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死者と女神
『剣の神』
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「どうやら剣の神っていうのはそんなに強くはないらしいな」
晶はそう言って女神を挑発する。
勝手に期待しといて自分の思う通りにならなかったら期待はずれと切り捨てる。それが晶には気に食わなかった。
晶は別に誰かの為にやったわけではない。試練を受けたのは自分の為に自分の意思で受けたものだった。期待をするのは勝手だがその期待を押し付けてさもお前が悪いと言うのは頭にくる。
だから、せめて期待はずれと称された自分が目にものを見せてやろうと晶は立ち上がった。
その理由は他人からすればなんとも子どもじみているように思えるだろうが当人にとってはそれは譲れないものであった。
だが、剣を振るうのは今回が初めてとはいえ女神にも剣の神としての矜持がある。
「ーー先程まで力の差に絶望していたものの言葉とは思えませんね」
「そりゃあね。あれだけ頑張って試練を終わらせて強くなったと思ってたのにあれほど簡単にやられたら落ち込みもするさ。けど、よく考えてみたらそれも当然だろ?だって俺はまともに戦いを始めてからそんなに経ってないんだ。試練中は時間の感覚が無くてどれくらい経ったのかはわからないけど、精々数年ってところだろ」
晶が試練に挑んでいた時間は凡そ五年。
「それに対してあんたは今いくつだよ。何年何十年じゃ効かないだろ?それだけの長い間剣の神として生きてきたんだから強くて当然だ。寧ろ絶望する方が間違ってる」
実際のところ生きた年数であれば晶のいう通りだが剣を手にした時間はほとんどなく、実際に戦うのも今日が初めてだった。
「ーーそれでは、私との闘いを続けると言うことで宜しいですね」
だがそのことを言うつもりは女神にはなかった。言えば彼は自分と闘うのをやめてしまうかもしれないし、言えばなんだか負けたような気がしてしまったから。
「ああ。今度は木の棒なんかじゃなくてちゃんとした剣で闘えよ。それも斬ってやるから」
「そうですか。ではお言葉に甘えることとしましょう」
そう言って女神は何も持っていなかった手に剣を出す。晶の言った通りに今度は木の棒などではなくれっきとした剣だ。但しその剣にはなんの特殊な効果もついてはいない。
「それでいいのか?自分の専用武器みたいなものがあるんじゃないのか?」
「たしかに貴方の言うようなものは存在します。ですが…」
「必要ないでしょう?」そう言うかのように女神は晶の事を見る。どうやらこのような挑発をする程晶の言葉が癇に障ったらしい。
その女神の態度を理解した晶は顔を引きつらせ構えをとる。
「俺に斬られてから後悔するなよ!」
こう言うや否や今度は晶から女神に接近していった。
女神は再び立ち上がった晶を心の中で称賛しつつ、まだ戦いを続ける事ができる喜びに逸る心を抑えて晶を迎え撃つ構えをとる。
両者の距離は近づいていきお互い剣の間合いに入る。その瞬間、晶の姿が消えた。
女神は消えた晶を探す事なくバッと後ろを振り返り剣を振るう。剣の振られた先にあるのは真っ赤に燃え盛る炎の球だった。それは言うまでもなく晶の使った魔法である。そしてそれは一つだけではなく横殴りの雨のように数え切れないくらいの魔法が女神を襲う。
女神に対し「剣を斬ってやる」と宣言した直後にもかかわらず距離を取り魔法を使う晶は卑怯であると言われても仕方がないだろう。
だが本人にしてみればこの程度では大した影響などないだろうと確信している。
女神に近づいた後、転移で女神の後方に移動した晶は前回と同じ魔法を女神に向けて放つ。しかし今回はそれだけででは終わらない。
今度は女神の両側面と背後からも同じ魔法が飛んでくる。恐るべき事にその全てを無傷で対処している女神だが流石に人間と同等の能力では限界があったのだろう。初めこそ対処できていたが少しすると飛来してきた魔法の内いくつかに当たってしまった。
このままであれば女神は倒されてしまうだろう。だがそこまで甘くはない。それはあくまでもこ・の・ま・ま・で・あ・れ・ば・だ。
女神は自身に施していた制限を解除し、迫り来る魔法の全てを切り払った。
剣の一振りで正面から迫っていた三つの火球を消したかと思えばそれと同時に左右から迫っているものを斬りる。最低でも毎秒十個同時に迫る火球の全てをまるで埃でも払うかのように斬っていく。
だがそれは晶の予想していた事であり、すでに次の手は打ってあった。
「次はこれだ!ーー天槌、ーー蟻地獄」
迫る火球を斬る女神を見えない力が頭上から押しつぶす。それと同時に女神の足元の固い地面がまるで砂漠の砂なのように変化し女神を飲み込んでいく。
だが流石は剣の神といえよう。動きを制限され不安定な足場の中、自身に迫る火球に対処しながらも新たに発動した二つの魔法もその核を斬り消し去る。だが晶の攻撃はまだ終わってはいない。
「対処が早すぎるだろ!ーー砂牢!」
新たに発動した二つの魔法を消したとはいえ、その結果までが消えたわけではない。砂になった地面は押しつぶされ大きくへこみ、その上にいた女神は宙に浮いている。浮いているのはほんの僅かな時間しかないだろうが、少なくともその間は今までのように動くことは叶わない。そう考えた晶は更に女神の周囲の砂を巻き上げ女神を覆うドーム状にしていく。これならば例え魔法の核を斬られようとその動きを止めることができる。そしてそこにさらなる追い打ちをかける晶。
「滅びを齎す龍の息吹」
自身の手の内の中で単純な威力なら最強の魔法を構築していく。
砂のドームを作る魔法は途中で斬られたが、その晶の思惑通り女神は砂に埋もれているようだった。
「ーー滅龍撃」
巨大な魔法陣から淀んだ黒い光の球が現れその大きさを増していく。とそこで砂に埋もれていた女神が自身の周囲にあった砂を吹き飛ばしその姿を見せる。
だが晶の魔法はすでに完成していた。姿を見せた女神めがけて黒い光の線が一直線に進んでいく。この魔法を制御している核は晶の前にある魔法陣であるため女神の剣では届くことはない。故に晶はこれで終わりだと本気で思った。だが…
「ーーフッ!」
消えた。女神が剣を振るった一瞬後にはまるで何事も起きていないかのように綺麗に消えていた。だが確かに魔法は発動していた。その証として晶と女神を繋ぐように一直線の道が出来上がっていたのだから。
「なかなかやりますね。期待はずれという言葉は撤回いたしましょう」
「………」
女神の期待はずれという言葉が気にくわなかったから立ち上がったずなのにその言葉を撤回されてもなんの反応を示すことのない晶。
「どうしましたか。また何か聞きたいことでもあるのですか?」
「…ああ、そう?なら一つ聞きたいんだけど。……これ、どうやって斬ったの」
あまりの驚きで口調が少しばかりおかしくなっている晶。
「どう、とは?ただ今まで通り斬っただけですが」
しかし、特別なことなんて何もしていないとばかりに女神は答える。
その回答にピクリと眉をひそめる晶。当然それだけでは何があったのかわからないので重ねて質問する。
「その場所からここまでちょっと距離があると思うんだけど?」
「そうですね」
返ってきた答えにまたもピクリとする晶。しかし、女神はぼけているわけではなく本当に晶が何を言いたいのかわかっていない様子だ。
「…魔法の核があったこの場所は間合いの外だろ。ここまで剣がとどくとは思えないんだけど?」
その言葉でやっと得心がいったようで、女神は「ああ」と一度頷いた。
「たしかにその場所は剣の間合いの外ですが、間合いの内側のものしか斬れないなどといった覚えはありません。私は剣の神ですよ?」
その言葉で晶は何が起こったのか理解することができた。だがその答えに晶は頭に手を当てて頭が痛そうにしている。
(なんだよそれ。もう間合いとか関係ないじゃん。…見くびっていたつもりはなかったけどまだ過小評価していたみたいだな)
間合いの外であろうと斬ることができるのなら距離を取ることに意味などない。今までは手を抜いていたのだと晶は無理矢理わからされた気がした。
「ですが私はあなたを過小評価していたようですね」
女神はそういって手に持っていた剣だ・っ・た・も・の・を晶に見せた。
刀身があったはずの場所には何もなくその剣に残っているのは持ち手の部分だけだった。その残っている部分さえ徐々に崩壊している。
「これは先程のあなたの攻撃を斬った際にこうなりました。私としてはここまで壊れるとは思っていなかったのですが」
ポイっと持ち手だけになった剣を放り捨てる女神。
「これ程の力があるのでしたら貴方の言う通り私の真の剣を使った方が良さそうですね」
手を前に出し開くとそこには途轍もないほどの力が集まっていた。女神の手に集まった力は次第にその姿を変えていき、一振りの剣になった。
その剣は多少の装飾は付いているが美術品のように華美なわけではなく実用性を重視したものだった。それだけなら何処にでもある普通の剣と変わらないように思うが、そんな考えはこの剣を見れば直ぐに吹き飛ぶだろう。ただの剣であるはずのソレから発せられる威圧感は尋常ではない。『神剣』と言う名が相応しいソレを晶は見ているだけで不安と恐怖を感じるほどだった。
「では、再開しますよ」
女神が新たに現れた剣を構えたのを見て晶も動揺を抑えつつも魔法を放つ準備をする。だがゾクッと嫌な予感がした晶は準備していた魔法の発動をやめて転移によって女神の背後へと移動する。しかしそれでも嫌な予感は治ることはなく咄嗟に右側方に飛び込むがそこで何を感じていたのか理解することとなった。
「ぐああ!」
晶の左腕が二の腕のあたりからなくなった。もっというのなら斬り落とされた。
晶が痛みに耐えながら女神の方も向くとそこには剣を振り切った状態の女神の姿が見えた。
(クソッ!そうだあいつに距離なんて関係ないんだ!さっきやられたばかりだろうが馬鹿野郎!)
女神が構えたことでそれまで通りの対応をしてしまった晶は離れることに意味がないことを思い出した。
腕を切り落とされた晶だったがそのまま止まりことはない。そうすれば死んでしまうとわかっているから。やり直しの地点を更新させたとはいっても晶とてできるなら痛くないほうがいい。だが転移した先でまたも斬られた。今度は左足だ。
いきなり足がなくなりバランスがとれず倒れてしまった晶に情けをかけることなく女神は剣を振り下ろす。
そうして晶は死んだ。
「お疲れ様でした。続きをしましょう」
蘇ったばかりの晶に生き生きとした声で女神が再戦を促す。
しかし晶としては少し休ませて欲しかった。疲れもそうだが、何よりこのまま無策で挑んだとしても勝てる気がしなかったからだ。
「ちょっと待ってくれ。作戦タイムだ」
晶がそういうと少しがっかりしたような雰囲気になる女神。「わかりました」と頷いてはいるので晶は休憩をとる。
(この女神なんだか最初と様子が違くないか?…まあそんなことよりどうやって戦うか、だが。…ほんと、どうしよう)
晶はこれまで魔法を主体として戦ってきた。だが女神を相手にするには距離を取ることは意味がなく、強力な魔法を使う暇がない。だからといって剣で戦えるかといったらそれも無理だ。今までの試練の中には武術の達人がいた。そのものたちと戦う時武器の使い方を学んだおかげで常人相手なら圧勝できるだろう。だが相手は神だ。常識の埒外にいるような存在相手に同じ土俵で闘えと言われてもまず不可能だ。出来るとしたら他の埒外の存在か相手自身だけ。
「そろそろ休憩を終わりにして始めましょうか」
未だ作戦も決まらないままの晶に無情な知らせが届く。
「…まだ作戦が決まらないからもう少しだけ「ダメです」
なんとか時間を稼ごうと足掻くがその言葉は最後まで言い切ることができずに女神に遮られる。
「作戦など必要ありません。もし必要なら闘いながら考えれば良いのです。さあ立って」
なんとも脳筋的な考えをしている女神様。どうやら早く闘いたくて仕方がないようだ。
時間を稼ぐことは不可能だと悟り、晶は仕方なく立ち上がり剣を構える。
だが圧倒的な実力差のある相手になんの策もなく戦ったとしても勝てるはずがなく、晶はその後何度も死ぬ事になった。
しかしその甲斐あって晶は女神の剣を避けることができるようになっていた。
「ーー隆起!ーー火球!ーー幻惑!ーー風槌!」
隙をみては魔法を使い撹乱するがその全てを斬られてしまう。時には効果の現れる前に斬られるものさえある。だが一見無駄に見えるようでもそこにはしっかりと意味がある。一つ二つでは意味がないが、無数の攻撃を前にしてはいかに女神といえど隙ができる。そはいえその隙さえ微々たるものだが晶にはそれだけでも十分だった。
「ハア!」
ほんの僅かな隙をつくように晶は持っていた剣で斬りつけるがそれさえも防がれてしまう。
剣を防がれはしたが晶は再び女神に剣を振り下ろす。だがやはり晶の剣は防がれそれどころか女神の剣を受け折れてしまった。
「ッ!クソッ」
防ぐものが何もない晶は防御の魔法を使い壁を作るが、一瞬で張ることのできるものの強度などたかが知れている。女神の剣の勢いを落とすことすらできずに壁は斬り裂かれ、その刃は晶にも届いた。
晶はそう言って女神を挑発する。
勝手に期待しといて自分の思う通りにならなかったら期待はずれと切り捨てる。それが晶には気に食わなかった。
晶は別に誰かの為にやったわけではない。試練を受けたのは自分の為に自分の意思で受けたものだった。期待をするのは勝手だがその期待を押し付けてさもお前が悪いと言うのは頭にくる。
だから、せめて期待はずれと称された自分が目にものを見せてやろうと晶は立ち上がった。
その理由は他人からすればなんとも子どもじみているように思えるだろうが当人にとってはそれは譲れないものであった。
だが、剣を振るうのは今回が初めてとはいえ女神にも剣の神としての矜持がある。
「ーー先程まで力の差に絶望していたものの言葉とは思えませんね」
