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出会い編

リサーシャの妙案

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 「私実は、変態なの」

 しーーーーーーーん…… 

 真顔で謎の宣言をした私に、部屋の空気が固まった。
まぁ普通そうなるよね~~。

 「でね、何が言いたいかって言うと…」

 そう、私が本当に言いたかったのは決して『変態』宣言ではないのだ。
 固まったままでいる皆んなに向かって言う。

 「私、ドMなの(棒)」

 「「「……へ、へ~え」」」

 男性陣から絞り出したような声をいただきましたー!
素敵なリアクションをありがとう。
 でも、失敗しちゃったな~。
また棒読みになっちゃったよ。やっぱり私、演技向いてないな。
演技したらどうやっても棒読みになるし。
でも棒読みだと信憑性がない。それだけは困る。

 と、そこでリサーシャは名案を思いついた。

 演技したら棒読みになるんだったら、演技しなければいいのよ!
それこそさっきみたいに、あくまでも事実のことを言っていれば棒読みになる事もないはず!

 思い至ったリサーシャは、早速実践してみた。

 「私、(美少女に対しては)ドMなの。だからね、(美少女に)鞭とか低温ろうそくとかロープとかで調教されたりするとね……超興奮するの!もう最高に興奮するの!」

 やった!うまくいった!!
やっぱり事実を述べてるだけなら棒読みにはならないのね!!ラッキー!
 でも本当にドSな美少女って最高だわー。
二次元でしか見たことないけど、本当に尊い…!
彼女らになら、喜んで跪くし、喜んで這いつくばるわ!
え?変態??そりゃー言わない約束ですぜ、旦那!

 一方、衝撃の事実を伝えられたラグドーナとその仲間たちは…ドン引きしていた。

 「おい、誰だこの女」

 「キリリア侯爵令嬢です」

 「…だよなぁ」

 「…」

 「いやでもただの変態だぞ、この女」

 「…(否定できない…!)」

 ラグドーナはともかく、その手先達は内心かなり違和感を覚えている面があった。
 ラグドーナが現れる前までのドMな発言は棒読みだったのに、急にそれが無くなったからだ。
 それまでは棒読みだったからこそ、実は演技なのかもしれないという疑念を抱いていた。
 しかし、今の様子を見ると、とてもそれが演技だとは思えないのだ。
 一体、これは演技なのか?演技じゃないのか?
男達はかなり混乱していた。

 ただ、そんな状況でもこれだけは言えた。

 
 ーーこいつにだけは、危害を加えたくない!!


 強くそう思った男たちは、ラグドーナに聞いた。

 「あの…この女痛い目見せないとダメですか?出来ればしたく無いんですけど。気持ち悪いから」

 「あ、自分もです。俺そういう趣味ないんで」

 「え?でもお前さっきロリコンでドSだっていってたじゃねぇか」

 「それ言ったのあの女だかんな!嘘八百だぞ!?」

 「…え?あれ嘘だったのか?」

 「……え?って言いたいの、俺なんだが」

 中々カオスな言い合いを始めた2人の会話を遮るようにしてラグドーナは答えた。

 「私も、同意見だ。ということで予定は変更。標的はアメルダ嬢1人に絞る!存分にいたぶると良い」

 「「はい」」

 その会話に真っ青になったのは、リサーシャだった。

 しまった…!この作戦だと私が痛めつけられることはなくても、アメルダはちがうんだった……!
 まずい!こんなの私が望んだ作戦じゃない!
どうしよう、どうしたらいい?
考えるのよ、リサーシャ・キリリア!!
何か良い方法、良い方法……
はっ……!!そうだ!あの手がある!
アニメや漫画でよくあるやつだ。  
 『ここは俺に任せてお前は逃げろ!敵は俺が全て引きつけておいてやる!だからお前はその隙に…』
的なやつだ。まさに今の状況にぴったりじゃない? 
私って天才かもね!
 それから私は、頑張った。

 「観念しな」と言いながら鞭を片手にアメルダに近付く男に体当たりしたのだ。

 「やだーー!アメルダだけず~るぅ~い~!!私も~いたぶられたい~~!!(棒)」

 これは演技なので、どうしても棒読みになってしまった。でも、効果は十分にあったみたい。
男達は「「うおおぉ………まじかー」」と言いながらジリジリと私から後退した。
よし、このまま一気に攻めれば…!
そう思ったリサーシャは、一気に奇襲を仕掛けた。

 「ねぇ聞いてるー?ラグドーナ様ー??ケチケチせずに、私の事もいたぶって欲しいんだけどぉー(棒)」

 「……」

 「……」

 「……」

 おーっと、何だか3人の目が曇ってきたぞ?
これは良い兆候だね。

 「ちょっとーお!聞いてるのーー?私ドMだって言ったでしょーー?ちょっとくらい良いじゃない!」

 「…………………」

 「…………………」

 「…………………」

 今度は死んだ魚の眼になった。
もうその瞳には何もうつしてないように見える。

 「ねぇねぇちょっとー!聞いてるー?あ!放置プレイ!?放置プレイ再降臨なの!?きゃーー!!もう、みんなったらぁ~い、け、ず!」

 すると少し調子に乗ったリサーシャに、鉄槌が降った。

 「うるせーーーーー!黙れこのドMーー!」

すぱーーーん!といい音がしてリサーシャの頭が叩かれた。本日二度目である。

 「きゃーー!!やっぱりドメスティック・バイオレンスよ!DVよ!素敵ーーー!(棒)」

 「もうDVはいいわ!聞き飽きたわ!それよりさっきからなんで棒読みなんだよ!」

 「棒読みじゃなくなったと思ったらまた棒読みに戻るし…なんなんだお前は!!この変態!」

 「…!そ、それほどでもぉ。私より変態な人って石みたいに転がってるし…」

 何故か照れたように返したリサーシャに、男は再び怒鳴る。

 「褒めてねーよ!!!」

 そして、再び頭を叩こうと手を振り上げた。

よしよし、これで完全にアメルダからは気がそれた。
この調子で行けばアメルダは痛めつけられることなく終わるわ!
 そうリサーシャは喜んでいた。
心の中で喜びの舞を踊るほどに喜んでいた。

