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女神探しの旅
勇者一行の実力確認
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「すみません、この先魔物がいるんで倒してもらってもいいですか?」
昨日の勇者一行の会話を聞いて、今更ながらまったく魔物に合わないのは不自然だと理解したアキラは、次の日は適度に魔物に会うことにした。
そうは言っても昨日は会わなかったのに今日になっていきなり、となれば怪しいので、その回数は精々が片手で数えられる程度までにしようとは考えていたが。
「魔物? 今までは会わなかったのにどうしたの?」
そう問いかけるのは当然ながらアズリアだ。
アキラはそんなアズリアにチラリと横目で視線を送ると、特に何をするでもなく再び前を向いて戦って欲しい理由を話し始めた。
「迂回しようと思えば出来るんですが、それだと結構大回りになってしまうのでできれば倒して行きたいかな、と」
「だがそれは貴様の考えであろう? 我々が手を出す必要は感じられんな」
アキラの語った魔物を倒したい理由に対して、チャールズははっきりと拒絶の意思を込めて返事をした。
だが、その程度ではアキラに効果があるはずがなかった。この話を持ちかけたアキラは、当然ながら断られた場合についても考えている。
「そうですか。では仕方がありませんね。皆さんとはここでお別れということで」
「えっ!?」
「どういう事だ!」
そんなアキラの言葉を聞いた勇者一行──特にアズリアと、アキラの提案に対して拒絶をした本人であるチャールズは驚き、危険な森の中だというのについ大きな声を出してしまった。
「どうもこうも、俺一人ならこの先のの魔物の住処をやり過ごせるんで。元々勝手についてきてるって形だったはずでしょう? 文句などないのでは?」
「それは……」
アキラの言う通り、本来はアキラが一人で帰ろうとしたところをアズリアが引きとめ、無理やりついてきたのだ。
そうである以上、言ってしまえばアキラは勝手に付き纏われているにすぎない。そんなアキラが勇者一行に気を使って行動する必要などないのだ。
現在アキラが勇者達を見捨てないで行動を共にしているのは、ただ最終確認の意味を込めてだった。剣の勇者は女神の生まれ変わりではなかったけど、もしかしたらそれは自身の思い違いであって本当は生まれ変わりだと気づけていないだけ、と言う可能性もないわけではなかった。
だからこそアキラはそのもしかしたらの可能性を潰すために勇者達と行動を共にする事にしたのだ。
だが、それはアキラ本人にしかわからないことであり、勇者達からすればアキラはいついなくなってもおかしくはないのだった。
「ほらみんな! 魔物くらい良いじゃない。倒して進みましょうよ。どうせこの森には魔物を倒しに来たわけなんだし、ね」
「まあそうだよね。寧ろいつ来るかわからない相手を警戒して進むより、待ち構えてるってわかってる魔物を相手にした方が楽だしね。うん。私は構わないよ~」
「そうよのぉ、十分に対処出来るうちにしておくというのは間違っておらんな」
危険な魔物の領域である魔境の中、自分たちがどこにいるのかもわからないのに案内人に置いていかれるなんて悪夢でしかない。それもまともな対策もしていない状態で、だ。それはたとえ勇者であっても辛いものがある。
故にアキラを引き留めようとするアズリアの言葉に乗っかるようにしてセリスとダスティンも言葉を紡ぐ。
「でしょ! そういうわけだからアキラくん、案内してもらってもいいかな?」
「……まあ、いいですけど、大丈夫ですか?」
「ふふ、心配してくれるの?」
この先にはアキラの言った通り魔物の集団がいるのだが、その数は尋常ではない。普段ならまず遭遇しないような……いや、遭遇しないどころか、そもそも存在しないような数だった。
その集まった魔物の数に対して、アキラ自身、正直ちょっと集めすぎたかな……なんて思っていた。
アキラがそんなに魔物を集めてしまった理由はただ一つ。慣れていなかった。それに尽きる。
アキラは今回、魔物をおびき寄せて時々遭遇した方がいいかなと思った。加えて勇者達の実力を見たいな、とも。だが、今まで遭遇を回避はしても誘い出した事はほとんどなかった。そんな不慣れな状態で、尚且つ勇者一行に魔法を使ったことがバレないようにしての誘い出しに、アキラは些かばかり加減を間違えてしまったのだ。
ならば今度は魔物を散らすように魔法を使えばいいのかもしれないが、そう何度も使っていてはダスティンに魔法の痕跡を気づかれる可能性がある。そうなればアキラが使ったとは分からずとも、誰かが魔法を使ったというのはバレてしまう。
バレたくはないが、かと言ってアキラが全部倒すわけにもいかない。
アズリアを心配するアキラの言葉は、そんなジレンマから来たものだった。
「でも大丈夫よ。これでも私は勇者だからね」
「そうですか……まあ、やばそうなら俺も手を貸すかもしれません」
そして、だからこそ勇者たちには悪いが魔物たちと戦ってもらおうと思ったのだが、自身の未熟さが招いたことを押し付けるバツの悪さからそんな事を申し出てしまった。
「そう? ふふ。ありがとう」
アキラの言葉がよほどおかしかったのか、アズリアはクスクスと笑うが、アキラにはなぜアズリアが笑っているのかが理解できない。
そしてアキラが訝しげに顔を傾げていると、アキラの頭の上にスッとアズリアの手が伸びてきて、アキラの頭に触れるとそのままゆっくりと動き始めた。
その動作──頭を撫でられたことに、今まで訝しげにしていた顔をさらに歪めて不機嫌さを露わにするアキラ。
「……俺達そんなに歳が離れていなかったはずなんですけど?」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
アズリアはアキラに忠告されて、自分がつい弟でも相手するような態度を取ってしまったことに気がつき慌てて手を引っ込めたが、恥ずかしさからかその顔はうっすらと赤く染まっていた。
「……まあいいです。自身の見た目は理解してますから」
そしてアキラはそう言いながらも若干不貞腐れ、ふいっとそっぽを向き、止めていた足を再び動かし前に歩き出した。
だが、アズリア以外の他の勇者一行のメンバー達は、どこか面白くないような不満のこもった目でそんなアキラとアズリアの様子を見ていた。
「さて行きましょうか。千メートルほど先にいます。ちょっと多いですけど、まあ頑張って下さい」
しかしそんな負の感情も、アキラがそう言うと同時にどこかへ吹き飛んでしまった。
「ちょっ! 千メートル!? そんなに先までわかるの!?」
そう言ったセリスの声はまるで、そんな事はありえないとでも言いたそうな悲鳴のようだった。
事実、千メートル先にいる魔物の動きを感知するなど、できるものなどいなかった。少なくともセリスの常識ではそうだ。
「それが俺の魔法ですから」
だが、アキラは何でもないことのように、しれっと流していく。だって自分の本当の魔法について答えたくないから。
「そんなことよりも準備はいいんですか?」
「私は大丈夫よ。みんなは?」
話を逸らすためにアキラがそう話を振るとアズリアが答え、更に仲間に声をかける。
「私も準備できている」「私もです」「あっ、大丈夫よ」「ワシも準備は終わっておる」
それぞれから返事がされ、アズリアはそれを聞いて頷くと、アキラに視線を送る。
「なら後はお願いします」
「……貴様は手伝わんのか?」
武器を構えることなく傍観する気満々のアキラに対してチャールズは、自分たちだけ戦わせるつもりなのかと不満を滲ませて言うが……
「やばくなったら手伝うかも、と言ったはずですが? もしかして敵と戦う前からやばいと感じているんですか? だとしたら頼まれれば俺が戦うのもやぶさかではありませんが……どうなんです?」
アズリア以外には相変わらずな態度のアキラ。そんなアキラに、チャールズは不快げに前へと向き直った。
「チッ……」
「大丈夫よ。今は疲れてるってわけでもないし、元々戦いに来たんだから装備だってちゃんとしてる。油断さえしなければ勝てるわ」