「そりゃあね。あれだけ頑張って試練を終わらせて強くなったと思ってたのにあれほど簡単にやられたら落ち込みもするさ。けど、よく考えてみたらそれも当然だろ?だって俺はまともに戦いを始めてからそんなに経ってないんだ。試練中は時間の感覚が無くてどれくらい経ったのかはわからないけど、精々数年ってところだろ」
晶が試練に挑んでいた時間は凡そ五年。
「それに対してあんたは今いくつだよ。何年何十年じゃ効かないだろ?それだけの長い間剣の神として生きてきたんだから強くて当然だ。寧ろ絶望する方が間違ってる」
実際のところ生きた年数であれば晶のいう通りだが剣を手にした時間はほとんどなく、実際に戦うのも今日が初めてだった。
「ーーそれでは、私との闘いを続けると言うことで宜しいですね」
だがそのことを言うつもりは女神にはなかった。言えば彼は自分と闘うのをやめてしまうかもしれないし、言えばなんだか負けたような気がしてしまったから。
「ああ。今度は木の棒なんかじゃなくてちゃんとした剣で闘えよ。それも斬ってやるから」
「そうですか。ではお言葉に甘えることとしましょう」
そう言って女神は何も持っていなかった手に剣を出す。晶の言った通りに今度は木の棒などではなくれっきとした剣だ。但しその剣にはなんの特殊な効果もついてはいない。
「それでいいのか?自分の専用武器みたいなものがあるんじゃないのか?」
「たしかに貴方の言うようなものは存在します。ですが…」
「必要ないでしょう?」そう言うかのように女神は晶の事を見る。どうやらこのような挑発をする程晶の言葉が癇に障ったらしい。
その女神の態度を理解した晶は顔を引きつらせ構えをとる。
「俺に斬られてから後悔するなよ!」
こう言うや否や今度は晶から女神に接近していった。
女神は再び立ち上がった晶を心の中で称賛しつつ、まだ戦いを続ける事ができる喜びに逸る心を抑えて晶を迎え撃つ構えをとる。
両者の距離は近づいていきお互い剣の間合いに入る。その瞬間、晶の姿が消えた。
女神は消えた晶を探す事なくバッと後ろを振り返り剣を振るう。剣の振られた先にあるのは真っ赤に燃え盛る炎の球だった。それは言うまでもなく晶の使った魔法である。そしてそれは一つだけではなく横殴りの雨のように数え切れないくらいの魔法が女神を襲う。
女神に対し「剣を斬ってやる」と宣言した直後にもかかわらず距離を取り魔法を使う晶は卑怯であると言われても仕方がないだろう。
だが本人にしてみればこの程度では大した影響などないだろうと確信している。
女神に近づいた後、転移で女神の後方に移動した晶は前回と同じ魔法を女神に向けて放つ。しかし今回はそれだけででは終わらない。
今度は女神の両側面と背後からも同じ魔法が飛んでくる。恐るべき事にその全てを無傷で対処している女神だが流石に人間と同等の能力では限界があったのだろう。初めこそ対処できていたが少しすると飛来してきた魔法の内いくつかに当たってしまった。
このままであれば女神は倒されてしまうだろう。だがそこまで甘くはない。それはあくまでもこ・の・ま・ま・で・あ・れ・ば・だ。
女神は自身に施していた制限を解除し、迫り来る魔法の全てを切り払った。
剣の一振りで正面から迫っていた三つの火球を消したかと思えばそれと同時に左右から迫っているものを斬りる。最低でも毎秒十個同時に迫る火球の全てをまるで埃でも払うかのように斬っていく。
だがそれは晶の予想していた事であり、すでに次の手は打ってあった。
「次はこれだ!ーー天槌、ーー蟻地獄」
迫る火球を斬る女神を見えない力が頭上から押しつぶす。それと同時に女神の足元の固い地面がまるで砂漠の砂なのように変化し女神を飲み込んでいく。
だが流石は剣の神といえよう。動きを制限され不安定な足場の中、自身に迫る火球に対処しながらも新たに発動した二つの魔法もその核を斬り消し去る。だが晶の攻撃はまだ終わってはいない。
「対処が早すぎるだろ!ーー砂牢!」
新たに発動した二つの魔法を消したとはいえ、その結果までが消えたわけではない。砂になった地面は押しつぶされ大きくへこみ、その上にいた女神は宙に浮いている。浮いているのはほんの僅かな時間しかないだろうが、少なくともその間は今までのように動くことは叶わない。そう考えた晶は更に女神の周囲の砂を巻き上げ女神を覆うドーム状にしていく。これならば例え魔法の核を斬られようとその動きを止めることができる。そしてそこにさらなる追い打ちをかける晶。
「滅びを齎す龍の息吹」
自身の手の内の中で単純な威力なら最強の魔法を構築していく。
砂のドームを作る魔法は途中で斬られたが、その晶の思惑通り女神は砂に埋もれているようだった。
「ーー滅龍撃」
巨大な魔法陣から淀んだ黒い光の球が現れその大きさを増していく。とそこで砂に埋もれていた女神が自身の周囲にあった砂を吹き飛ばしその姿を見せる。
だが晶の魔法はすでに完成していた。姿を見せた女神めがけて黒い光の線が一直線に進んでいく。この魔法を制御している核は晶の前にある魔法陣であるため女神の剣では届くことはない。故に晶はこれで終わりだと本気で思った。だが…
「ーーフッ!」
消えた。女神が剣を振るった一瞬後にはまるで何事も起きていないかのように綺麗に消えていた。だが確かに魔法は発動していた。その証として晶と女神を繋ぐように一直線の道が出来上がっていたのだから。
「なかなかやりますね。期待はずれという言葉は撤回いたしましょう」
「………」
女神の期待はずれという言葉が気にくわなかったから立ち上がったずなのにその言葉を撤回されてもなんの反応を示すことのない晶。
「どうしましたか。また何か聞きたいことでもあるのですか?」
「…ああ、そう?なら一つ聞きたいんだけど。……これ、どうやって斬ったの」
あまりの驚きで口調が少しばかりおかしくなっている晶。
「どう、とは?ただ今まで通り斬っただけですが」
しかし、特別なことなんて何もしていないとばかりに女神は答える。
その回答にピクリと眉をひそめる晶。当然それだけでは何があったのかわからないので重ねて質問する。
「その場所からここまでちょっと距離があると思うんだけど?」
「そうですね」
返ってきた答えにまたもピクリとする晶。しかし、女神はぼけているわけではなく本当に晶が何を言いたいのかわかっていない様子だ。
「…魔法の核があったこの場所は間合いの外だろ。ここまで剣がとどくとは思えないんだけど?」
その言葉でやっと得心がいったようで、女神は「ああ」と一度頷いた。
「たしかにその場所は剣の間合いの外ですが、間合いの内側のものしか斬れないなどといった覚えはありません。私は剣の神ですよ?」
その言葉で晶は何が起こったのか理解することができた。だがその答えに晶は頭に手を当てて頭が痛そうにしている。
(なんだよそれ。もう間合いとか関係ないじゃん。…見くびっていたつもりはなかったけどまだ過小評価していたみたいだな)
間合いの外であろうと斬ることができるのなら距離を取ることに意味などない。今までは手を抜いていたのだと晶は無理矢理わからされた気がした。
「ですが私はあなたを過小評価していたようですね」
女神はそういって手に持っていた剣だ・っ・た・も・の・を晶に見せた。
刀身があったはずの場所には何もなくその剣に残っているのは持ち手の部分だけだった。その残っている部分さえ徐々に崩壊している。
「これは先程のあなたの攻撃を斬った際にこうなりました。私としてはここまで壊れるとは思っていなかったのですが」
ポイっと持ち手だけになった剣を放り捨てる女神。
「これ程の力があるのでしたら貴方の言う通り私の真の剣を使った方が良さそうですね」
手を前に出し開くとそこには途轍もないほどの力が集まっていた。女神の手に集まった力は次第にその姿を変えていき、一振りの剣になった。
その剣は多少の装飾は付いているが美術品のように華美なわけではなく実用性を重視したものだった。それだけなら何処にでもある普通の剣と変わらないように思うが、そんな考えはこの剣を見れば直ぐに吹き飛ぶだろう。ただの剣であるはずのソレから発せられる威圧感は尋常ではない。『神剣』と言う名が相応しいソレを晶は見ているだけで不安と恐怖を感じるほどだった。
「では、再開しますよ」
女神が新たに現れた剣を構えたのを見て晶も動揺を抑えつつも魔法を放つ準備をする。だがゾクッと嫌な予感がした晶は準備していた魔法の発動をやめて転移によって女神の背後へと移動する。しかしそれでも嫌な予感は治ることはなく咄嗟に右側方に飛び込むがそこで何を感じていたのか理解することとなった。
「ぐああ!」
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晶が痛みに耐えながら女神の方も向くとそこには剣を振り切った状態の女神の姿が見えた。
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女神が構えたことでそれまで通りの対応をしてしまった晶は離れることに意味がないことを思い出した。
腕を切り落とされた晶だったがそのまま止まりことはない。そうすれば死んでしまうとわかっているから。やり直しの地点を更新させたとはいっても晶とてできるなら痛くないほうがいい。だが転移した先でまたも斬られた。今度は左足だ。
いきなり足がなくなりバランスがとれず倒れてしまった晶に情けをかけることなく女神は剣を振り下ろす。
そうして晶は死んだ。
「お疲れ様でした。続きをしましょう」
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しかし晶としては少し休ませて欲しかった。疲れもそうだが、何よりこのまま無策で挑んだとしても勝てる気がしなかったからだ。
「ちょっと待ってくれ。作戦タイムだ」
晶がそういうと少しがっかりしたような雰囲気になる女神。「わかりました」と頷いてはいるので晶は休憩をとる。
(この女神なんだか最初と様子が違くないか?…まあそんなことよりどうやって戦うか、だが。…ほんと、どうしよう)
晶はこれまで魔法を主体として戦ってきた。だが女神を相手にするには距離を取ることは意味がなく、強力な魔法を使う暇がない。だからといって剣で戦えるかといったらそれも無理だ。今までの試練の中には武術の達人がいた。そのものたちと戦う時武器の使い方を学んだおかげで常人相手なら圧勝できるだろう。だが相手は神だ。常識の埒外にいるような存在相手に同じ土俵で闘えと言われてもまず不可能だ。出来るとしたら他の埒外の存在か相手自身だけ。
「そろそろ休憩を終わりにして始めましょうか」
未だ作戦も決まらないままの晶に無情な知らせが届く。
「…まだ作戦が決まらないからもう少しだけ「ダメです」
なんとか時間を稼ごうと足掻くがその言葉は最後まで言い切ることができずに女神に遮られる。
「作戦など必要ありません。もし必要なら闘いながら考えれば良いのです。さあ立って」
なんとも脳筋的な考えをしている女神様。どうやら早く闘いたくて仕方がないようだ。
時間を稼ぐことは不可能だと悟り、晶は仕方なく立ち上がり剣を構える。
だが圧倒的な実力差のある相手になんの策もなく戦ったとしても勝てるはずがなく、晶はその後何度も死ぬ事になった。
しかしその甲斐あって晶は女神の剣を避けることができるようになっていた。
「ーー隆起!ーー火球!ーー幻惑!ーー風槌!」
隙をみては魔法を使い撹乱するがその全てを斬られてしまう。時には効果の現れる前に斬られるものさえある。だが一見無駄に見えるようでもそこにはしっかりと意味がある。一つ二つでは意味がないが、無数の攻撃を前にしてはいかに女神といえど隙ができる。そはいえその隙さえ微々たるものだが晶にはそれだけでも十分だった。
「ハア!」
ほんの僅かな隙をつくように晶は持っていた剣で斬りつけるがそれさえも防がれてしまう。
剣を防がれはしたが晶は再び女神に剣を振り下ろす。だがやはり晶の剣は防がれそれどころか女神の剣を受け折れてしまった。
「ッ!クソッ」
防ぐものが何もない晶は防御の魔法を使い壁を作るが、一瞬で張ることのできるものの強度などたかが知れている。女神の剣の勢いを落とすことすらできずに壁は斬り裂かれ、その刃は晶にも届いた。
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日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
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