 しかし、作戦とはそう上手くはいかないものである。
作戦を妨害したのは、なんとアメルダだった。

 リサーシャは自分だけ免れてアメルダが暴力を振るわれそうになったことに顔を青くさせたが、アメルダはその真逆で、むしろ喜んでいた。
 決してアメルダがドMだとかそういうのではない。
単にアメルダは、リサーシャが免れたことが嬉しかったのだ。自分だけで済むならそれでいいとも思っていた。

 が、しかし。
アメルダの気は変わってしまった。
リサーシャに向かって振り上げられた、男の手を見て。

 アメルダのようなお嬢様にとって知らない人に頭を叩かれるというのは大事件なのである。
もっとも、リサーシャもお嬢様なのだが前世があるのでまたそれは別だ。
 だから、アメルダは気が変わったのだ。

 ーーこのままだと、リサーシャが叩かれちゃう!

 危機感を覚えたアメルダは、咄嗟に叫んだ。

 「待って!!!」

 突然声を荒げたアメルダに、男は振り上げた手を下ろした。

 アメルダは安心したが、同時にそれだけでは足りないとも思った。
リサーシャがこの演技を続ける限り、リサーシャが叩かれるリスクはずっと付いて回るだろうから。
だから、今男を止められたとしてもきっと再び彼はリサーシャに手を振り上げる。
そうならないためには、もっと何か決定的な行動が必要だった。。
 だから、アメルダは続けてこう叫んでしまったのだ。

 「実は私も変態なの!ドMなの!!(棒)」

 「「「「………………はぁ???」」」」 



 それから、そこは言葉の戦場へと化した。
リサーシャとアメルダが我こそはとドM宣言を始めたのだ。

 「待って!ぶつなら私を!だって私ドMだから!ご褒美だから!(棒)」

 「そっちこそ待ってよ!私もドMよ!変態よ!?私だってぶたれたいわ!!(棒)」

 「ちょ…ま…」

 「ねぇちょっとラグドーナ様!?結局どっちをいたぶるの!?早く決めてよ!」

 「そうよそうよ!あ、もちろん私よね?だって私はドMだものね!(棒)」

 「何言ってるの私の方がドMよ!(棒)」

 「…………いや、あのですね…」 

 「「で?どっちなの!?どっちをいたぶるの!?」」

 声を揃えて鬼のような形相で問うアメルダとリサーシャに、ラグドーナは顔を引きつらせた。
そして、この状況にかなりストレスを感じ始めていたラグドーナ思わず言ってしまった。

 「いやぁ…出来ればどっちもいたぶりたくないかなぁーなーんて………」

 やった…!この勝負、私たちの勝ちよ!!
思わずアメルダと顔を見合わせて笑い合う。
でも、ラグドーナ達はそんなことにも気がつかない。
気がつくどころか全身から力が抜けたように地べたに這いつくばっている。
「もう嫌だ。ドM、怖い」なんてうわ言まで聞こえる。
どうやら相当疲れたようだ。かわいそうに。
ま、私たちのせいだけどね!

 ってあれ??
私たち、暴力は回避したけど脱出とかには到底及んでなくない?
あれれ?まずいぞ??
このままだとこのクズ男とアルカティーナが婚約しちゃうんですけど!!
仕方ないわ、ここは秘策だった作戦βを使って……

 と、その時だった。

ドゴーーーン!!!と爆発音のようなものが近くで聞こえたと思えば、部屋の扉が開いた。

 でも、妙だ。開いたはいいが、開けた主がどこにも見当たらない。ドアの向こうには人1人見つからなかった。
不思議に思っていると突然、這いつくばっていたラグドーナの真ん前にどでかい土の壁のようなものがいくつも現れた。

 そして、あっと思った次の瞬間。

 「ぐぇっ…」

 その土の壁が倒れ、ラグドーナを押しつぶした。

え?え??何これ?
ナニコレ!!
ラグドーナが潰れたよ!床と土のサンドイッチだよ!
不味そうだよ!
てか、それよりも。
一体全体何でこうなった!?!?
てか、これやったの誰!?
めっちゃ怖いんだけどこの壁!倒れた瞬間砂埃がたったよ?
 
 そして私はその後、知らない間にこの事件が解決へと向かっていたことを知るのだった。
 
 
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 リサーシャ視点終了ーー!カーーン!
リサーシャお疲れ様!もう帰っていいよ!
むしろ帰って!もう場を乱さないで!
そしてアメルダさん。
アメルダさんも、お疲れ様。
すごい演技だったね、棒読みだったけど。
ツンデレも引っ込んでたね、棒読みだったけど。

 さて、シリアスな展開なのにこんなテンションでごめんなさい。
次からはアルカティーナ目線に戻ります!
アルカティーナって、いいですね。
安心感があります。

 さてさて、お話は変わりますが。
スタ◯には裏メニューがあるんですよ!
ご存知でしたか??
私は結構裏メニューが好きで、よく注文します。
オススメです。
皆さんも是非やってみてください!
ネットで裏メニューって調べたら普通に出てくるので!

 

 

 
 


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