「まあ、そうじゃな。作戦としてはいつも通りワシとアズリアが初撃で良いか?」
「ええ。そのあとはチャールズと私が前進、セリスは私達の補助や後衛の護衛、ソフィアは状況次第で防御や回復、それと指示をお願い」
「まあ、つまるところいつも通りってことでいいんでしょ?」
「そうね。それが安定するもの」
「そうですね。緊急時の撤退の判断もいつも通りですか?」
「ええ、ソフィアとダスティンでお願い。前で戦ってると、どうしても全体を見渡しての状況判断って難しいから」
魔境という特殊な場所ではあるものの、この勇者一行としての戦いは慣れたもの。戦闘前の作戦会議はすんなりと進んでいった。
「作戦は決まりましたか?」
「ええ。この先にいるのでしょう?」
「そうですよ。頑張ってくださいね」
そうしてしばらく進んだ先には魔物の群れ。
アキラの魔法によって集まっていた魔物達は共食いをしていた。いや、彼らにとっては共食いなどではないのだろう。魔物と一括りにされているが、その実態は別の種族なのだから。争い、喰らいあってもおかしくはない。
「神に捧げるは我が祈り。御身が偉大なる力をもって我らに仇なす敵を貫け──」
「生命を育む大地は時としてその姿を変えて牙を剥く。大地に見捨てられし哀れな子らは贄の如く。貫け。蹂躙せよ──」
そんな魔物の群れに先制攻撃を加えるべく、アズリアとダスティンがそれぞれ魔法の準備をしていく。
そして、ついに魔法が発動する。
「──落ちろ! 『天剣』!」
「──『|嘆きの大地(グランド・ランス)』」
アズリアとダスティン。二人が叫ぶと前方の魔物の群れの足下から土でできた槍が無数にとびだし、その場にいた魔物を貫き張り付けにしていく。
それと同時に、魔物達の上空からは光り輝く半透明の剣が無数に出現し、何体かいた空を飛ぶ魔物を貫き、そのまま大地にいた魔物をも貫いていき地面に魔物達を縫い付ける。
(おお~。結構やるな。これなら俺は手を出す必要なんてないかな。流石は勇者様御一行ってところか)
「先に行く! ハアアアア!」
アズリアとダスティンの二人の攻撃によってその数を減らした魔物達に追撃をかけるように剣を構えたチャールズが走り出す。
そしてその後をセリスが追い、技を使って疲労したアズリアは軽く息を整えると二人の後を追って自身も剣を手に走り出した。
最初よりはその数をだいぶ減らした魔物達だが、それでもまだ数は多い。
前衛の三人は時折怪我をしながらも徐々にその数を減らしていき、前衛の負った怪我は即座に治癒役のソフィアが治し、ダスティンは状況を見ながら適宜攻撃をしている。
この分であれば後は問題無く魔物達を殲滅することができるだろう、というのがアキラの予想だった。
だがそんな勇者一行を、アキラは渋面を作りながら見ていた。
(……勇者の子が技を使ったとき、小さいけどあいつの反応がした。あれはなんだったんだ?)
考えられる理由としては三つ。
一つ目は、実はアズリアが本当に女神の生まれ変わりで、今は以前のアキラのように過去を思い出していないという事。
二つ目はアズリアの持つ神から与えられた道具であるという神器に反応したという事。
三つ目はそれ以外だ。
アキラが思いついた可能性としてはその三つ──実質二つだが、可能性としてより高いのは二つ目の、神器に反応したという方だ。
もしアズリアが生まれ変わりなのであれば、例え記憶を失っていて力が封じられていたとしてもアキラには分かったはずだ。なにせアキラの魂は女神のものと混ざり合い分け合った状態なのだから。
仮にも神の──それも魂を司る神の資格を得たアキラがわからないはずがなかった。
であるのなら、先ほどの気配はアズリアから感じたというよりも、アズリアの持つ剣から感じたと考えるのが自然だろう。
(とはいえ、もしかしたらって事もあるかもしれないし、どこかであの剣を確認するまではアズリア本人の方も注意しておくべきかな……)
もしかしたらという可能性を潰すためにも、アズリアの神器を手に取る手段を考えながらぼけっとしていたアキラだが、不意にその視界に一体の魔物が入ってきた。
(あっ、あれは気付いてないかな?)
勇者達から若干離れた後方にいたアキラだからこそ気づけたのだろう。前衛を支える事に専念していたソフィアの後方頭上に数体の猿がいた。
猿達は木の上を移動しているというにも関わらず、音を立てず静かに近寄っていく。
アキラはその様子を確認すると、少し悩んだ様子を見せた後腰のポーチから短剣をいくつか取り出して、ソフィアに忠告をすると同時にその短剣を猿達に投げた。
「おーい。危ないぞー」
「え?」
突然背後から聞こえたアキラの声。
今まではただ見ているだけだったの突然かけられた声に、戦闘中によそ見などしてはいけないと理解しているにもかかわらずソフィアは振り返ってしまった。
だが、今回ばかりはその行動は間違いではなかった。
ソフィアが振り向くと同時に、彼女とダスティンを襲おうとしていた猿の魔物達はアキラの投げた短剣をその体で受け止め、ドサドサッと音を立てながら地面に落ちた。
「ひうっ!」
「これは……」
背後に突然降ってきた猿の群れに思わず悲鳴を上げてしまったソフィア。
流石にそんなソフィアの声を無視する事はできず、アキラの声に反応せずに戦場を見ていたダスティンも背後に振り向いてしまい、その先の光景に思わず声を漏らした。
地面に倒れている猿達は短剣が刺さっているもののまだ生きており、ダスティンは倒れている魔物達にトドメを刺した。
猿の魔物にとどめを刺したダスティンは、自分たちに声をかけ魔物達に短剣を投げたであろう人物──アキラに視線を向ける。
だがアキラはその視線に気がついてはいたが、特に何をするでもなくただ見続けているだけだった。
ダスティンもアキラを一瞥すると、すぐに今もなお戦っている前衛の三人に視線を向け援護を再開した。
そんなダスティンの行動を見てハッとしたソフィアは、ダスティンと同じように前を向く──途中でピタリと止まり、再びアキラの方を向いたかと思うと急いではいたが丁寧にお辞儀をしてから今度こそ前を向いた。
「──これで終わりっと」
その後は問題なく戦いが進んでいき、程なくしてアキラが呼び寄せた魔物は辺りからいなくなった。
「ふぅ、数は多かったけどなんとかなったわね」
「そうだね~。でも、もうしばらくは動きたくないかなぁ……」
「こちらも魔力が危うい。魔法は威力を抑えて後数発といったところじゃな。今襲われでもしたらまずい事になりかねんぞ」
当然ながら体力も魔力も、そうすぐに回復するわけではなく、完全に回復するにはしっかりとした休養をとっても時間がかかる。
戦える程度まで、というのならばかかる時間は少なくて済むが、それでも時間がかかる事に変わりはない。
その間に襲われでもしたらいかに勇者といえど、どうしようもないだろう。
だが、そんな心配は無駄である。なにせ今回の襲撃は、意図しなかったとはいえアキラが誘導したものだ。アキラが下手に何かしようと思わなければ何もなかったのだからなにも問題はない。
「ああ、それはご心配なく。この辺りにはもう魔物はいませんから。もう今日は出くわす事はないでしょう」
魔物の襲撃を心配する勇者一行だが、そんな彼らに今まで黙っていたアキラは一歩前に出て話しかけた。
「さて、皆さん疲れているでしょうし、こちらをどうぞ」
アキラはポーチから取り出した瓶に入った液体をアズリアに渡し、他のメンバーにも渡していく。チャールズやセリスは受け取らなかったがその二人にだけ渡さないわけにもいかないので、二人の目の前の地面に置いて放置する事にした。
「なに、これ?」
「薬ですよ。このまま疲れた状態ではろくに移動もできないでしょう? ああ、毒は入ってませんよ。今なら毒を入れるまでもなくこの場から逃げ出すことはできますし」
瓶を目の高さまで持ち上げて軽く振り、中身をチャプチャプと音を立てながら観察するアズリアだが、流石によく分からないものを飲む気にはならなかったのかアキラと薬と交互に見ているだけだ。
その気持ちはアキラにも理解はできたが、だがいつまでもそうしていては先に進まないので、さあ、とアキラが促すと、アズリアは意を決して一気に飲み干した。
すると、ゆっくりとだが先ほどまでの戦いで負った傷が塞がっていき、アズリアの全身に襲いかかっていた疲労感も抜けていくのを感じた。
魔法薬というのは数あれど、これほどすぐに効果のあらわれるものはそうそうない。
あったとしてもどこかの貴族や王族のお抱えの薬師が作るものであり、一般で売っているようなものではない。更に言うのなら、そもそも一般人が買えるようなものでもない。
「あ、ありがとう。でもこんなに良いものをもらって良かったの?」
「ええ。知り合いが作ってるんでそれほどかかりませんよ。材料は割と簡単に手に入りますから」
最初は訝しんでいた他のメンバー達もアズリアが回復したのを確認すると、今度はすんなりと飲み干した。
勇者であるアズリアが毒味をする形になったのだが、『勇者とその仲間』がそれで良いのだろうか? アキラはそんな風に思ったが、その考えは首を振って消し去った。
「では行きましょうか」
そうして回復した勇者一行とアキラは森を抜けるために歩き出した。
アキラが勇者達と行動を共にしてから数日が経つと、ついに森を抜けることができた。
昨日の勇者一行の会話を聞いて、今更ながらまったく魔物に合わないのは不自然だと理解したアキラは、次の日は適度に魔物に会うことにした。
そうは言っても昨日は会わなかったのに今日になっていきなり、となれば怪しいので、その回数は精々が片手で数えられる程度までにしようとは考えていたが。
「魔物? 今までは会わなかったのにどうしたの?」
そう問いかけるのは当然ながらアズリアだ。
アキラはそんなアズリアにチラリと横目で視線を送ると、特に何をするでもなく再び前を向いて戦って欲しい理由を話し始めた。
「迂回しようと思えば出来るんですが、それだと結構大回りになってしまうのでできれば倒して行きたいかな、と」
「だがそれは貴様の考えであろう? 我々が手を出す必要は感じられんな」
アキラの語った魔物を倒したい理由に対して、チャールズははっきりと拒絶の意思を込めて返事をした。
だが、その程度ではアキラに効果があるはずがなかった。この話を持ちかけたアキラは、当然ながら断られた場合についても考えている。
「そうですか。では仕方がありませんね。皆さんとはここでお別れということで」
「えっ!?」
「どういう事だ!」
そんなアキラの言葉を聞いた勇者一行──特にアズリアと、アキラの提案に対して拒絶をした本人であるチャールズは驚き、危険な森の中だというのについ大きな声を出してしまった。
「どうもこうも、俺一人ならこの先のの魔物の住処をやり過ごせるんで。元々勝手についてきてるって形だったはずでしょう? 文句などないのでは?」
「それは……」
アキラの言う通り、本来はアキラが一人で帰ろうとしたところをアズリアが引きとめ、無理やりついてきたのだ。
そうである以上、言ってしまえばアキラは勝手に付き纏われているにすぎない。そんなアキラが勇者一行に気を使って行動する必要などないのだ。
現在アキラが勇者達を見捨てないで行動を共にしているのは、ただ最終確認の意味を込めてだった。剣の勇者は女神の生まれ変わりではなかったけど、もしかしたらそれは自身の思い違いであって本当は生まれ変わりだと気づけていないだけ、と言う可能性もないわけではなかった。
だからこそアキラはそのもしかしたらの可能性を潰すために勇者達と行動を共にする事にしたのだ。
だが、それはアキラ本人にしかわからないことであり、勇者達からすればアキラはいついなくなってもおかしくはないのだった。
「ほらみんな! 魔物くらい良いじゃない。倒して進みましょうよ。どうせこの森には魔物を倒しに来たわけなんだし、ね」
「まあそうだよね。寧ろいつ来るかわからない相手を警戒して進むより、待ち構えてるってわかってる魔物を相手にした方が楽だしね。うん。私は構わないよ~」
「そうよのぉ、十分に対処出来るうちにしておくというのは間違っておらんな」
危険な魔物の領域である魔境の中、自分たちがどこにいるのかもわからないのに案内人に置いていかれるなんて悪夢でしかない。それもまともな対策もしていない状態で、だ。それはたとえ勇者であっても辛いものがある。
故にアキラを引き留めようとするアズリアの言葉に乗っかるようにしてセリスとダスティンも言葉を紡ぐ。
「でしょ! そういうわけだからアキラくん、案内してもらってもいいかな?」
「……まあ、いいですけど、大丈夫ですか?」
「ふふ、心配してくれるの?」
この先にはアキラの言った通り魔物の集団がいるのだが、その数は尋常ではない。普段ならまず遭遇しないような……いや、遭遇しないどころか、そもそも存在しないような数だった。
その集まった魔物の数に対して、アキラ自身、正直ちょっと集めすぎたかな……なんて思っていた。
アキラがそんなに魔物を集めてしまった理由はただ一つ。慣れていなかった。それに尽きる。
アキラは今回、魔物をおびき寄せて時々遭遇した方がいいかなと思った。加えて勇者達の実力を見たいな、とも。だが、今まで遭遇を回避はしても誘い出した事はほとんどなかった。そんな不慣れな状態で、尚且つ勇者一行に魔法を使ったことがバレないようにしての誘い出しに、アキラは些かばかり加減を間違えてしまったのだ。
ならば今度は魔物を散らすように魔法を使えばいいのかもしれないが、そう何度も使っていてはダスティンに魔法の痕跡を気づかれる可能性がある。そうなればアキラが使ったとは分からずとも、誰かが魔法を使ったというのはバレてしまう。
バレたくはないが、かと言ってアキラが全部倒すわけにもいかない。
アズリアを心配するアキラの言葉は、そんなジレンマから来たものだった。
「でも大丈夫よ。これでも私は勇者だからね」
「そうですか……まあ、やばそうなら俺も手を貸すかもしれません」
そして、だからこそ勇者たちには悪いが魔物たちと戦ってもらおうと思ったのだが、自身の未熟さが招いたことを押し付けるバツの悪さからそんな事を申し出てしまった。
「そう? ふふ。ありがとう」
アキラの言葉がよほどおかしかったのか、アズリアはクスクスと笑うが、アキラにはなぜアズリアが笑っているのかが理解できない。
そしてアキラが訝しげに顔を傾げていると、アキラの頭の上にスッとアズリアの手が伸びてきて、アキラの頭に触れるとそのままゆっくりと動き始めた。
その動作──頭を撫でられたことに、今まで訝しげにしていた顔をさらに歪めて不機嫌さを露わにするアキラ。
「……俺達そんなに歳が離れていなかったはずなんですけど?」
「あっ、ごめんなさい。つい……」
アズリアはアキラに忠告されて、自分がつい弟でも相手するような態度を取ってしまったことに気がつき慌てて手を引っ込めたが、恥ずかしさからかその顔はうっすらと赤く染まっていた。
「……まあいいです。自身の見た目は理解してますから」
そしてアキラはそう言いながらも若干不貞腐れ、ふいっとそっぽを向き、止めていた足を再び動かし前に歩き出した。
だが、アズリア以外の他の勇者一行のメンバー達は、どこか面白くないような不満のこもった目でそんなアキラとアズリアの様子を見ていた。
「さて行きましょうか。千メートルほど先にいます。ちょっと多いですけど、まあ頑張って下さい」
しかしそんな負の感情も、アキラがそう言うと同時にどこかへ吹き飛んでしまった。
「ちょっ! 千メートル!? そんなに先までわかるの!?」
そう言ったセリスの声はまるで、そんな事はありえないとでも言いたそうな悲鳴のようだった。
事実、千メートル先にいる魔物の動きを感知するなど、できるものなどいなかった。少なくともセリスの常識ではそうだ。
「それが俺の魔法ですから」
だが、アキラは何でもないことのように、しれっと流していく。だって自分の本当の魔法について答えたくないから。
「そんなことよりも準備はいいんですか?」
「私は大丈夫よ。みんなは?」
話を逸らすためにアキラがそう話を振るとアズリアが答え、更に仲間に声をかける。
「私も準備できている」「私もです」「あっ、大丈夫よ」「ワシも準備は終わっておる」
それぞれから返事がされ、アズリアはそれを聞いて頷くと、アキラに視線を送る。
「なら後はお願いします」
「……貴様は手伝わんのか?」
武器を構えることなく傍観する気満々のアキラに対してチャールズは、自分たちだけ戦わせるつもりなのかと不満を滲ませて言うが……
「やばくなったら手伝うかも、と言ったはずですが? もしかして敵と戦う前からやばいと感じているんですか? だとしたら頼まれれば俺が戦うのもやぶさかではありませんが……どうなんです?」
アズリア以外には相変わらずな態度のアキラ。そんなアキラに、チャールズは不快げに前へと向き直った。
「チッ……」
「大丈夫よ。今は疲れてるってわけでもないし、元々戦いに来たんだから装備だってちゃんとしてる。油断さえしなければ勝てるわ」
「まあ、そうじゃな。作戦としてはいつも通りワシとアズリアが初撃で良いか?」
「ええ。そのあとはチャールズと私が前進、セリスは私達の補助や後衛の護衛、ソフィアは状況次第で防御や回復、それと指示をお願い」
「まあ、つまるところいつも通りってことでいいんでしょ?」
「そうね。それが安定するもの」
「そうですね。緊急時の撤退の判断もいつも通りですか?」
「ええ、ソフィアとダスティンでお願い。前で戦ってると、どうしても全体を見渡しての状況判断って難しいから」
魔境という特殊な場所ではあるものの、この勇者一行としての戦いは慣れたもの。戦闘前の作戦会議はすんなりと進んでいった。
「作戦は決まりましたか?」
「ええ。この先にいるのでしょう?」
「そうですよ。頑張ってくださいね」
そうしてしばらく進んだ先には魔物の群れ。
アキラの魔法によって集まっていた魔物達は共食いをしていた。いや、彼らにとっては共食いなどではないのだろう。魔物と一括りにされているが、その実態は別の種族なのだから。争い、喰らいあってもおかしくはない。
「神に捧げるは我が祈り。御身が偉大なる力をもって我らに仇なす敵を貫け──」
「生命を育む大地は時としてその姿を変えて牙を剥く。大地に見捨てられし哀れな子らは贄の如く。貫け。蹂躙せよ──」
そんな魔物の群れに先制攻撃を加えるべく、アズリアとダスティンがそれぞれ魔法の準備をしていく。
そして、ついに魔法が発動する。
「──落ちろ! 『天剣』!」
「──『|嘆きの大地(グランド・ランス)』」
アズリアとダスティン。二人が叫ぶと前方の魔物の群れの足下から土でできた槍が無数にとびだし、その場にいた魔物を貫き張り付けにしていく。
それと同時に、魔物達の上空からは光り輝く半透明の剣が無数に出現し、何体かいた空を飛ぶ魔物を貫き、そのまま大地にいた魔物をも貫いていき地面に魔物達を縫い付ける。
(おお~。結構やるな。これなら俺は手を出す必要なんてないかな。流石は勇者様御一行ってところか)
「先に行く! ハアアアア!」
アズリアとダスティンの二人の攻撃によってその数を減らした魔物達に追撃をかけるように剣を構えたチャールズが走り出す。
そしてその後をセリスが追い、技を使って疲労したアズリアは軽く息を整えると二人の後を追って自身も剣を手に走り出した。
最初よりはその数をだいぶ減らした魔物達だが、それでもまだ数は多い。
前衛の三人は時折怪我をしながらも徐々にその数を減らしていき、前衛の負った怪我は即座に治癒役のソフィアが治し、ダスティンは状況を見ながら適宜攻撃をしている。
この分であれば後は問題無く魔物達を殲滅することができるだろう、というのがアキラの予想だった。
だがそんな勇者一行を、アキラは渋面を作りながら見ていた。
(……勇者の子が技を使ったとき、小さいけどあいつの反応がした。あれはなんだったんだ?)
考えられる理由としては三つ。
一つ目は、実はアズリアが本当に女神の生まれ変わりで、今は以前のアキラのように過去を思い出していないという事。
二つ目はアズリアの持つ神から与えられた道具であるという神器に反応したという事。
三つ目はそれ以外だ。
アキラが思いついた可能性としてはその三つ──実質二つだが、可能性としてより高いのは二つ目の、神器に反応したという方だ。
もしアズリアが生まれ変わりなのであれば、例え記憶を失っていて力が封じられていたとしてもアキラには分かったはずだ。なにせアキラの魂は女神のものと混ざり合い分け合った状態なのだから。
仮にも神の──それも魂を司る神の資格を得たアキラがわからないはずがなかった。
であるのなら、先ほどの気配はアズリアから感じたというよりも、アズリアの持つ剣から感じたと考えるのが自然だろう。
(とはいえ、もしかしたらって事もあるかもしれないし、どこかであの剣を確認するまではアズリア本人の方も注意しておくべきかな……)
もしかしたらという可能性を潰すためにも、アズリアの神器を手に取る手段を考えながらぼけっとしていたアキラだが、不意にその視界に一体の魔物が入ってきた。
(あっ、あれは気付いてないかな?)
