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女神探しの旅
勇者一行との戦い
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「連行、ですか。それはどういうことでしょうか? そもそもあなた方は国に帰ったのでは?」
アキラに会わないように早朝に村を出て行き、自国に帰るために魔境へと行ったはずの勇者一行。
だと言うのにどう言うわけかその一行が今アキラの目の前に現れ、アキラを糾弾した。
そしてそのことを疑問に思ったアキラは一行に問いかける。
だが問われた一行のリーダーであり、勇者であるアズリアは答える事なくアキラを見ているだけだ。
「連行される理由はあなたもご存知だと思いますが?」
その代わりと言うべきか、アズリアではなく一行の中では補助役として普段はあまり前に出て来ないでいる神官のソフィアが前に出て代わりに答えた。
「私たちの国に限らず、そちらの国でも、どこの国であっても大抵の場所では外道魔法を使うものは資格が必要です。ご存知でしょう? あなたはその資格を持っているのですか?」
外道魔法は人の精神を弄ったり、死者を操ったりするために人からは嫌われている。
だが、それとは別に利用価値があると言うのも確かだ。裁判では犯罪者に自供を促す事ができるし、
もちろん使い方を間違えれば脅威である事は確かなので資格が必要だ。
アキラであればその資格は余裕で取る事ができるのだが、アキラはその資格を取っていないし、今後とる気もなかった。
それは何故か。その資格を取るには所属する国の貴族の後見が必要だからだ。後見とは言っているものの、貴族の後見など受けてしまえばそこに自由などない。
何せ資格を取らなければ捕まってしまうのだ。後見となる貴族はそのことを理解しているからこそ、無茶な契約を結んで外道魔法の使用者を『使う』のだ。
それはいかに大きな商会の会長の孫であったとしても同じで、アキラのような一般人では扱いは奴隷と変わらない。
ガラッドに話を通せばアキラの自由を保証してくれた上で引き受けてくれるだろうけれど、アキラとガラッドが出会ったのは、アキラが魔法を使えるようになった時ではなく最近のことだ。
出会ってからでも登録することはできたが、それではこの国に縛られてしまう。アキラはいざとなったらこの国を出てでも女神の生まれ変わりを探すつもりだったので、そう言った余分な縛りを作りたくはなかった。
「持っていませんよね。持っているのであれば最初から自身の魔法について隠す必要などないのですから」
ソフィアはそう言っているが、実際には資格を持っているものであっても自身の魔法について隠すものが多い。特に外道魔法の使い手ともなれば尚更だ。
誰が好き好んで他者の心の内を覗き、操ることのできる者と仲良くしたいと思えるのか。
元々仲良くしていた者に後からバレるのは大丈夫かもしれないが、最初から外道魔法の使い手だと分かっている状態で親しくしてくれる者など、そう多くはない。
ソフィアの考えは正しい。だが、それは理論だけの正しさだ。
しかしこの場合はその理論だけであったとしても関係ない。アキラは実際に資格を持っていないのだから。
「はあ……」
「その反応は、認めた、ということでよろしいですね」
「……ああ。いいよ。うん、そうだよ。俺は外道魔法の使い手だ」
ソフィアがそのことを理解していないからこそのアキラのため息なのだが、アキラはもうまともに相手をする事を諦めたらしい。
だがそれで正解だろう。この手の輩は自身の正義を信じてやまない。いくらアキラが現実を教えたところで信じることなどないだろう。
「因みに、もう一つのなんで戻ってきたのかって答えを聞きたいんだけど?」
話しても無駄だと悟ったアキラは、もう一つの疑問の方へと話を変えることとした。
「あれだけのアンデッドの反応があれば当然です。教会の所属である私が見逃すとでも思いましたか?」
教会ではアンデッドの退治を任されることがある。そして勇者に同行するほどに優秀であるソフィアもまた、アンデッドの退治を行うことができる。
だが、アンデッド退治と言っても、アンデッドの中には昼には活動をしないものもいるし、物に擬態や人に憑依するものもいる。そう言った場合アンデッドの居場所が分からないければどうしようもない。
アンデッドと戦える者というのはそれなりにいるが、その存在を感知できるのはそれほど多くはない。
とはいえソフィアは勇者一行のメンバー。やはりその実力は確かなもので、アンデッドの感知に関してはかなりの距離を把握する事ができた。
「ついでに言うのであればわしもじゃな。ある程度魔法の心得があれば教会のものでなくとも気づけるであろうよ。次に同じ事をするときは気をつけると良い」
そしてダスティンは王族に直接会える程の実力を持った魔法使いだ。
アンデッドはその体を魔力で形成し、魔力で動かす。存在そのものが魔力の塊と言ってもいい。それ故に、強力なアンデッドはその反応を感じ取る事ができたのだ。
「ご忠告どうも。気をつけますよ」
「次などありませんよ」
アキラの言葉にソフィアはすげなく返すと、持っていた杖を構えて魔法の準備をし始めた。
「皆さん構えてください! こちらの精神に関する防御は私が行います!」
どうやらソフィアの準備している魔法はアキラの外道魔法に対する防御のようだ。
ソフィアの言葉に応じて一行はそれぞれの武器を構える。
「アズリアさん! どうしたのですか。早く準備を!」
だが、その中で一人だけアズリアは剣を構えない。一応鞘から抜いてはいるものの、それでもアキラに向かって剣を構えられてはいない。
そんなアズリアの姿を見たアキラ場所ため息を吐いてから口を開く。
「やっぱり、勇者は嫌か?」
自身に向けられたその言葉にアズリアはビクリと体を震わせる。
だが彼女の反応はそれだけで、アキラの問いに答えることはない。
そして、ゆっくりとではあったが、持っていた聖剣を震える手で構える。
だが、それまでだ。そのままアズリアも、ほかのメンバーも、誰も動くことはなく睨み合いが続く。
「アキラー! 飲み物持ってきたよー!」
そんな最中、アキラの言っていた水と食べ物を取りに行っていたルークが戻ってきた。
(あっ、まずい。そういえばルークがいるんだった)
頼んでいたことをすっかり忘れていたアキラは、思わず視線をそちらへと動かしてしまう。
アキラのことを倒そうとしている勇者一行がそんな隙を見逃すはずもない。
最初に動いたのはセリスだ。彼女は、アキラのことを捕らえようとしているソフィアとは違って、『勇者』の邪魔になるアキラを殺そうとしていた。それ故に迷いもなく持っていたナイフを殺意を持ってアキラの頭と胸に向かって投げつける。
いかに油断していたとは言っても、仮にも剣の神と斬り合うことのできる実力を持っているアキラだ。その程度では殺すことなどできるはずもなく、傷をつけることすらもできない。
だが、アキラが飛んできたナイフに対処している間にダスティンが準備した魔法がアキラを襲う。
こんな状況でも森を燃やしてはまずいと判断したのだろう。ダスティンは土系統の魔法を使いアキラの動きを拘束する。
そしてそれだけではなく地面がポコポコと盛り上がり、アキラに向けてマシンガンのように飛んでいく。
動きを封じられたところへ放たれたソレは流石に避け切る事ができなかったのか、ほとんどは対処する事ができたものの数発は食らってしまった。
そしてそこにチャールズが突き進み、剣を振り下ろす。
だが、怪我をしてようともその剣撃を難なく避けるアキラ。魔法で足を封じられているというのに避けたその様子にチャールズは驚いているものの、次の攻撃を繰り出しアキラと切り結ぶ。
「アズリアさん! どうしたのですか!? なぜ戦わないのです!」
「……だって……だって……。私は……」
だが、本来はチャールズと一緒に攻撃するはずだったアズリアは攻撃どころか、剣を持っている手を震わせて動けない。
「があああっ!」
だが、そうこうしている間に遂にチャールズの攻撃がアキラの肩口から腰の辺りまでバッサリと切り裂いていた。
「ハァ、ハァ……ハア。やっと終わったか」
「いかに強大な魔法使いといえど、拘束され剣士に攻められて仕舞えばこんなものであるか。まあ、仕方がないか」
「あ……あ、ああ…………」
アキラを斬り、息を切らしているチャールズ。そんな姿を見て怪我がない事を確認したダスティンは、倒れ伏したアキラの事を見ながらとどめを刺すべく魔法の詠唱を始める。
そして、唯一アキラに向かって剣を構えながらも戦うと言う選択をしなかったアズリアは、チャールズに斬られ血だらけとなったアキラへと視線を固定し、微かに声を漏らしながら地面に座り込んでしまった。
「……なんかおかしくないかな?」
「セリス? 何がおかしいというのだ」
「いや、だってさぁ。あいつは仮にもアズリアと互角の戦いをしたやつでしょ? こう言っちゃなんだけど、チャールズはアズリアを倒せる?」
「それは……」
だが、とどめを刺すべく魔法を準備しているダスティンとは違って、セリスは今ひとつ納得ができていないようだ。
それもそのはず。たった今セリスが言ったように、アキラはアズリアと斬り合う事ができるのだ。『剣の勇者』であるアズリアと、である。
そんなものがたかが足を止められた程度で容易く死ぬものだろうか? そんな疑問がセリスの中で燻っていた。
そしてその言葉にアキラを斬った本人であるチャールズも、もしかしたら、と思い始めてしまう。
「アズリアさん。どうして攻撃しなかったのですか! 幸いにも倒せたから良いかったものの、あそこでチャールズさんがやられていたら今頃どうなっていたかわからないのですよ!?」
「……」
「アズリアさん。聞いていますか?」
アキラにとどめを刺そうとするダスティン。アキラの死を疑っているセリスとチャールズ。
そんな三人を尻目に、ソフィアは先ほどの戦いでアズリアがアキラを攻撃しなかった事を──『勇者様』が悪人を攻撃しなかった事に憤り、『勇者様』であるはずのアズリアを責め立てている。
だが、アズリアは目の前でアキラが自身の仲間によって殺された光景を目にしてしまい、なにも考えられずにいた。
仲間かもしれないと思った少年。
|本当に(・・・)自分に優しくしてくれた人。
短い間だったけど、それでも自分にとっては大事な──友達。
そんな人物が目の前で斬られ、これから殺されようとしていた。
助けるべきだ。助けたい。助けないといけない。
アズリアはそう思うが、それでも彼女の意に反して体は動かない。
どうしてどうしてどうしてどうして──
それは体が動かないことだけに対してのものではなく、色々なものが混ざっている『どうして』だった。
自身の心と頭の中を埋め尽くす無数の『どうして』がアズリアを縛り、彼女は動けない。
「あ……」
そしてついにダスティンが魔法を放ちアキラにとどめを刺した。
その光景をアズリアに話しかけながらも横目で見たソフィアは、終わったのならもう興味はないとすぐに視線をアズリアへと戻した。
だが、アズリアは未だにアキラへと──いや、『アキラだったもの』があるはずの場所へと視線を向けたまま動かない。
「まあそう責めてやるなよ。そいつにだってやりたくない事の一つや二つくらいあるだろ。それに悩んでいるやつを無理やり戦わせるのもどうかと思うけどね」
その光景を茫然と見ていたアズリアの背後から、そんな声が聞こえた。
「っ!? あなたは倒したはずじゃっ!」
「悪いけど、あの程度じゃ死なないよ」
声の主はアズリアの背後にいるためにアズリアからは見ることができなかったが、アズリアの目の前にいるソフィアにはしっかりとその姿を捉えることができた。
そしてアズリアがゆっくりと振り替えると、そこにはどういうわけか目の前で殺されたはずのアキラが立っていた。
「やっぱりね。……どうやったか聞いたら答えてくれたりする?」
「ん? まあ良いよ。どうせ教えたところでどうしようもないだろうし」
アキラはなんでもないというようにセリスの問いに返事をする。事実、アキラにとってはそんな問いは意味のないものなのだ。一番隠しておきたい外道魔法の事がバレたのであれば、他のことは隠したところで意味がないのだから。
「答えは簡単だ。俺は精神を操る外道魔法使いだ。なら答えは自ずと分かるだろう? アンタらには幻覚を見てもらった。それだけだ」
「嘘です! 精神に対する防御は完璧でした!」
だがアキラの答えに問いかけたセリスではなくソフィアが感情を露わにして怒鳴る。
だがそれも理解できる。何せソフィアは教会から勇者の仲間として派遣された者なのだ。アンデッドの反応を感知できるように、当然ながら外道魔法への対処も完璧だ。……そのはずだった。
それなのに完璧だったはずの外道魔法への対処を貫いて幻覚を見せたと言う。それはソフィアにとって到底許せるものではないのだろう。
「加えていうのなら、わしも自分だけであったが防御はしていたのだがのぅ」
「それも簡単ですよ。──あなた方が俺よりも格下だというだけです」
アキラに会わないように早朝に村を出て行き、自国に帰るために魔境へと行ったはずの勇者一行。
だと言うのにどう言うわけかその一行が今アキラの目の前に現れ、アキラを糾弾した。
そしてそのことを疑問に思ったアキラは一行に問いかける。
だが問われた一行のリーダーであり、勇者であるアズリアは答える事なくアキラを見ているだけだ。
「連行される理由はあなたもご存知だと思いますが?」
その代わりと言うべきか、アズリアではなく一行の中では補助役として普段はあまり前に出て来ないでいる神官のソフィアが前に出て代わりに答えた。
「私たちの国に限らず、そちらの国でも、どこの国であっても大抵の場所では外道魔法を使うものは資格が必要です。ご存知でしょう? あなたはその資格を持っているのですか?」
外道魔法は人の精神を弄ったり、死者を操ったりするために人からは嫌われている。
だが、それとは別に利用価値があると言うのも確かだ。裁判では犯罪者に自供を促す事ができるし、
もちろん使い方を間違えれば脅威である事は確かなので資格が必要だ。
アキラであればその資格は余裕で取る事ができるのだが、アキラはその資格を取っていないし、今後とる気もなかった。
それは何故か。その資格を取るには所属する国の貴族の後見が必要だからだ。後見とは言っているものの、貴族の後見など受けてしまえばそこに自由などない。
何せ資格を取らなければ捕まってしまうのだ。後見となる貴族はそのことを理解しているからこそ、無茶な契約を結んで外道魔法の使用者を『使う』のだ。
それはいかに大きな商会の会長の孫であったとしても同じで、アキラのような一般人では扱いは奴隷と変わらない。
ガラッドに話を通せばアキラの自由を保証してくれた上で引き受けてくれるだろうけれど、アキラとガラッドが出会ったのは、アキラが魔法を使えるようになった時ではなく最近のことだ。
出会ってからでも登録することはできたが、それではこの国に縛られてしまう。アキラはいざとなったらこの国を出てでも女神の生まれ変わりを探すつもりだったので、そう言った余分な縛りを作りたくはなかった。
「持っていませんよね。持っているのであれば最初から自身の魔法について隠す必要などないのですから」
ソフィアはそう言っているが、実際には資格を持っているものであっても自身の魔法について隠すものが多い。特に外道魔法の使い手ともなれば尚更だ。
誰が好き好んで他者の心の内を覗き、操ることのできる者と仲良くしたいと思えるのか。
元々仲良くしていた者に後からバレるのは大丈夫かもしれないが、最初から外道魔法の使い手だと分かっている状態で親しくしてくれる者など、そう多くはない。
ソフィアの考えは正しい。だが、それは理論だけの正しさだ。
しかしこの場合はその理論だけであったとしても関係ない。アキラは実際に資格を持っていないのだから。
「はあ……」
「その反応は、認めた、ということでよろしいですね」
「……ああ。いいよ。うん、そうだよ。俺は外道魔法の使い手だ」
ソフィアがそのことを理解していないからこそのアキラのため息なのだが、アキラはもうまともに相手をする事を諦めたらしい。
だがそれで正解だろう。この手の輩は自身の正義を信じてやまない。いくらアキラが現実を教えたところで信じることなどないだろう。
「因みに、もう一つのなんで戻ってきたのかって答えを聞きたいんだけど?」
話しても無駄だと悟ったアキラは、もう一つの疑問の方へと話を変えることとした。
「あれだけのアンデッドの反応があれば当然です。教会の所属である私が見逃すとでも思いましたか?」
教会ではアンデッドの退治を任されることがある。そして勇者に同行するほどに優秀であるソフィアもまた、アンデッドの退治を行うことができる。
だが、アンデッド退治と言っても、アンデッドの中には昼には活動をしないものもいるし、物に擬態や人に憑依するものもいる。そう言った場合アンデッドの居場所が分からないければどうしようもない。
アンデッドと戦える者というのはそれなりにいるが、その存在を感知できるのはそれほど多くはない。
とはいえソフィアは勇者一行のメンバー。やはりその実力は確かなもので、アンデッドの感知に関してはかなりの距離を把握する事ができた。
「ついでに言うのであればわしもじゃな。ある程度魔法の心得があれば教会のものでなくとも気づけるであろうよ。次に同じ事をするときは気をつけると良い」
そしてダスティンは王族に直接会える程の実力を持った魔法使いだ。
アンデッドはその体を魔力で形成し、魔力で動かす。存在そのものが魔力の塊と言ってもいい。それ故に、強力なアンデッドはその反応を感じ取る事ができたのだ。
「ご忠告どうも。気をつけますよ」
「次などありませんよ」
アキラの言葉にソフィアはすげなく返すと、持っていた杖を構えて魔法の準備をし始めた。
「皆さん構えてください! こちらの精神に関する防御は私が行います!」
どうやらソフィアの準備している魔法はアキラの外道魔法に対する防御のようだ。
ソフィアの言葉に応じて一行はそれぞれの武器を構える。
「アズリアさん! どうしたのですか。早く準備を!」
だが、その中で一人だけアズリアは剣を構えない。一応鞘から抜いてはいるものの、それでもアキラに向かって剣を構えられてはいない。
そんなアズリアの姿を見たアキラ場所ため息を吐いてから口を開く。
「やっぱり、勇者は嫌か?」
自身に向けられたその言葉にアズリアはビクリと体を震わせる。
だが彼女の反応はそれだけで、アキラの問いに答えることはない。
そして、ゆっくりとではあったが、持っていた聖剣を震える手で構える。
だが、それまでだ。そのままアズリアも、ほかのメンバーも、誰も動くことはなく睨み合いが続く。
「アキラー! 飲み物持ってきたよー!」
そんな最中、アキラの言っていた水と食べ物を取りに行っていたルークが戻ってきた。
(あっ、まずい。そういえばルークがいるんだった)
頼んでいたことをすっかり忘れていたアキラは、思わず視線をそちらへと動かしてしまう。
アキラのことを倒そうとしている勇者一行がそんな隙を見逃すはずもない。
最初に動いたのはセリスだ。彼女は、アキラのことを捕らえようとしているソフィアとは違って、『勇者』の邪魔になるアキラを殺そうとしていた。それ故に迷いもなく持っていたナイフを殺意を持ってアキラの頭と胸に向かって投げつける。
いかに油断していたとは言っても、仮にも剣の神と斬り合うことのできる実力を持っているアキラだ。その程度では殺すことなどできるはずもなく、傷をつけることすらもできない。
だが、アキラが飛んできたナイフに対処している間にダスティンが準備した魔法がアキラを襲う。
こんな状況でも森を燃やしてはまずいと判断したのだろう。ダスティンは土系統の魔法を使いアキラの動きを拘束する。
そしてそれだけではなく地面がポコポコと盛り上がり、アキラに向けてマシンガンのように飛んでいく。
動きを封じられたところへ放たれたソレは流石に避け切る事ができなかったのか、ほとんどは対処する事ができたものの数発は食らってしまった。
そしてそこにチャールズが突き進み、剣を振り下ろす。
だが、怪我をしてようともその剣撃を難なく避けるアキラ。魔法で足を封じられているというのに避けたその様子にチャールズは驚いているものの、次の攻撃を繰り出しアキラと切り結ぶ。
「アズリアさん! どうしたのですか!? なぜ戦わないのです!」
「……だって……だって……。私は……」
だが、本来はチャールズと一緒に攻撃するはずだったアズリアは攻撃どころか、剣を持っている手を震わせて動けない。
「があああっ!」
だが、そうこうしている間に遂にチャールズの攻撃がアキラの肩口から腰の辺りまでバッサリと切り裂いていた。
「ハァ、ハァ……ハア。やっと終わったか」
「いかに強大な魔法使いといえど、拘束され剣士に攻められて仕舞えばこんなものであるか。まあ、仕方がないか」
「あ……あ、ああ…………」
アキラを斬り、息を切らしているチャールズ。そんな姿を見て怪我がない事を確認したダスティンは、倒れ伏したアキラの事を見ながらとどめを刺すべく魔法の詠唱を始める。
そして、唯一アキラに向かって剣を構えながらも戦うと言う選択をしなかったアズリアは、チャールズに斬られ血だらけとなったアキラへと視線を固定し、微かに声を漏らしながら地面に座り込んでしまった。
「……なんかおかしくないかな?」
「セリス? 何がおかしいというのだ」
