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三章

愛の力?

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「こうして愛の力で解決、ってね」

 どう反応すべきか迷っていると、ルージェが茶化すようにそう口にした。なんだ愛の力とは……。

「あ、ああああ愛の力って何よ!? そんなんじゃないもん!」

 そう反論しようとしたのだが、その前にスティアが反応した。それも、ものすごく慌てながら。
 言葉の内容自体は俺としても同じ意見だが、その反応はどうなのだ? それではまるで肯定しているように思えるのではないだろうか?

 事実、ルージェはそうとったようで、ニヤニヤと楽しげに笑いながらコチラを見ている。

「でも、告白はしたんでしょ?」
「してないし! ……して、ない……よね?」

 ルージェからかけられた馬鹿げた言葉に、スティアはすぐさま否定を口にしたが、何か思うところがあったのだろうか。少し考えた様子を見せた後、ゆっくりとこちらに振り返りながら問いかけてきた。
 全く、何をそんな考える必要があるというのだ。告白などしていないしされていない。それは間違いなく事実であろうに。

「不安になるくらいならはっきりと断言すべきではないと思うのだがな。まあ、確かに告白はされていないな。何を思ってお前はそう考えたのだ?」
「え? だって言葉の端々からそう言う雰囲気が出てたよね? 付き合ってるとかそう言うわけではないけど、その手前というか、お互いの好意は確認した、みたいな雰囲気が感じられたんだけど?」

 なんだそれは。単なる雰囲気を感じ取ったと言われても、こちらとしては困る。何せ、そんな事実はないのだから。
 男女がそれなりに危険がある旅を共に続けていれば、似たような雰囲気になるのではないか?

 だが、まあ敢えてそれらしいことを挙げるとしたら、ないわけではないか。

「……愛を告げられたわけではないと言う事実は変わらないが、確かに似たようなことはあったか」
「やっぱりあったんだね」
「は、はあ!? い、いつの話よ! 勝手に妄想で物語をつくんないでよね!」

 俺の呟きを拾ったルージェは楽しそうに笑い、スティアは驚きに目を丸くして顔を赤く染めて叫んだ。

「妄想ではなく事実だな。いつなのかと言われたら、お前を助け出した直後だ。確か、軽い猥談となった際に、俺の手を取って自身へと引き寄せて言っただろう。自分に魅力を感じるか、と」

 あの時は売り言葉に買い言葉、と言った状態ではあったが、もし俺が受け入れて一線を超えていたら俺たちの関係は変わっていたかもしれない。

 結果として受け入れなかったわけだが、あれを告白ととるのであればそうなのだろう。事実、あの前と後では態度に変化があったようにも思える。

「……あ。……えー。そんなことあったっけー?」

 スティアはそう誤魔化すように言っているが、本人も思い出したのだろう。その表情は恥ずかしげに歪められ、俺たちではなく別の全く関係ない方向へと向けられている。

 とはいえ、この話をこれ以上掘り返しても面白い結果にはならないだろ。いや、ルージェからすると面白いかもしれないが、当事者としてはさっさと終わらすに限る。

「あったのだ。まあ、お互いに本気で愛を告げたわけでもなし、気にすることでもないだろう」
「……そうね! 気にしない気にしない! それじゃあお肉を求めて狩りを再開しましょっか!」
「再開とは言うが、今日のは三人での連携も兼ねているのだと理解しておけ」
「はいはーい」

 俺の言葉にスティアも乗り、その話はそこで流れることとなり、俺たちは改めて狩りを再開することとなった。

「はたから見てると、どう見ても、って感じなのにね」

 歩き出した俺たちの背後からそんなルージェの呟きが聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
 何せ、俺は平民でこいつは王女なのだ。立場が違う。それは貴族社会にとってとても重要な意味を持つのだから。
 少なくとも、現状で俺達が男女の仲に発展することはあり得ないと断言できる。

 ——◆◇◆◇——

「なんかいい感じにお肉が集まったわね」

 しばらく狩りを続けて三人で戦う場合の連携……とまではいかずとも、お互いの動きを阻害しない程度には戦えるようになったところで今日は引き上げようとなったのだが、狩った獲物はそれなりの量になっていた。