勇者達から若干離れた後方にいたアキラだからこそ気づけたのだろう。前衛を支える事に専念していたソフィアの後方頭上に数体の猿がいた。
猿達は木の上を移動しているというにも関わらず、音を立てず静かに近寄っていく。
アキラはその様子を確認すると、少し悩んだ様子を見せた後腰のポーチから短剣をいくつか取り出して、ソフィアに忠告をすると同時にその短剣を猿達に投げた。
「おーい。危ないぞー」
「え?」
突然背後から聞こえたアキラの声。
今まではただ見ているだけだったの突然かけられた声に、戦闘中によそ見などしてはいけないと理解しているにもかかわらずソフィアは振り返ってしまった。
だが、今回ばかりはその行動は間違いではなかった。
ソフィアが振り向くと同時に、彼女とダスティンを襲おうとしていた猿の魔物達はアキラの投げた短剣をその体で受け止め、ドサドサッと音を立てながら地面に落ちた。
「ひうっ!」
「これは……」
背後に突然降ってきた猿の群れに思わず悲鳴を上げてしまったソフィア。
流石にそんなソフィアの声を無視する事はできず、アキラの声に反応せずに戦場を見ていたダスティンも背後に振り向いてしまい、その先の光景に思わず声を漏らした。
地面に倒れている猿達は短剣が刺さっているもののまだ生きており、ダスティンは倒れている魔物達にトドメを刺した。
猿の魔物にとどめを刺したダスティンは、自分たちに声をかけ魔物達に短剣を投げたであろう人物──アキラに視線を向ける。
だがアキラはその視線に気がついてはいたが、特に何をするでもなくただ見続けているだけだった。
ダスティンもアキラを一瞥すると、すぐに今もなお戦っている前衛の三人に視線を向け援護を再開した。
そんなダスティンの行動を見てハッとしたソフィアは、ダスティンと同じように前を向く──途中でピタリと止まり、再びアキラの方を向いたかと思うと急いではいたが丁寧にお辞儀をしてから今度こそ前を向いた。
「──これで終わりっと」
その後は問題なく戦いが進んでいき、程なくしてアキラが呼び寄せた魔物は辺りからいなくなった。
「ふぅ、数は多かったけどなんとかなったわね」
「そうだね~。でも、もうしばらくは動きたくないかなぁ……」
「こちらも魔力が危うい。魔法は威力を抑えて後数発といったところじゃな。今襲われでもしたらまずい事になりかねんぞ」
当然ながら体力も魔力も、そうすぐに回復するわけではなく、完全に回復するにはしっかりとした休養をとっても時間がかかる。
戦える程度まで、というのならばかかる時間は少なくて済むが、それでも時間がかかる事に変わりはない。
その間に襲われでもしたらいかに勇者といえど、どうしようもないだろう。
だが、そんな心配は無駄である。なにせ今回の襲撃は、意図しなかったとはいえアキラが誘導したものだ。アキラが下手に何かしようと思わなければ何もなかったのだからなにも問題はない。
「ああ、それはご心配なく。この辺りにはもう魔物はいませんから。もう今日は出くわす事はないでしょう」
魔物の襲撃を心配する勇者一行だが、そんな彼らに今まで黙っていたアキラは一歩前に出て話しかけた。
「さて、皆さん疲れているでしょうし、こちらをどうぞ」
アキラはポーチから取り出した瓶に入った液体をアズリアに渡し、他のメンバーにも渡していく。チャールズやセリスは受け取らなかったがその二人にだけ渡さないわけにもいかないので、二人の目の前の地面に置いて放置する事にした。
「なに、これ?」
「薬ですよ。このまま疲れた状態ではろくに移動もできないでしょう? ああ、毒は入ってませんよ。今なら毒を入れるまでもなくこの場から逃げ出すことはできますし」
瓶を目の高さまで持ち上げて軽く振り、中身をチャプチャプと音を立てながら観察するアズリアだが、流石によく分からないものを飲む気にはならなかったのかアキラと薬と交互に見ているだけだ。
その気持ちはアキラにも理解はできたが、だがいつまでもそうしていては先に進まないので、さあ、とアキラが促すと、アズリアは意を決して一気に飲み干した。
すると、ゆっくりとだが先ほどまでの戦いで負った傷が塞がっていき、アズリアの全身に襲いかかっていた疲労感も抜けていくのを感じた。
魔法薬というのは数あれど、これほどすぐに効果のあらわれるものはそうそうない。
あったとしてもどこかの貴族や王族のお抱えの薬師が作るものであり、一般で売っているようなものではない。更に言うのなら、そもそも一般人が買えるようなものでもない。
「あ、ありがとう。でもこんなに良いものをもらって良かったの?」
「ええ。知り合いが作ってるんでそれほどかかりませんよ。材料は割と簡単に手に入りますから」
最初は訝しんでいた他のメンバー達もアズリアが回復したのを確認すると、今度はすんなりと飲み干した。
勇者であるアズリアが毒味をする形になったのだが、『勇者とその仲間』がそれで良いのだろうか? アキラはそんな風に思ったが、その考えは首を振って消し去った。
「では行きましょうか」
そうして回復した勇者一行とアキラは森を抜けるために歩き出した。
アキラが勇者達と行動を共にしてから数日が経つと、ついに森を抜けることができた。
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