外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―

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女神探しの旅

ルークの決闘

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「そもそも、なんであなたがそんなに止めてくるのですが? 自己責任でしょう?」
「ガキが死ぬのをミスミス放っておけるかよ」
「立派ですね。ですが、大丈夫です。死にませんから」
「だから! それは魔物を舐めすぎだってんだよ! てめえらはいいかもしんねえがな、そっちのガキはどう──」
「それも含めて、大丈夫だって言ってるんです」

 子供が外に行くことを心配して止めようとしていた男だが、あまりにもアキラが世間知らずで、魔物がいかに危険かわかっていないような態度をしているせいで、男は目の前にいる聞き分けのない子供に対してつい怒鳴り声を上げてしまう。
 だがそんな苛立っている男と同じで、アキラもまた男に対して苛立っていた。
 それ故にその男の言葉を遮り、アキラは今までよりもはっきりと告げる。

「ルークは、あなたよりも強いですよ」
「な──ハッ! 調子に乗んのもそこまでくりゃあ一級品だ! なら試してやろうじゃねえか。俺に攻撃を通すことができたら認めてやらあ。もちろん守りはするが、俺からは手を出さねえ」

 男はアキラの言葉に一瞬だけ理解できないとでもいうかのように驚いたが、すぐに単なる虚勢、戯言だと判断してそう提案した。

(こいつらは子供たちの中での喧嘩で勝ってきて自分が強えと思ってんだろうが、世界を知らなすぎる。街の外にいる魔物はガキの喧嘩どころじゃねえ。俺に負けりゃあ無理だってことを理解すんだろ)

 とは言え、流石に自分は冒険者の中でもそれなりだと自負している男は、自分から斬りかかるつもりはなかった。そんなことをしてしまえば軽くあしらうどころか、大怪我をさせてしまうかもしれないから。

 だがアキラはそんな男の言葉に対して片手を頭に当てながら困ったように顔を顰めていた。

「やる必要がないといえばそこまでなんだけど……どうする?」

 別にアキラは男に認めてもらえなくてもいいのだ。認めてもらえなかったところで特に行動に制限がかかるというわけではないし、本来であれば男にはアキラ達のやることに口を出す権利などないのだから。

 だが、それでも明がルークにどうするか尋ねたのは、男がいい訓練相手になると思ったからだった。もちろんアキラの、ではなくてルークの、ではあるが。

「やる! 僕だって強いんだってところを見せるんだ!」
「そうか。……じゃあ、やるそうなので、さっさと始めましょうか」

 アキラに問われたルークは、先ほどアキラからウダルよりも下に見られたことでいいところを見せようとしているのか、それともただ鬱憤が溜まっているのか、やる気を漲らせて元気よく返事をした。

「……ここじゃねえ。移動するぞ」

 そんなまったく警戒した様子も心配した様子もないアキラのルークのやりとりに、男はどこかおかしなものを感じたが、所詮相手は子供。今のは自分の気のせいだと考え直して歩き出し、そんな男の後を追ってルークは歩いていった。

「なんか大事になったな」
「大事になったというより、アキラが大事にしたのよ、多分」

 そしてその場のやりとりを見ていたウダルは眉を寄せてため息を吐きながら歩き出したルークのことを見ていたが、その隣で侍っていたエリナはそんなふうに自分の考えをウダルへと告げた。

「えっ……そうなのか!?」

 そんな驚きの声を上げながらアキラへと視線を送ったウダル。そんな彼の視線を受けて、アキラは一瞬だけ迷ってから答えることにした。

「ん、まあな。ほら、ここでルークのこと知らしめるというか、一度知って貰えば、この間みたいに俺がいない間もルークを気にかけてくれる奴がいるかもしれないだろ? そうなれば色々と安全だな、と」
「はあ~……相変わらずお節介だな」
「かもしれないけど、歳を考えるとそうでもないだろ」
「ああ……まだ十歳になってないんだったか。なら仕方がないか」

