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女神探しの旅

勇者の迷い

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 村に帰って来た翌日。アキラはいつものように朝早く起きて訓練をしていた。

 普通は魔境に行った翌日と言わず数日は休んでいるものだが、アキラにとっては少し面倒な散歩程度でしかない。

 アズリア達勇者一行と行動を共にしていたことで多少なりとも精神的に疲労はあったが、言って仕舞えばそれだけだ。

 もちろん、それはアキラだけで、一緒に行動していた当の勇者達はかなりの疲労が溜まっていた。それこそ、普段であれば既に起きていてアキラと同じように訓練をしている時間であるにも関わらず今もまだ眠っているくらいには。

 それでもやはり勇者としての恩恵でもあるのか、他のものよりも早くにアズリアは目を覚まし寝惚けた眼で部屋の中をゆっくりと見回すと、魔境から抜け出したんだと思い出した。

(ああ、そういえば昨日はしっかりと宿に泊まったんだったわね)

 久しぶりにゆっくりと休むことができたおかげで、前日までの疲労はほとんどが抜けていた。まだいくらか疲れはあるものの、それは今日一日ゆっくりしていれば消え去るだろうという程度のものだ。

(もう一度寝るのはなんだか気分じゃないし……少し、散歩でもしようかしら)

 未だ目の覚めない隣のベッドで寝ているソフィアを見てもう一度寝ようかとも思ったが、アズリアはゆっくりと首を振ると起き上がり着替え始める。

 ソフィアを起こさないように着替えを終えたアズリアは、静かに外に出ていった。

 そうして、特に行く当てのないアズリアは適当に歩いていたのだが、気づけばアキラの元へ──正確にはアキラがいるであろうゼルベンの家へとやってきていた。
 それは知っている場所が宿以外にはこの場所しかないからなのか、それとも他の理由か……

(やっぱり、まだ納得し切れていないのかしらね……)

そう思いながら歩いているアズリアだが、ふとその耳に何か音が届いた。

(……? 何かしら?)

「……すごい」

 思わずそう呟いてしまうほどにアキラの振るう剣は美しかった。

 一切の無駄を省かれ流れるように振るわれる剣。アズリアにはそれがまるで一種の芸術であるかの如く思えた。

 ともすれば、勇者である自分よりも巧みな剣捌き。
 それを見てアズリアは自分の中にあった想いは──願いはやはり正しいのではないかと、そう願うようになっていた。

「ふう……」

 いつのまにかアズリアは剣を振るうアキラの姿に見入っていたらしく、アキラが剣を振るうのをやめて息を吐き出すのを見るとハッとしたように意識を取り戻した。

 とはいえ、今更見入っていたのに気がついたところでどう反応いいのか分からないアズリアは、そのまま建物の陰から見ていることしかできなかった。

 対するアキラだが、こちらも見られている事には気付いていた。
 だが、勇者一行は自分に関わらないだろうと予想していたからこの少女もそのうち何処かへ行くだろうと思っていた。だというのに今になっても建物の陰からアキラのことを見たまま動かないアズリアに、アキラもどうしていのかわからず、剣を振り終えた今でもその場に立ち尽くしていた。

「あれ、勇者様? どうしたんですこんなところで?」

 だが、そんな二人の元へ救いの主が現れた。

「あっ! え、えっと、その……あ、あなたは確かルーク君だったわよね? あなたはどうしてここに?」

 話を逸らし誤魔化すためにそう言ったアズリアだが、言ってからそれは馬鹿な質問だと思った。なにせここはルークの家の前だ。彼は剣士として鍛えているのだから、アキラのように朝の訓練に来てもおかしくはない。むしろなぜここにいるのかを問われるのはアズリアの方だろう。

「はい、勇者様に名前を覚えてもらえるなんて嬉しいです! 僕は朝の訓練です。多分アキラ……じゃない師匠がいるはずなんですけど、見ませんでしたか?」

 だが、ルークは特におかしいとは感じなかったようで、素直にアズリアの質問に答えている。

「師匠?」
「はい。アキラがこの村に来てから剣の稽古をつけてもらっているので、訓練の時はその呼び方を変えてるんです」
「そうなの。……え?」

ルークと何気ない会話をしていたアズリアだが、そこで一つ疑問が湧き上がった。

「? どうしました?」
「……アキラ君って、この村の人じゃないの?」
「違いますよ? アキラは元々冒険者としての依頼でここに来ただけです」
(なら、彼は何のためにここに──あの森にいたの?)

 アキラが冒険者であるという事はアズリアも理解しているので、当然依頼や金稼ぎとして魔境に入ったという理由は考えられる。だが、それにしてはアキラの態度は軽すぎたのだ。

 魔境という勇者でさえ苦戦するような場所を気軽に出歩けるような存在が、たまたま勇者がいる時にその場所に居合わせたそれは偶然だろうか? もちろんその可能性もあるだろう。だが、アズリアにはどうしてもそうだとは思えなかった。

「あっ、でもほかに勇者様に会いにきたって言ってました」

 と、そこでルークは思い出した情報をアズリアに伝えるが、それがまた彼女を悩ませる。

「私に? ……そう」

(アキラくんは元々私に会いにきた? でも私は彼とは面識はないはず。なら、ルーク君の言ったように『勇者』に会いにきた? 何のために?)

(彼は言っていた。違う、と。あれは何に対しての言葉だったの? ……違う……何が……? 私と戦った直後の言葉だということを考えると、それはつまり……)

 だがアズリアがそこまで考えると、突然背後から声が掛かった。

「何してるんだ?」

 その言葉の主は当然というべきか、アキラだった。

「あ、アキラ。おはよう」
「ああ、おはよう。アズリアも、何でここにいるかは知らないけど、おはよう」

 アキラの姿を認めたルークは素直に挨拶をし、アキラもそれに返事を返すが、アズリアは自身の中に生まれた考えのせいか反応が遅れてしまった。

「……ええ。おはよう、アキラ君」

 そんなアズリアの様子のおかしさに気がついたアキラだが、アキラは少しだけ眉を寄せて訝し気にすると、軽く首を振って深く関わるべきではないと気にしないことにした。

「師匠! 昨日言ってた稽古をつけてもらうよ。早く!」

 アキラを見て挨拶をしたことで意識が切り替わったのか、ルークがアキラを呼ぶ呼び方が師匠へと変わっているが、アキラはそれに苦笑しつつも応えた。

「ああ、わかってるよ」

 そして始まる二人の試合を、アズリアは先ほどまでと同じようにその場で立ち尽くし眺めているのだった。




「はぁ、はぁ……やっぱり、師匠は強いなぁ……」
「じゃなきゃ師匠を名乗れないだろ。まあ、俺から名乗ったつもりはないけどな」

 稽古を終え、疲労から地面に倒れ込んでいるルークと、それを見下ろすようにそばに立っているアキラ。

 稽古の勝敗は、言うまでもなくアキラの圧勝だった。
 いくらアキラが魔法をかけてまで鍛えたとは言え、流石にアキラが女神のところで行っていた地獄のような試練よりもキツイなどということはない。
 故に、多少強くなったところでその力はアキラには届きはしなかった。

 そうは言ってもルークはすでに同年代とは比べ物にならないほどに強くなっているのではあるが。

「っと、そろそろ朝の仕事をしないと」

 そして倒れながらアキラにどこが悪かった、どうすれば良いなどと雑談を交えて話していたルークだが、ふと思い出したように呟いて立ち上がった。

 朝の仕事とは馬の世話をする事だ。

 ルークはまだ成人していない子供だ。だが、だからといって休ませておく余裕など、この村には……この世界にはありはしない。
 子供だからと何もしないで遊んでいられるのは貴族くらいだ。それだってよほどの家でなければ遊んでなどいられない。

「もうそんな時間か。居候させてもらってる身としては手伝った方がいいんじゃないかと思うけど……まあ頑張れ」
「うん! じゃあまた後でね!」

 そう言って走り去るルークの背中を見送ったアキラは、さて、と口にしてから未だに建物の陰から自分のことを除いているアズリアに話しかける事にした。

「……で、お前はいつまでそこにいるんだ。アズリア?」

 今まで気づかれた様子がなかったのにいきなり話しかけられたアズリアは、ビクッと体を跳ねさせたものの、すぐに落ち着きを取り戻した。
 そして、おずおずとバツが悪そうに建物の陰からアキラの前へと姿を現した。

「え、えっと……」
「何か用があったんじゃないのか?」
「用……そう言うわけじゃないんだけど……」
「ならなんでここに? 仲間からはここにくるなとか言われなかったか?」
「えっ? き、聞いてたの!?」

 なかなか言い出さないアズリアない変わってアキラが何でもない風にそう言ったが、アズリアは昨日仲間内で話した内容を知っていたアキラに驚きを隠せないでいる。

「いや、単なる予想だ。けど、合ってるみたいだな」

 森を抜けるまでの一緒にいた間に把握した勇者一行のメンバーたちの性格からして、自分とは関わりたくはないと思っているだろうとアキラは考えていた。そしてそれは事実だった。……アズリアを除いては、だが。

 アキラの言葉を聞いてアズリアは昨夜の話し合いのことを思い出し、そして昨夜誰にも言うことのできなかった事までもを思い出してしまった。

 そして、その時感じた自身の考えを確かめるために、アズリアは一度ギュッと手を強く握りしめ唇を噛み締めるとアキラへと話しかけた

「……ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「ん?」
「これを持ってみてくれないかしら?」

 アズリアはそう言って自身の腰に帯びていた聖剣を抜き放ち、アキラへと差し出す。

 だが、なぜアズリアがそんなことを願うのかがわからないアキラは、ただ眉をひそめて困惑するだけで、受け取ろうとはしない。

「これって聖剣か? またどうして……」
「いいから。持ってみて」

 差し出した剣を取らずにいるアキラに、アズリアは差し出していた聖剣を押しつけるようにアキラへと近づける。
 その顔は真剣で、断ることなど絶対に許さないとでも言うかのようだ。

 そんなアズリアに気圧されたアキラは、訝しみつつではあるがため息を吐いてから差し出された聖剣を手に取った。

 アズリアの手にあった光を放つ聖剣はアキラの手に渡り、だが何の変化もおこらない。

 しばらく待っても何も起こらず、またアズリアからのアクションもないことから、アキラはこれで良いのか、と問いかけるためにアズリアに視線を向けるが、アズリアはその視線に気づかずにアキラの手の中にある聖剣を凝視している。

「やっぱり……」

 そしてボソリとつぶやかれた言葉。
 その言葉の意味はアキラには分からなかったが、必要であるのならこのあと話すだろうと思い、改めて声をかける事にした。

「で、これになんの意味があったんだ?」

 アキラが尋ねると、アズリアはアキラへと視線を合わせたが、その表情はどこか諦めたような、暗さの感じさせる表情をしていた。

 そしてアズリアは数回大きく深呼吸をすると、ゆっくりと口を開き話し始めた。

「……あなたが森でその剣を持った時も、聖剣が光ったでしょ? 本来は聖剣にかかわらず、神器って選ばれた所有者しか光を放たないはずなの。なのにあなたは違った。……どうして?」

 だが、そう問われてもアキラには理由などわからない。

「いや、知らないよそんなの。俺が聞きたいくらい──あ」

 だが、話している最中にとあることに思い至った。

 そしてそんな反応をアズリアは見逃さない。

「その反応。何かわかるの?」
「いやそれは……」

(所有者って勇者のことを示してるんだろうけど、その神器を作り出した『神』も所有者と言えるんじゃないか? 俺の魂の半分は剣の女神のものでできている。そして今目の前にあるのは『剣の女神の神器』だ。だから反応した?)

 そう。まさにアキラの思い至った事こそがアキラが聖剣に認められた理由だった。

「ねえ、何か知ってるんでしょ? 教えてよ」
「……」

 アズリアはアキラの肩を掴んで問い詰めるが、素直に女神との関係を話すわけにはいかないアキラはなんとも言えない表情で視線を彷徨わせる。

 アキラは必死で言い訳を考えるが、特にいい案が思いつくわけでもなく二人の間には無言の時間が流れる。

 だがそれをどう受け取ったのか、アズリアはアキラの肩に置いていた手を離すと、その腕をだらりと下げて力なく俯いてしまった。

 そしてボソリと、誰に言うでもなくただ呟いた。

「……やっぱり……私は本物の勇者じゃないのね」
「は?」

 そんな言葉に、訳がわからないとばかりにアキラは声を漏らすが、その声に反応したアズリアは勢い良く顔を跳ね上げさせてアキラを見据える。

「あなたは最初からわかってたんでしょ? だって森であった時に、あなたは私に対して『違う』って言ったじゃない。あれって本物の勇者じゃないって意味だったんでしょ?」

 そして放たれた言葉はアキラに向けてのものではあったが、それは答えを求めるものではなく、ただ自身の思うがままに言葉を口にしているだけのようだ。

「おかしいと思ったのよ。だって私は単なる町娘でしかなかったのよ? 知ってる? 私の実家ってお花屋さんなのよ。ちょっと変わった薬草とかも扱ってたけど、毎日草花に水をあげてお世話をして、そして綺麗な花を咲かせてみんなに喜んでもらう。そんな仕事を私はしてたの」

 アズリアはそう言うと、アキラから視線を外して何かを思い出すように空へを向ける。
 そして先ほどまでの思い詰めた表情を消して笑いながら、けれどどこか泣きそうな表情をしながらアズリアは楽しげに語る。

「けど、十五歳になって全員が強制的に神器に触る儀式をやってから変わったわ。この剣に触った瞬間剣が光を放って、それからは勇者だなんだって訳の分からないうちに戦わされてるのよ。戦って戦って、殺して殺して殺して殺して……過去も未来もずっとずっと誰かを、何かを殺し続ける。ふふっ、どうしてなのかなぁ……」

(……ああ、こいつは……)

 そんな風に笑いながら語る勇者に何を思ったのか、アキラは不愉快そうに眉を寄せている。

「ねえ、教えてよ。私は偽物で、本物の勇者はあなたなんじゃないの?」

 そして言いたいことを言い終えたのか、空を仰ぎながら直立していたアズリアは、ゆっくりとその顔をアキラに向けて笑いかける。

「……違うよ」
「嘘よ」

 アキラの否定の言葉に即座に否定を被せるアズリア。
 その表情は一瞬にして笑顔からなんの感情も乗っていない仮面の如きものへと変貌した。

(関係ない。俺はこの勇者とはなんの関係もないんだ。だから無駄に関わる必要なんてない。……けど……)

 アキラは一度その手の中にある聖剣に視線を落とすと、今度はアズリアを正面から見据えて話し始めた。

「俺がその剣に認められてるのは、俺が剣の女神に会ったことがあるからだ」
「剣の、女神様……?」
「そうだ。その時にちょっと力をもらってね。そのせいで聖剣が勘違いしているだけなんだ。その聖剣の勇者は間違いなくお前だよ。アズリア」

 それは真実ではない。だが、事実ではある。聖剣がアキラに反応しているのは間違いなくアキラの中にある女神の力が理由なのだから。

 しかし、それでもアズリアは納得できないのか、その表情を変えないでアキラを見下ろしている。

「……アズリア。お前は勇者を望まないのか? 可能であれば、その剣を手放したいのか?」
「……うん」

 アキラが問いかけると、アズリアは無表情から少しだけ感情を取り戻し、小さく、ともすれば風の音にすらかき消されてしまうほどか細く頷いた。

 だがその数瞬後、アズリアはハッとしたようにアキラを見ると、困ったように眉を寄せて首を傾げた。

「……でも、どうなんだろ? 元の生活に戻りたい気持ちはあるけど、勇者として活動する気持ちもあるの。……結局どっちなんだろうね。あはは、わかんないや」

(こいつは、もう限界だ……)

 いくら殺し殺されというのが多い世界だとしても、一般人にとってそれは当たり前ではない。むしろ、忌避するべき非日常だ。
 そんな非日常に突然放り出されてしまえばどうなる?
 何の覚悟もできていなかった少女に、それが当然であると受け入れることが果たして出来るのだろうか?

 否。そんな事ができるのは、あらかじめその覚悟があったものやそれに相応しく鍛えられたもの。もしくは異常者のどれかだ。
 不幸にも、アズリアはそのどれでもなかった。戦う心得などなく、誰かを傷つける事を嫌うまっとうな一般市民だ。
 そんな彼女が剣を持たされ戦わされている。

「お前は何のために勇者をやってるんだ?」

 それを見かねたアキラは、壊れたように乾いた笑いを溢しているアズリアに尋ねた。

「何のために? ……そんなの、私は勇者だから……」

 アズリアは、その質問が意外だったのか目をパチパチと瞬かせた後、躊躇いがちに口を開いた。

 勇者だから戦うのだと。

 だが、そう言うはずだった口は、なぜか最後までその役割を果たし切ることはできずに止まってしまった。

「違う。神器に選ばれたとか勇者だからとかじゃなくて、お前は、アズリアという個人は、この剣を振って戦いたいのかと聞いているんだ」

 そして、そんな様子を見ていたアキラは首を振り、持っていた聖剣をアズリアに突き返してもう一度尋ねる。

「この剣で戦う……」

 そう問われてアキラの持っている聖剣に視線を落とすアズリア。

 そしてその剣をおずおずと受け取ると、その刀身に写る自身の姿を見て自身に問いかける。

「私は……どう、したいの?」

 本来アズリアがどんな選択をしようともアキラには関係ないはずではあるが、アキラはアズリアがどんな答えを出すのか真剣に聞いていた。そしてその答え次第では……と考えていた。

 だが、アズリアが口にした問いの答えは即座には出てこず、明確な答えが出る前にその場をぶち壊すような邪魔者が乱入してきた。

「ちょっとあんた! うちの勇者様を困らせないでよね!」
「ん? ……チッ。きたか」

 アズリアが答えを出す前に邪魔されてしまった事でっい舌打ちをするアキラ。
 そしてそれをしっかりと聞いていたセリスは、アキラを睨みつける。

「何? 私が来たら問題でもあるの?」
「何のことですか?」

 聞きとがめたセリスの言葉に対して、そんなこと言っていないとばかりにすっとぼけるアキラ。
 そんなアキラを見てセリスは、ふんっと鼻を鳴らすとアズリアに向き直った。

「セリス、どうしてここに?」
「私は朝起きたら部屋にいないアズリアを心配したってのと、出発のために買い出しをするんだけど、どうせならみんなで意見を出しながら買ったほうがいいでしょってことで探しに来たのよ。それよりも、どうしてここにってのはこっちのセリフ。あなたは何でここにいるの?」

 さっきまでアキラと話していた時の弱気な様子など微塵も感じさせずに振る舞うアズリア。
 それはただの市民としてではなく勇者としてやってきたから出来る事であり、それ故にアキラはそんなアズリアの様子に再び眉を寄せてしまっていた。

「えっと、ちょっと朝早く起きすぎちゃって、でももう一度寝る気になれなかったからちょっと散歩に出てたの。ここにいるのは偶然よ」
「……ふーん。……ま、見つかったならいっか。早くいきましょ。みんな心配してたわよ」
「ごめんなさい」

 そう言ってセリスに手を引かれながらアキラから離れていくアズリア。
 だが彼女は、去り際にアキラの方を振り返り、悲しそうに笑った。
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