「いや、だってさぁ。あいつは仮にもアズリアと互角の戦いをしたやつでしょ? こう言っちゃなんだけど、チャールズはアズリアを倒せる?」
「それは……」
だが、とどめを刺すべく魔法を準備しているダスティンとは違って、セリスは今ひとつ納得ができていないようだ。
それもそのはず。たった今セリスが言ったように、アキラはアズリアと斬り合う事ができるのだ。『剣の勇者』であるアズリアと、である。
そんなものがたかが足を止められた程度で容易く死ぬものだろうか? そんな疑問がセリスの中で燻っていた。
そしてその言葉にアキラを斬った本人であるチャールズも、もしかしたら、と思い始めてしまう。
「アズリアさん。どうして攻撃しなかったのですか! 幸いにも倒せたから良いかったものの、あそこでチャールズさんがやられていたら今頃どうなっていたかわからないのですよ!?」
「……」
「アズリアさん。聞いていますか?」
アキラにとどめを刺そうとするダスティン。アキラの死を疑っているセリスとチャールズ。
そんな三人を尻目に、ソフィアは先ほどの戦いでアズリアがアキラを攻撃しなかった事を──『勇者様』が悪人を攻撃しなかった事に憤り、『勇者様』であるはずのアズリアを責め立てている。
だが、アズリアは目の前でアキラが自身の仲間によって殺された光景を目にしてしまい、なにも考えられずにいた。
仲間かもしれないと思った少年。
|本当に(・・・)自分に優しくしてくれた人。
短い間だったけど、それでも自分にとっては大事な──友達。
そんな人物が目の前で斬られ、これから殺されようとしていた。
助けるべきだ。助けたい。助けないといけない。
アズリアはそう思うが、それでも彼女の意に反して体は動かない。
どうしてどうしてどうしてどうして──
それは体が動かないことだけに対してのものではなく、色々なものが混ざっている『どうして』だった。
自身の心と頭の中を埋め尽くす無数の『どうして』がアズリアを縛り、彼女は動けない。
「あ……」
そしてついにダスティンが魔法を放ちアキラにとどめを刺した。
その光景をアズリアに話しかけながらも横目で見たソフィアは、終わったのならもう興味はないとすぐに視線をアズリアへと戻した。
だが、アズリアは未だにアキラへと──いや、『アキラだったもの』があるはずの場所へと視線を向けたまま動かない。
「まあそう責めてやるなよ。そいつにだってやりたくない事の一つや二つくらいあるだろ。それに悩んでいるやつを無理やり戦わせるのもどうかと思うけどね」
その光景を茫然と見ていたアズリアの背後から、そんな声が聞こえた。
「っ!? あなたは倒したはずじゃっ!」
「悪いけど、あの程度じゃ死なないよ」
声の主はアズリアの背後にいるためにアズリアからは見ることができなかったが、アズリアの目の前にいるソフィアにはしっかりとその姿を捉えることができた。
そしてアズリアがゆっくりと振り替えると、そこにはどういうわけか目の前で殺されたはずのアキラが立っていた。
「やっぱりね。……どうやったか聞いたら答えてくれたりする?」
「ん? まあ良いよ。どうせ教えたところでどうしようもないだろうし」
アキラはなんでもないというようにセリスの問いに返事をする。事実、アキラにとってはそんな問いは意味のないものなのだ。一番隠しておきたい外道魔法の事がバレたのであれば、他のことは隠したところで意味がないのだから。
「答えは簡単だ。俺は精神を操る外道魔法使いだ。なら答えは自ずと分かるだろう? アンタらには幻覚を見てもらった。それだけだ」
「嘘です! 精神に対する防御は完璧でした!」
だがアキラの答えに問いかけたセリスではなくソフィアが感情を露わにして怒鳴る。
だがそれも理解できる。何せソフィアは教会から勇者の仲間として派遣された者なのだ。アンデッドの反応を感知できるように、当然ながら外道魔法への対処も完璧だ。……そのはずだった。
それなのに完璧だったはずの外道魔法への対処を貫いて幻覚を見せたと言う。それはソフィアにとって到底許せるものではないのだろう。
「加えていうのなら、わしも自分だけであったが防御はしていたのだがのぅ」
「それも簡単ですよ。──あなた方が俺よりも格下だというだけです」
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