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女神探しの旅
もう一つの方法
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「コ、コーデリア!? どうしたのですか! 一体何が!?」
「どうした!?」
自身が捕まっていた時の記憶を取り戻してしまったことによって突然絶叫し出したコーデリア。
しかし自身の魔法による封印——呪いの解除が原因だとはわからないアーシェはただ困惑するばかりだ。
そして、その叫びを聞いてアキラが最後の見回りから慌てて戻ってきた。
「アキラ様! コーデリアが!」
そんなアキラの声を聞いたアーシェだが、彼女はどうすればいいのかわからないようで、今にも泣き出しそうなほどに顔を歪めてアキラを見た。
(状況はよくわからないがとりあえず……)
「眠っとけ!」
アキラはこの場に着いたばかりで何が起きたのかわかっていなかったが、それでもコーデリアが何か苦しんでいたのはわかった。
なので、状況を落ち着かせるためにもまずはコーデリアを眠らせることが最善だと判断して眠りの魔法をかけた。
「アアアアアア! アアア、あ──」
「ふうううぅぅぅ……一体何があったってんだよ」
コーデリアを眠らせたことでその場は一応の静寂を取り戻したが、場の空気も状況も、もう戻らない。
「アーシェ」
アキラはそのばで事情を知っていそうなアーシェへと声をかけたが、アーシェはアキラに名前を呼ばれた瞬間にびくっと体を震わせ、怯えた様子を見せた。
「何があった?」
そんなアーシェの態度に訝しにながらも、アキラは問いかける。
「それは……」
なんとなくではあるが、コーデリアが落ち着いた今、改めて考えたことによってアーシェは何が原因であんなことが起こったのかを察していた。
つまり、自分のせいである、と。
そのことを言おうとして、でも途中まで口は開くのだがどうしても先の言葉が出ない。
故にアーシェはぱくぱくと口を開閉するだけとなってしまった。
何かを言おうとしているアーシェの様子から、何も事情を知らないわけではないとアキラは判断した。
だが、その場合はなんで話さないのかがわからない。
よほど言い難い何かがあったのか? と考え、アキラはひとまずはコーデリアの状態について調べようと判断してその体を調べ始めたのだが……。
「お前、アレを解いたのか?」
アキラとしては普通に問いかけたつもりだったのだろう。
だが、その声を向けられたアーシェからすれば、それは静かながらも怒りの籠もった恐ろしいものだった。
(……確かに消えてる。結構強めにかけたはずだったんだが……)
アキラはコーデリアの想いを受け入れるつもりはなかったが、助けたことで、そしてその後のやり取りで多少なりとも情は湧いていた。
そんな助けたはずの少女に再び悪夢よりもよほどひどいの現実を見せ、苦しめた相手に自身でも知らないうちに怒りを抱いていたのだ。
「わ……わ、私は、何をしてしまったのですか? この子の中にあったのはなんだったのですか? あなたは知っているのですよね? いったい、コーデリアに何が……」
その言葉と状況からして、彼女が誤って封印を解いたのだろうとアキラは判断した。
どう間違えたのか、何をするつもりだったのかはわからないが、それでも聖女なんて呼ばれる力の持ち主ならば不可能ではないだろう。
アーシェの態度からして、悪意があってのことではない。
そう思い至ると、アキラは一度舌打ちをしてから深呼吸をしてアーシェの方を向いた。
「彼女には……」
そしてコーデリアのみに何があったのかを花そうと口を開いたアキラだが、その言葉は途中で止められると、アキラは首を横に振った。
「いや、それは彼女の父親から聞いてくれ」
「ですが……」
「そんなことよりも、今はコーデリアを家に運ぶこととこの場を収めることの方が大事だ。丁度馬車もきたし、俺はコーデリアを家まで運ぶ。この場の収拾は任せてもいいか?」
今の叫びを聞いて人が集まってくるだろうし、そうでなくても襲撃になんてあったのだ。当然ながら警邏の兵士達がやってくる。
今はアキラの魔法によって眠っているコーデリアだが、そんなものに捕まって時間を取られてはそのうち起きてしまう。
そうなればその時はまた当時のことを思い出して泣き叫ぶだろうことは想像に難くない。
故にすぐにでもこの場を離れたいのだが、この場の後始末をせずに去ればそれはそれで問題が出る。
なのでその後始末を、今日この場であった炊き出し会の責任者の一人であり、聖女でもあるアーシェに任せることにしたのだ。
「……わ、私は……」
「しっかりしろよ聖女。何があったのか知りたいんなら、さっさとこの場を収めてコーデリアの家に来い。俺からは話せないが、その口利きくらいはしてやる」
アキラがそう言うと、アーシェは口をギュッときつく結んでゆっくりと頷いた。
「……はい。この場はお任せください。もう失敗などしません。ですからあなたはコーデリアのことをお願いします」
「ああ」
「コールダー伯! いないか!」
アキラはコーデリアの呼んだ馬車を使い彼女を家へと連れて行くと、すぐさまコーデリアを抱き抱えて屋敷の中へと入り、コーデリアの父親でありこの家の当主でもあるコルドラを呼ぶべく叫んだ。
「どなたで──お嬢様!?」
「貴様、お嬢様に何をした!」
突然の騒ぎに屋敷にいた者達は慌てて玄関へと駆けつけるが、駆けつけた使用人はアキラの抱いているコーデリアを見ると殺気立った。
アキラはコーデリアとコルドラの両方と知り合いだが、この場所に来たことはないのだから仕方がない。
「コルドラ・コールダー! すぐに出てこい!」
しかし、アキラはそんなことはどうでもいいと判断し、さらに叫び、コルドラを呼び出す。
すると、わずか後に上階が騒がしくなってきた。
「旦那様! お待ちください!」
どうやらコルドラはやってきたものがアキラなのだと気づいたらしい。
「アキラくん!? どうし──コーデリア!」
あまり付き合いがあるわけではなかったが、それでもアキラがこのような無礼をするのには理由があるのだろうと思っていたコルドラだが、アキラの抱えているコーデリアを見た瞬間に顔色を変えた。
「コーデリア! おい、コーデリア!」
アキラの腕の中で意識を失っている娘に駆け寄り、縋りついたコルドラは必死になって娘に呼びかけるが、アキラの魔法によって眠らさられたコーデリアはその程度では起きることはない。
「説明は後ほどいたします。まずは彼女を寝かせられる場所へお願いします」
「あ、ああ……」
アキラの言葉を聞いて、コルドラは混乱しながらもなんとか頷くとノロノロと立ち上がりその場にいた使用人達に指示を出し始めた。
混乱しながらもしっかりと指示を出すことができる辺りはさすが貴族家の当主と言ったところだろう。
そしてアキラは自身のことを険しい目つきで見てくる使用人たちにコーデリアのことを任せ、自身はコーデリアの父親であるコルドラと話すことにした。
「まずは先ほどの言葉失礼しました。緊急時だった故、ご容赦いただけると幸いです」
「そんなことはどうでもいいが、娘はどうしたんだ? それになぜ君がいる? 何があったんだ?」
「私は本日教会主導の炊き出しに食糧支援者として参加していたのですが、そこでお嬢様とお会いしました。ですが最後に我々を狙った賊に襲撃を受け、その時負った怪我の治療によって怪我を治すとともに、以前私のかけた記憶の封印が解かれました。今は薬で眠らせましたが、起きれば当時の記憶を思い出すことになります。そうなれば彼女がどうなるかはわかりませんが、先ほど封印が解けた瞬間の様子からするとおそらくは…………発狂するかと」
「そんなっ……! どうしてそんなことにっ……!」
戻ってきたはずの娘が、助かったはずの娘にもう一度悪意が襲いかかることになるのだと理解したコルドラは、絶望したような表情になって俯いた。
どうすれば、どうすればどうすれば——。
そんなふうに悩んだコルドラは、だがハッと顔を上げてアキラを見つめた。
そういえば自分の前にはどうにかしてくれる存在がいるではないかと。
「も、もう一度……もう一度封印をかけることはできないのか!?」
そして、縋り付くようにアキラへと問いかける。
「……できなくもないでしょう」
アキラもそのことを予想していたのだろう。
ふぅ、とわずかに息を吐き出した後、コルドラに向かってそういった。だが、その言葉は肯定しているもののどこか違和感を感じさせるものだった。
「なら!」
「ですが、一つ問題があります」
希望に飛び付こうと椅子から立ち上がって叫んだコルドラ。
そんな彼を制止するようにアキラはもう一度座るようコルドラに示した。
「一度封印が強引に解かれたことで、次はしっかりと封印できるのか怪しいということです。ちょっとした機会で封印が解けることもありるかもしれませんし、全ての記憶を完全に封じることができないかもしれません」
「そんな……」
娘を助けられると思った矢先に再び絶望を押し付けられたことで、コルドラは唇を噛み締めた。
コルドラの口の中に血の味と痛みが広がるが、それでも唇を噛むのをやめなかった。止めてしまえば、自分がどうするのか、どうなるのかわからなかったから。
