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番外編

クリスマスSS②

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 浮島 椿の親友、御上 空は毎年その時期になると不思議に思うことがあった。
それは、椿についてのことだ。

 『ねえ空ちゃん。“良い子”って、どうやったらなれるのかなぁ』

 冬の寒空を見つめながらそう尋ねてきた親友の横顔は夢に出てくるほど、印象的だった。
見たことがないくらい、悲しそうで、寂しそうな表情だったからだと思う。



 高校生になっても、大学生になっても、親友は『サンタクロース』を信じていた。
彼女は人一倍純粋で、真面目だから、親御さんに上手いこと騙されているのだろう。

言い方は悪いけど、正直最初はそう思っていた。

 でも。

 『え?空ちゃん、サンタさんにプレゼント貰えるの?しかも毎年!?凄い!!そっか~そうだよね、さすが空ちゃん!私の親友は“良い子”だもん!』

 椿は心底嬉しそうにそう言ってくれた。
確か、高校2年の冬のことだったと思う。
高校2年生にもなってサンタクロースを信じているという希少な少女が親友であったという事実に驚きつつも、彼女の夢を壊すまいとサンタクロースが実在するという前提で話した。
そんな時、ポツリと彼女は呟いた。

 『ねえ空ちゃん。“良い子”って、どうやったらなれるのかなぁ』

 おかしいと思った。

よくよく聞いてみると、彼女は『サンタクロース』にプレゼントを貰ったことがないのだと打ち明けてくれた。それを聞いてまた、おかしいと思った。

本人には買い被りすぎだと否定されたけど、私は椿以上に“良い子”はいないと思っていた。
それに、『サンタクロース』なんて実在しない。
『サンタクロース』は子供を持つ親がなりきるものだ。つまり、椿の両親は娘にプレゼントをあげていないということになる。

 いや、まさか。
だって彼女は家族と大の仲良しのはず。
きっと親御さんはサンタクロースとしてではなく、家族として、彼女にプレゼントをあげているのだろう。

 高校2年生だった私は、それで納得した。

 でも、毎年毎年、不思議に思った。
理由は二つ。
どうしたら“良い子”になれるのかと問うてきた時の彼女の表情が引っかかったのが、一つ目。

 もう一つは…。

 『えぇ!これ、私に?』

 『うん!椿にはいっつも助けて貰ってるし、そのお礼のクリスマスプレゼント!』

 『クリスマス…プレゼント?』

 『うん、そうだよ!って、な、何で泣くの?ちょっと椿!?何?何か嫌だった?ごめん!』

 『ごめ…ちがうの、嬉しくて……。ありがとね』

 高校三年生の冬のクリスマスに、何故か椿が嬉し泣きをしたから。

 ねえ椿。
 クリスマスプレゼントくらいで、どうして泣くの?



 ◇ ◆ ◇

 

 「もうすぐクリスマスですね!」

 ティーナがそう言ってきたのは12月も半ばに差し掛かった頃のことだ。私は頷く。

 「うん、そうだねぇ。と言うか、ゲームの世界なのにクリスマスという概念があるとかホントびっくり」

 「それはまぁ…ゲームですからね」

 穏やかに微笑むアルカティーナに、リサーシャも自然と頰を緩める。
 
 「わたくし、前世ではサンタクロースを信じていたのですよ…って言ったら、びっくりします?」

 突然の言葉に、私は瞠目した。

 「いや…正直、そうだろうなぁって思った」

 だってティーナってば、のほほんってしてるしぽわーんとしてるし天然さんだし。

 「そうですか?まぁでも、信じていたって言うよりかは、信じようとしていたってところですけどね」

 「えっ!そうなの?ってことは何?薄々サンタクロースがいないってわかってはいたってこと?」

 アルカティーナは静かに頷いた。

 「サンタクロースって、日本には関係ないと思いませんか?」

 「うん、キリスト教徒少ないしね」

 「でしょう?でも日本の子供は毎年サンタクロースにプレゼントが貰えるのです。何故だかわかりますか?その子供の親が、我が子の喜ぶ顔を見たいからです」

 その通りだろう。
キリスト教徒でも何でもない多くの日本人が毎年子供に夢を与えるのは、親達のそういった思いがあってこそのことだろう。

 「わたくし、前世ではサンタさんからプレゼントを貰ったことがないのです。それはつまり……そういうことでしょう?」

 悲しそうに笑うアルカティーナを見て、私まで悲しくなってきた。

 「両親がわたくしを疎ましく思っているのは理解していたのですが、でもやっぱり、親ですからね。プレゼントが貰えないのは自分が良い子にしてないからだって考えた方が気が楽だったんです」

 「だから、信じようとしていたってこと?」
 
 「そういうことです」

 「そっか……そうだったんだぁ……」

 語尾が、震えた。

 「ぅえ!?ちょっとリサーシャ!?何で?何で泣くのですか!?」

 必死な表情でハンカチを片手にアワアワと駆け回るアルカティーナに、聞いてみる。

 「ねえティーナ。今ティーナは、サンタクロースを信じようとしていたりするの?」

 アルカティーナは、満面の笑みで答えた。

 「するわけ無いじゃないですか!」

 きっぱりと自信満々にそう告げたアルカティーナを見て、リサーシャの瞳からまた涙の粒がポタポタと零れ落ちた。

 ーー椿が幸せそうで、よかった。

 頭の中で、聞き覚えのある誰かの声が微かに聞こえた気がした。
 

 ◇ ◆ ◇


 そう言えば、浮島 椿としての人生でクリスマスプレゼントを一度だけ貰ったことがありましたっけ。
アルカティーナはハンカチをリサーシャの目尻に添えながら、過去の記憶を思いおこした。

 人生で最初で最後だった、人からもらったクリスマスプレゼント。
 凄く凄く、嬉し過ぎて泣いてしまって。
空ちゃんを困らせちゃったんでしたよね。

 「ねえティーナ。今ティーナは、サンタクロースを信じようとしていたりするの?」

 涙目で、リサーシャが聞いてきました。

 そんなの、即答です。

 「するわけ無いじゃないですか!」

 空ちゃん、お元気ですか。
わたくしは今、幸せです。

 途端、リサーシャの瞳から滝のように涙が溢れ出した。
 
 
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