 積み重なる獲物を見てスティアは満足げに頷いているが、一体これだけとってどうするというのだ。

「いい感じというよりも、取りすぎではないかと思うのだがな。これだけとったところで、全てを持ち帰るなどできんだろう」

 山となっている獲物たちは、全部で十頭ほどいる。その全てが両手で抱えるようなサイズなのだから、俺たち三人だけで全てを持っていくというのは不可能だ。

「え? いやいや、何言ってんのよ。できるでしょ?」
「どうやってだ?」
「どうって……こうやって?」

 スティアはさも当然のように歩き出し獲物の山へと手を伸ばすと、そのうちの一つを掴んで軽々と持ち上げて見せた。
 棒のようにまっすぐ硬いものではないので、持ち上げると正面以外からではスティアの姿が見えなくなるが、それでも持ち上げることができていることに変わりはない。

「……忘れていたな。そうか。そういえばお前は怪力だったな」
「私が怪力なんじゃなくって、獣人ではこれくらい普通なのよ」

 確かに獣人は総じて肉体的な力が強いが、だからと言ってこれほど易々と持ち上げることができるほどだったか?

「ボクが知ってる獣人はそんなに強くなかったけどね」
「えー? その人が弱かっただけなんじゃないの?」
「十人以上観察して全員が弱かったっていうの?」
「え、十人? えーっと、きっとそうよ!」

 ルージェの言葉を肯定しているが、その目が泳いでいるのでおそらくは違うのだろう。
 これまで普通の獣人とまともに接したことはなかったからよくわからないが、スティアは特別枠だと考えるべきだろうな。

「まあ、いいけどね、それでも」

 スティアの言葉に肩をすくめ、ルージェはそれ以上追求しないことにしたようだ。

「怪力なのは理解したし、蔦などで縛れば全て運べそうではあるが……本気で全てを運ぶつもりか?」

 力があるのであれば、引きずることになるが全てを運ぶことも不可能ではないだろう。だが、それを本当にやるのかと言ったら、普通はやらない。

「もっちろん! せっかくの獲物を捨てるなんてことできないでしょ」

 狩った命を無駄にしないという意味では良いことなのだが、やはりあまりにも目立ちすぎるだろうと思う。

「っというわけで! みんなでなんか縛るものを探しましょーう!」

 そう楽しげに叫んだスティアだが、そうそう蔦など落ちているものでもない。いや、あるにはある。だが、それを使って獲物を運ぶことができるかと言ったらできない。蔦では弱すぎるのだ。いくらこの樹林が魔力によって以上生長した場所とはいえど、それでも探すのは難しいだろう。

「ルージェ。こういう時に何か持っていないのか?」

 こいつはいろんな道具を持っており、無駄に準備がいい時があるのはこれまでの短い間だが分かっている。
 なので今回も何かしらの道具を持っていないかと思い問いかけてみたのだが、一瞬も迷うことなく首を横に振られてしまった。

「今荷物持ってると思う? 多少はあるけど、あれを全部縛るような量のロープなんてないよ」
「まあ、そうだろうな」

 ルージェの回答は半ば予想したものだった。旅の間は役に立ったとはいえ、今のルージェはほぼ無手と言ってもいいような軽装だ。武器は魔創具があるから問題ないだろうが、それだけだ。
 そんな状態で何か役に立つものを、と言われたところで用意できるわけがない。

「ボクよりも、そっちはどうなのさ。ご自慢のテーブルクロスをこよってロープとして使えばいいんじゃないの?」
「テーブルクロスではなくマントだ。だが、確かにそれでいけるか」

 確かに、俺のマントであればそれなりに丈夫だし、この程度の獲物であれば縛って引きずったところで千切れることなくことを運べるだろう。

 ではとりあえず試しに一つやってみるかと新たにマントを取り出したところで……

「そこの人! 退がって!」

 突如、女の叫びが聞こえてきた。
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