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「ッ!キャ、キャンディス!倒れたと聞いて……」
「エ、ド、ウィン様……っ」

 エントランスホールに着いた頃には、私の身体は既にボロボロだった。今にも倒れそうな足を必死に奮い立たせてエドウィンに近付く。
 クソ、虐めるっていってもどうすれば……!

『とりあえず、泣かせてよ』

 すると、何処からともなく声が聞こえた。
 耳からっていうより、頭の中に直接響いてくる……? この声は……

『見事虐めて泣かせることができたら、殺さないであげる』

 やっぱり!! クソ野郎の紙クズ!!
 ぐあああああこの野郎おおおおお!!! と叫び出したいのを全力で堪えて頭を回転させる。
 狙うはエドウィン。すぐ泣きそうなのは周りにコイツしかいない。乙女ゲームのプロフィールにも昔は泣き虫だったって書いてあった。

 改めて彼を見ると、大事そうにウサギのぬいぐるみを抱えている。確かお母様からのプレゼントだって言っていた。……よし、これしかない。

「エ、エドウィン様、そのぬいぐるみ貸してください」
「っえ、でもこれは、お母様の……」
「いいから貸せって言ってんでしょうがあああ!!」

 予想に反して渋りやがったので無理やり強奪する。すると半泣きになりながらぬいぐるみを手放してくれた。
 おお、さすがだ。もう今にも泣きそう。

 ……ごめん、エドウィン様。昔の私はどうであれ、今の私は人間を玩具としか見ない極悪非道な悪役令嬢じゃない。
 なんならゲームの中ではエドウィン様が一番タイプだったし、本当は虐めたくなんかない。
 だけど私まだ死にたくないんだわ!! マジごめん!!!


―――そしてついに。
ブチブチブチブチッッ!!!

「ううっ、うっ……うええええんっ」

 ぬいぐるみが千切れる音と、小さな少年の泣き声。それを聞いた瞬間、ふわあ~と今までが嘘みたいに体が軽くなる。
 た、助かったああああ。一時はどうなるかと思ったよ。
 エドウィン様マジありがとう! そしてごめん! 私は生きるために君を虐め抜くよッ!!

 と、そこであることに思い至る。
 ……ん?? あれ?? 待てよ?? これじゃあなんの解決にもなってなくない!?
 ちゃんとエドウィンのこと虐めたよ?? だから私は今元気だよ?? でもこれゲーム内のキャンディスとやってること同じじゃん!!
 このまま順調に虐め抜けば? エドウィンは心に深い闇を抱えて? ヒロインと会って恋に落ちて私を断罪するじゃん!?

 やっべえええええ!! まんまと神に乗せられた!! ぜんっぜんバッドエンドから逃げれてないよ!!

「うううっ、うさちゃん……僕の……お母様……」
「……」
「破れっ……うえええんっ」
「……」

 よし、もうこれしかない。私は覚悟を決め、分厚いドレスをなんとか掻き分けてふかふか絨毯に座した。そのまま額を床に擦り付ける。

「エドウィン様ああああ申し訳ありませんでしたああああ!!!」

 どうだあああ弱冠6歳の見事なまでの土下座!!! 恐れ入ったかーーーー!!!

「キャ、キャンディス? 何してるの……?」

 うん、まあ日本の文化なんて知るわけないよね。兎にも角にも泣き止んでくれてよかった!
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