35 / 164
転生完了
女性の正体
しおりを挟む
コンコンッ
木造の建物の廊下にドアを叩く音が響く。
「オリバー支部長。アキラ・アーデンです。仲間を連れてまいりました」
「入れ」
臆する事なくオリバーの待つ部屋に入っていったアキラの後を追ってウダル達のビクビクしながら入っていく。
アキラ、ウダル、カーナ、キャリーの四人が部屋の中に入りオリバーの前に背筋を伸ばして並ぶ。
エリナとクララがいないのは馬車に残してきた女性を一人にしておくわけにはいかないので、何かあった時に対応できるようにウダルとカーナのそれぞれのチームから一人づつ置いてきたのだった。
「──おおよその話はアキラから聞いたが、お前達にも聞くぞ。お前達はゴブリンの目撃情報があった場所での調査が依頼だった筈だ。そこに間違いはあるか?」
違わないと全員が首を振る。
「──では調査だけではなく発見したゴブリンの巣に攻め入ったのも本当か?」
更に続く質問に今度は全員が頷き肯定する。
一際大きなため息を吐くとギロリとアキラ達のことを睨みつける。
「馬鹿者どもが!!お前達は自分が何をしたのかわかっているのか!」
「だけど──」
「黙れ!言い訳など必要ない!俺はお前達が何をしたのかわかっているのかと聞いているんだ!」
「わかってるよ!ゴブリンを逃がすと危険だから戦力を揃えてから攻めないといけないって事ぐらい!でも捕まってる人がいたんだぞ!助けるべきだろうが!」
自分は間違っていないとキャリーはオリバーに食ってかかるが、オリバーも引くことはない。
睨み合いしばしの沈黙の後オリバーが徐ろに口を開く
「なら聞くが、もしお前達がゴブリンの巣を襲った結果ゴブリンを逃してしまいどこかの村が襲われたらどうするつもりだった」
「そ、それは……」
答えることができず言葉に詰まってしまうキャリー。
助けを求めるべく周りを見回すが誰も自分の援護をしてくれない。
しかし、そこでアキラのことが目に入り一つの考えが閃きキャリーはその考えにすぐさま飛びついた。
「大丈夫だ。逃した奴はいない!なんせ終わった後にこいつが探したんだからな!」
キャリーはそう言いながらアキラのことを指差す。
だが、オリバーが聞いたのか逃げられた場合どうするかであって実際に逃げられたかどうかは聞いていない。オリバーの質問に対する答えを出せていない以上キャリーのそれはただの話のすり替えでしかなかった。
そのことを理解しているキャリー以外のメンバーはため息をを吐き出す。
「お前たちはわかっているな?」
呆れを含んだオリバーの言葉はキャリー以外に向けられ、皆その言葉に頷いている。
「ならば次回同じような状況になったらどうする?」
「そんなの助けるに決まってるだろ!」
キャリーがそう主張するが皆一瞥するだけで誰も反応することがない。
「今回は実力があり探知系の能力があるアキラが共にいたから大した問題にはならなかったが、毎回共にいるわけではあるまい。ならば次は失敗するかもしれない。先ほどの言ったが、その時もしゴブリンを逃がすことになったらどうする気だ」
「そんなのあたしたちだけでも──」
「黙れ!お前の考えはよくわかった。今はこいつらに聞いているのだ!」
キャリーが言い募ろうとするがオリバーの怒声に遮られ仕方がなく黙ることになる。
静かになったキャリーから視線を戻し、相変わらず鋭い目つきでカーナを睨み問う。
「で、どうなんだ」
「……その時は、見捨てます。……今回はアキラさんのおかげで捕まっていることが明らかであったので、そして戦力としても十分だと判断したので戦いを挑みました。ですが私たちだけでしたら無理だったでしょう。ですのでその時は……捕まっている人を見捨てます」
顔をしかめ自身の力不足を悔やみながら言葉を絞り出すカーナ。
チームのリーダーとしてその答えは正しい。オリバーはカーナの答えを聞き満足そうに頷こうとするが、カーナのチームメンバーであるキャリーには納得できなかったようでその言葉に反論する。
「おいカーナ!なんで──」
「うるせえ!お前は黙ってろ!」
だが、部屋の中に今日何度目かわからないオリバーの怒鳴り声が響く。
「で、お前は?」とオリバーの鋭い視線がウダルを射貫く。
「俺もその時には見捨てます。……状況次第ですが」
「なんだと?」
「ゴブリンの数が俺が確実に対処できる数であれば殲滅します。それは冒険者の活動として認められていますよね」
冒険者は依頼中であっても組合で定められている魔物を発見したのであれば狩らなくてはいけないという規則がある。ゴブリンもそのうちの一つだ。対処が遅れれば際限なく増えてしまうためだ。もし自分たちでは倒せないと判断したとしても速やかに組合に知らせなければならなかった。
「むっ……」とオリバーが声を漏らす。納得したわけでは無いがウダルの言葉を否定しきれない以上何も言うことはできなかった。
「ひとまず捕まってた女性を休ませたいんだけど、部屋の準備はできてるの?」
誰も喋ることなく沈黙が場を支配するが、話が途切れたところを狙って今まで黙っていたアキラが口を開く。
「そういえばそっちもあったな。準備はできている。こっちだ」
オリバーは立ち上がり並んでいるアキラたちの横を抜けてドアを開け廊下を歩いていく。
「この女性がゴブリンに捕まっていた者か。捕まっていたにしては妙に綺麗だな」
目の前のベッドで眠っている女性を見てオリバーは言う。
オリバーは今まで冒険者としてゴブリンに捕まった人の姿を何度も目にしたことがあった。その経験からすれば目の前の女性は些か綺麗すぎる。救出後に魔法や薬で癒し身なりを整えたとしてもその痕跡は隠しきれるものではない。今は寝ているがうなされていることもない。
オリバーは今までの自身の経験との違いに違和感を感じずにはいられなかった。
「どうやらその人は捕まったばかりでなにもなかったみたいだ。ほかに捕まってた人もいたみたいだしそっちに集中してたんだろ。詳しくは後で話すよ」
「……そうか」
アキラはオリバーにだけわかるようにウダル達のことを見る。狙い通りにそれに気づいたオリバーは何か他の者がいたらまずいのだろうとアキラ以外の部屋にいたメンバーを帰すことにした。
「なにがあったのか詳しく聞かせてもらうぞ」
ウダル達がいなくなった部屋でアキラとオリバーは向かい合っている。
アキラは一つ頷くと捕まっていた女性に起こったことを話し始めた。
「この人の名前はコーデリア・コールダー。ここから西にある領地を収める貴族の娘で王都の学校から実家に帰省するときに森のそばを通ってゴブリンに襲われたらしい。そして──」
アキラの口から語られるのはカーナ達に話した作り話ではなく女性──コーデリアの身に起こった真実。
だがアキラの話を聞いたところで一つの疑問が生まれる。
「お前、なんでそんなに詳しいんだ?」
当然の疑問であった。なぜ助けた際に初めてあった女性のことをそんなに詳しく知っているのか。それにコーデリアが捕まった経緯まで知っているとなるとなおのこと聞かないわけにはいかない。オリバーはありえないと思っているが、もしかしたらアキラが今の状況を作るために何かした可能性もないわけではないのだから。
「実は俺、一つだけ嘘を付いていたことがあるんだ」
そしてアキラの語る。『探知』などではない本当の能力である『外道魔法』。その魔法で何を行なったのかを。
「──そういうわけでこの人の記憶は消した。この人が起きたとしても自分になにが起こったのかわからないはずだよ」
「──『外道魔法』か……。まさかお前が使えるとはな」
「どうする?無許可で使ったことを国に報告する?」
そう問うアキラの口調は軽いものであったがその瞳はこれ以上ないほど真剣であった。
「いや。そんなことはしない。できるとも思えないし、できたとしてもお前達・・・を敵に回したくはない」
「そっか。それならいいや」
軽くではあるが一般人であれば動けなくなるような威圧行なっていたアキラはそれを解いた。
「それにしても、お前達・・・って俺の他に誰か敵に回る人がいるの?
「いるだろ、お前とは別方向にやばいのが。……お前の母親だよ」
オリバーの言葉に「あー」と声を出すことしかできないアキラ。
アイリスの普段の言動。それと過去アキラのために教会と敵対した事はオリバーも知るところなのだろう。
「──まあ、いいや。それでこの人はどうするの?」
「ひとまずは親であるコールダー伯爵連絡する。確か一月ほど前に内密に知らせが来ていた筈だ」
自身の娘がいなくなったのだから内密にではなく大々的に捜索を頼めばいいのではないかと思うかもしれないが、そういうわけにはいかない。
未婚である貴族の子女が拐われたとあれば今後結婚相手ができなくなってしまうし、他の貴族達からの口さがない言葉が一生つきまとう。ともすれば家の恥ともなるが故に、もし娘が攫われたとしてもそのことが広まらないように絶対に話さないと信頼できる相手にしか頼まないのであった。
「だが、どうしたものか……」
「?親を呼ぶんじゃないの?」
「伯爵に呼んだとしてどこまで話したものか、とな」
チラリとアキラに目線をやるオリバー。それでオリバーがなにに悩んでいるのかをアキラは理解した。
自身について誰にも話さないと先ほど約束したばかりではあったが、それを守ろうとしてる姿勢はアキラにとって非常に好感が持てた。
「その時は俺から話すよ。もし何かあったら魔法を使って問題にならないようにするから」
「……流石に伯爵ほどになると精神防御の魔法具をもってると思うぞ。効かないだろ」
アキラを心配しての発言であったが、その程度では問題ないとアキラは笑う。
「平気だよ。そこらにある物じゃ俺の魔法は防げはしないから。あんただって防御の魔法具の一つぐらい持ってるだろ?それで俺の魔法が防げると思った?」
たしかにオリバーも冒険者組合の支部長というそれなりの立場にいる以上外道魔法に対する対策をしないわけにはいかなかったので魔法具は常に持ち歩いていた。だが先ほどアキラから威圧された時にはその程度の魔法具では防ぐことなどできないだろうと感じていた。
ふう、と一度大きくため息を吐いてオリバーは話を戻す。
「任せてもいいんだな?」
「当然。寧ろこっちからお願いしたいくらいだよ」
「そうか。伯爵が来たらすぐに知らせを出すからいつでも来れるように用意しておけ」
オリバーはもう一度大きくため息を吐き出すと改めてベッドで眠るコーデリアの姿を見る。
「この子はこっちで面倒見るからもう帰っていいぞ」
「任せた」と一言言うとアキラはベッドで眠るコーデリアを一瞥してから部屋を出て行った。
ーーーーーー
「ふう。面倒ごとは勘弁して欲しいんだがな」
冒険者から組合の職員となって支部長になった俺は事務仕事というのがそんなに得意ではない。寧ろ苦手だ。
俺みたいなやつに求められるのは事務仕事よりも緊急時の戦力だから問題ないといえば問題ない。事務仕事は他の優秀な奴らがやってくれるし。
だが、今回はそうはいかない。娘を探して欲しいと内密に話された以上この件は最後まで俺が対応しなければならなかった。
決して捕まっていた者が見つからなければ良かったなどという気はないが、それでもやっぱりこの後のことを考えると面倒だと思ってしまう。
これから伯爵に手紙を出してやり取りをして、伯爵がこっちに来たら対応をしなくてはならない。
伯爵に関してはあいつ──アキラが対応すると行っていたが完全に任せっきりというわけにもいかないだろう。──ああ、後はアイリス殿にも連絡入れておいた方がいいか?どうせあいつから事情は話すだろうけど一応俺からも話をしていたほうがいいよな。
……はあ。それにしてもまさかあいつがあれほどの実力者だったとはな。
あの時感じた威圧感は|常人が耐えきれるものではなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)。未熟な者が受ければ気絶していただろう。なぜそれほどまでの威圧をすることができるのかわからないが余り首を突っ込まないほうがいいだろうな。どうにかする能力もないのに竜の逆鱗に触れるのは馬鹿らしすぎる。
「面倒だがやるしかないか」
伯爵に手紙を出すことも重要だが、さしあたってはこの子の看病をする口の固いやつを用意するところからだな。
木造の建物の廊下にドアを叩く音が響く。
「オリバー支部長。アキラ・アーデンです。仲間を連れてまいりました」
「入れ」
臆する事なくオリバーの待つ部屋に入っていったアキラの後を追ってウダル達のビクビクしながら入っていく。
アキラ、ウダル、カーナ、キャリーの四人が部屋の中に入りオリバーの前に背筋を伸ばして並ぶ。
エリナとクララがいないのは馬車に残してきた女性を一人にしておくわけにはいかないので、何かあった時に対応できるようにウダルとカーナのそれぞれのチームから一人づつ置いてきたのだった。
「──おおよその話はアキラから聞いたが、お前達にも聞くぞ。お前達はゴブリンの目撃情報があった場所での調査が依頼だった筈だ。そこに間違いはあるか?」
違わないと全員が首を振る。
「──では調査だけではなく発見したゴブリンの巣に攻め入ったのも本当か?」
更に続く質問に今度は全員が頷き肯定する。
一際大きなため息を吐くとギロリとアキラ達のことを睨みつける。
「馬鹿者どもが!!お前達は自分が何をしたのかわかっているのか!」
「だけど──」
「黙れ!言い訳など必要ない!俺はお前達が何をしたのかわかっているのかと聞いているんだ!」
「わかってるよ!ゴブリンを逃がすと危険だから戦力を揃えてから攻めないといけないって事ぐらい!でも捕まってる人がいたんだぞ!助けるべきだろうが!」
自分は間違っていないとキャリーはオリバーに食ってかかるが、オリバーも引くことはない。
睨み合いしばしの沈黙の後オリバーが徐ろに口を開く
「なら聞くが、もしお前達がゴブリンの巣を襲った結果ゴブリンを逃してしまいどこかの村が襲われたらどうするつもりだった」
「そ、それは……」
答えることができず言葉に詰まってしまうキャリー。
助けを求めるべく周りを見回すが誰も自分の援護をしてくれない。
しかし、そこでアキラのことが目に入り一つの考えが閃きキャリーはその考えにすぐさま飛びついた。
「大丈夫だ。逃した奴はいない!なんせ終わった後にこいつが探したんだからな!」
キャリーはそう言いながらアキラのことを指差す。
だが、オリバーが聞いたのか逃げられた場合どうするかであって実際に逃げられたかどうかは聞いていない。オリバーの質問に対する答えを出せていない以上キャリーのそれはただの話のすり替えでしかなかった。
そのことを理解しているキャリー以外のメンバーはため息をを吐き出す。
「お前たちはわかっているな?」
呆れを含んだオリバーの言葉はキャリー以外に向けられ、皆その言葉に頷いている。
「ならば次回同じような状況になったらどうする?」
「そんなの助けるに決まってるだろ!」
キャリーがそう主張するが皆一瞥するだけで誰も反応することがない。
「今回は実力があり探知系の能力があるアキラが共にいたから大した問題にはならなかったが、毎回共にいるわけではあるまい。ならば次は失敗するかもしれない。先ほどの言ったが、その時もしゴブリンを逃がすことになったらどうする気だ」
「そんなのあたしたちだけでも──」
「黙れ!お前の考えはよくわかった。今はこいつらに聞いているのだ!」
キャリーが言い募ろうとするがオリバーの怒声に遮られ仕方がなく黙ることになる。
静かになったキャリーから視線を戻し、相変わらず鋭い目つきでカーナを睨み問う。
「で、どうなんだ」
「……その時は、見捨てます。……今回はアキラさんのおかげで捕まっていることが明らかであったので、そして戦力としても十分だと判断したので戦いを挑みました。ですが私たちだけでしたら無理だったでしょう。ですのでその時は……捕まっている人を見捨てます」
顔をしかめ自身の力不足を悔やみながら言葉を絞り出すカーナ。
チームのリーダーとしてその答えは正しい。オリバーはカーナの答えを聞き満足そうに頷こうとするが、カーナのチームメンバーであるキャリーには納得できなかったようでその言葉に反論する。
「おいカーナ!なんで──」
「うるせえ!お前は黙ってろ!」
だが、部屋の中に今日何度目かわからないオリバーの怒鳴り声が響く。
「で、お前は?」とオリバーの鋭い視線がウダルを射貫く。
「俺もその時には見捨てます。……状況次第ですが」
「なんだと?」
「ゴブリンの数が俺が確実に対処できる数であれば殲滅します。それは冒険者の活動として認められていますよね」
冒険者は依頼中であっても組合で定められている魔物を発見したのであれば狩らなくてはいけないという規則がある。ゴブリンもそのうちの一つだ。対処が遅れれば際限なく増えてしまうためだ。もし自分たちでは倒せないと判断したとしても速やかに組合に知らせなければならなかった。
「むっ……」とオリバーが声を漏らす。納得したわけでは無いがウダルの言葉を否定しきれない以上何も言うことはできなかった。
「ひとまず捕まってた女性を休ませたいんだけど、部屋の準備はできてるの?」
誰も喋ることなく沈黙が場を支配するが、話が途切れたところを狙って今まで黙っていたアキラが口を開く。
「そういえばそっちもあったな。準備はできている。こっちだ」
オリバーは立ち上がり並んでいるアキラたちの横を抜けてドアを開け廊下を歩いていく。
「この女性がゴブリンに捕まっていた者か。捕まっていたにしては妙に綺麗だな」
目の前のベッドで眠っている女性を見てオリバーは言う。
オリバーは今まで冒険者としてゴブリンに捕まった人の姿を何度も目にしたことがあった。その経験からすれば目の前の女性は些か綺麗すぎる。救出後に魔法や薬で癒し身なりを整えたとしてもその痕跡は隠しきれるものではない。今は寝ているがうなされていることもない。
オリバーは今までの自身の経験との違いに違和感を感じずにはいられなかった。
「どうやらその人は捕まったばかりでなにもなかったみたいだ。ほかに捕まってた人もいたみたいだしそっちに集中してたんだろ。詳しくは後で話すよ」
「……そうか」
アキラはオリバーにだけわかるようにウダル達のことを見る。狙い通りにそれに気づいたオリバーは何か他の者がいたらまずいのだろうとアキラ以外の部屋にいたメンバーを帰すことにした。
「なにがあったのか詳しく聞かせてもらうぞ」
ウダル達がいなくなった部屋でアキラとオリバーは向かい合っている。
アキラは一つ頷くと捕まっていた女性に起こったことを話し始めた。
「この人の名前はコーデリア・コールダー。ここから西にある領地を収める貴族の娘で王都の学校から実家に帰省するときに森のそばを通ってゴブリンに襲われたらしい。そして──」
アキラの口から語られるのはカーナ達に話した作り話ではなく女性──コーデリアの身に起こった真実。
だがアキラの話を聞いたところで一つの疑問が生まれる。
「お前、なんでそんなに詳しいんだ?」
当然の疑問であった。なぜ助けた際に初めてあった女性のことをそんなに詳しく知っているのか。それにコーデリアが捕まった経緯まで知っているとなるとなおのこと聞かないわけにはいかない。オリバーはありえないと思っているが、もしかしたらアキラが今の状況を作るために何かした可能性もないわけではないのだから。
「実は俺、一つだけ嘘を付いていたことがあるんだ」
そしてアキラの語る。『探知』などではない本当の能力である『外道魔法』。その魔法で何を行なったのかを。
「──そういうわけでこの人の記憶は消した。この人が起きたとしても自分になにが起こったのかわからないはずだよ」
「──『外道魔法』か……。まさかお前が使えるとはな」
「どうする?無許可で使ったことを国に報告する?」
そう問うアキラの口調は軽いものであったがその瞳はこれ以上ないほど真剣であった。
「いや。そんなことはしない。できるとも思えないし、できたとしてもお前達・・・を敵に回したくはない」
「そっか。それならいいや」
軽くではあるが一般人であれば動けなくなるような威圧行なっていたアキラはそれを解いた。
「それにしても、お前達・・・って俺の他に誰か敵に回る人がいるの?
「いるだろ、お前とは別方向にやばいのが。……お前の母親だよ」
オリバーの言葉に「あー」と声を出すことしかできないアキラ。
アイリスの普段の言動。それと過去アキラのために教会と敵対した事はオリバーも知るところなのだろう。
「──まあ、いいや。それでこの人はどうするの?」
「ひとまずは親であるコールダー伯爵連絡する。確か一月ほど前に内密に知らせが来ていた筈だ」
自身の娘がいなくなったのだから内密にではなく大々的に捜索を頼めばいいのではないかと思うかもしれないが、そういうわけにはいかない。
未婚である貴族の子女が拐われたとあれば今後結婚相手ができなくなってしまうし、他の貴族達からの口さがない言葉が一生つきまとう。ともすれば家の恥ともなるが故に、もし娘が攫われたとしてもそのことが広まらないように絶対に話さないと信頼できる相手にしか頼まないのであった。
「だが、どうしたものか……」
「?親を呼ぶんじゃないの?」
「伯爵に呼んだとしてどこまで話したものか、とな」
チラリとアキラに目線をやるオリバー。それでオリバーがなにに悩んでいるのかをアキラは理解した。
自身について誰にも話さないと先ほど約束したばかりではあったが、それを守ろうとしてる姿勢はアキラにとって非常に好感が持てた。
「その時は俺から話すよ。もし何かあったら魔法を使って問題にならないようにするから」
「……流石に伯爵ほどになると精神防御の魔法具をもってると思うぞ。効かないだろ」
アキラを心配しての発言であったが、その程度では問題ないとアキラは笑う。
「平気だよ。そこらにある物じゃ俺の魔法は防げはしないから。あんただって防御の魔法具の一つぐらい持ってるだろ?それで俺の魔法が防げると思った?」
たしかにオリバーも冒険者組合の支部長というそれなりの立場にいる以上外道魔法に対する対策をしないわけにはいかなかったので魔法具は常に持ち歩いていた。だが先ほどアキラから威圧された時にはその程度の魔法具では防ぐことなどできないだろうと感じていた。
ふう、と一度大きくため息を吐いてオリバーは話を戻す。
「任せてもいいんだな?」
「当然。寧ろこっちからお願いしたいくらいだよ」
「そうか。伯爵が来たらすぐに知らせを出すからいつでも来れるように用意しておけ」
オリバーはもう一度大きくため息を吐き出すと改めてベッドで眠るコーデリアの姿を見る。
「この子はこっちで面倒見るからもう帰っていいぞ」
「任せた」と一言言うとアキラはベッドで眠るコーデリアを一瞥してから部屋を出て行った。
ーーーーーー
「ふう。面倒ごとは勘弁して欲しいんだがな」
冒険者から組合の職員となって支部長になった俺は事務仕事というのがそんなに得意ではない。寧ろ苦手だ。
俺みたいなやつに求められるのは事務仕事よりも緊急時の戦力だから問題ないといえば問題ない。事務仕事は他の優秀な奴らがやってくれるし。
だが、今回はそうはいかない。娘を探して欲しいと内密に話された以上この件は最後まで俺が対応しなければならなかった。
決して捕まっていた者が見つからなければ良かったなどという気はないが、それでもやっぱりこの後のことを考えると面倒だと思ってしまう。
これから伯爵に手紙を出してやり取りをして、伯爵がこっちに来たら対応をしなくてはならない。
伯爵に関してはあいつ──アキラが対応すると行っていたが完全に任せっきりというわけにもいかないだろう。──ああ、後はアイリス殿にも連絡入れておいた方がいいか?どうせあいつから事情は話すだろうけど一応俺からも話をしていたほうがいいよな。
……はあ。それにしてもまさかあいつがあれほどの実力者だったとはな。
あの時感じた威圧感は|常人が耐えきれるものではなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)。未熟な者が受ければ気絶していただろう。なぜそれほどまでの威圧をすることができるのかわからないが余り首を突っ込まないほうがいいだろうな。どうにかする能力もないのに竜の逆鱗に触れるのは馬鹿らしすぎる。
「面倒だがやるしかないか」
伯爵に手紙を出すことも重要だが、さしあたってはこの子の看病をする口の固いやつを用意するところからだな。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる