外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―

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旅の始まり

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「い、いって、いって…いっでらっじゃい」

アキラが旅に出る予定日となり現在は自宅の玄関の前にいるがなかなか出発することができずにいた。
その原因は言わずもがな。母、アイリスであった。

「…母さん。その言葉何回目?そろそろ服を話してほしいんだけど……」

他にアキラの見送りに来た者達は既に別れの挨拶を済ませている。なので後はアイリスが送り出せばそれでアキラは旅立つことができる状況となっている。

しかし、本来であればすでに出発しているはずの時間を過ぎてもまだ旅立つことができずにいたアキラは、呆れた声でアイリスに語りかける。

「でもぉ……アキラに会えなくなっちゃうのよ……」
「一生会えなくなるわけじゃないから。それに一年に一回は帰ってくるつもりだし手紙もこまめに書くつもりだから」

この世界では魔法のおかげで一部の文化は進んでいるが、それは魔法使いを呼ぶことのできる富裕層のみであり一般人は文化相応の生活を送っていた。道は整備されておらず、移動方法も徒歩か馬を使っているのが現状だ。その中で手紙を送るというのはとてもお金がかかる。それこそ一般の家では場所にもよるが月の給料を持っていかれる程に高い。

だが、アキラは商人としてその年と外見にふさわしくない程の金額を稼いでいた。なので毎月手紙を送っても問題はなかった。──普通なら。

アキラに問題はない。問題があるのはアイリスだった。アキラは毎月手紙を送るといっていたが、アイリスは、それじゃ足りない。もっとほしい。できれば毎日。と言っていた。流石のアキラであっても毎日手紙を送っていてはそのうち破産する。だからなんとか月に一度ということで話をつけたのだが、それでも離れがたいようでアキラの服を掴んだまま離さなかった。

「奥様。坊ちゃんが困っています。ここは笑顔で見送って差し上げるのが坊ちゃんの為かと存じます」
(ナイスフォローだ!)

使用人の言葉に心の中でそう思ってしまったのも仕方がないことだろう。ここまで別れを惜しんでくれるのはアキラとしても嬉しいことだが、いい加減にしろと言いたくなってきていた。

「うう……わかったわ…」

アイリスは使用人から渡された布で涙を拭うとアキラを見据える。そして、口を開き見送りの言葉を言おうとしたところでスッと視線を逸らしてしまう。

(((早くしろよ)))

アキラを見送るためにきていた一同の心の声が重なる瞬間であった。
だが、ここで何か言うとまたさっきの状態に逆戻りになってしまうかもしれないので声をかけることはできず、視線をいろんな方向に飛ばしているアイリスを見守るしかなかった。

「アキラ。…………いってらっしゃい」

そして長い沈黙の後、遂にアイリスの口からその見送りの言葉が出てきた。

「いってきます」

最後は今までのグダグダさが嘘だったかのようにすっぱりと終わる。
そうしてやっとのことでアキラは女神の生まれ変わりを探すための旅に出て行った。



だが、旅に出たと言っても早々何かに出くわすわけではない。
現在アキラは自分の馬車を使い街道を進んでいるわけだが、道中は平和なものだ。

ここは物語のような世界でありアキラの状況も物語のようではあるが、この世界が現実である以上盗賊に襲われたり襲われているお姫様を助けるなんて状況には遭遇しなかった。
強いて言うのなら魔物に遭遇しそうになったが、直接会う前にアキラが魔法で対処していたので傍目から見れば何も起こっていなかった

「 平和なことはいいことだけど、正直ここまで何もないと暇すぎるよな」

すでに出発してから四時間近くが経っている。馬にはいくつもの魔法具を与えてあるので通常の馬車よりも早く進んではいる。だがそれでも大きな街に着くには後丸一日は馬車に揺られなくてはならないだろう。

(あ~暇だ~。これが車ならもっと早く進めるんだろうけどそんなものないし、作ったとしたら悪目立ちするだろうから嫌だから作れない。結局はこのままガタガタと馬車に揺られていくしかないのか~)

何にもない馬車の旅に飽きたため本を読み始めるアキラ。街道とは言っても道の舗装されていないため馬車はだいぶ揺れる。そんなことをすれば酔ってしまい更に憂鬱なことになりそうなものだが、アキラは自分の使える数少ない魔法である身体強化を使って三半規管を強化。他にも体全体に強化と治癒をかけて酔いを乗り越えた。魔法を使うことのできず、高価な魔術具を揃えることもできない一般人からしたら羨ましがられるのか、それとも能力の無駄遣いと呆れられるのか。



途中に休憩を挟みつつも馬車に揺られながら進んだアキラは、現在は馬車を止め夜に備えて準備をしている。
だが準備と言ってもあきらのやることはほとんどない。なにせ準備はすでに馬車の中に出来ているのだから。

アキラの乗ってきた馬車はその普通の外見とは裏腹に中は立派なものになっていた。
馬車の中にはフッカフカなベッドが備え付けられてあり小型ではあるが冷蔵庫も付いている。灯りの魔法具もふんだんに使われているが、その光を外部に漏らさないように、そして外から中が見えないように遮光も魔法具も付いている。

そして何よりも重要なのが、この馬車には空調設備が付いているということだ。それもただの空調ではなく毒や匂いの浄化も行ってくれる優れものだ。幌馬車の中で空調を使っても意味がないんじゃないかと思うものもいるだろうが、光がもれないようにしたのと同じように空気の流れも魔法具で操っているため問題ない。

そのうえこの馬車は狙われることがないようにとアキラ謹製の精神干渉魔法具で生き物は馬車に近寄らないようになっていた。とはいえ、この魔法具はアキラが普通に使うよりも魔力の消費が激しいので寝る時にしか使わないものだが。しかしそれでも貴族ではない一般人の旅としては快適以外のなにものでもないだろう。寧ろ貴族の馬車よりも快適である。

本人としては後は馬車の揺れをどうにかしたいと思っていたが、そこまでは準備の時間が足りなかったらしい。

(そのうち時間ができたらこれも改造しないとな)

地球にあった車を知っているアキラはこの提度で満足することはないらしく更なる改造のために改造計画を立てていく。



翌朝。旅の最中とは思えないほどの快適さの中で睡眠をとったアキラは前日の疲労を残すことなく眼を覚まし出発した。

しかし、旅はまだ二日目という事もあり順調そのものではあるのだが、いかんせんやる事がなさすぎて退屈していた。

(いっそのこと魔法を使って敵を引き寄せるか?)

そんな本来であれば旅人が考えないような危険なことを考えてしまうほどに退屈していた。


結局、魔法を使って敵を引き寄せることはしないが、敵が接近する前に魔法で散らすというのも止める事にした。

だがそうしたところで、元々旅人が魔物に会う確率はそう高くはない。確かに街の外には魔物が存在しているが、魔物とて人がよく通る街道付近にはあまり近寄る事がない。とはいえ、例外とはどんな所にもいるもので時折街道付近まで出てくる魔物もいる。

しかしながら、今回のアキラの旅は幸いながら、アキラとしては不幸なことかもしれないが魔物と出くわすこともなく旅は進んで行く。

魔物に襲われることもなく近くの村に辿り着いたアキラ。街道沿いにあるこの村はよく街から街に人が移動する際に使われている。当然ながら商人も利用するので、アキラも商人として自分の名と自分の実家であるアーデン商会の名を売っていく。

とは言ってもこの程度の距離であれば以前から何度か来ているので今更という感じはしていたが、それでもアキラは手を抜く事なく物を売る。そして物を売り村人と会話をしながら『剣の達人』についての情報を集めていく。

だがアキラが求める情報はそう簡単には集まらない。しかし、それは想定済みだ。この程度の距離なら情報が街まで届かないなんて事があるはずもないのだから。

だがそれでも念のためと聞いたのだが無駄に終わった。


そうしていくつかの村や町によりながらも、一週間程度でアキラは目的の場所である王都にたどり着く事ができた。



「ここが王都か。今まで来たことはなかったけど、大きいな」

日本にいた時ですらこれほどまでに大きな壁は見た事がないというほどにとてつもなく大きな壁が聳え立ち、アキラの視界を塞ぐ。

壁は高さ50mはあるだろうか。そんな壁が一つの都市を囲っているのだからその光景は初めて見たものを圧倒させる。

王都というだけあってこの町には多くに人間が街を囲うように聳え立つ壁に沿うように並んでいる。これは街に入るための順番待ちの人々だが、ただ入り口から真っ直ぐに並んでいるのでは何かあった際に守りきれない上に、対処するための部隊が出てきたときに邪魔になる。なのでこのようになっていた。


アキラが並び始めてから既に何時間か経過していた。だがそれでもアキラは街の中に入る事ができずにいる。それ程に時間がかかるのか、とアキラは疑問に思っていたがこの世界にはカメラなどの顔を正確に写す道具がないので、悪人を手配するときも特徴を書き記すかせいぜいが似顔絵しかなかった。
なので門番が通行許可を出す際に行う確認は万が一をなくすために、少しでも怪しいと思ったものがいた場合には質問や所持品の確認などがあり時間がかかるのだ。

そして、やっとアキラの番になり審査を受ける。だがやはりというべきかスムーズにはいかなかった。なにせアキラの見た目はまだ成人どころか、ともすれば新人式も終わっていないようにすら見えるほどなのだから門番もそのまま通すわけにもいかなかった。

とはいえ犯罪者に見えるというわけでもないので門番たちの対応は丁寧なものだ。

「えー、すまないがここにきた目的は?それと他に誰か保護者というか付き添いの人はいないのかい?」

明らかな子供扱いに少しだけムッとするアキラだが、今の姿を考えればそれも仕方がないかと考え直して素直に答えることにした。

「保護者は来ていませんよ。私はもう成人していますから」
「は?」
「そして目的は商売です。こう見えて私は商会の長をしていますので」

ぽかんと口を開け、もう言葉もない、と言った様子の門番。
その反応は予想していたが、それでもやっぱり幾分かスカッとした気持ちになるのは仕方がないだろう、と自分を正当化するアキラ。

少しして、ハッとしたように意識を取り戻した門番は少し怒ったようにアキラに話しかける。

「君。大人をからかってはいけないよ。どうせ保護者が露天にでも買いに行っている間に順番がきてしまったんだろう?君がいなくなっていれば保護者の人も心配するだろうから待っていなさい。保護者の方がきたら優先的にいれてあげるから」

アキラとしてもそこまで言われればムッとしてしまう。自分は嘘などついておらず、正直に行ったのになぜ、と。
魔法を使って催眠をかけようかとも思ったアキラだが、ここは王都なのだから魔法を感知する魔法道具の類が置いてあるかもしれない。そんな状況で催眠の魔法を使えばたちまち犯罪者として捕まってしまう。と思い直し、苛立つ心を落ち着け、にこやかに笑い組合証を見せた。

「これでどうです?信じていただけましたか?」
「これは!?…え?本当に?」

門番が何度かアキラの顔を組合証を見比べるがやがて、

「も、申し訳ありませんでした!どうぞ!」

そう言って門番が慌てて体をずらして進むようにと促す。

アキラは満足そうに頷くと、今度こそ止められることなく門の向こうへと抜けていった。
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