1 / 1
全ては王子の誤解から始まりました
しおりを挟む
カトリーナは街の広場へと足を運んでいた。
「カトリーナ様……!」
近くにいた女性が声を上げる。
彼女は子供を抱え、困惑した表情を浮かべていた。
カトリーナはその視線を受け止め、優しく微笑む。
「どうかしましたか?」
声をかけると、女性は涙を浮かべながら、自分の家族が困窮していることを訴えた。
カトリーナは耳を傾け、彼女の手を取る。
温かな手に触れた瞬間、女性は少し安心したように見えた。
「私にできることがあれば、何でもお手伝いします」
カトリーナは力強く言った。
彼女は街の人々に食料や衣類を提供するため、日々奉仕活動を行っていた。
彼女の心には、貴族としての責任感と、困っている人々への深い思いやりが満ちていた。
周囲の人々もその様子を見守り、徐々に集まってきた。
カトリーナが子供たちに笑顔を向け、手を差し伸べると、彼らは嬉しそうに彼女のもとへ駆け寄った。
「カトリーナ様、ありがとうございます!」
別の女性が叫ぶと、周囲から拍手が起こった。
カトリーナはその声に驚きながらも、照れくさそうに微笑む。
彼女の心は温かさで満たされ、奉仕することの喜びを実感していた。
「皆さんの笑顔が私の力です」
カトリーナの言葉に、人々は一層の感謝の意を示し、彼女の周りには愛情と温かさが溢れていた。
彼女は自らの地位を超え、人々の心に寄り添う存在となっていた。
華やかな社交パーティーの夜、カトリーナの名は、煌びやかなシャンデリアの光の中で語られていた。
大広間には貴族たちが集まり、華やかなドレスやタキシードが、まるで色とりどりの花々のように咲き誇っている。
人々の笑い声や音楽が響き渡る中、彼女の奉仕活動の話題は、まるで流行のファッションのように広がっていた。
「聞いたかしら、カトリーナ様がまた新しい慈善活動を始めたそうよ」
金色のドレスを纏った女性が隣のテーブルで話す。
彼女の目は興味津々で、周囲の視線を集める。
「本当に素晴らしいわね。彼女のような方がいるなんて、この街は幸運だわ」
別の貴婦人が頷きながら言った。
その言葉に、周囲の人々も同意し、カトリーナの名前を口にするたびに賛辞が飛び交った。
このような賛辞は他の社交パーティーの場でも囁かれていた。
いつしか噂は広まり、カトリーナはまるで聖女ではないかと囁かれるようになった。
華やかな社交パーティーの喧騒の中、ラザフォード王子は静かに人々の会話を聞き耳を立てていた。
彼の目は、煌びやかなドレスに身を包んだ貴族たちの中で、ひときわ目を引く存在に向けられていた。
話題の人物、カトリーナである。
彼女の名は、さまざまな賛辞とともに語られ、その奉仕活動が広く評判となっていることを知った。
「彼女の活動は本当に素晴らしい。私も何かお手伝いしたいと思っている」
ある貴族が言うと、周囲が頷きながら同意した。
ラザフォードはその言葉を胸に刻み、カトリーナの姿をじっと見つめた。
彼女の笑顔は、まるで周囲を照らす光のようで、彼の心に何か特別な感情を呼び起こした。
しかし、その瞬間、ラザフォードの隣に立つ婚約者サンドラの表情が険しく変わったのに気づいた。
彼女は華やかなドレスを纏いながらも、カトリーナの名前が出るたびに微かに歯ぎしりをしていた。
「カトリーナ……何がそんなに特別なのかしら」
サンドラは冷たい声で呟いた。
彼女の心には、王子がカトリーナに興味を持つことへの嫉妬が渦巻いていた。
サンドラは、自身が王子の婚約者であることを忘れさせるようなカトリーナの存在に不安を覚えていた。
ラザフォードは、その微妙な空気を感じ取りながらも、カトリーナに心を惹かれていく自分を止められなかった。
彼は、貴族としての義務や責任を果たすだけでなく、カトリーナのような人を理解し、支えたいという新たな欲望を抱いていた。
「サンドラ、彼女の活動は本当に意義があるのだ。人々を助ける姿勢は、私たちも見習わなければならない」
ラザフォードの言葉はサンドラの心には届かなかった。
彼女はカトリーナの話題が出るたびに、心の奥で嫉妬と不安が膨らんでいくのを感じていた。
「でも、私たちには私たちの役割があるのよ」
サンドラは微笑みながらも、心の中ではカトリーナを排除しようとする感情が渦巻いていた。
「あなたには王族としての責任があるのだから、よく考えて行動しないといけないわ」
ラザフォードは、サンドラの言葉に一瞬戸惑いながらも、心の中ではカトリーナの純粋な心と、彼女が持つ魅力に惹かれていく自分を否定できなかった。
何よりもカトリーナが本当に聖女だとすれば自分と婚約し共に民を導いていくべき存在だとラザフォードは考えた。
ラザフォード王子とサンドラの関係は、カトリーナの存在によって徐々に悪化していった。
サンドラは王子と二人きりになったとき、彼に向かって冷たい視線を投げつけた。
「あなた、最近カトリーナのことばかり考えているのではありませんか?」
サンドラの声には、抑えきれない嫉妬が滲んでいた。
彼女の言葉は、ラザフォードの胸に重くのしかかる。
「サンドラ、そんなことはない。ただ彼女がすることは素晴らしいと思っているだけだ」
ラザフォードは言ったが、その言葉には誠実さが欠けていた。
彼の心の奥には、カトリーナへの特別な想いが芽生えていた。
「素晴らしい? それがどうしたというの? 私たちの結婚は、そんな彼女のような人とは無関係なのよ」
サンドラは不満を爆発させた。
彼女は自分の立場を守るために必死になっていたが、ラザフォードの心はすでに揺らいでいた。
「君は私の婚約者だ。だけど、カトリーナのことを考えると……」
ラザフォードは言葉を続けようとしたが、サンドラの冷たい視線に遮られた。
「考える必要なんてないわ! あなたは私を選んだはずなのに、どうしてそんなに彼女に心を奪われるの?」
サンドラの声は次第に高まり、彼女の心の中の不安が露わになった。
ラザフォードは、サンドラの言葉を聞きながらも、カトリーナの笑顔や彼女が持つ純粋な心に思いを馳せていた。
彼女の存在は、彼にとってまるで新たな風のようで、彼はその風に吹かれることを止められなかった。
「カトリーナは、人々のために尽くしている。私も、彼女のようになりたいと思うんだ」
ラザフォードはついに言葉にしてしまった。
これがサンドラの怒りをさらに煽ることになるとは、彼は思いもしなかった。
「彼女はただの貴族の娘よ! 聖女なんかではないわ! そんな御伽噺みたいな存在のはずないわよ! 彼女だって私たちと同じ人間なの。聖女であるはずなんてないわ! あなたが彼女に魅了されること自体が恥ずかしいわ」
サンドラは言い放った。
その言葉に、ラザフォードは強い反発を覚えた。
婚約者だとしても言われてしまって許せるものではなかった。
「サンドラ、彼女は私たちとは異なるかもしれないが、その心は純粋で、真摯だ。それが私を惹きつける理由なんだ」
ラザフォードは静かに反論した。
サンドラはその言葉にショックを受け、涙をこらえて振り返った。
彼女の心には、カトリーナへの嫉妬と、ラザフォードの心を奪われている恐怖が渦巻いていた。
ラザフォードは、サンドラの反応を見ながらも、自分の心を抑えることができなかった。
カトリーナに対する思いはますます強くなり、聖女である彼女を婚約者にすべきだという考えが強まった。
もうこれ以上、サンドラを傷つけることはできないと感じていた。
「サンドラ……」
ラザフォードは声を低くして言った。
サンドラは彼の表情を見つめ、何か不吉な予感を感じた。
「何かしら? 私たちの結婚について? それともカトリーナのこと?」
「私たちの婚約を、破棄したいと思う」
ラザフォードははっきりと言った。
彼の声は決然としていたが、その裏には不可避な悲しみが隠れていた。
サンドラは一瞬、言葉を失った。
彼女の目には驚きと悲しみが交錯していた。
「本気なの? まさかとは思うけどカトリーナと婚約するの?
「私もこの決断がどれほど難しいことか、痛いほどわかっている。だが、私の心はカトリーナの方に向いてしまっている。彼女の純粋さに惹かれ、彼女と共にいたいと思うようになった」
ラザフォードは真剣な眼差しで答えた。
サンドラは、その言葉を聞いて心が締め付けられる思いだった。
「あなたが私を選んでくれたことは、私にとって特別だった。でも、彼女のことがそんなにも大切なのね」
彼女は自分の気持ちを整理するように呟いた。
こうなることは理解していた。
しかし言葉にされると悲しい気持ちが心を支配する。
「カトリーナは特別な存在だ。彼女は人々のために尽くしていて、私もその一部になりたいと思っている。君を傷つけてしまうことは心苦しいが、もうこの気持ちを抑えることはできない」
ラザフォードは苦しそうに言った。
サンドラは、ラザフォードの心変わりを受け入れざるを得ないことを理解した。
彼女は深く息を吸い込み、自分の感情を整理するように努めた。
「わかったわ、ラザフォード。あなたが幸せでいることが一番大切なのね。私も、あなたが望む道を選ぶことにするわ」
「本当に申し訳ない。君にはもっと素晴らしい未来が待っているはずだ」
サンドラは微笑みながらも、その笑顔の裏には深い失望があった。
「私もあなたを愛していたわ。でも、あなたの心が他の誰かに向いているのなら、無理に繋ぎ止めることはできないものね」
サンドラはラザフォードの反応を確かめもせずに去った。
聖女なんてあり得ない存在に執心したラザフォードを見限ったのだ。
数日後、ラザフォードは国王である父親の前に呼ばれた。
王の厳しい表情を前に、ラザフォードは緊張した。
国王は、彼がサンドラとの婚約を破棄したという報告を受けていた。
「ラザフォード、君は何を考えているのかね?」
国王は低い声で言った。
その声には怒りと失望が混じっていた。
「父上、私は自分の気持ちに正直でいるべきだと思いました。サンドラとの結婚は、私の心が望むものではなかったのです」
「君は王子だ。国の未来を背負う者として、個人的な感情に流されるわけにはいかない。サンドラは名門の娘であり、我が国との関係を強化するための大切な存在だった。君が彼女を捨てることは、国に対する裏切りであり、王家の名誉を傷つける行為だ」
国王は厳しい口調で告げた。
ラザフォードは父の言葉に胸が苦しくなった。
「しかし、サンドラとの結婚は私の心を満たすものではありませんでした。カトリーナのような人と共にいたいと思ったのです」
彼は反論しようとしたが、国王の怒りは収まる気配を見せなかった。
「カトリーナか。最近噂になっている令嬢だな。確かに彼女の行為は立派なものだが、それはサンドラとの婚約を破棄してまで婚約者とすべき理由にはならない」
「ですが彼女は聖女のように立派な精神の持ち主です。必ず国に役立つでしょう」
ラザフォードの言い分は国王には何の説得力を持たなかった。
「王子という身分には国民と王家への責任がある。私がどれほどの思いでこの婚約を決めたと思っているのか。君の個人的な感情が、私たちの国の未来を危うくすることは許されない」
ラザフォードは言葉を失い、ただ静かに父の視線を受け止めるしかなかった。
心の中では、カトリーナとの未来を思い描いている自分がいる一方で、父の言葉が重くのしかかっていた。
「父上、私が望むのは本物の愛です。カトリーナとの愛も、カトリーナが国民へと向ける愛も、いずれも本物の愛なのです。私の心が何を求めているのか、理解していただきたい」
ラザフォードは勇気を振り絞って言った。
国王は一瞬、黙り込んだ後、深いため息をついた。
「聖女なんて御伽噺の存在だ。彼女の行為は立派だが、それは聖女だからではない。ラザフォード、お前の決断がもたらす影響を考えなさい。国のために何が必要かを理解しなければならないのだ」
国王は厳しい口調で続けた。
ラザフォードは、父の言葉の重さを感じながらも、自らの選択を後悔する気持ちはなかった。
彼は心の中でカトリーナの存在を強く意識していた。
この新たな感情が自分に何をもたらすのか、希望を持ちながらも、国王の厳しい眼差しの中で自らの立場を見つめ直さなければならなかった。
「わかりました、父上。私はこれからのことを真剣に考えます」
ラザフォードは答えたが、心の中ではカトリーナと共に歩む未来を夢見ていた。
国王の言葉は重く響いたが、それでも彼の心は揺らぐことなく、愛を求め続けていた。
ラザフォードが考えを変える様子がないことは国王も察した。
これだけチャンスを与えたというのに全てを無駄にしたラザフォードを見限るのも当然だった。
だがまだ最後にチャンスを与えたいという気持ちが残っていた。
国王はラザフォードへの処分を先送りすることに決めた。
貴族の令息アンドレは、幼い頃からカトリーナと親しい友人だった。
彼の心の中には、彼女への特別な想いがずっと根付いていた。
しかし、彼の両親は彼女との婚約を頑なに反対していた。
彼らは、カトリーナの家柄や地位が自分たちの期待に応えないと考えていたのだ。
親が反対しようがアンドレの気持ちは変わることがなかった。
むしろカトリーナへの想いはますます強くなるばかりだった。
カトリーナもアンドレの気持ちには気付いており、どうにか彼と婚約できないかと、二人は頭を悩ませていた。
そこにアンドレは一つの案を出した。
「僕たちが婚約するための方法を考えてみたんだ。聞いてくれるかな?」
「ええ、もちろんよ」
カトリーナはアンドレが考えたことなのだから、きっと上手くいくと考えていた。
そのための方法が何なのか、興味を引かれた。
「奉仕活動をしよう。貴族の僕たちが地域に貢献することで、君の評判を高めるんだ。人々の信頼を得ることで、君の婚約を認めてもらいやすくなる。まさか評判が良いのに婚約者として不適切とは言い難いだろう?」
「でも、そんなことで本当に変わるのかしら?」
「もちろん、変わるさ。人々は真心を感じ取るものだから。君が心から奉仕することで、皆が君を認めるようになる。そうなれば皆が僕たちの婚約を応援してくれるようなものだ」
アンドレは、優しく微笑んだ。
カトリーナは彼の言葉に心を動かされ、自分の未来を考えた。
彼女の心の奥底には、アンドレとの幸せな日々を夢見ていた。
しかし、その夢が叶うには、まずは彼女自身の評判を築かなければならない。
「やってみるわ、アンドレ。あなたと一緒に」
カトリーナは決意を固め、彼に微笑みかけた。
「それなら、まずは教会の奉仕から始めよう。準備を整えよう」
アンドレは、自信に満ちた声で答えた。
こうしてカトリーナの奉仕活動が始まったのだ。
カトリーナの活動により彼女の評判は良いものとなり、平民のみならず貴族たちの間でも評判になった。
アンドレはカトリーナの評判が十分に広がったと判断した。
「母上、父上、カトリーナのことを知っていますか?」
アンドレは両親に尋ねた。
彼の目は期待に満ちていた。
「もちろん知っている。彼女の評判は良いが、我が家の意向は変わらない」
父親は冷たく答えた。
「ですが、彼女は本当に素晴らしい人です。人々のために尽くし、心優しい女性なのです。彼女のような人と結婚できることは、我が家にとっても名誉ではありませんか? それに平民からの人気も高いです。彼女と婚約すれば当家の評判も良くなるでしょう」
両親は顔を見合わせた。
カトリーナの評判が広がるにつれて、彼女の価値が変わってきたのかもしれないと感じたのだ。
自分たちが考えるよりもずっと彼女の価値が高いのではないかと考えた。
「……考え直す価値はありそうだな。数日待ってくれ」
「わかりました」
父親の変化はアンドレにとって希望となった。
彼は今までにない手ごたえを感じていた。
数日後、アンドレの両親は改めて彼と話す機会を設けた。
「アンドレ、カトリーナの評判が確かにすごいものがある。彼女との婚約は当家に確実に利益をもたらすだろう。二人の婚約を認めよう」
「本当ですか!?」
アンドレの顔には喜びが広がった。
「本当だとも。ただし、我が家の名誉を損なわないよう、彼女との関係を慎重に進めることを約束しなさい」
その言葉に、アンドレはしっかりと頷いた。
「もちろんです。カトリーナと一緒にいることは、私にとって何よりも大切なことです」
アンドレは力強く答えた。
こうして、アンドレはようやくカトリーナとの婚約を進めることができる道を見つけた。
彼は彼女の元へ向かい、彼女の驚きと喜びを共有する準備を整えた。
彼女の笑顔を見ることができれば、どんな困難も乗り越えられると信じていた。
その日のうちに、アンドレはカトリーナの家を訪れた。
彼の心は期待で高鳴り、彼女に自分の気持ちを伝える時が来たことを実感していた。
「カトリーナ、親が婚約を許してくれたよ! 婚約しよう!」
カトリーナは驚きと嬉しさが交錯した表情を浮かべた。
「アンドレ、あなたがそこまで努力してくれたことを嬉しく思うわ。私もあなたのことが大好きです。婚約、承りました」
彼女は心からの笑顔を見せた。
その瞬間、二人の心は一つになり、未来への希望が広がっていった。
アンドレの策により両親の理解を得たことで、彼らの愛は新たな一歩を踏み出すことができたのだった。
その頃、ラザフォード王子はカトリーナの邸宅に向かって馬車を走らせていた。
彼の心の中には、長い間抱いてきたカトリーナへの想いがあった。
今日こそは、彼女に婚約を申し込もうと決意していた。
カトリーナの邸宅に到着したラザフォード王子は緊張しながらも、優雅な身のこなしで門をくぐり、家の中へと進んだ。
使用人に案内され、カトリーナのいる部屋へと向かう。
ドアを開けると、目の前には微笑み合うカトリーナとアンドレの姿があった。
「カトリーナ!」
王子は驚きと戸惑いの中で声を上げた。
彼女の隣にいるアンドレを見て、心臓が大きく跳ねた。
「ラザフォード王子!? ようこそお出でくださいました」
カトリーナは驚きながらも微笑んで迎え入れた。
アンドレも恭しく頭を下げた。
「何が……どういうことだ?」
王子は、二人の間に流れる甘い雰囲気に気づき、言葉を詰まらせた。
「実は、僕たち、婚約したのです」
アンドレが誇らしげに告げた。
王子の心は一瞬で冷たくなった。
彼は、長い間カトリーナに対する想いを抱いていたが、その想いが叶わぬことを理解した。
彼女が他の誰かと結ばれることなど、想像もしていなかったのだ。
「そうか……、おめでとう。君たちの幸せを心から願うよ」
王子は無理に微笑みを作り、二人を祝福する言葉を口にした。
カトリーナはその言葉を聞いて安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、ラザフォード王子。あなたの祝福があれば、私たちの未来も明るいものになるでしょう」
王子は心の中で複雑な感情が渦巻いていた。
彼は一歩退き、静かに二人の手を見つめた。
アンドレがカトリーナの手を優しく握っているのを見て、彼の中で何かが決定的に変わった。
「君たちの幸せを願うけれど、私も自分の道を見つけなければならない」
王子は自分に言い聞かせるように言った。
彼は深呼吸をし、感情を整理しようとした。
「二人は幸せになってほしい」
その言葉を最後に、ラザフォード王子は静かに部屋を後にした。
彼の心には未練が残ったが、同時に新たな決意が芽生えていた。
カトリーナとアンドレは、王子の背中を見送った。
何の用件だったのかは疑問だったが、それを知ることはできなかった。
「何の用だったのかは分からないけど、私たちを祝福してくれたことは嬉しいわ。殿下のためにも幸せになりましょうね」
「もちろんだとも」
カトリーナとアンドレは微笑み合った。
王宮の重厚な廊下を歩くラザフォード王子は、心に重いものを抱えていた。
彼の胸には、カトリーナに対する未練と、彼女の幸せを願う複雑な感情が渦巻いていた。
だが、その思いを抱えたまま、彼は父である国王のもとへ向かうことになった。
国王は、王子の訪問を待っていた。
彼の顔には厳しい表情が浮かんでいる。
ラザフォードが部屋に入ると、父は無言で彼を見つめた。
「父上、お呼び立ていただきましたか?」
ラザフォードは緊張しながら尋ねた。
「ラザフォード、君がカトリーナの家を訪れたことを知っている。やはり彼女への想いを捨てることはできなかったのか……。失望したよ」
国王の声は低く、冷静だった。
王子は驚き、言葉を失った。
彼はカトリーナへの想いを真剣に考えていたが、父の期待に背いてしまったのかと罪悪感が募った。
「父上、彼女は聖女です。彼女と婚約することができれば必ず王家に利をもたらすでしょう」
王子は言葉を続けようとしたが、国王は手を挙げて遮った。
「聖女なんて御伽噺の世界にしか存在しない。奉仕活動なら誰だってできる。カトリーナ嬢は特別な存在ではなく、ましてや聖女であるはずがない。ラザフォード、お前は王子であり、国の未来を背負う存在だ。それなのに御伽噺を信じてしまうとは情けない」
「ですが……」
「サンドラ嬢に婚約破棄したことも問題だったが反省していないようだな。これ以上お前に好き勝手させるわけにはいかん。お前の婚約者はこちらで決める。今度は何があろうと婚約破棄は認めない」
「父上!」
「もし問題を起こすようなら今度は王子という身分の剥奪も考えなくてはならない」
ラザフォードは胸が締め付けられる思いだった。
彼は愛する女性と結ばれなかっただけではなく、これからは政略結婚をしなくてはならないことが決まったのだ。
カトリーナ以上の女性と婚約できるとは思えず、希望を抱けない未来が彼の心を打ちひしがせた。
「……分かりました」
こうしてラザフォード王子は将来に希望を抱けなくなってしまった。
カトリーナとアンドレは婚約したことで共に過ごす時間が増えた。
「ラザフォード王子がサンドラ様との婚約を破棄したらしいわ」
「本当か?」
アンドレは驚愕の表情を浮かべた。
「噂では、国王が政略結婚を進めるために、王子に新たな婚約者を選ばせるつもりだというの」
カトリーナは、少し心配そうに続けた。
アンドレは考え込むように目を閉じた。
「もしかしたら王子が急に訪れたのはカトリーナに婚約を申し込もうとしたのかもしれないな」
「そうかもしれないわね」
アンドレの考えにカトリーナも同意した。
「でも王子に婚約を申し込まれても困っただけだわ。だって私はアンドレのことを愛しているのだもの」
カトリーナは恥ずかしそうに言った。
「僕だってカトリーナのことを愛している。相手が王子であろうともカトリーナを渡すことはできなかった。でも王子が諦めてくれて助かったよ。本気で王族を敵にはできないからね」
アンドレは微笑んだ。
「別の噂ではラザフォード王子は他国の王女と婚約するというものもあったの」
「そうか……。王子という身分は大変だな」
「そうね。私では王子の身分には釣り合わないもの。私にはアンドレしかいないわ」
カトリーナの言葉が嬉しく、アンドレも彼女へ微笑みを向けた。
「努力したからな。それで僕たちの今がある。そういえばカトリーナは聖女と呼ばれることもあるみたいだね」
「聖女なんて立派な存在ではないわ。そんな存在、御伽噺の中だけよ。私はアンドレと婚約するために少しだけ善人を装っただけ。民のために何かするのは貴族の義務よ。特別なことではないわ」
カトリーナは聖女と呼ばれることが恥ずかしかった。
アンドレと婚約できた今、奉仕活動に精を出す必要がなくなってしまった。
「せっかくだし奉仕活動は続けよう。カトリーナの評判が良ければ僕だって嬉しいさ」
「それなら今度はアンドレも一緒に奉仕活動をしましょう。二人でしたほうが楽しいと思うわ」
「そうだね」
二人は微笑み合った。
ラザフォード王子は、隣国の王女と婚約したものの、心の中には重苦しい影が常に付きまとっていた。
華やかな衣装や豪華な宮殿、周囲の祝福の声が響く中で、彼はまるで自分が演じる役割に囚われているような気がしていた。
ある日、王子は宮殿の庭を歩きながら、ふと耳にした噂に心を揺さぶられた。
「カトリーナとアンドレが高く評価されているらしい。彼らの奉仕活動が、皆に感謝されている」
その言葉が、ラザフォードの心に刺さった。
彼は思わず立ち止まり、噴水の水しぶきを見つめた。
彼女との未来を夢見ていたあの頃、自分がどれほど軽率だったのかを痛感する瞬間だった。
「彼女は今、アンドレと共に幸せに過ごしているのだろう」
ラザフォードは今の自分の現実が色あせて見えた。
隣国の王女は美しく、品格もあったが、彼女との関係には心の温かさが欠けていた。
彼は、結婚が国のための戦略であったことを理解していたが、それでも愛のない生活は耐え難いものだった。
これならまだサンドラと婚約していたほうが良かったと彼は考えたが、今となってはどうにもならないことだ。
カトリーナが聖女ではないことを今は理解している。
あの頃の自分はなぜカトリーナを聖女だと思い込んでしまったのか、今となっては理解できなかった。
だがそれも自分の選択だった。
彼は自分の選択が、どれほどの代償を伴うかを思い知らされた。
愚かな判断だったと後悔した。
ラザフォードはこの国の王子として生きると決意した。
政略結婚であろうと国のために自分が何をすべきか理解している。
「虚しいものだな……」
「カトリーナ様……!」
近くにいた女性が声を上げる。
彼女は子供を抱え、困惑した表情を浮かべていた。
カトリーナはその視線を受け止め、優しく微笑む。
「どうかしましたか?」
声をかけると、女性は涙を浮かべながら、自分の家族が困窮していることを訴えた。
カトリーナは耳を傾け、彼女の手を取る。
温かな手に触れた瞬間、女性は少し安心したように見えた。
「私にできることがあれば、何でもお手伝いします」
カトリーナは力強く言った。
彼女は街の人々に食料や衣類を提供するため、日々奉仕活動を行っていた。
彼女の心には、貴族としての責任感と、困っている人々への深い思いやりが満ちていた。
周囲の人々もその様子を見守り、徐々に集まってきた。
カトリーナが子供たちに笑顔を向け、手を差し伸べると、彼らは嬉しそうに彼女のもとへ駆け寄った。
「カトリーナ様、ありがとうございます!」
別の女性が叫ぶと、周囲から拍手が起こった。
カトリーナはその声に驚きながらも、照れくさそうに微笑む。
彼女の心は温かさで満たされ、奉仕することの喜びを実感していた。
「皆さんの笑顔が私の力です」
カトリーナの言葉に、人々は一層の感謝の意を示し、彼女の周りには愛情と温かさが溢れていた。
彼女は自らの地位を超え、人々の心に寄り添う存在となっていた。
華やかな社交パーティーの夜、カトリーナの名は、煌びやかなシャンデリアの光の中で語られていた。
大広間には貴族たちが集まり、華やかなドレスやタキシードが、まるで色とりどりの花々のように咲き誇っている。
人々の笑い声や音楽が響き渡る中、彼女の奉仕活動の話題は、まるで流行のファッションのように広がっていた。
「聞いたかしら、カトリーナ様がまた新しい慈善活動を始めたそうよ」
金色のドレスを纏った女性が隣のテーブルで話す。
彼女の目は興味津々で、周囲の視線を集める。
「本当に素晴らしいわね。彼女のような方がいるなんて、この街は幸運だわ」
別の貴婦人が頷きながら言った。
その言葉に、周囲の人々も同意し、カトリーナの名前を口にするたびに賛辞が飛び交った。
このような賛辞は他の社交パーティーの場でも囁かれていた。
いつしか噂は広まり、カトリーナはまるで聖女ではないかと囁かれるようになった。
華やかな社交パーティーの喧騒の中、ラザフォード王子は静かに人々の会話を聞き耳を立てていた。
彼の目は、煌びやかなドレスに身を包んだ貴族たちの中で、ひときわ目を引く存在に向けられていた。
話題の人物、カトリーナである。
彼女の名は、さまざまな賛辞とともに語られ、その奉仕活動が広く評判となっていることを知った。
「彼女の活動は本当に素晴らしい。私も何かお手伝いしたいと思っている」
ある貴族が言うと、周囲が頷きながら同意した。
ラザフォードはその言葉を胸に刻み、カトリーナの姿をじっと見つめた。
彼女の笑顔は、まるで周囲を照らす光のようで、彼の心に何か特別な感情を呼び起こした。
しかし、その瞬間、ラザフォードの隣に立つ婚約者サンドラの表情が険しく変わったのに気づいた。
彼女は華やかなドレスを纏いながらも、カトリーナの名前が出るたびに微かに歯ぎしりをしていた。
「カトリーナ……何がそんなに特別なのかしら」
サンドラは冷たい声で呟いた。
彼女の心には、王子がカトリーナに興味を持つことへの嫉妬が渦巻いていた。
サンドラは、自身が王子の婚約者であることを忘れさせるようなカトリーナの存在に不安を覚えていた。
ラザフォードは、その微妙な空気を感じ取りながらも、カトリーナに心を惹かれていく自分を止められなかった。
彼は、貴族としての義務や責任を果たすだけでなく、カトリーナのような人を理解し、支えたいという新たな欲望を抱いていた。
「サンドラ、彼女の活動は本当に意義があるのだ。人々を助ける姿勢は、私たちも見習わなければならない」
ラザフォードの言葉はサンドラの心には届かなかった。
彼女はカトリーナの話題が出るたびに、心の奥で嫉妬と不安が膨らんでいくのを感じていた。
「でも、私たちには私たちの役割があるのよ」
サンドラは微笑みながらも、心の中ではカトリーナを排除しようとする感情が渦巻いていた。
「あなたには王族としての責任があるのだから、よく考えて行動しないといけないわ」
ラザフォードは、サンドラの言葉に一瞬戸惑いながらも、心の中ではカトリーナの純粋な心と、彼女が持つ魅力に惹かれていく自分を否定できなかった。
何よりもカトリーナが本当に聖女だとすれば自分と婚約し共に民を導いていくべき存在だとラザフォードは考えた。
ラザフォード王子とサンドラの関係は、カトリーナの存在によって徐々に悪化していった。
サンドラは王子と二人きりになったとき、彼に向かって冷たい視線を投げつけた。
「あなた、最近カトリーナのことばかり考えているのではありませんか?」
サンドラの声には、抑えきれない嫉妬が滲んでいた。
彼女の言葉は、ラザフォードの胸に重くのしかかる。
「サンドラ、そんなことはない。ただ彼女がすることは素晴らしいと思っているだけだ」
ラザフォードは言ったが、その言葉には誠実さが欠けていた。
彼の心の奥には、カトリーナへの特別な想いが芽生えていた。
「素晴らしい? それがどうしたというの? 私たちの結婚は、そんな彼女のような人とは無関係なのよ」
サンドラは不満を爆発させた。
彼女は自分の立場を守るために必死になっていたが、ラザフォードの心はすでに揺らいでいた。
「君は私の婚約者だ。だけど、カトリーナのことを考えると……」
ラザフォードは言葉を続けようとしたが、サンドラの冷たい視線に遮られた。
「考える必要なんてないわ! あなたは私を選んだはずなのに、どうしてそんなに彼女に心を奪われるの?」
サンドラの声は次第に高まり、彼女の心の中の不安が露わになった。
ラザフォードは、サンドラの言葉を聞きながらも、カトリーナの笑顔や彼女が持つ純粋な心に思いを馳せていた。
彼女の存在は、彼にとってまるで新たな風のようで、彼はその風に吹かれることを止められなかった。
「カトリーナは、人々のために尽くしている。私も、彼女のようになりたいと思うんだ」
ラザフォードはついに言葉にしてしまった。
これがサンドラの怒りをさらに煽ることになるとは、彼は思いもしなかった。
「彼女はただの貴族の娘よ! 聖女なんかではないわ! そんな御伽噺みたいな存在のはずないわよ! 彼女だって私たちと同じ人間なの。聖女であるはずなんてないわ! あなたが彼女に魅了されること自体が恥ずかしいわ」
サンドラは言い放った。
その言葉に、ラザフォードは強い反発を覚えた。
婚約者だとしても言われてしまって許せるものではなかった。
「サンドラ、彼女は私たちとは異なるかもしれないが、その心は純粋で、真摯だ。それが私を惹きつける理由なんだ」
ラザフォードは静かに反論した。
サンドラはその言葉にショックを受け、涙をこらえて振り返った。
彼女の心には、カトリーナへの嫉妬と、ラザフォードの心を奪われている恐怖が渦巻いていた。
ラザフォードは、サンドラの反応を見ながらも、自分の心を抑えることができなかった。
カトリーナに対する思いはますます強くなり、聖女である彼女を婚約者にすべきだという考えが強まった。
もうこれ以上、サンドラを傷つけることはできないと感じていた。
「サンドラ……」
ラザフォードは声を低くして言った。
サンドラは彼の表情を見つめ、何か不吉な予感を感じた。
「何かしら? 私たちの結婚について? それともカトリーナのこと?」
「私たちの婚約を、破棄したいと思う」
ラザフォードははっきりと言った。
彼の声は決然としていたが、その裏には不可避な悲しみが隠れていた。
サンドラは一瞬、言葉を失った。
彼女の目には驚きと悲しみが交錯していた。
「本気なの? まさかとは思うけどカトリーナと婚約するの?
「私もこの決断がどれほど難しいことか、痛いほどわかっている。だが、私の心はカトリーナの方に向いてしまっている。彼女の純粋さに惹かれ、彼女と共にいたいと思うようになった」
ラザフォードは真剣な眼差しで答えた。
サンドラは、その言葉を聞いて心が締め付けられる思いだった。
「あなたが私を選んでくれたことは、私にとって特別だった。でも、彼女のことがそんなにも大切なのね」
彼女は自分の気持ちを整理するように呟いた。
こうなることは理解していた。
しかし言葉にされると悲しい気持ちが心を支配する。
「カトリーナは特別な存在だ。彼女は人々のために尽くしていて、私もその一部になりたいと思っている。君を傷つけてしまうことは心苦しいが、もうこの気持ちを抑えることはできない」
ラザフォードは苦しそうに言った。
サンドラは、ラザフォードの心変わりを受け入れざるを得ないことを理解した。
彼女は深く息を吸い込み、自分の感情を整理するように努めた。
「わかったわ、ラザフォード。あなたが幸せでいることが一番大切なのね。私も、あなたが望む道を選ぶことにするわ」
「本当に申し訳ない。君にはもっと素晴らしい未来が待っているはずだ」
サンドラは微笑みながらも、その笑顔の裏には深い失望があった。
「私もあなたを愛していたわ。でも、あなたの心が他の誰かに向いているのなら、無理に繋ぎ止めることはできないものね」
サンドラはラザフォードの反応を確かめもせずに去った。
聖女なんてあり得ない存在に執心したラザフォードを見限ったのだ。
数日後、ラザフォードは国王である父親の前に呼ばれた。
王の厳しい表情を前に、ラザフォードは緊張した。
国王は、彼がサンドラとの婚約を破棄したという報告を受けていた。
「ラザフォード、君は何を考えているのかね?」
国王は低い声で言った。
その声には怒りと失望が混じっていた。
「父上、私は自分の気持ちに正直でいるべきだと思いました。サンドラとの結婚は、私の心が望むものではなかったのです」
「君は王子だ。国の未来を背負う者として、個人的な感情に流されるわけにはいかない。サンドラは名門の娘であり、我が国との関係を強化するための大切な存在だった。君が彼女を捨てることは、国に対する裏切りであり、王家の名誉を傷つける行為だ」
国王は厳しい口調で告げた。
ラザフォードは父の言葉に胸が苦しくなった。
「しかし、サンドラとの結婚は私の心を満たすものではありませんでした。カトリーナのような人と共にいたいと思ったのです」
彼は反論しようとしたが、国王の怒りは収まる気配を見せなかった。
「カトリーナか。最近噂になっている令嬢だな。確かに彼女の行為は立派なものだが、それはサンドラとの婚約を破棄してまで婚約者とすべき理由にはならない」
「ですが彼女は聖女のように立派な精神の持ち主です。必ず国に役立つでしょう」
ラザフォードの言い分は国王には何の説得力を持たなかった。
「王子という身分には国民と王家への責任がある。私がどれほどの思いでこの婚約を決めたと思っているのか。君の個人的な感情が、私たちの国の未来を危うくすることは許されない」
ラザフォードは言葉を失い、ただ静かに父の視線を受け止めるしかなかった。
心の中では、カトリーナとの未来を思い描いている自分がいる一方で、父の言葉が重くのしかかっていた。
「父上、私が望むのは本物の愛です。カトリーナとの愛も、カトリーナが国民へと向ける愛も、いずれも本物の愛なのです。私の心が何を求めているのか、理解していただきたい」
ラザフォードは勇気を振り絞って言った。
国王は一瞬、黙り込んだ後、深いため息をついた。
「聖女なんて御伽噺の存在だ。彼女の行為は立派だが、それは聖女だからではない。ラザフォード、お前の決断がもたらす影響を考えなさい。国のために何が必要かを理解しなければならないのだ」
国王は厳しい口調で続けた。
ラザフォードは、父の言葉の重さを感じながらも、自らの選択を後悔する気持ちはなかった。
彼は心の中でカトリーナの存在を強く意識していた。
この新たな感情が自分に何をもたらすのか、希望を持ちながらも、国王の厳しい眼差しの中で自らの立場を見つめ直さなければならなかった。
「わかりました、父上。私はこれからのことを真剣に考えます」
ラザフォードは答えたが、心の中ではカトリーナと共に歩む未来を夢見ていた。
国王の言葉は重く響いたが、それでも彼の心は揺らぐことなく、愛を求め続けていた。
ラザフォードが考えを変える様子がないことは国王も察した。
これだけチャンスを与えたというのに全てを無駄にしたラザフォードを見限るのも当然だった。
だがまだ最後にチャンスを与えたいという気持ちが残っていた。
国王はラザフォードへの処分を先送りすることに決めた。
貴族の令息アンドレは、幼い頃からカトリーナと親しい友人だった。
彼の心の中には、彼女への特別な想いがずっと根付いていた。
しかし、彼の両親は彼女との婚約を頑なに反対していた。
彼らは、カトリーナの家柄や地位が自分たちの期待に応えないと考えていたのだ。
親が反対しようがアンドレの気持ちは変わることがなかった。
むしろカトリーナへの想いはますます強くなるばかりだった。
カトリーナもアンドレの気持ちには気付いており、どうにか彼と婚約できないかと、二人は頭を悩ませていた。
そこにアンドレは一つの案を出した。
「僕たちが婚約するための方法を考えてみたんだ。聞いてくれるかな?」
「ええ、もちろんよ」
カトリーナはアンドレが考えたことなのだから、きっと上手くいくと考えていた。
そのための方法が何なのか、興味を引かれた。
「奉仕活動をしよう。貴族の僕たちが地域に貢献することで、君の評判を高めるんだ。人々の信頼を得ることで、君の婚約を認めてもらいやすくなる。まさか評判が良いのに婚約者として不適切とは言い難いだろう?」
「でも、そんなことで本当に変わるのかしら?」
「もちろん、変わるさ。人々は真心を感じ取るものだから。君が心から奉仕することで、皆が君を認めるようになる。そうなれば皆が僕たちの婚約を応援してくれるようなものだ」
アンドレは、優しく微笑んだ。
カトリーナは彼の言葉に心を動かされ、自分の未来を考えた。
彼女の心の奥底には、アンドレとの幸せな日々を夢見ていた。
しかし、その夢が叶うには、まずは彼女自身の評判を築かなければならない。
「やってみるわ、アンドレ。あなたと一緒に」
カトリーナは決意を固め、彼に微笑みかけた。
「それなら、まずは教会の奉仕から始めよう。準備を整えよう」
アンドレは、自信に満ちた声で答えた。
こうしてカトリーナの奉仕活動が始まったのだ。
カトリーナの活動により彼女の評判は良いものとなり、平民のみならず貴族たちの間でも評判になった。
アンドレはカトリーナの評判が十分に広がったと判断した。
「母上、父上、カトリーナのことを知っていますか?」
アンドレは両親に尋ねた。
彼の目は期待に満ちていた。
「もちろん知っている。彼女の評判は良いが、我が家の意向は変わらない」
父親は冷たく答えた。
「ですが、彼女は本当に素晴らしい人です。人々のために尽くし、心優しい女性なのです。彼女のような人と結婚できることは、我が家にとっても名誉ではありませんか? それに平民からの人気も高いです。彼女と婚約すれば当家の評判も良くなるでしょう」
両親は顔を見合わせた。
カトリーナの評判が広がるにつれて、彼女の価値が変わってきたのかもしれないと感じたのだ。
自分たちが考えるよりもずっと彼女の価値が高いのではないかと考えた。
「……考え直す価値はありそうだな。数日待ってくれ」
「わかりました」
父親の変化はアンドレにとって希望となった。
彼は今までにない手ごたえを感じていた。
数日後、アンドレの両親は改めて彼と話す機会を設けた。
「アンドレ、カトリーナの評判が確かにすごいものがある。彼女との婚約は当家に確実に利益をもたらすだろう。二人の婚約を認めよう」
「本当ですか!?」
アンドレの顔には喜びが広がった。
「本当だとも。ただし、我が家の名誉を損なわないよう、彼女との関係を慎重に進めることを約束しなさい」
その言葉に、アンドレはしっかりと頷いた。
「もちろんです。カトリーナと一緒にいることは、私にとって何よりも大切なことです」
アンドレは力強く答えた。
こうして、アンドレはようやくカトリーナとの婚約を進めることができる道を見つけた。
彼は彼女の元へ向かい、彼女の驚きと喜びを共有する準備を整えた。
彼女の笑顔を見ることができれば、どんな困難も乗り越えられると信じていた。
その日のうちに、アンドレはカトリーナの家を訪れた。
彼の心は期待で高鳴り、彼女に自分の気持ちを伝える時が来たことを実感していた。
「カトリーナ、親が婚約を許してくれたよ! 婚約しよう!」
カトリーナは驚きと嬉しさが交錯した表情を浮かべた。
「アンドレ、あなたがそこまで努力してくれたことを嬉しく思うわ。私もあなたのことが大好きです。婚約、承りました」
彼女は心からの笑顔を見せた。
その瞬間、二人の心は一つになり、未来への希望が広がっていった。
アンドレの策により両親の理解を得たことで、彼らの愛は新たな一歩を踏み出すことができたのだった。
その頃、ラザフォード王子はカトリーナの邸宅に向かって馬車を走らせていた。
彼の心の中には、長い間抱いてきたカトリーナへの想いがあった。
今日こそは、彼女に婚約を申し込もうと決意していた。
カトリーナの邸宅に到着したラザフォード王子は緊張しながらも、優雅な身のこなしで門をくぐり、家の中へと進んだ。
使用人に案内され、カトリーナのいる部屋へと向かう。
ドアを開けると、目の前には微笑み合うカトリーナとアンドレの姿があった。
「カトリーナ!」
王子は驚きと戸惑いの中で声を上げた。
彼女の隣にいるアンドレを見て、心臓が大きく跳ねた。
「ラザフォード王子!? ようこそお出でくださいました」
カトリーナは驚きながらも微笑んで迎え入れた。
アンドレも恭しく頭を下げた。
「何が……どういうことだ?」
王子は、二人の間に流れる甘い雰囲気に気づき、言葉を詰まらせた。
「実は、僕たち、婚約したのです」
アンドレが誇らしげに告げた。
王子の心は一瞬で冷たくなった。
彼は、長い間カトリーナに対する想いを抱いていたが、その想いが叶わぬことを理解した。
彼女が他の誰かと結ばれることなど、想像もしていなかったのだ。
「そうか……、おめでとう。君たちの幸せを心から願うよ」
王子は無理に微笑みを作り、二人を祝福する言葉を口にした。
カトリーナはその言葉を聞いて安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、ラザフォード王子。あなたの祝福があれば、私たちの未来も明るいものになるでしょう」
王子は心の中で複雑な感情が渦巻いていた。
彼は一歩退き、静かに二人の手を見つめた。
アンドレがカトリーナの手を優しく握っているのを見て、彼の中で何かが決定的に変わった。
「君たちの幸せを願うけれど、私も自分の道を見つけなければならない」
王子は自分に言い聞かせるように言った。
彼は深呼吸をし、感情を整理しようとした。
「二人は幸せになってほしい」
その言葉を最後に、ラザフォード王子は静かに部屋を後にした。
彼の心には未練が残ったが、同時に新たな決意が芽生えていた。
カトリーナとアンドレは、王子の背中を見送った。
何の用件だったのかは疑問だったが、それを知ることはできなかった。
「何の用だったのかは分からないけど、私たちを祝福してくれたことは嬉しいわ。殿下のためにも幸せになりましょうね」
「もちろんだとも」
カトリーナとアンドレは微笑み合った。
王宮の重厚な廊下を歩くラザフォード王子は、心に重いものを抱えていた。
彼の胸には、カトリーナに対する未練と、彼女の幸せを願う複雑な感情が渦巻いていた。
だが、その思いを抱えたまま、彼は父である国王のもとへ向かうことになった。
国王は、王子の訪問を待っていた。
彼の顔には厳しい表情が浮かんでいる。
ラザフォードが部屋に入ると、父は無言で彼を見つめた。
「父上、お呼び立ていただきましたか?」
ラザフォードは緊張しながら尋ねた。
「ラザフォード、君がカトリーナの家を訪れたことを知っている。やはり彼女への想いを捨てることはできなかったのか……。失望したよ」
国王の声は低く、冷静だった。
王子は驚き、言葉を失った。
彼はカトリーナへの想いを真剣に考えていたが、父の期待に背いてしまったのかと罪悪感が募った。
「父上、彼女は聖女です。彼女と婚約することができれば必ず王家に利をもたらすでしょう」
王子は言葉を続けようとしたが、国王は手を挙げて遮った。
「聖女なんて御伽噺の世界にしか存在しない。奉仕活動なら誰だってできる。カトリーナ嬢は特別な存在ではなく、ましてや聖女であるはずがない。ラザフォード、お前は王子であり、国の未来を背負う存在だ。それなのに御伽噺を信じてしまうとは情けない」
「ですが……」
「サンドラ嬢に婚約破棄したことも問題だったが反省していないようだな。これ以上お前に好き勝手させるわけにはいかん。お前の婚約者はこちらで決める。今度は何があろうと婚約破棄は認めない」
「父上!」
「もし問題を起こすようなら今度は王子という身分の剥奪も考えなくてはならない」
ラザフォードは胸が締め付けられる思いだった。
彼は愛する女性と結ばれなかっただけではなく、これからは政略結婚をしなくてはならないことが決まったのだ。
カトリーナ以上の女性と婚約できるとは思えず、希望を抱けない未来が彼の心を打ちひしがせた。
「……分かりました」
こうしてラザフォード王子は将来に希望を抱けなくなってしまった。
カトリーナとアンドレは婚約したことで共に過ごす時間が増えた。
「ラザフォード王子がサンドラ様との婚約を破棄したらしいわ」
「本当か?」
アンドレは驚愕の表情を浮かべた。
「噂では、国王が政略結婚を進めるために、王子に新たな婚約者を選ばせるつもりだというの」
カトリーナは、少し心配そうに続けた。
アンドレは考え込むように目を閉じた。
「もしかしたら王子が急に訪れたのはカトリーナに婚約を申し込もうとしたのかもしれないな」
「そうかもしれないわね」
アンドレの考えにカトリーナも同意した。
「でも王子に婚約を申し込まれても困っただけだわ。だって私はアンドレのことを愛しているのだもの」
カトリーナは恥ずかしそうに言った。
「僕だってカトリーナのことを愛している。相手が王子であろうともカトリーナを渡すことはできなかった。でも王子が諦めてくれて助かったよ。本気で王族を敵にはできないからね」
アンドレは微笑んだ。
「別の噂ではラザフォード王子は他国の王女と婚約するというものもあったの」
「そうか……。王子という身分は大変だな」
「そうね。私では王子の身分には釣り合わないもの。私にはアンドレしかいないわ」
カトリーナの言葉が嬉しく、アンドレも彼女へ微笑みを向けた。
「努力したからな。それで僕たちの今がある。そういえばカトリーナは聖女と呼ばれることもあるみたいだね」
「聖女なんて立派な存在ではないわ。そんな存在、御伽噺の中だけよ。私はアンドレと婚約するために少しだけ善人を装っただけ。民のために何かするのは貴族の義務よ。特別なことではないわ」
カトリーナは聖女と呼ばれることが恥ずかしかった。
アンドレと婚約できた今、奉仕活動に精を出す必要がなくなってしまった。
「せっかくだし奉仕活動は続けよう。カトリーナの評判が良ければ僕だって嬉しいさ」
「それなら今度はアンドレも一緒に奉仕活動をしましょう。二人でしたほうが楽しいと思うわ」
「そうだね」
二人は微笑み合った。
ラザフォード王子は、隣国の王女と婚約したものの、心の中には重苦しい影が常に付きまとっていた。
華やかな衣装や豪華な宮殿、周囲の祝福の声が響く中で、彼はまるで自分が演じる役割に囚われているような気がしていた。
ある日、王子は宮殿の庭を歩きながら、ふと耳にした噂に心を揺さぶられた。
「カトリーナとアンドレが高く評価されているらしい。彼らの奉仕活動が、皆に感謝されている」
その言葉が、ラザフォードの心に刺さった。
彼は思わず立ち止まり、噴水の水しぶきを見つめた。
彼女との未来を夢見ていたあの頃、自分がどれほど軽率だったのかを痛感する瞬間だった。
「彼女は今、アンドレと共に幸せに過ごしているのだろう」
ラザフォードは今の自分の現実が色あせて見えた。
隣国の王女は美しく、品格もあったが、彼女との関係には心の温かさが欠けていた。
彼は、結婚が国のための戦略であったことを理解していたが、それでも愛のない生活は耐え難いものだった。
これならまだサンドラと婚約していたほうが良かったと彼は考えたが、今となってはどうにもならないことだ。
カトリーナが聖女ではないことを今は理解している。
あの頃の自分はなぜカトリーナを聖女だと思い込んでしまったのか、今となっては理解できなかった。
だがそれも自分の選択だった。
彼は自分の選択が、どれほどの代償を伴うかを思い知らされた。
愚かな判断だったと後悔した。
ラザフォードはこの国の王子として生きると決意した。
政略結婚であろうと国のために自分が何をすべきか理解している。
「虚しいものだな……」
57
お気に入りに追加
46
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。
水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。
兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。
しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。
それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。
だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。
そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。
自由になったミアは人生を謳歌し始める。
それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。
婚約破棄?私、貴方の婚約者ではありませんけれど
oro
恋愛
「アイリーン・ヒメネス!私は今この場で婚約を破棄する!」
王宮でのパーティにて、突然そう高らかに宣言したこの国の第1王子。
名前を呼ばれたアイリーンは、ニコリと微笑んで言った。
「あらあらそれは。おめでとうございます。」
※誤字、脱字があります。御容赦ください。
【2話完結】両親が妹ばかり可愛がった結果、家は没落しました。
水垣するめ
恋愛
主人公、ウェンディ・モイヤーは妹のソーニャに虐められていた。
いつもソーニャに「虐められた!」と冤罪を着せられ、それを信じた両親に罰を与えられる。
ソーニャのことを溺愛していた両親にどれだけ自分は虐めていないのだ、と説明しても「嘘をつくな!」と信じて貰えなかった。
そして、ウェンディが十六歳になった頃。
ソーニャへの両親の贔屓はまだ続いていた。
それだけではなく、酷くなっていた。
ソーニャが欲しいと言われれば全て与えられ、ウェンディは姉だからと我慢させられる。
ソーニャは学園に通えたが、ウェンディは通わせて貰えなかったので、自分で勉強するしかなかった。
そしてソーニャは何かと理由をつけてウェンディから物を奪っていった。
それを父や母に訴えても「姉だから我慢しろ」と言われて、泣き寝入りするしかなかった。
驚いたことに、ソーニャのウェンディにしていることを虐めだとは認識していないようだった。
それどころか、「姉だから」という理由で全部無視された。
全部、ぜんぶ姉だから。
次第に私の部屋からはベットと机とソーニャが読むのを嫌った本以外には何も無くなった。
ソーニャのウェンディに対しての虐めは次第に加速していった。
そしてある日、ついに両親から「お前は勘当する!」と追放宣言をされる。
両親の後ろではソーニャが面白くて堪えられない、といった様子でウェンディが追放されるのを笑っていた。
あの空っぽの部屋を見てもまだウェンディがソーニャを虐めていると信じている両親を見て、この家にいても奪われ続けるだけだと悟ったウェンディは追放を受け入れる。
このモイヤー家に復讐すると誓って。
幼なじみで私の友達だと主張してお茶会やパーティーに紛れ込む令嬢に困っていたら、他にも私を利用する気満々な方々がいたようです
珠宮さくら
恋愛
アンリエット・ノアイユは、母親同士が仲良くしていたからという理由で、初めて会った時に友達であり、幼なじみだと言い張るようになったただの顔なじみの侯爵令嬢に困り果てていた。
だが、そんな令嬢だけでなく、アンリエットの周りには厄介な人が他にもいたようで……。
姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです
珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。
だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。
そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
私の作った料理を食べているのに、浮気するなんてずいぶん度胸がおありなのね。さあ、何が入っているでしょう?
kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ?
「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」
まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。
旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる