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死者と女神

最初の敵

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「他にお聞きになられたい事はございますか」

(ッ!そうだ、まだ話の途中だった。なんだか信じられないような事ばかりだが考えるのは後でいい。今は彼女が話をしてくれているうちに色々聞いておかないと)

晶は女神から掛けられた声にハッとし、困惑しながらも疑問を解消すべく質問を再開した。

「試練を乗り越えればって言っていましたが、その試練の内容はなんでしょう」

そう、まずはこれを聞かなければならない。
他に聞きたい事は多々あるが、まずは自身の方針を決める為に必要な事を聞かなければ。
もっとも、晶のなかでは既に試練を受ける方に傾いているが。

「試練を受けた場合は貴方には、これから貴方が生まれ変わる世界に存在する全・て・の・敵・と戦っていただきます」

「えっと、敵とはいったいどのような存在なのでしょうか」

「敵とは敵です。これから貴方が生まれ変わる世界は怪物がいて暴力による理不尽が勝り通る世界。貴方に分かりやすく言えば、剣と魔法の世界です。その世界において現時点で貴方に敵対する可能性のあるもの全てです」

「すべて…」と晶は呟き呆然とする

「いきなり戦えと言われても不可能かと思われますので始めは弱く、徐々に強くなっていきますし、何度死のうと戦う意思がある限り何度でも甦れますのでご安心ください」

安心できる要素が全くない女神の言葉を聞きつつ晶は暫し瞑目する。

(…敵対する可能性のあるもの全てって、それはもう世界と戦えって言ってるようなものじゃないか?はっきり言って無理だろそんなの。それに何度でも甦れるって事はそもそも何・度・も・死・ぬ・事・が・前・提・なんじゃまいか?試練を諦めるか?…いや、それはないな。何もしなければこのまま死んでいくだけだし、挑戦するだけしてみるか)

晶は閉じていた目を開き目の前に座っている女神を見やる。

「成果に応じて願いを叶えると言っていましたが、その願いとはどんなものでもいいのですか?」

「はい。次の生において強力な武器が欲しいでも強大な力が欲しいでもかまいません。他にも種族や容姿、寿命などの願いも叶えましょう。」

「…なら、神様になりたいとか。あ、貴方が欲しいとか言ったらどうします」

晶は昔見たランプの魔人が出てくるアニメを思い出した。
何でもできる魔人を使役した男。そして、自分が何でもできるようになる為に自身を魔人に変えた男の話だ。
それを参考にし、自身が神になるか神を使役する事ができれば使える武器や能力に制限がかかることもない

…女神に対して「貴方が欲しい」という時にどもってしまったのは仕方がない。20歳を過ぎた童貞など所詮そんなものだ。仕方がない。

「…可能です。ただし試練の全てを乗り越える必要があります。過去、私が管理していた一万年の間に15名の挑戦者がいましたが、その全てが途中で諦めています。最高で試練全体の八割ほどまで到達した方がいましたが、その方曰く『残機無限のマゾゲー。クリア出来た奴は忍耐力がカンストしてる』らしいです」

女神の言葉を聞き晶は微妙に顔をひきつらせるが、願い自体はどんなものでもいいと言質は取れた。
これで心置きなく試練に挑戦できる。
きつくなったら途中で諦めればいいのでリスクはなくリターンは大きい。
少なくとも生まれ変わった後に戦う場合の予習にもなるのだし晶としては断るつもりはない。
大きく深呼吸した後、晶は試練への参加の意思を伝えた。

「試練に挑戦します」

「かしこまりました。それでは試練を行う場に参りますのでご起立下さい」

女神の言葉にしたがい晶が椅子から立ち上がった二人は草原にいた。

「はっ?っいきなりか!」

突然の事だったので一瞬何が起きたのかついていけなかったが、晶は女神に会う時すでに経験していたのでそれほど慌てはしなかった。
だがもう少しやり方は無かったのだろうかとも思う
晶としては、女神に会った時のように扉が出現してそれをくぐると思っていた。もしくは何らかの動作や言葉を合図に移動するものであると。
しかし、実際には扉も合図もなく移動していた。

そんな晶の混乱の元をつくった女神は先程までは座っていたのに、現在は無表情ながらもキリッとした様子で立ち晶のことを見ていた。

「それではこれから試練を開始させていただきますが準備はよろしいですか」

女神はそう言うが晶としては全くもってよろしくない。
晶の今の状態は【ぬののふく】を装備しているだけで、武器は無く防具も無い。魔法を使えれば良いのだがそもそも魔法がどういうものかすら教えてもらっていない。

「あの、武器とか防具って貰えないんですか?せめて魔法の使い方を教えてもらえませんか?」

そんな状況で戦えと言われても素直に頷けないのは仕方がない。

「それも含めて試練です」

変わらぬ無表情から放たれる無慈悲な言葉。
過去の挑戦者がマゾゲーといった理由の一端を晶は理解した。


「最後になりますが、何か不具合があったり試練を諦める場合は呼んでいたたければ対応致します。それでは御武運を」

その言葉を最後に女神は何の前兆もなく消えた。

「ふぅ。もう少し余韻とかあってもいいと思うんだけどな」

そうは言うが女神としてはそんな余裕などまったくなかった。なにせ常に増え続ける死者の対応をしなくてはならないのだから。寧ろ自我を保っているとはいえたった一人のために時間を割いて質問に丁寧に答えていたのが異常なのだ。

「まあいいか。それより敵を倒せって言ってたけど、その肝心の敵はどごぉ」

晶の言葉を最後がおかしくなったのは決してふざけたいだからでは無い。台詞を噛んだわけでもない。
晶が敵を探そうと辺りを見回し後ろを振り向く瞬間頭・が・貫・か・れ・た・か・ら・だ。
そしてその衝撃で体は横に倒れ、晶は試練において初めての、人生において二度目の死を体験した。


「―――ツ!なんだっ!何が起きた!」

草原に横たわる状態で死から復活した晶は意識が戻るなりはね起き、両手で自身の頭をペタペタと触り何が起きたのか確認するがそこにはなんの異常もない。
自身に起こった不可解な事の原因を探るべく立ち上がり辺りを見回すが、相変わらず何もない草原が広がっている。

ポコン♪

そんな気の抜ける音が前方からし、晶がそちらを向けばそこにはウサギがいた。
人より大きいだとか厳しい顔をしているなんて事はなく、地球で見かけるウサギとほ・ぼ・同じだ。
ほぼ、というのはそのウサギには通常のものとは違い唯一にして最大の違いがある。
――角だ。ウサギの額には如何にもな角があった。

「…あいつが俺を、倒したのか?」

倒した、と言ってはいるが実際には殺・し・た・が正しい。
自身が殺された、と言うのを意識か無意識か避けた結果だろう。

晶はそんな自身を殺したであろう敵を注意深く警戒するが、当のウサギはぴょんっぴょんっ、と何でもないように近づいていく。
その姿に警戒心が薄れ、晶が油断するとそれを待っていたかのようにウサギは脚に力を溜め勢いよく跳んだ。――晶の頭に向かって。

「はぇ?」

そして晶は再び死を迎えた。


目を覚ました晶は急いで体を起こし辺りを見回すが前回と同じように見えるのは果てのない草原のみ。先ほどのウサギはどこにもいない。

「チッ、やっぱりあいつだったか!くそっ!」

再び殺された事に悪態を吐く晶だが、果たしてそれは自分の事を殺したウサギに対しなのか、それともあからさまに怪しい敵に対して気を抜いた事なのか。或いはそのどちらともか。
いずれにせよ次はもう油断はしないと、晶はウサギへの対策を考えていく。

「武器もなしであんなん倒せってキツすぎだろ」

実際には武器があったところでウサギの突進に反応できていないのだからさして意味はないだろう。

「やっぱりあの攻撃を避けない事には始まらないよな」

ポコンッ♪

ウサギへの対策がいまだにまとまらないが、それでも敵は待ってはくれない。
今まで同様、可愛らしい音をたてて可愛らしい姿のウサギが現れる。…繰り出される攻撃はまったく可愛くはないが。

「チッ、もう来のかよ!少しぐらい考える時間をくれよな」

晶はそう言いながらもウサギに向き合い徐々に後退していく。

(見た感じ恐いのはあの突進だ。他の爪や牙はまともに喰らえば痛いだろうけど所詮その程度。なら突進を避けてすぐに反転して倒せばいい。幸い、あいつは突進の前に大きく屈んで力を溜めていた。ならそれに合わせて避ければいけるはず。…他に隠し球があるかも知れないが現状で不明なら考える必要はない)

なにせまだ試練の最初の敵なんだからな、と晶は苦笑する。
晶は後退していた脚を止めると晶とウサギの距離は少しずつ狭まっていく。

そして遂に両者の距離が近づくと

「ッ!うおぉ!」

タイミングを合わせ右に跳ぶことで突進を躱す事が出来た晶は、達成感に浸ることもなくすぐさまウサギの方へと反転し飛びかかり、見事に捕・ま・え・る・事・が・出・来・た・。

「よしっ、出来た!捕まえたぞっ!………どうしよう、これ」

しかし、捕まえたはいいがその後の対処に迷う。
武器の類はないので、押さえつけた手で絞めるか石か地面に叩きつけるしかない。…が晶としては絞め殺すのはやりたくない。どのみち殺さなくてはならないのだが、生き物を殺した経験がないのでできればもう少し違った方法が良かったのだ。
何かないかと晶は周囲を見回すがあるのは草と土のみ。
仕方ないと諦め手元のウサギに視線を戻すが、その際ウサギと目が合いこれから生・き・物・を・殺・す・と改めて認識すると同時に晶の手から力が抜ける。

「いっ!―――あ」

瞬間、ウサギの爪が晶の手を引っ掻き、晶は痛みで手を離してしまう。
そうなれば後は今までと同じ。
態勢を立て直したウサギが晶の頭に向かって跳び、晶は四度目の死を迎えた。

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