痛みを感じているからこそ、自分はまだなんとか落ち着いて思考することができている。そのことをコルドラは頭の隅で理解していた。
彼にとってはそんなことを冷静に考えていて感情のままに動けない自分がいることが悔しいと思っていたが。
ある程度落ち着くと、コルドラは再度アキラに問うた。
「……本当に、方法はないのか? 封印じゃなくて、完全に消し去ることは、できないのか?」
「それは……」
コーデリアの記憶をどうにかする方法。それ自体は存在している。
だが、アキラはそれを知りながらも言おうか言うまいか悩んでしまった。
「頼む。……頼む。何か、何か方法があるなら……」
言い淀んだアキラの様子を見て、何か方法があるのだと察したコルドラはおぼつかない足取りで、だが一歩一歩確実にアキラへと歩み寄りながらそう口にしていた。
だが……。
「旦那様。お客様がお見えです」
コルドラが最後まで言う前に使用人がそう口にし、主人を止めた。
「ああ……来たのか」
「誰だ?」
アキラはアーシェが来ることを分かっていたが、そのことはまだ聞いていなかったコルドラは現れたアーシェを不思議そうに見ている。
「聖女です。現場に一緒にいました。そして、怪我の治療とともに封印を解いた者です」
「——お、お前がっ……!」
だが、アキラの言葉を聞いた瞬間にコルドラは聖女という、ともすれば自身よりも立場のある相手だと言うのも忘れて睨み、怒鳴った。
「……いや、失礼いたしました、聖女様……」
だがそれもほんのわずかな間のことで、貴族としてのコルドラの意識がまずいと判断して、ハッと意識を戻すと深々と頭を下げた。
「……いえ。頭を上げてください。あなたの怒りはもっともです。全て、私の責任ですから」
その後はコルドラはアーシェにも席を勧めて、もう一度簡単な状況の説明、そして——コーデリアの記憶について話した。
「なんとか、ならないのですか? 一度はできたのでしょう? ならば今回も……!」
その話を聞いたアーシェは自身のやらかしたことに顔を青ざめさせつつ、先程のコルドラと同じようにアキラに縋り付くように問う。
「……あまり、やりたくなかった方法だけど……」
アキラはそう小さく呟くと、軽く息を吐き出してから二人へと視線を向けた。
「——一つだけ、方法があります」
そして、アキラは覚悟を決めてはっきりとそう告げた。
「どうした!?」
自身が捕まっていた時の記憶を取り戻してしまったことによって突然絶叫し出したコーデリア。
しかし自身の魔法による封印——呪いの解除が原因だとはわからないアーシェはただ困惑するばかりだ。
そして、その叫びを聞いてアキラが最後の見回りから慌てて戻ってきた。
「アキラ様! コーデリアが!」
そんなアキラの声を聞いたアーシェだが、彼女はどうすればいいのかわからないようで、今にも泣き出しそうなほどに顔を歪めてアキラを見た。
(状況はよくわからないがとりあえず……)
「眠っとけ!」
アキラはこの場に着いたばかりで何が起きたのかわかっていなかったが、それでもコーデリアが何か苦しんでいたのはわかった。
なので、状況を落ち着かせるためにもまずはコーデリアを眠らせることが最善だと判断して眠りの魔法をかけた。
「アアアアアア! アアア、あ──」
「ふうううぅぅぅ……一体何があったってんだよ」
コーデリアを眠らせたことでその場は一応の静寂を取り戻したが、場の空気も状況も、もう戻らない。
「アーシェ」
アキラはそのばで事情を知っていそうなアーシェへと声をかけたが、アーシェはアキラに名前を呼ばれた瞬間にびくっと体を震わせ、怯えた様子を見せた。
「何があった?」
そんなアーシェの態度に訝しにながらも、アキラは問いかける。
「それは……」
なんとなくではあるが、コーデリアが落ち着いた今、改めて考えたことによってアーシェは何が原因であんなことが起こったのかを察していた。
つまり、自分のせいである、と。
そのことを言おうとして、でも途中まで口は開くのだがどうしても先の言葉が出ない。
故にアーシェはぱくぱくと口を開閉するだけとなってしまった。
何かを言おうとしているアーシェの様子から、何も事情を知らないわけではないとアキラは判断した。
だが、その場合はなんで話さないのかがわからない。
よほど言い難い何かがあったのか? と考え、アキラはひとまずはコーデリアの状態について調べようと判断してその体を調べ始めたのだが……。
「お前、アレを解いたのか?」
アキラとしては普通に問いかけたつもりだったのだろう。
だが、その声を向けられたアーシェからすれば、それは静かながらも怒りの籠もった恐ろしいものだった。
(……確かに消えてる。結構強めにかけたはずだったんだが……)
アキラはコーデリアの想いを受け入れるつもりはなかったが、助けたことで、そしてその後のやり取りで多少なりとも情は湧いていた。
そんな助けたはずの少女に再び悪夢よりもよほどひどいの現実を見せ、苦しめた相手に自身でも知らないうちに怒りを抱いていたのだ。
「わ……わ、私は、何をしてしまったのですか? この子の中にあったのはなんだったのですか? あなたは知っているのですよね? いったい、コーデリアに何が……」
その言葉と状況からして、彼女が誤って封印を解いたのだろうとアキラは判断した。
どう間違えたのか、何をするつもりだったのかはわからないが、それでも聖女なんて呼ばれる力の持ち主ならば不可能ではないだろう。
アーシェの態度からして、悪意があってのことではない。
そう思い至ると、アキラは一度舌打ちをしてから深呼吸をしてアーシェの方を向いた。
「彼女には……」
そしてコーデリアのみに何があったのかを花そうと口を開いたアキラだが、その言葉は途中で止められると、アキラは首を横に振った。
「いや、それは彼女の父親から聞いてくれ」
「ですが……」
「そんなことよりも、今はコーデリアを家に運ぶこととこの場を収めることの方が大事だ。丁度馬車もきたし、俺はコーデリアを家まで運ぶ。この場の収拾は任せてもいいか?」
今の叫びを聞いて人が集まってくるだろうし、そうでなくても襲撃になんてあったのだ。当然ながら警邏の兵士達がやってくる。
今はアキラの魔法によって眠っているコーデリアだが、そんなものに捕まって時間を取られてはそのうち起きてしまう。
そうなればその時はまた当時のことを思い出して泣き叫ぶだろうことは想像に難くない。
故にすぐにでもこの場を離れたいのだが、この場の後始末をせずに去ればそれはそれで問題が出る。
なのでその後始末を、今日この場であった炊き出し会の責任者の一人であり、聖女でもあるアーシェに任せることにしたのだ。
「……わ、私は……」
「しっかりしろよ聖女。何があったのか知りたいんなら、さっさとこの場を収めてコーデリアの家に来い。俺からは話せないが、その口利きくらいはしてやる」
アキラがそう言うと、アーシェは口をギュッときつく結んでゆっくりと頷いた。
「……はい。この場はお任せください。もう失敗などしません。ですからあなたはコーデリアのことをお願いします」
「ああ」
「コールダー伯! いないか!」
アキラはコーデリアの呼んだ馬車を使い彼女を家へと連れて行くと、すぐさまコーデリアを抱き抱えて屋敷の中へと入り、コーデリアの父親でありこの家の当主でもあるコルドラを呼ぶべく叫んだ。
「どなたで──お嬢様!?」
「貴様、お嬢様に何をした!」
突然の騒ぎに屋敷にいた者達は慌てて玄関へと駆けつけるが、駆けつけた使用人はアキラの抱いているコーデリアを見ると殺気立った。
アキラはコーデリアとコルドラの両方と知り合いだが、この場所に来たことはないのだから仕方がない。
「コルドラ・コールダー! すぐに出てこい!」
しかし、アキラはそんなことはどうでもいいと判断し、さらに叫び、コルドラを呼び出す。
すると、わずか後に上階が騒がしくなってきた。
「旦那様! お待ちください!」
どうやらコルドラはやってきたものがアキラなのだと気づいたらしい。
「アキラくん!? どうし──コーデリア!」
あまり付き合いがあるわけではなかったが、それでもアキラがこのような無礼をするのには理由があるのだろうと思っていたコルドラだが、アキラの抱えているコーデリアを見た瞬間に顔色を変えた。
「コーデリア! おい、コーデリア!」
アキラの腕の中で意識を失っている娘に駆け寄り、縋りついたコルドラは必死になって娘に呼びかけるが、アキラの魔法によって眠らさられたコーデリアはその程度では起きることはない。
「説明は後ほどいたします。まずは彼女を寝かせられる場所へお願いします」
「あ、ああ……」
アキラの言葉を聞いて、コルドラは混乱しながらもなんとか頷くとノロノロと立ち上がりその場にいた使用人達に指示を出し始めた。
混乱しながらもしっかりと指示を出すことができる辺りはさすが貴族家の当主と言ったところだろう。
そしてアキラは自身のことを険しい目つきで見てくる使用人たちにコーデリアのことを任せ、自身はコーデリアの父親であるコルドラと話すことにした。
「まずは先ほどの言葉失礼しました。緊急時だった故、ご容赦いただけると幸いです」
「そんなことはどうでもいいが、娘はどうしたんだ? それになぜ君がいる? 何があったんだ?」
「私は本日教会主導の炊き出しに食糧支援者として参加していたのですが、そこでお嬢様とお会いしました。ですが最後に我々を狙った賊に襲撃を受け、その時負った怪我の治療によって怪我を治すとともに、以前私のかけた記憶の封印が解かれました。今は薬で眠らせましたが、起きれば当時の記憶を思い出すことになります。そうなれば彼女がどうなるかはわかりませんが、先ほど封印が解けた瞬間の様子からするとおそらくは…………発狂するかと」
「そんなっ……! どうしてそんなことにっ……!」
戻ってきたはずの娘が、助かったはずの娘にもう一度悪意が襲いかかることになるのだと理解したコルドラは、絶望したような表情になって俯いた。
どうすれば、どうすればどうすれば——。
そんなふうに悩んだコルドラは、だがハッと顔を上げてアキラを見つめた。
そういえば自分の前にはどうにかしてくれる存在がいるではないかと。
「も、もう一度……もう一度封印をかけることはできないのか!?」
そして、縋り付くようにアキラへと問いかける。
「……できなくもないでしょう」
アキラもそのことを予想していたのだろう。
ふぅ、とわずかに息を吐き出した後、コルドラに向かってそういった。だが、その言葉は肯定しているもののどこか違和感を感じさせるものだった。
「なら!」
「ですが、一つ問題があります」
希望に飛び付こうと椅子から立ち上がって叫んだコルドラ。
そんな彼を制止するようにアキラはもう一度座るようコルドラに示した。
「一度封印が強引に解かれたことで、次はしっかりと封印できるのか怪しいということです。ちょっとした機会で封印が解けることもありるかもしれませんし、全ての記憶を完全に封じることができないかもしれません」
「そんな……」
娘を助けられると思った矢先に再び絶望を押し付けられたことで、コルドラは唇を噛み締めた。
コルドラの口の中に血の味と痛みが広がるが、それでも唇を噛むのをやめなかった。止めてしまえば、自分がどうするのか、どうなるのかわからなかったから。
痛みを感じているからこそ、自分はまだなんとか落ち着いて思考することができている。そのことをコルドラは頭の隅で理解していた。
彼にとってはそんなことを冷静に考えていて感情のままに動けない自分がいることが悔しいと思っていたが。
ある程度落ち着くと、コルドラは再度アキラに問うた。
「……本当に、方法はないのか? 封印じゃなくて、完全に消し去ることは、できないのか?」
「それは……」
コーデリアの記憶をどうにかする方法。それ自体は存在している。
だが、アキラはそれを知りながらも言おうか言うまいか悩んでしまった。
「頼む。……頼む。何か、何か方法があるなら……」
言い淀んだアキラの様子を見て、何か方法があるのだと察したコルドラはおぼつかない足取りで、だが一歩一歩確実にアキラへと歩み寄りながらそう口にしていた。
だが……。
「旦那様。お客様がお見えです」
コルドラが最後まで言う前に使用人がそう口にし、主人を止めた。
「ああ……来たのか」
「誰だ?」
アキラはアーシェが来ることを分かっていたが、そのことはまだ聞いていなかったコルドラは現れたアーシェを不思議そうに見ている。
「聖女です。現場に一緒にいました。そして、怪我の治療とともに封印を解いた者です」
「——お、お前がっ……!」
だが、アキラの言葉を聞いた瞬間にコルドラは聖女という、ともすれば自身よりも立場のある相手だと言うのも忘れて睨み、怒鳴った。
「……いや、失礼いたしました、聖女様……」
だがそれもほんのわずかな間のことで、貴族としてのコルドラの意識がまずいと判断して、ハッと意識を戻すと深々と頭を下げた。
「……いえ。頭を上げてください。あなたの怒りはもっともです。全て、私の責任ですから」
その後はコルドラはアーシェにも席を勧めて、もう一度簡単な状況の説明、そして——コーデリアの記憶について話した。
「なんとか、ならないのですか? 一度はできたのでしょう? ならば今回も……!」
その話を聞いたアーシェは自身のやらかしたことに顔を青ざめさせつつ、先程のコルドラと同じようにアキラに縋り付くように問う。
「……あまり、やりたくなかった方法だけど……」
アキラはそう小さく呟くと、軽く息を吐き出してから二人へと視線を向けた。
「——一つだけ、方法があります」
そして、アキラは覚悟を決めてはっきりとそう告げた。
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