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転生完了
ゴブリンの探索依頼
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アキラが家に着くとまだ日が落ち切っておらず、夕食にはまだ早い時間であった。
そのためアキラは自室へと行き荷物を降ろした後、毎日行っている魔法の訓練を始めた。
アキラはこの二年間精神魔法の使い手であることを隠し『探知』の超能力としてやって来たが、魔法の訓練は1日も欠かしたことがない。
なにせアキラの魔法は強すぎるのだ。精神魔法に適性がありすぎるため苦労せずとも相手に魔法をかけることができるが、少しでもミスをすればたちまち精神を壊してしまうことになるため訓練を続けて来た。
しかしその弊害としてアキラの成長は十二歳の時からさして変わってはいない。
魔法とは体内に存在する魔力を使用するがその量は個体差がある。では魔力の量を増やすにはどうすればいいかというと魔法を使うことだ。
魔法を使い、体に魔力を流すことによって体が魔力を使うのに適した状態へと変化する。
変化といっても目に見えた違いはない。精々が老化が多少遅くなる程度でしかないのだが中には何年たっても老いないものも居る。エルフやドワーフ達の寿命が長いのも精霊と同化することで変化した為である。
だがアキラは異種族の血を引いていないにも関わらず老いない──成長しないのは神となったからである。女神を助けるために神としての力を壊しているとはいってもその力の全てをなくしたわけではない。その神としての魂は時間とともに修復されていき、現在では既に人間の寿命を超える程度には回復していた。
なので老化の遅くなったアキラは成長することなく過ごして来た(実際には目に見えないほどではあるがゆっくりと成長している)。
ゴーン。ゴーン。と1日の仕事の終わりを知らせる鐘がなる。
この世界には時計は存在している。魔法具の時計も機械時計も両方存在している。過去の偉人が作ったものだがその偉人が作るまでまともな時計は存在していなかった。魔法具の方は存在していたが設定が適当で正確な時間を測ることはできなかったし、魔力の消費も大きかったので普及はしていなかった。
この偉人─アキラと同じ転生者であるのだが─が星の運行を調べ機械時計を作り暦と時間を設定した。その為、それより後に作られた時計は全てこの転生者の作った時計を参考にして作られる様になったが、魔法具も機械時計もどちらも細かい部品を使うのでやはり普及はしなかった。それでも大きな街に一つは時計塔があるし、お金を持っている家は小型の時計を持っていた。
鐘の音を聞き、閉じていた目を開くアキラ。
アキラが集中を解き息を吐き出すとコンコンッと部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「坊ちゃん。夕食の時間です」
今の鐘の音は仕事の終わりを示すものでもあるが同時に夕食の合図でもあった。
呼びに来た使用人に返事をし、軽く身だしなみを整えてから食堂へと向かう。
「あ、母さん。今日は早いね」
「ええ、最近は特に問題もないし、たまにはアキラより早く来て待っていたかったから」
普段であればアキラよりも後にやってくるはずのアイリスが先に席に着いてアキラを待っていたが、それ以外には特に重要な話があるわけでもなく穏やかな時間が過ぎていった。
「そうだ。母さん。クルールメアーさんが魔法の鞄を今度から扱うらしいよ」
「あら。そうなの?それって前から言ってたやつかしら?」
「うん。僕が設計して渡したやつだから効果はそこそこで、少なくとも一般にはほとんど出回らないくらいのできだと思うよ」
「わかったわ。あとで人を送っておくわね」
食事の最中にふと思い出したようにアキラはアイリスに伝えるが、その内容は普通の商会であればしっかりと書類を提出しなければならないような事であった。
アキラは自身が設計した魔法具をクルールメアーに作ってもらっているがその効果はかなり高い。この世界よりも文明が発達した世界で暮らしてきた経験と試練で命懸けで鍛えた魔法のおかげなのだが、そんなものをエルフとドワーフがやっているとはいえ一般の店で扱えるはずがない。
ではどうしているのか。それはアキラの母に頼んで仲介してもらっているのだ。アキラ本人がやらないのはクルールメアー達同様アキラ自身にもまだそこまでの品を扱うだけの力がないからだ。
「ありがとう」
なんでもないことのように話は進み仕事の話を終えると、また仲の良い親子の食事へと戻っていった。
数日後の朝稽古
「なあ明日は暇か?」
「暇ってわけじゃないけど急ぎの用事もないかな。依頼?」
アキラとウダルの稽古は現在実剣で行われている。刃を潰してあるとは言っても当たれば痛いでは済まないのだが、二人は実戦さながらに斬り合っている。
そんな中でアキラは今日の予定を思い出し答えるが手を休めることはない。
「おう。今日は、ゴブリンの調査に、行くんだが、一緒にどうだ?」
ゴブリンの調査。ゴブリンはそれほど強くはないがその繁殖能力が異常だ。同種の雌に限らず人型の生物を攫い子を産ませるために行動する。人型といっても大抵の人型の魔物は人間より強くゴブリン程度では叶わないものが多い。なので必然的にゴブリンは人間をよく襲いその数を増やしていく。
種を増やすこと自体は生物として正しいことなのだがそれを許容できるかは別問題だ。故に、ゴブリンを見つけたらその周辺を調査して、もし痕跡があったら討伐隊を出すほどだ。大げさに思えるかもしれないが、過去にゴブリン程度と見逃したことによって攻め落とされた街がある。
街が攻められるほどのことはほとんどないが村を襲われることはよくある事だ。騎士や兵士として働いていたとしても出身は農民であることは珍しくない。冒険者もそのほとんどがどこかの村の出身者だ。そんな中ゴブリンの討伐を渋ればどうなるか。
なのでその地を収める領主としてもゴブリン関係の仕事に手を抜いたりはしない。
だが、そうは言っても所詮はゴブリン。ちゃんと戦えば一般人でも倒せる程度の魔物相手に騎士や高位の冒険者が調査に出るわけがない。ゴブリンそのものはお金にならないし、何か宝を持っているわけでもない。
よってゴブリンの目撃情報のあった場所の周辺の捜索は下位の冒険者の仕事になっていた。
「うーん、場所によるかな。遠かったら泊まりになるし」
「そんなに遠くは、ないぞ!──ッ!」
明らかに手を抜いているとわかる相手に対しウダルは全力で打ち込むが、当たるどころか擦る様子さえ見せないアキラ。
ウダルの攻撃を捌きいつもの様に地面に転がすと持っていた剣を突きつけてニコリと笑う
「クソッ!また勝てなかったか」
「でも最初よりは圧倒的に強くなってるよ。冒険者の中でもそれなりのものなんじゃないか?」
「まあ下位ではな。やっぱりランクが上の人が相手だと厳しいさ。それで依頼はどうする」
「遠くないなら行ってもいいかな。一泊くらいなら余裕はあるし」
「よし!今日はこのくらいにして早く行こうぜ!」
アキラも行く事になりはしたが、まだ詳細な打ち合わせなどしていないし準備だってしていない。それなのに今にもはしりだしそうなウダルを止めて、アキラは待ち合わせの約束を取り付ける。
「待てって。まだ朝ごはん食べてないし準備もある。一時間後に組合の前で待ち合わせにしないか?」
「ああ、そうだな。じゃあ俺は先に準備して待ってるぜ!」
昨夜の夕食とは逆にアイリスよりも早く食堂で待っていたアキラの姿を見て、アイリスは驚いたがすぐに笑顔になると挨拶をして席に着いた。
「母さん。ウダルに誘われてちょっと街の外に行ってくる。大丈夫だと思うけどもしかしたら泊まりになるかもしれない」
「わかったわ。気をつけて行ってらっしゃい」
もう少し何か言われるかと覚悟していたアキラとしてはいささか拍子抜けだったが、問題はないので特になにも言うことはなかった。
アキラには快く承諾したように見えるアイリスだがその心の中では大変慌てていた。こんないきなり言うなんて何かあったのか。外に行くなんて怪我をしてしまうのではないか。そう思いはしたが半年後にアキラが旅に出ることはすでに聞いている。旅に出てからアキラが困らないように今のうちに行っておく練習と思い、自身の気持ちを抑えて笑顔で送り出す事にしたのだった。
ちなみに、アキラはすでに何度も街の外に出ているし外泊もしていたし、その度にアイリスは心の中で狼狽えていた。練習が必要なのはアキラではなくアイリスではないだろうか。
母の心配などよそにアキラは手に入れたばかりの魔法の鞄に準備を整えて待ち合わせをしている組合に向かう。
「おまたせ。おはようエリナ。──他のメンバーは?」
いるのはウダルとエリナだけだった。通常、今回のように何かを探すタイプの依頼では二人で受けることはない。アキラがいれば捜索などすぐに終わるのでその心配はないが、今回はウダルがこの依頼を受けた時点ではまだアキラの参加は分からなかった。なので他に参加者がいるんだろうと思っての発言だった。
「ああ、他はこの間の合同で依頼を受けたカーナって覚えてるか?」
「そんなにすぐ忘れないよ。女の子三人組のとこだろ」
「そうだ。あいつらと又組むことになった」
話をしているとアキラ達に向かって歩いている集団がいる。どうやら待ち合わせの相手であるカーナ達のチームが来たようだ。
「おはようございます。今日はよろしく願いしますね」
「ああ、こっちこそよろしく」
お互いのチームのリーダーであるカーナとウダルが挨拶をする。
「よし!じゃあ揃った事だしさっさと行ってさっさと終わらせようぜ!」
「キャリー、今回はゴブリンの捜索なんだからそんな早くは終わらないよ」
「何言ってんだ。そんなのアキラがやればすぐに終わるだろ」
完全にアキラの能力をあてにする気であるキャリーをクララが窘めるがそれをキャリーは聞かない。
アキラとしてもあてにされるのは構わないがこうもあからさまに言われると少しながら思うところがあった。
「イテッ!」
「その言い方は失礼。頼るにしてももっとしっかり頼むべき」
このままでは止まらないだろうとキャリーの頭を後ろから小突いたクララ。
小突かれたキャリーは振り返りクララの事をみるがクララはどこ吹く風と顔をそらす。
「すいませんアキラさん。キャリーも悪気があるわけではないのです」
「うん、それは知ってるよ。なんていうか、彼女色々と隠せないのは前回でわかったし。それに元から探知自体はするつもりだったから。万が一失敗でもしたらまずいし」
もし探索で下手を打ってゴブリンの存在を見落としていれば周囲に被害が出る。そうはなってほしくないのでアキラは言われずとも魔法を使って探すつもりだった。
その旨を伝えられたカーナはキャリーの態度も相まって恐縮そうにする。
「あー、えっと。俺は気にしてないですしもう出発しませんか?」
「そうだな。ここで話していても邪魔だし、話なら進みながらでもできる」
「わかりました。では、改めてよろしくお願いします」
このままこの場所にいるわけにはいかないので一行は街の外へと向かった。
「まさか馬車に乗っていくとは思いませんでした」
「だな。目的地まで歩いていくもんだとばかり思ってたぜ」
「お金持ちだね」
「俺たちとしても歩いていくつもりだったんだが、アキラが手配していてな」
カーナとキャリーとクララの言葉に御者席にいるウダルがそう返すとその隣、同じく御者席にいるアキラに視線が集まる。
「ん?馬車はあったほうがいいだろ?これは俺の個人所有だからすぐに用意できたし。…まあ御者は用意できなかったから持ち回りになるけど」
その言葉の通りに現在アキラが馬車を操っているがその隣にはウダルの姿があり、馬車について教わっている最中だった。少し教えた後は一人で操作してもらい、その後はウダルが次の者に教えることになっている。
「それぐらい構わねえけどよ…。馬車の個人所有かぁ。さすが商人って感じだよな」
「毎回使うわけじゃないけど、ウダルたちも御者の経験も一回くらいあったほうがいいだろ?」
「まあな。一度でも体験しとけばいざって時に行動の幅が広がるからな」
今後冒険者として続けていくのなら不測の事態に備えておいて損はないだろう。ただでさえ半年後には自分はいなくなるのだから。今までもアキラはウダルに色々教えてきた。剣の扱いや魔法への対抗策。商人に嵌められないようにするための知識そして今回の馬車の操縦の仕方もそうだ。それはひとえにアキラが心を許すことのできる友人に死んでほしくないからであった。
そのためアキラは自室へと行き荷物を降ろした後、毎日行っている魔法の訓練を始めた。
アキラはこの二年間精神魔法の使い手であることを隠し『探知』の超能力としてやって来たが、魔法の訓練は1日も欠かしたことがない。
なにせアキラの魔法は強すぎるのだ。精神魔法に適性がありすぎるため苦労せずとも相手に魔法をかけることができるが、少しでもミスをすればたちまち精神を壊してしまうことになるため訓練を続けて来た。
しかしその弊害としてアキラの成長は十二歳の時からさして変わってはいない。
魔法とは体内に存在する魔力を使用するがその量は個体差がある。では魔力の量を増やすにはどうすればいいかというと魔法を使うことだ。
魔法を使い、体に魔力を流すことによって体が魔力を使うのに適した状態へと変化する。
変化といっても目に見えた違いはない。精々が老化が多少遅くなる程度でしかないのだが中には何年たっても老いないものも居る。エルフやドワーフ達の寿命が長いのも精霊と同化することで変化した為である。
だがアキラは異種族の血を引いていないにも関わらず老いない──成長しないのは神となったからである。女神を助けるために神としての力を壊しているとはいってもその力の全てをなくしたわけではない。その神としての魂は時間とともに修復されていき、現在では既に人間の寿命を超える程度には回復していた。
なので老化の遅くなったアキラは成長することなく過ごして来た(実際には目に見えないほどではあるがゆっくりと成長している)。
ゴーン。ゴーン。と1日の仕事の終わりを知らせる鐘がなる。
この世界には時計は存在している。魔法具の時計も機械時計も両方存在している。過去の偉人が作ったものだがその偉人が作るまでまともな時計は存在していなかった。魔法具の方は存在していたが設定が適当で正確な時間を測ることはできなかったし、魔力の消費も大きかったので普及はしていなかった。
この偉人─アキラと同じ転生者であるのだが─が星の運行を調べ機械時計を作り暦と時間を設定した。その為、それより後に作られた時計は全てこの転生者の作った時計を参考にして作られる様になったが、魔法具も機械時計もどちらも細かい部品を使うのでやはり普及はしなかった。それでも大きな街に一つは時計塔があるし、お金を持っている家は小型の時計を持っていた。
鐘の音を聞き、閉じていた目を開くアキラ。
アキラが集中を解き息を吐き出すとコンコンッと部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「坊ちゃん。夕食の時間です」
今の鐘の音は仕事の終わりを示すものでもあるが同時に夕食の合図でもあった。
呼びに来た使用人に返事をし、軽く身だしなみを整えてから食堂へと向かう。
「あ、母さん。今日は早いね」
「ええ、最近は特に問題もないし、たまにはアキラより早く来て待っていたかったから」
普段であればアキラよりも後にやってくるはずのアイリスが先に席に着いてアキラを待っていたが、それ以外には特に重要な話があるわけでもなく穏やかな時間が過ぎていった。
「そうだ。母さん。クルールメアーさんが魔法の鞄を今度から扱うらしいよ」
「あら。そうなの?それって前から言ってたやつかしら?」
「うん。僕が設計して渡したやつだから効果はそこそこで、少なくとも一般にはほとんど出回らないくらいのできだと思うよ」
「わかったわ。あとで人を送っておくわね」
食事の最中にふと思い出したようにアキラはアイリスに伝えるが、その内容は普通の商会であればしっかりと書類を提出しなければならないような事であった。
アキラは自身が設計した魔法具をクルールメアーに作ってもらっているがその効果はかなり高い。この世界よりも文明が発達した世界で暮らしてきた経験と試練で命懸けで鍛えた魔法のおかげなのだが、そんなものをエルフとドワーフがやっているとはいえ一般の店で扱えるはずがない。
ではどうしているのか。それはアキラの母に頼んで仲介してもらっているのだ。アキラ本人がやらないのはクルールメアー達同様アキラ自身にもまだそこまでの品を扱うだけの力がないからだ。
「ありがとう」
なんでもないことのように話は進み仕事の話を終えると、また仲の良い親子の食事へと戻っていった。
数日後の朝稽古
「なあ明日は暇か?」
「暇ってわけじゃないけど急ぎの用事もないかな。依頼?」
アキラとウダルの稽古は現在実剣で行われている。刃を潰してあるとは言っても当たれば痛いでは済まないのだが、二人は実戦さながらに斬り合っている。
そんな中でアキラは今日の予定を思い出し答えるが手を休めることはない。
「おう。今日は、ゴブリンの調査に、行くんだが、一緒にどうだ?」
ゴブリンの調査。ゴブリンはそれほど強くはないがその繁殖能力が異常だ。同種の雌に限らず人型の生物を攫い子を産ませるために行動する。人型といっても大抵の人型の魔物は人間より強くゴブリン程度では叶わないものが多い。なので必然的にゴブリンは人間をよく襲いその数を増やしていく。
種を増やすこと自体は生物として正しいことなのだがそれを許容できるかは別問題だ。故に、ゴブリンを見つけたらその周辺を調査して、もし痕跡があったら討伐隊を出すほどだ。大げさに思えるかもしれないが、過去にゴブリン程度と見逃したことによって攻め落とされた街がある。
街が攻められるほどのことはほとんどないが村を襲われることはよくある事だ。騎士や兵士として働いていたとしても出身は農民であることは珍しくない。冒険者もそのほとんどがどこかの村の出身者だ。そんな中ゴブリンの討伐を渋ればどうなるか。
なのでその地を収める領主としてもゴブリン関係の仕事に手を抜いたりはしない。
だが、そうは言っても所詮はゴブリン。ちゃんと戦えば一般人でも倒せる程度の魔物相手に騎士や高位の冒険者が調査に出るわけがない。ゴブリンそのものはお金にならないし、何か宝を持っているわけでもない。
よってゴブリンの目撃情報のあった場所の周辺の捜索は下位の冒険者の仕事になっていた。
「うーん、場所によるかな。遠かったら泊まりになるし」
「そんなに遠くは、ないぞ!──ッ!」
明らかに手を抜いているとわかる相手に対しウダルは全力で打ち込むが、当たるどころか擦る様子さえ見せないアキラ。
ウダルの攻撃を捌きいつもの様に地面に転がすと持っていた剣を突きつけてニコリと笑う
「クソッ!また勝てなかったか」
「でも最初よりは圧倒的に強くなってるよ。冒険者の中でもそれなりのものなんじゃないか?」
「まあ下位ではな。やっぱりランクが上の人が相手だと厳しいさ。それで依頼はどうする」
「遠くないなら行ってもいいかな。一泊くらいなら余裕はあるし」
「よし!今日はこのくらいにして早く行こうぜ!」
アキラも行く事になりはしたが、まだ詳細な打ち合わせなどしていないし準備だってしていない。それなのに今にもはしりだしそうなウダルを止めて、アキラは待ち合わせの約束を取り付ける。
「待てって。まだ朝ごはん食べてないし準備もある。一時間後に組合の前で待ち合わせにしないか?」
「ああ、そうだな。じゃあ俺は先に準備して待ってるぜ!」
昨夜の夕食とは逆にアイリスよりも早く食堂で待っていたアキラの姿を見て、アイリスは驚いたがすぐに笑顔になると挨拶をして席に着いた。
「母さん。ウダルに誘われてちょっと街の外に行ってくる。大丈夫だと思うけどもしかしたら泊まりになるかもしれない」
「わかったわ。気をつけて行ってらっしゃい」
もう少し何か言われるかと覚悟していたアキラとしてはいささか拍子抜けだったが、問題はないので特になにも言うことはなかった。
アキラには快く承諾したように見えるアイリスだがその心の中では大変慌てていた。こんないきなり言うなんて何かあったのか。外に行くなんて怪我をしてしまうのではないか。そう思いはしたが半年後にアキラが旅に出ることはすでに聞いている。旅に出てからアキラが困らないように今のうちに行っておく練習と思い、自身の気持ちを抑えて笑顔で送り出す事にしたのだった。
ちなみに、アキラはすでに何度も街の外に出ているし外泊もしていたし、その度にアイリスは心の中で狼狽えていた。練習が必要なのはアキラではなくアイリスではないだろうか。
母の心配などよそにアキラは手に入れたばかりの魔法の鞄に準備を整えて待ち合わせをしている組合に向かう。
「おまたせ。おはようエリナ。──他のメンバーは?」
いるのはウダルとエリナだけだった。通常、今回のように何かを探すタイプの依頼では二人で受けることはない。アキラがいれば捜索などすぐに終わるのでその心配はないが、今回はウダルがこの依頼を受けた時点ではまだアキラの参加は分からなかった。なので他に参加者がいるんだろうと思っての発言だった。
「ああ、他はこの間の合同で依頼を受けたカーナって覚えてるか?」
「そんなにすぐ忘れないよ。女の子三人組のとこだろ」
「そうだ。あいつらと又組むことになった」
話をしているとアキラ達に向かって歩いている集団がいる。どうやら待ち合わせの相手であるカーナ達のチームが来たようだ。
「おはようございます。今日はよろしく願いしますね」
「ああ、こっちこそよろしく」
お互いのチームのリーダーであるカーナとウダルが挨拶をする。
「よし!じゃあ揃った事だしさっさと行ってさっさと終わらせようぜ!」
「キャリー、今回はゴブリンの捜索なんだからそんな早くは終わらないよ」
「何言ってんだ。そんなのアキラがやればすぐに終わるだろ」
完全にアキラの能力をあてにする気であるキャリーをクララが窘めるがそれをキャリーは聞かない。
アキラとしてもあてにされるのは構わないがこうもあからさまに言われると少しながら思うところがあった。
「イテッ!」
「その言い方は失礼。頼るにしてももっとしっかり頼むべき」
このままでは止まらないだろうとキャリーの頭を後ろから小突いたクララ。
小突かれたキャリーは振り返りクララの事をみるがクララはどこ吹く風と顔をそらす。
「すいませんアキラさん。キャリーも悪気があるわけではないのです」
「うん、それは知ってるよ。なんていうか、彼女色々と隠せないのは前回でわかったし。それに元から探知自体はするつもりだったから。万が一失敗でもしたらまずいし」
もし探索で下手を打ってゴブリンの存在を見落としていれば周囲に被害が出る。そうはなってほしくないのでアキラは言われずとも魔法を使って探すつもりだった。
その旨を伝えられたカーナはキャリーの態度も相まって恐縮そうにする。
「あー、えっと。俺は気にしてないですしもう出発しませんか?」
「そうだな。ここで話していても邪魔だし、話なら進みながらでもできる」
「わかりました。では、改めてよろしくお願いします」
このままこの場所にいるわけにはいかないので一行は街の外へと向かった。
「まさか馬車に乗っていくとは思いませんでした」
「だな。目的地まで歩いていくもんだとばかり思ってたぜ」
「お金持ちだね」
「俺たちとしても歩いていくつもりだったんだが、アキラが手配していてな」
カーナとキャリーとクララの言葉に御者席にいるウダルがそう返すとその隣、同じく御者席にいるアキラに視線が集まる。
「ん?馬車はあったほうがいいだろ?これは俺の個人所有だからすぐに用意できたし。…まあ御者は用意できなかったから持ち回りになるけど」
その言葉の通りに現在アキラが馬車を操っているがその隣にはウダルの姿があり、馬車について教わっている最中だった。少し教えた後は一人で操作してもらい、その後はウダルが次の者に教えることになっている。
「それぐらい構わねえけどよ…。馬車の個人所有かぁ。さすが商人って感じだよな」
「毎回使うわけじゃないけど、ウダルたちも御者の経験も一回くらいあったほうがいいだろ?」
「まあな。一度でも体験しとけばいざって時に行動の幅が広がるからな」
今後冒険者として続けていくのなら不測の事態に備えておいて損はないだろう。ただでさえ半年後には自分はいなくなるのだから。今までもアキラはウダルに色々教えてきた。剣の扱いや魔法への対抗策。商人に嵌められないようにするための知識そして今回の馬車の操縦の仕方もそうだ。それはひとえにアキラが心を許すことのできる友人に死んでほしくないからであった。
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