154 / 165
学園編
彼はもう、助からない
しおりを挟む翌朝、アルカティーナ一向は廊下で偶然チルキデンにあった。昨日アルカティーナの代役として紹介した、もう1人の聖女候補とどうなったのか…皆んな聞きたいのは山々であった。
が、
「あー…皆んな、やっほー……。昨日の放課後はありがとね……昨日…放課後………はぁ」
青ざめた顔で足元を見ながら危うい足取りで廊下を歩くチルキデンを見る限り、聞くまでもなかった、と言ったところだろうか。
「ええと、チルりん?ロゼリーナ様とは…」
「ろぜ…ろ、ロゼリーナ嬢!?はっはいぃっ!!ロゼリーナ嬢はこの世で一番見目麗しく、可愛らしいでありますっ!はい!」
………何やら、洗脳されていた。
「えと、落ち着いて下さい?昨日一体何があったのですか??」
心配そうに眉を寄せたアルカティーナを見て少し気が落ち着いたのか、チルキデンはポツリポツリと話し始めた。
「昨日…ダンスホールに行ったら、鍵が、閉まってて。用務員さんが近くにいたから開けてもらったんだ。そうしたら……」
ゴクリ、と全員が喉を鳴らし。
チルキデンは意を決したように続けた。
「ロゼリーナ嬢が1人でオペラをやってた」
「「「は??」」」
「だから、オペラ」
1人でオペラ。
成る程、わからん。
そういえば前にダンスホールを訪れた際、ユーリアも同じようなことを涙ながらに言っていた気がする。ロゼリーナがいきなり『ミュージック・スタート★』と叫んだとか何とか。まぁ、やはり意味は分からなかったのだけれど。因みにユーリアは『1人 De オペラ』に既視感があったのか、1人「ひっ……」と悲鳴をあげていた。
「オペラだよオペラ!1人で歌いながら重たそうなギラッギラしたドレス着て踊り始めたんだよ!!」
「ええ~~…」
にわかには信じられないが、信憑性は悲しいことに高い。というか、ロゼリーナは何をしているのだ、何を。
「それで…身を潜めていたつもりが、ビックリしすぎて物音立てちゃって」
「まぁ、ビックリしますよねぇ」
「うん。そしたらロゼリーナ嬢が狼みたいな目をしながら僕を振り返って、僕を見るなりニヤって、ニヤって、笑ったんだ」
それからどうなったのか。
ものすごく気になるが……当然嫌な予感しかしない訳で。
「その後は……もう。散々だったよ」
アルカティーナ達はその先を聞けずにいた。
だが、怖いもの見たさが祟ったのだろうか。
リサーシャが思わずと言わんばかりに恐る恐る聞いてしまった。
「それで…その後っていうのは…?」
「その後のこと?それはもうひどかったよ。僕まで何故か重たいドレスを着させられてさ。男なのに。あぁそうだよ踊ったよ!歌ったよ!ドレス着ながら!男なのに!しかも何だか変な事ばかりを吹き込まれたね。何だっけ…………あぁそうだ。ロゼリーナ嬢についてだ。世界で一番君が美しいし可愛いし麗しいようん勿論だよ、はは、はは…」
傀儡のように光を失った瞳で力なく笑うチルキデンを見て、アルカティーナは手で口を覆った。その瞳は、うるうると潤んでいる。
「うぅ……っ、そんな。わたくしがチルり殿下にロゼリーナ様を紹介したせいで……殿下が、殿下がぁ……っ!!」
震える彼女の肩に、神妙な顔をしたリサーシャが手を置く。
「やめなよティーナ。そんなこと言っても仕方ない。だってチルりんは…彼はもう、助からない」
「……ぐす、そう、です……ね」
堪えきれず溢れた涙を拭いながら首肯したアルカティーナに、放心していたはずのチルキデンが突然我に返って叫んだ。
「ですね、じゃないよ!助けてよ!困ってるんだ僕!そんなこんなでもう婚約者の話どころじゃなかったし!?まぁいくら条件が揃ってるからって嫌だけどね、あんな婚約者!」
『あんな』呼ばわりされた聖女候補様のヤバさは、アルカティーナの仲良しグループでは常識である。全員がそうだろうなぁとばかりにコクコクと頷いた。
ただし。
たった1人を除いて、だが。
「…えっと、ロゼリーナ様ってそんなにあれなのか?俺、知らなかったんだけど」
背後から聞こえてきたその場違いな言葉に、アルカティーナは勢いよく振り返り……ああそういえば、と思い返した。
「そっか、ゼンは知りませんよね。だってダンスホールに行ったこと、ないですもんね」
思えばロゼリーナのナルシスト・タイムをゼンは一度も目撃していない。驚いても、話についていけなくても、それは当然のことと言えるだろう。
ーー廊下で話す事でもないですし……あとでこっそり教えてあげるとしましょうか
ロゼリーナがゼンを狙っているという事実もある限り、出来るだけ彼女のことを教えておいた方がいい気がする。
アルカティーナがそう決心したその時。
チルキデンが素っ頓狂な声をあげた。
「あれっ?昨日も思ったけど……何で貴方が彼女達と一緒にいるんですか?」
まるで知人に話しかけるようにそう言ったチルキデンの瞳は、先程ロゼリーナについての疑問を述べたアルカティーナの護衛役に向けられていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「さらばだ!」と言おうとしたら10回に9回は「サラダバー!」と言ってしまう水瀬です、どうも。
えっだって似てますよね。
皆さんも間違えますよね。
皆んなサラダバーに洗脳されてますよね。
それが人類の定めですよね?
え?違う?間違えない?
……すみませんでした。
0
お気に入りに追加
722
あなたにおすすめの小説
結婚なんて無理だから初夜でゲロってやろうと思う
風巻ユウ
恋愛
TS転生した。男→公爵令嬢キリアネットに。気づけば結婚が迫っていた。男と結婚なんて嫌だ。そうだ初夜でゲロってやるぜ。
TS転生した。女→王子ヒュミエールに。そして気づいた。この世界が乙女ゲーム『ゴリラ令嬢の華麗なる王宮生活』だということに。ゴリラと結婚なんて嫌だ。そうだ初夜でゲロってやんよ。
思考が似通った二人の転生者が婚約した。
ふたりが再び出会う時、世界が変わる─────。
注意:すっごくゴリラです。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる