20 / 164
死者と女神
神の剣
しおりを挟む
「クソッ!あそこで剣が壊れなければっ!」
復活した後晶は先ほどの好機を逃したことを悔いる。
「お疲れ様でした。剣が折れたことを悔いているようですが、私から言わせて貰えば一度とはいえ私の切断を受け切ったこと自体が驚愕的です」
だがそう言われても素直に納得できるようなものではなかった。
次はどうすればいいかと考えていると、晶はふと先ほどの女神の言葉に少し引っ掛かりを覚えた。現状からすればどうでもいいようなことなのかも知れないが、気持ちを入れ替える意味を込めてそのことについて女神に聞いてみる。
「なあ、『切断』っていうのはその剣の名前なのか?」
「いいえ、違います。ですが、そうであるとも言えます」
「何だソレ。禅問答か何かか?」
横になっていた体を起こし座った状態で女神と向き合い聞く晶。だが女神のよくわからない答えにさらに疑問が深まり、晶は呆れたように問うが女神は首を振り晶の考えを否定する。
「そうではありません。この剣に銘はありません。この剣は『切断』の概念を集め剣の形へと凝縮したもので、『切断』という現象そのものなのです」
「概念…」
概念を操る。それはまさに神の御業と言えるだろう。確かに、晶の目の前にいる彼女は『女神』なのだからそう言ったことができたとしてもおかしくはない。
「そうです。それ故に防ぐことなどできないはずなのすが貴方は見事防ぎました。先ほどの剣にどれほどの魔法を重ねがけしたのかはわかりませんが、あれは私の剣と同じようなものになりかけていました」
だが続く女神の言葉で晶は驚愕する事になった。神にしかできないであろう事が自身にもできていたと言われ思わず聞き返す晶。
「なに?同じものって切断の概念の塊になったってことか?」
「いいえあくまでも『なりかけ』です。アレは既存の物質に概念を加えた、と言ったところでしょう。加えられた概念も『切断』では無かったようですし、そもそも中途半端な出来でしたが」
女神は否定したが出来損ないとはいえ神の力を使う事ができた。その事実を知り驚く晶だが、よく考えれば女神との戦いが始まる前に女神から神の力をもらっていたことを思い出す。そして、ならば自分にも女神に対抗できるような剣を作る事が可能なのではないかと考えた。
(概念を、加える…。ソレができればまともに打ち合うことができるようになるのか?)
新たな可能性を知った晶はどうにかその方法をものにすることはできないかと考え巡らせるが、そういくらもしないうちにその思考は強制的に終わらされた。
「さあ、疑問が解消されたのでしたら再開しますよ」
「待ってく「待ちません。考えたいことがあるのでしたら闘いながら考えなさい」
いつか聞いたような脳筋的な女神の言葉に遮られ、晶は足掻いても無駄だと渋々立ち上がる。
(さっきの剣はできる限りの強化を重ねたけどそれだけじゃまだ足りない。でも、概念をどうにかするなんて全く方法が思いつかないな)
晶は一つ一つの動作をゆっくり行い少しでも時間を稼ごうとしていた。そしてその稼いだ僅かな時間で女神の言った『概念』を操る魔法をつかえないかと考える
(…あまりやりたくは無いけど近づいてよく観察するしか無いか?)
大きく息を吸い込んでからふうぅ、と吐き出し晶は女神を見据える。
どちらからも合図はない。だが両者ともに前へと飛び出していく。
最初に仕掛けたのは晶。いつの通り炎の球を放ち牽制する。女神は流れ作業のように対処し、この後はまた違う魔法が来るのだろうと待ち構えていた女神。
(これは今までと同じ攻撃ですが少々勢いが落ちているようですね。…観察、でしょうか。いいでしょう。このままつきあってあげましょう)
晶の思惑を察した女神だが行動を変えることなく敢えて今までと同じ行動をとる。だがそのすぐ後に驚くこととなった。これまでは複数の魔法で隙を作ってから近づき一撃を狙ってきた。今回も敢えて同じ行動をして『切断』のことを観察しているのだろうと女神は考えていた。しかし今回は最初の魔法で牽制した後直ぐに懐へと飛び込み持っていた剣で斬りかかってきた。自身の予想と違う晶の行動に驚いた女神だったがそれはほんの一瞬だけのことで直ぐに攻撃への対処を始めた。
振り下ろされる剣とそれを切り上げる剣。その二つがぶつかり合うと、激しい音を立てることもなく晶の振った剣は切られてしまった。その際なんの抵抗も感じなかった女神はその事実に小さく眉をひそめるがその疑問は直ぐに解消された。
「ハアア!」
晶は切られた即座に剣を捨てて新たな剣を魔法で取り出し切り上げる。その正面からの奇襲とも言える攻撃にすら女神は対応してみせる。迫る刃に狙いを定め自身の剣で斬る。だがその剣もなんの抵抗もなく容易く切られた。
(これも偽物ですかっ!恐らくこれから来る剣の殆どがなんの効果もない物でしょう。ですが防がないわけにはいきませんっ!)
晶は何本もの剣を切られながらもその度に新たな剣を取り出し攻撃の手を止めない。ただの一撃で壊れてしまうとしてもそれは実際に切ってみるまでは女神にはわからない。今の攻防の間はまだ危険を感じるようなものはなかったがそれがずっと続くとは思えない。既に晶が自身に致命の一撃を与えうるものを持っていると知っているのだから、女神にはいつその攻撃がきてもいいように対応し続けるしか無かった。
そうして百以上もの剣をダメにしたあとはその数を数えるのをやめた晶だったが未だ攻撃の手を止めることなく新たな剣を出しては振り続けていた。だが、そろそろ体力的にも精神的にも疲れ、自己強化に使う魔力も尽きかけ晶には限界が近づいていた。何か少しでも失敗すれば直ぐにでも自分が斬られてしまう状況で既に一時間近くも戦い続けているのだから無理もなかった。だが女神は多少の疲労はあるようだがまだまだ余裕の姿で剣を振っている。
(でも、何となくわかった。アレは実際に概念を操っているわけじゃあない。この世界と自身を繋いで設定をいじっているんだ)
かけらも気を抜けない状況の中晶は当初の目的をしっかりと果たしていた。女神の持っている剣は『切断』の概念を集めたものと女神は言っていたが、実際には女神自身が集めたものではなかった。概念が集めることができたのは晶が見破ったように世界を構築している核と自身の意識を接続して現象を『そうあるもの』として書き換えた事により世界がその通りに実行した結果であった。なので女神は最初に剣を作った時は集中する必要があるが後はその状態を世界が勝手に維持するので使用時の負担にはならない。
それを理解した晶は初めての試みため、また戦闘中のため不完全なものだが『神剣もどき』を作る事に成功した。
しかしそんなことをすれば流石に女神も気づく。だが女神はそれを止めようとはしない。多少の隙ができるが止めようと思えばいくらでもできたはずだ。しかし相変わらず剣を振るのを止めないままではあるが晶が神剣を作り出す様子を微笑みながら見ている。
そして晶がその手に持った剣を今までとは違い隙だらけの動きで大きく振りかぶるが、女神はその隙を突く事なく敢えて晶の攻撃に合わせて剣を振るう。
直後、二人の剣が衝突しキイイィィィンという耳障りな音を響かせる。金属がぶつかってなるような音ではなく何かが悲鳴をあげるような音。そんな音を聞き晶と女神は不愉快そうに眉をひそめるが両者ともにその手にこもる力を抜くことはない。どうやら二人の力は拮抗しているようで鍔迫り合いの状態から動くことはない。
「どうやら剣の作成に成功したようですね」
「おかげさまでね。これでやっとあんたに勝てるよ」
「ふふ。それはあくまでも勝つ手段を手に入れただけでしょう?実際に勝てるかどうかはまた別ですよ」
女神がそう言うと晶は拮抗していた剣にさらに力を込め女神の剣を弾き、女神を斬るべく剣を振るう。それに対抗するように女神もまた剣を振り、二人の刃が再び打ち合わされる。
その後幾度となく二人は剣を振るい、その度に耳障りな音を響かせ弾かれる。お互いに致命傷を与えることは叶わないまま斬っては弾かれ、また斬りかかるということを繰り返していた。
いつまでも終わらない斬り合いの最中。晶は不意に女神の顔を見るとそこにあった表情に驚き一瞬だが剣が鈍ってしまう。一瞬だけとはいえその一瞬が命取りとなる。僅かながらタイミングがずれたことで女神の剣を受け損なった晶は剣を斬られてそのまま自身も斬られてしまった。
復活した晶を待っていたのは隠すことのない不機嫌さを顔に出していた女神だった。だが女神は何も言うことはなくただ黙って晶の顔を見ている。
「ーーなぜ先程手を抜いたのですか」
なんでこんな事になっているのか分からず、何か言うべきかと悩んでいた晶に不機嫌なままの女神から質問が投げかけられた。
手を抜いたつもりなど晶にはない。今もそうなのだが、まるで面でもつけているかのように変わることのなかった女神の表情が、今ではそこにある感情がはっきりとわかる程変わっているのが気になってしまっただけだ。ただ結果として女神の言うように手を抜いたのと同じ事になってしまったので晶は申し訳なく思っていた。
「いや、手を抜いたわけじゃない。…ただ、あんたの顔が気になったんだ」
「私の顔?それがどうかしましたか」
晶の言葉に眉をひそめる女神。自身の顔を触ってみるがそこには何の変化も感じ取れず、能力を使って自身の体を確かめてみるが何の異常もない。もしや自分を謀っているのでは、と女神が考え出した時。
「ほら、最初にあった時なんか人形みたいだっただろ?表情とか話し方と。でも今はだいぶ砕けた態度で話してくるれるし表情もわかりやすく変わっていたからさ。それがさっきの闘いの中で急に気になったんだよ」
晶がそう弁明すると不機嫌そうだった女神の顔が今度は驚愕に変わった。
「…変わった?私がですか?」
「他に誰がいるんだよ。随分と変わったと思うよ。あくまでも俺の主観でしかないけど」
その言葉の後女神は無言になり考え込み晶もまた、その女神の姿を見て思うところがあったのか無言になる。
「ーー私が変わったとしたならそれは貴方のおかげです」
しばらく二人の間を静寂が支配していたがそれを破るように女神が話し出す。
「私は今まで生きてはいませんでした」
「?生きていなかった?でもあんたはもう何年も前どころか何十、何百年って生きてきたんだろ?」
「命があった、と言う意味ならばそのとおりです。ですがそれだけです」
女神は徐に剣を解除した後「少し長くなりますのでどうぞ」とわざわざ椅子と机を作り出し晶にすすめ自身も座る。
「与えられた使命。変わることのない日々。そして、何も思うことのない自身。そんなものは『生きている』とは言えません。それならば生きるために自身で考えている獣の方が私などよりもよほど上等な生き物でしょう。私はそれこそ貴方が言ったように命があり動くだけの『人形』でした。ーー貴方に会うまでは」
今まであった感情を消し晶と出会った当初の無表情になり女神は続ける。姿勢良く椅子に座るその姿は本人が言うように人形と見間違うほど整っていた。だがそれも最後の一言を言うと同時に終わる。女神の表情がどこか愛おしいものを見るように変わった。その思いを一身に向けられた晶は女神にそ・う・い・う・つ・も・り・はないと理解しながらも心が躍るのを抑えられなかった。
「私は凡そ一万年前に生まれました。そして使命を与えられそれを淡々とこなしてきました。時折貴方のように自我を保ったものが訪れましたがその誰もが試練の最後までたどり着くことなく諦めこの場所を去って行きました。そして彼らがいなくなればまた変わることのない日々の繰り返し。私はふと思ったのです。『私』は必要なのか、と」
なおも続ける女神はそこで一旦話すのをやめ、何かを思い出すように虚空を見る。いつのまにか人形のような無表情に戻っていたが、女神はそのまま話を続ける。
「ただ使命さぎょうをこなすだけの道具である私にそんなことを考えることは許されていないのでその考えも一瞬で消えましたが。…そして変わらないまま時間が過ぎていきこのまま終わってしまうのかという思いが頭の片隅によぎった時、貴方が現れました。最初はこれまでの方々と同じですぐにでもこの場から去っていくだろうと考えていたのですが、まさか最後までたどり着くとは思っていませんでした」
晶を見つめたまま話を続け。かと思えばいきなり笑顔になる女神。
「ーー俺自身できるとは思ってなかったよ。まあ途中でやめられなかったんだからクリアするしかなかったんだけど」
「それは、その。…改めて申し訳ありませんでした」
心のうちを悟られまいと晶は冗談めかして言葉を返す。だが言った本人にその気はなかったがその言葉に申し訳なさそうな顔をして女神は再度晶に対して謝罪をする。改めて謝られ先ほどの自身の言葉が皮肉になっていたことに気づく晶。
「ああ、いや、こっちこそすまない。そんなつもりななったんだけど…」
「ふふ。ええ、分かっています」
慌てる晶の様子が面白かったのか笑う女神の姿を見て晶はさらに動揺するが、そんなことに気づくことなく女神は話を再開した。
復活した後晶は先ほどの好機を逃したことを悔いる。
「お疲れ様でした。剣が折れたことを悔いているようですが、私から言わせて貰えば一度とはいえ私の切断を受け切ったこと自体が驚愕的です」
だがそう言われても素直に納得できるようなものではなかった。
次はどうすればいいかと考えていると、晶はふと先ほどの女神の言葉に少し引っ掛かりを覚えた。現状からすればどうでもいいようなことなのかも知れないが、気持ちを入れ替える意味を込めてそのことについて女神に聞いてみる。
「なあ、『切断』っていうのはその剣の名前なのか?」
「いいえ、違います。ですが、そうであるとも言えます」
「何だソレ。禅問答か何かか?」
横になっていた体を起こし座った状態で女神と向き合い聞く晶。だが女神のよくわからない答えにさらに疑問が深まり、晶は呆れたように問うが女神は首を振り晶の考えを否定する。
「そうではありません。この剣に銘はありません。この剣は『切断』の概念を集め剣の形へと凝縮したもので、『切断』という現象そのものなのです」
「概念…」
概念を操る。それはまさに神の御業と言えるだろう。確かに、晶の目の前にいる彼女は『女神』なのだからそう言ったことができたとしてもおかしくはない。
「そうです。それ故に防ぐことなどできないはずなのすが貴方は見事防ぎました。先ほどの剣にどれほどの魔法を重ねがけしたのかはわかりませんが、あれは私の剣と同じようなものになりかけていました」
だが続く女神の言葉で晶は驚愕する事になった。神にしかできないであろう事が自身にもできていたと言われ思わず聞き返す晶。
「なに?同じものって切断の概念の塊になったってことか?」
「いいえあくまでも『なりかけ』です。アレは既存の物質に概念を加えた、と言ったところでしょう。加えられた概念も『切断』では無かったようですし、そもそも中途半端な出来でしたが」
女神は否定したが出来損ないとはいえ神の力を使う事ができた。その事実を知り驚く晶だが、よく考えれば女神との戦いが始まる前に女神から神の力をもらっていたことを思い出す。そして、ならば自分にも女神に対抗できるような剣を作る事が可能なのではないかと考えた。
(概念を、加える…。ソレができればまともに打ち合うことができるようになるのか?)
新たな可能性を知った晶はどうにかその方法をものにすることはできないかと考え巡らせるが、そういくらもしないうちにその思考は強制的に終わらされた。
「さあ、疑問が解消されたのでしたら再開しますよ」
「待ってく「待ちません。考えたいことがあるのでしたら闘いながら考えなさい」
いつか聞いたような脳筋的な女神の言葉に遮られ、晶は足掻いても無駄だと渋々立ち上がる。
(さっきの剣はできる限りの強化を重ねたけどそれだけじゃまだ足りない。でも、概念をどうにかするなんて全く方法が思いつかないな)
晶は一つ一つの動作をゆっくり行い少しでも時間を稼ごうとしていた。そしてその稼いだ僅かな時間で女神の言った『概念』を操る魔法をつかえないかと考える
(…あまりやりたくは無いけど近づいてよく観察するしか無いか?)
大きく息を吸い込んでからふうぅ、と吐き出し晶は女神を見据える。
どちらからも合図はない。だが両者ともに前へと飛び出していく。
最初に仕掛けたのは晶。いつの通り炎の球を放ち牽制する。女神は流れ作業のように対処し、この後はまた違う魔法が来るのだろうと待ち構えていた女神。
(これは今までと同じ攻撃ですが少々勢いが落ちているようですね。…観察、でしょうか。いいでしょう。このままつきあってあげましょう)
晶の思惑を察した女神だが行動を変えることなく敢えて今までと同じ行動をとる。だがそのすぐ後に驚くこととなった。これまでは複数の魔法で隙を作ってから近づき一撃を狙ってきた。今回も敢えて同じ行動をして『切断』のことを観察しているのだろうと女神は考えていた。しかし今回は最初の魔法で牽制した後直ぐに懐へと飛び込み持っていた剣で斬りかかってきた。自身の予想と違う晶の行動に驚いた女神だったがそれはほんの一瞬だけのことで直ぐに攻撃への対処を始めた。
振り下ろされる剣とそれを切り上げる剣。その二つがぶつかり合うと、激しい音を立てることもなく晶の振った剣は切られてしまった。その際なんの抵抗も感じなかった女神はその事実に小さく眉をひそめるがその疑問は直ぐに解消された。
「ハアア!」
晶は切られた即座に剣を捨てて新たな剣を魔法で取り出し切り上げる。その正面からの奇襲とも言える攻撃にすら女神は対応してみせる。迫る刃に狙いを定め自身の剣で斬る。だがその剣もなんの抵抗もなく容易く切られた。
(これも偽物ですかっ!恐らくこれから来る剣の殆どがなんの効果もない物でしょう。ですが防がないわけにはいきませんっ!)
晶は何本もの剣を切られながらもその度に新たな剣を取り出し攻撃の手を止めない。ただの一撃で壊れてしまうとしてもそれは実際に切ってみるまでは女神にはわからない。今の攻防の間はまだ危険を感じるようなものはなかったがそれがずっと続くとは思えない。既に晶が自身に致命の一撃を与えうるものを持っていると知っているのだから、女神にはいつその攻撃がきてもいいように対応し続けるしか無かった。
そうして百以上もの剣をダメにしたあとはその数を数えるのをやめた晶だったが未だ攻撃の手を止めることなく新たな剣を出しては振り続けていた。だが、そろそろ体力的にも精神的にも疲れ、自己強化に使う魔力も尽きかけ晶には限界が近づいていた。何か少しでも失敗すれば直ぐにでも自分が斬られてしまう状況で既に一時間近くも戦い続けているのだから無理もなかった。だが女神は多少の疲労はあるようだがまだまだ余裕の姿で剣を振っている。
(でも、何となくわかった。アレは実際に概念を操っているわけじゃあない。この世界と自身を繋いで設定をいじっているんだ)
かけらも気を抜けない状況の中晶は当初の目的をしっかりと果たしていた。女神の持っている剣は『切断』の概念を集めたものと女神は言っていたが、実際には女神自身が集めたものではなかった。概念が集めることができたのは晶が見破ったように世界を構築している核と自身の意識を接続して現象を『そうあるもの』として書き換えた事により世界がその通りに実行した結果であった。なので女神は最初に剣を作った時は集中する必要があるが後はその状態を世界が勝手に維持するので使用時の負担にはならない。
それを理解した晶は初めての試みため、また戦闘中のため不完全なものだが『神剣もどき』を作る事に成功した。
しかしそんなことをすれば流石に女神も気づく。だが女神はそれを止めようとはしない。多少の隙ができるが止めようと思えばいくらでもできたはずだ。しかし相変わらず剣を振るのを止めないままではあるが晶が神剣を作り出す様子を微笑みながら見ている。
そして晶がその手に持った剣を今までとは違い隙だらけの動きで大きく振りかぶるが、女神はその隙を突く事なく敢えて晶の攻撃に合わせて剣を振るう。
直後、二人の剣が衝突しキイイィィィンという耳障りな音を響かせる。金属がぶつかってなるような音ではなく何かが悲鳴をあげるような音。そんな音を聞き晶と女神は不愉快そうに眉をひそめるが両者ともにその手にこもる力を抜くことはない。どうやら二人の力は拮抗しているようで鍔迫り合いの状態から動くことはない。
「どうやら剣の作成に成功したようですね」
「おかげさまでね。これでやっとあんたに勝てるよ」
「ふふ。それはあくまでも勝つ手段を手に入れただけでしょう?実際に勝てるかどうかはまた別ですよ」
女神がそう言うと晶は拮抗していた剣にさらに力を込め女神の剣を弾き、女神を斬るべく剣を振るう。それに対抗するように女神もまた剣を振り、二人の刃が再び打ち合わされる。
その後幾度となく二人は剣を振るい、その度に耳障りな音を響かせ弾かれる。お互いに致命傷を与えることは叶わないまま斬っては弾かれ、また斬りかかるということを繰り返していた。
いつまでも終わらない斬り合いの最中。晶は不意に女神の顔を見るとそこにあった表情に驚き一瞬だが剣が鈍ってしまう。一瞬だけとはいえその一瞬が命取りとなる。僅かながらタイミングがずれたことで女神の剣を受け損なった晶は剣を斬られてそのまま自身も斬られてしまった。
復活した晶を待っていたのは隠すことのない不機嫌さを顔に出していた女神だった。だが女神は何も言うことはなくただ黙って晶の顔を見ている。
「ーーなぜ先程手を抜いたのですか」
なんでこんな事になっているのか分からず、何か言うべきかと悩んでいた晶に不機嫌なままの女神から質問が投げかけられた。
手を抜いたつもりなど晶にはない。今もそうなのだが、まるで面でもつけているかのように変わることのなかった女神の表情が、今ではそこにある感情がはっきりとわかる程変わっているのが気になってしまっただけだ。ただ結果として女神の言うように手を抜いたのと同じ事になってしまったので晶は申し訳なく思っていた。
「いや、手を抜いたわけじゃない。…ただ、あんたの顔が気になったんだ」
「私の顔?それがどうかしましたか」
晶の言葉に眉をひそめる女神。自身の顔を触ってみるがそこには何の変化も感じ取れず、能力を使って自身の体を確かめてみるが何の異常もない。もしや自分を謀っているのでは、と女神が考え出した時。
「ほら、最初にあった時なんか人形みたいだっただろ?表情とか話し方と。でも今はだいぶ砕けた態度で話してくるれるし表情もわかりやすく変わっていたからさ。それがさっきの闘いの中で急に気になったんだよ」
晶がそう弁明すると不機嫌そうだった女神の顔が今度は驚愕に変わった。
「…変わった?私がですか?」
「他に誰がいるんだよ。随分と変わったと思うよ。あくまでも俺の主観でしかないけど」
その言葉の後女神は無言になり考え込み晶もまた、その女神の姿を見て思うところがあったのか無言になる。
「ーー私が変わったとしたならそれは貴方のおかげです」
しばらく二人の間を静寂が支配していたがそれを破るように女神が話し出す。
「私は今まで生きてはいませんでした」
「?生きていなかった?でもあんたはもう何年も前どころか何十、何百年って生きてきたんだろ?」
「命があった、と言う意味ならばそのとおりです。ですがそれだけです」
女神は徐に剣を解除した後「少し長くなりますのでどうぞ」とわざわざ椅子と机を作り出し晶にすすめ自身も座る。
「与えられた使命。変わることのない日々。そして、何も思うことのない自身。そんなものは『生きている』とは言えません。それならば生きるために自身で考えている獣の方が私などよりもよほど上等な生き物でしょう。私はそれこそ貴方が言ったように命があり動くだけの『人形』でした。ーー貴方に会うまでは」
今まであった感情を消し晶と出会った当初の無表情になり女神は続ける。姿勢良く椅子に座るその姿は本人が言うように人形と見間違うほど整っていた。だがそれも最後の一言を言うと同時に終わる。女神の表情がどこか愛おしいものを見るように変わった。その思いを一身に向けられた晶は女神にそ・う・い・う・つ・も・り・はないと理解しながらも心が躍るのを抑えられなかった。
「私は凡そ一万年前に生まれました。そして使命を与えられそれを淡々とこなしてきました。時折貴方のように自我を保ったものが訪れましたがその誰もが試練の最後までたどり着くことなく諦めこの場所を去って行きました。そして彼らがいなくなればまた変わることのない日々の繰り返し。私はふと思ったのです。『私』は必要なのか、と」
なおも続ける女神はそこで一旦話すのをやめ、何かを思い出すように虚空を見る。いつのまにか人形のような無表情に戻っていたが、女神はそのまま話を続ける。
「ただ使命さぎょうをこなすだけの道具である私にそんなことを考えることは許されていないのでその考えも一瞬で消えましたが。…そして変わらないまま時間が過ぎていきこのまま終わってしまうのかという思いが頭の片隅によぎった時、貴方が現れました。最初はこれまでの方々と同じですぐにでもこの場から去っていくだろうと考えていたのですが、まさか最後までたどり着くとは思っていませんでした」
晶を見つめたまま話を続け。かと思えばいきなり笑顔になる女神。
「ーー俺自身できるとは思ってなかったよ。まあ途中でやめられなかったんだからクリアするしかなかったんだけど」
「それは、その。…改めて申し訳ありませんでした」
心のうちを悟られまいと晶は冗談めかして言葉を返す。だが言った本人にその気はなかったがその言葉に申し訳なさそうな顔をして女神は再度晶に対して謝罪をする。改めて謝られ先ほどの自身の言葉が皮肉になっていたことに気づく晶。
「ああ、いや、こっちこそすまない。そんなつもりななったんだけど…」
「ふふ。ええ、分かっています」
慌てる晶の様子が面白かったのか笑う女神の姿を見て晶はさらに動揺するが、そんなことに気づくことなく女神は話を再開した。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
対人恐怖症は異世界でも下を向きがち
こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。
そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。
そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。
人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。
容赦なく迫ってくるフラグさん。
康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。
なるべく間隔を空けず更新しようと思います!
よかったら、読んでください
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
斬られ役、異世界を征く!!
通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……
しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!
とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?
愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる