオーロラ色の神様がいる時点である程度は諦めた。神が言う役割とやらをこなすまでは安寧は訪れない。
 言うならば私はクロリエとエドウィンがくっつくまでのサポートキャラ。すなわち二人がくっついてさえしまえばその後は自由である。

 シナリオでは虐められっ子同士、二人が仲良くなるのは早い。
 そしてキャンディスは自分の玩具がヒロインに奪われたと解釈してより悪質な虐めをヒロインに施すのだ。
 普通の乙女ゲームは大体大好きな婚約者がヒロインに恋してしまい、それに気付いたライバルキャラが『この泥棒猫!』と勝手に八つ当たりしてヒロインを虐めるというのに……。
 うん、さすがキャンディス。理由がなかなかトチ狂っている。
 本編でも『キャンディスがエドウィンに惚れている』という描写はなかったしな~。

 まあ良かったよ。もしそんなシナリオが組み込まれていて、神によって強制させられたとしても感情だけは私にもどうにもならない。
 誰かに言われて人を好きになることなんて不可能だ。
 だから彼等が恋仲になることになんの抵抗もない。迅速にクロリエとくっついてほしい。私の自由のために。
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