 ウダルはアキラが見た目通りの年齢ではないから一緒にいるルークもアキラと同類だと勘違いしていたが、実際にはまだ十にすらなっていない。
 それを思い出したウダルは、過保護になっても仕方がないかと思い直して肩を竦めた。

「アキラ! 何してんのさ。早く!」

 自分の後ろに誰もついてきていないことに気がついたルークが大声をだしてアキラを呼んだ。

「呼んでるぞ。行くとするか」
「だな」

 ルークの言葉を聞いてアキラの肩を叩きながら歩き出したウダル。
 その後を追おうとアキラが足を踏み出したところで、エリナから小さな声で話しかけられた。

「冒険者達に教えるのは、ルークのことだけじゃないんでしょ?」

 そう。エリナの言った通り、アキラは自分たちと一緒にいるウダルのことも冒険者たちに覚えさせようとしていた。それはいつかウダルがこの街で依頼を受ける様になったときに、きっと役に立つと思うから。
 だがアキラはエリナの言葉に答えることなく、代わりに軽く肩を竦めるとウダルの後を追うように歩き出した。



「ここは訓練場だ。そんなに広くはないが、十分だろ」

 先導する冒険者の男の後を追ってたどり着いたのはそれなりの広さがある場所だった。
 ここは冒険者組合に併設されている訓練場。流石に東京ドーム何個分、というほど大きなものではないが、それでも十組程度なら訓練するには十分な広さだ。

 そんな訓練場の隅、ほかの冒険者たちの邪魔にならない位置で止まった男は、壁際に立てかけてあった木剣を手にすると、アキラたちへと振り返った。

「じゃあ、俺と戦ってもらうぞ。俺がお前達に勝ったら、お前達は成人するまで魔物と戦おうとするな」
「こっちが勝ったら?」
「その時は何も言わねえ。好きにすればいい」

 男はそう言いながら壁から離れながらそう宣言したが、アキラはそれに納得できないでいた。

「ちょっと待ってください。それだとこっちは割りにあってないのでは? そもそも受ける必要も無いのに、あなたのわがままを聞いて戦ってあげるんです。それなのにこっちは負けると行動に制限がかかり、そっちが負けてもリスクなし。これが公平と言えますか?」

 これからの戦いが自分のわがままと言われ、男は少し不機嫌そうに眉を動かしてアキラを見つめたが、その言葉には一理あるとも思ってしまいすぐには答えることができなかった。

「……ならどうする。そう言ったからには何か望むものがあるんだろ?」
「ええ。ルークが勝ったら、ルークが成人するまでの間、何か頼み事をしてきたら叶えてください」
「あ? 成人するまでだと? ……要は面倒をみろってことか?」

 成人するまで頼み事をきけというのは、何か問題を起こしたらその後始末に付き合えということだと判断した男はそう言ったが、アキラはそんな男の言葉に首を振った。

「そこまでは言いませんよ。何があっても自己責任。それが冒険者ですから。ただ、頼ることのできる何かがあるのと無いのでは、全然違いますから」

 そう言ったアキラの表情は優しげで、とてもではないが子供がする様なものではなかった。
 それはまるで、親や歳の離れた兄がする様なもの。

 そんなアキラの様子に違和感を感じた男はわずかに狼狽ながらもアキラとルークに交互に視線を送った。

「お前は……」
「あ、俺が勝った場合は特に何もなしでいいです。どうせ勝ちますから」
「………………そうかよ」

 何かを尋ねようとした男だが直後に言われたアキラの言葉によって黙り込んでしまい、その後、小さくそっけない返事をした。

(これだけ煽っておけば多少は冷静さが消えてルークが戦いやすくなるだろ)

 アキラは難しい顔で黙り込んでしまった男のことを怒りのせいだと判断したが、実際には違う。
 怒りも、ないわけではない。だが男が黙り込んでしまった感情の本質は──恐怖。
 見た目と態度がかけ離れているアキラの姿は、男の目にはとても不気味に映っていた。

 それでも男が引かないのは、確たる考えになっていない自分の感覚が信じきれずにいたからだ。
 冒険者たるもの、自身の感覚は信じなければならない。……が、だからと言って常識を捨てられるわけでもない。
 男の中では今、目の前にいる子供は不気味な存在だという感覚と、単なる世間知らずな子供だという常識が鬩ぎ合っている状態だ。

 怒りで状況判断を誤らせるというアキラの目論見通りにはいきそうもないが、動きを阻害するという狙いは果たせそうだった。

「では先にルークと戦ってもらいます。まあ、先も何も、ルークとの一戦だけで終わると思いますけど」

 男と同じ様に壁際から武器を持ってきたルークが戻ってきたのを見て、アキラは駄目押しとばかりに笑みを浮かべながら挑発をするが、男には今更意味がない。

 むしろ、アキラがニヤリと口元に弧を浮かべて笑っているせいで余計に不気味に思っていた。

「というわけでルーク。ちょっと助言だ」
「え、うん」

 そしてアキラはルークの耳元に口を近づけて何事かを話し始める。

「──わかったか?」
「でもそれって……いいの?」

 そうしてアキラはルークに確認を取るが、助言を受けたルークは少し戸惑っている。
 だが、アキラはそんなルークの言葉に頷いてから説得(?)を始めた。

「ああ。お前が戦う目的は大事なものを守るためだろ? そのためには何をしてもいいんだ。お前が目指すのは騎士じゃない。正々堂々なんて必要ないんだよ。誰かから卑怯と言われようと構わない。大事なものを守れなかったら、その時点でお前の負けなんだから。だから、自身にできる全力で戦え。夢の中ではそうじゃなかったか?」
「……うん。そうだね。わかったよ」

 そんなアキラからの説得の言葉に、ルークは少しの間目を瞑ると、そう言いながら頷いた。

「よし。行ってこい」
「うん」
「あ、急所は無しだからな。それと、殺さないようにな!」

 相手の実力はわからないが、今のルークの実力では最悪の場合殺してしまう可能性がある。
 元々同年代の子供にしては実力のあった子供だ。そして普段から魔境という危険地帯のそばで暮らしたが故に『戦い』というものを理解してもいた。
 そんな子供が、今は確たる願いを持ち、アキラという規格外の修行先も手に入れた。

 その結果、今のルークは同年代では強い、程度では収まらない強さを持っていた。
 その強さは、本気を出していなかったとはいえ『剣の勇者』と打ち合ってまともに稽古になるほどだ。普通の剣士であれば勇者との打ち合いなど、稽古になる前に一撃、もって二撃でおしまいなのだから、ルークがどれほどヤバいのかわかることだろう。

「よろしくお願いします」
「ああ」

 ルークは向かい合った男に対して丁寧におじきをして挨拶をする。この辺は元々の育ちの良さというか彼の性格が見て取れる。
 アキラに比べて不気味さが薄い、いかにも普通の少年に見えるルークに対して、男はアキラとのあまりの違いに首を傾げる。

「悪いが、全力でやらせてもらうぞ。俺に勝てない程度なら、お前みてえなガキが魔物と戦うなんてやってけねえからな」

 だがそれでも男は手に持っていた木剣を構える。

「負けませんよ。僕は──絶対に負けないために強くなったんだから」

 そしてそれに答える様にルークも剣を構え、男と対峙する。

(構えは十分、か。ちっと隙もあるが……あの歳にしちゃあ上出来だろ。まあ言うだけのことはあるってこったな)

 男はルークの構えをそう判断すると、口先だけじゃなかったのかと判断を改める。

「じゃあカウント三で始めっぞー! 三・二・一……」

 気がつけばアキラ達の周りには、先程の組合内での様子を見ていた冒険者達が集まっており、そのうちの一人がなにを言われるでもなく審判役を行なっていた。
 冒険者同士の間では、この辺りの流れは慣れたものなのだろう。

「始め!」

 そうして冒険者の合図によって決闘が始まる。
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