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王国潜入
504:王国に向けて
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伝心花の加工を頼んだあとは特にやらなければならない事もないので、俺達は寄り道することもなく宿へと戻った。
明日一日を休息兼準備として使い、明後日には王国へ潜入するために行動を始めるのだが、ふと王国に行く前に収納の中身の確認と整理でもしておこうかな。なんて思った。
一応王国の宝物庫で回収した宝や何度か使ったことのある道具なんかは覚えてるけど、それ以外は覚えていない。
多分、収納の中に入っているものの半分くらいしか覚えていないんじゃないだろうか? ……半分も覚えてるかな?
まあ半分と言っても、単純な量で考えての半分という意味ではない。
地面とか岩とかしまってあるし、それらは質量だけでいえば武具や食器なんかよりも圧倒的に大きい。半分どころか、収納の七割は占めているんじゃないだろうか? 瓦礫とかまだ処理できずに残ってたりするし。
そんなわけで、王国での出来事や、まだあの国に残っている勇者二人へと思いを馳せながら収納の中身を確認していき夜が過ぎていった。
「エルミナ。案内人って、お前だったのか」
翌日。ヒズルに言われた通り冒険者ギルドの受付に行くと、案内人となってくれる者を紹介されたのだが、その人物は俺たちも知っていたエルミナだった。
「まあね。本当は首都の方にいたんだけど、一週間くらい前に呼び出されてね」
「悪いな」
俺たちよりも先に来た伝令から案内人を用意することを決めたヒズルは、俺たちの知り合いであり、この国の首都にいったはずのエルミナを呼び出したようだ。
俺たちとしても知り合いの方が楽だからいいんだが、突然呼び出されたエルミナとしては迷惑だっただろうな。
「いや、こっちも正式な依頼としてギルドから金はもらってるんだ。気にすることじゃないさ」
そう思っての言葉だったのだが、エルミナは首を横に振ると肩をすくめてそう言った。
そして直後、エルミナはそれまでの表情とは違って険しいものへと変わった。
「……それに、いなくなった者の中には私の知り合いもいる。あいつがどうなったのかわからないが、それを調べる役に立てるってんなら、手を貸すのは惜しまないよ」
そうか。まあ、そうだよな。それなりの数の者がいなくなってるんだから、その中に知り合いがいてもおかしくはないよな。
特にエルミナなんてミスリル級の冒険者だ。その人脈は決して狭いものではないだろう。もしかしたら、いなくなった知り合いというのも、一人二人ではないかもしれない。
「で、あんた達この後はどうすんだい? 出発は明日なんだろ?」
「あ、ああ。とりあえず今日は案内人と打ち合わせをして、準備を整えてあとは休息……ってことくらいだな」
いなくなった人について考えているところに突然かけられたエルミナの声に、ハッとして意識をエルミナへと向け直すと、俺は若干慌てながらも返事をして予定を話した。
とはいえ、予定と言ってもたいしたものではない。必要そうなものはリスト化してあるからそれを買うのはすぐに終わるだろうし、基本的には街をぶらつくのと変わらない。
「そうかい。なら明日は門の前……や、あんた達、泊まってる宿は『黄金の絆』で合ってるかい?」
「ああ。……ああそうか。エルミナもあの宿に泊まってるんだったら、わざわざ門の前で待ち合わせなんてしなくてもいいのか」
「そう言うこったね。じゃあ明日は朝の鐘が鳴る前に談話室に集合ってことでいいかい?」
「わかった。それでいい」
「じゃ、また宿で会うかもしれないけど、明日からよろしく」
エルミナはそう言うと背中越しに軽く手を振ってから去っていった。
「ん、じゃあ案内人との顔合わせも終わったし、とりあえず買い出しを終わらせるか」
俺の言葉にイリンと環は頷き、俺はそれを確認すると二人と共に冒険者ギルドを出て街に繰り出していった。
買い出しと休息の一日を終え、次の日の朝。俺達は朝の鐘がなるよりも早くにイリンに叩き起こされて準備を終えると、食事を取るべく食堂へと降りていった。
「アンドー」
食堂には何人か先客がいたが、席が埋まっているというわけでもないので適当な席を探す。
だがそうして席を選んで進んだところで誰かが俺の名前を呼び、その声のした方向を見るとそこにはエルミナがいたので、俺は向かっていた方向をエルミナの座っている席へと変えて彼女の対面へと座った。
「エルミナ、おはよう」
「ああ、おはよう」
席についた俺たちは注文をしたのだが、まさか談話室で待ち合わせをしてたのに朝食の席で会うことになるとはな。
まあでもある意味当然か。同じ宿で同じ時間に出かけようとするなら、ある程度行動が被ってもおかしくなはないよな。
「……あんたもだけど、環はすごい眠そうだが、大丈夫なのかい?」
「あー、まあいつものことだ。どうせ移動は馬車なんだし、国境には今日着くってわけじゃないんだ」
「ま、それもそうか」
どうせここから国境の街まで行くまでに二日くらいかかるんだ。今日寝ぼけていたところで、馬車に乗ってさえしまえば関係ない。
そうして料理が届いた後は雑談を交えながら準備の確認や改めての軽い状況確認などをしていたのだが、話しているうちに結構時間が経っていたようで出発を予定していた朝の鐘がなってしまった。
「──っと、ゆっくりしすぎたか」
「それじゃあ、そろそろ行くとするかね」
俺たちは国境の街へ……そしてそのさらに向こう側にある王国へと乗り込むために進み出した。
「一応認識の擦り合わせといこうか。まずは私が知ってることと今回やることを話す。何かあれば最後に訂正と補足をしてもらえるかい?」
馬車に乗ってしばらく進み、周囲に誰もいなくなった辺りでエルミナはそう言って俺たちの顔を見た。
イリンは相変わらず馬車の操縦をしているが、それでも御者席をつなぐ窓が開いているので聞こえているだろう。
「じゃあまず知ってることだ。……しばらく前から王国に行った奴が帰ってこなくなった。調査を送っても帰ってこず、こっちに家族がいるやつや実力があるやつなんかも帰ってこない」
それは俺たちも聞いているので頷くと、エルミナも頷き返してきた。本当に確認でしかないのだろう。
「ギルド連合の議会が使者を送ったが帰ってこず、今度は国境は越えずに向こうの王様に書状を送ったが帰ってきた返事は異常無し。普段通りに返事が帰ってきただけだった」
これも昨日ヒズルから聞いていた。
この国の議会……というよりも冒険者ギルドの本部長であるボイエンと、商業ギルドの実質的なまとめ役となったマイアルがそれぞれ王国に手紙を送ったが、のらりくらりと交わされたり、先延ばしにされたりしている……まあいつも通りといえばいつも通りな対応だったそうだ。
「だが異常無しと言われても何かがあるのは確実だ。でも調べに行った奴らが帰ってこないんだからどうしようもない。そんなわけで対処できそうなあんたらが送り込まれて、私はその護衛と雑用。……私が知ってるのはこんなところだね」
「いくつか聞きたいことはある。手紙を送れたのかってことと、竜級の冒険者たちはどうなったのか、ってことだな」
手紙を送ったと聞いていたのは確かだが、そういえばどうやってやりとりしているのかを聞くのを忘れていた。
国境を越えてしまえば誰も帰ってこない状況だというのに手紙のやり取りなんてできるものなのだろうか?
そしてもう一つは高位の冒険者達だ。竜、ないしオリハルコン級の冒険者達はどこへ行った?
俺たちでなくても、入って帰ってくるだけならできるんじゃないだろうか? どんな奴がいるのか知らないから確実なことは言えないけど。
「手紙は向こうの門番に渡すことで今でも一応のやりとりはできてるらしいよ。去年の件で王国が関わってたのは明らかだったからその抗議や賠償を求めたりする文を送ってるらしいけど……この状況だ。まあうまくいってないね」
ああ、そういえばあの時の反乱は王国からの内政干渉があったってことで抗議する、みたいなことを聞いた気がするな。
うまく行くとは思ってなかったけど、それは想像通りだな。
けどそうか。直接入りさえしなければ今のところは問題はないのか。
「竜級は一人だけ行ったさ。でも戻ってこない。それからは下手に送り込まない方がいいだろうってことになってね」
まあそうだろうな。下手すれば国を落とせる戦力を下手に消費、もしくは奪われるわけにはいかないか。
だが、竜級の冒険者ですら帰ってこられない状況となると、思っていたよりも警戒した方がいいか。
「……で、あんた達、勝算はあるのかい?」
「正直なところ……ない」
若干険しくなった表情で尋ねてきたエルミナにそう返すと、エルミナは眉を寄せてさらに表情を険しくした。
だが仕方がないのだ。向こうの状況は全くと言っていいほどわかっていない。そんな状況で絶対に安全かどうかなんて言われても、そうです、なんて肯けない。
とはいえ簡単にやられるつもりもないし、自信がないわけでもない。
「何が起こってるのかわからない以上は確実なことは言えない。だが、武力で来るならやられることはないし、それ以外の方法だったとしても、異変を感じた瞬間なりふり構わず門を破壊してでも逃げ出せば、逃げられないこともない筈だ」
最悪の場合は門を目指さなくても地面を掘っていいけば逃げることもできるはずだ。
「……ま、結局はそうなるか。仕方ないね。そのために私がいるわけだし」
俺の言葉を聞いたエルミナは息を吐き出すとそう言って肩を竦めた。
「?」
だが俺にはエルミナがなぜそんなことを言ったのかわからない。そのためにいるってどういうことだ?
俺が首を傾げていると、エルミナは俺の疑問を解消するべく説明し始めた。
「聞いてないかい? 隠れ家の用意とかも私がすることになってるんだよ」
「ああ、そういえば。なんだかいろんな雑事をやってくれるって」
「そう。こういうのは私よりもネーレの方が向いてんだけど、あいつが出るとなるとニナも出張って来そうだからね。流石に元って言っても竜級が動けば雑事に関してバレるかもしれない。そんなわけであんた達の知り合いで隠れ家なんかを用意できそうな私が選ばれたんだよ」
エルミナはそう言って呆れた様子を見せるが、それは俺にも理解できる。
別れる必要がある時は別行動をするだろうけど、何もない時であればニナはネーレに付き添ってそうだ。
でも確かに、いろんなところから情報を集めることのできるネーレなら知り合いもいっぱいいるだろうし、隠れ家の用意とか得意そうだな。
「これでもそれなりに人脈はある方だからね。隠れ家や抜け道を用意するし、もみ消しなんかも多少はできる。だから、ヤバそうならすぐに逃げてきな。あとちょっと、なんて深追いすると、ろくな結果にならないよ」
その言葉はとても真剣なもので、俺たちを心配していくれているのがわかった。
だから俺たちも、そんなエルミナの言葉に真剣な表情で頷きを返した。
明日一日を休息兼準備として使い、明後日には王国へ潜入するために行動を始めるのだが、ふと王国に行く前に収納の中身の確認と整理でもしておこうかな。なんて思った。
一応王国の宝物庫で回収した宝や何度か使ったことのある道具なんかは覚えてるけど、それ以外は覚えていない。
多分、収納の中に入っているものの半分くらいしか覚えていないんじゃないだろうか? ……半分も覚えてるかな?
まあ半分と言っても、単純な量で考えての半分という意味ではない。
地面とか岩とかしまってあるし、それらは質量だけでいえば武具や食器なんかよりも圧倒的に大きい。半分どころか、収納の七割は占めているんじゃないだろうか? 瓦礫とかまだ処理できずに残ってたりするし。
そんなわけで、王国での出来事や、まだあの国に残っている勇者二人へと思いを馳せながら収納の中身を確認していき夜が過ぎていった。
「エルミナ。案内人って、お前だったのか」
翌日。ヒズルに言われた通り冒険者ギルドの受付に行くと、案内人となってくれる者を紹介されたのだが、その人物は俺たちも知っていたエルミナだった。
「まあね。本当は首都の方にいたんだけど、一週間くらい前に呼び出されてね」
「悪いな」
俺たちよりも先に来た伝令から案内人を用意することを決めたヒズルは、俺たちの知り合いであり、この国の首都にいったはずのエルミナを呼び出したようだ。
俺たちとしても知り合いの方が楽だからいいんだが、突然呼び出されたエルミナとしては迷惑だっただろうな。
「いや、こっちも正式な依頼としてギルドから金はもらってるんだ。気にすることじゃないさ」
そう思っての言葉だったのだが、エルミナは首を横に振ると肩をすくめてそう言った。
そして直後、エルミナはそれまでの表情とは違って険しいものへと変わった。
「……それに、いなくなった者の中には私の知り合いもいる。あいつがどうなったのかわからないが、それを調べる役に立てるってんなら、手を貸すのは惜しまないよ」
そうか。まあ、そうだよな。それなりの数の者がいなくなってるんだから、その中に知り合いがいてもおかしくはないよな。
特にエルミナなんてミスリル級の冒険者だ。その人脈は決して狭いものではないだろう。もしかしたら、いなくなった知り合いというのも、一人二人ではないかもしれない。
「で、あんた達この後はどうすんだい? 出発は明日なんだろ?」
「あ、ああ。とりあえず今日は案内人と打ち合わせをして、準備を整えてあとは休息……ってことくらいだな」
いなくなった人について考えているところに突然かけられたエルミナの声に、ハッとして意識をエルミナへと向け直すと、俺は若干慌てながらも返事をして予定を話した。
とはいえ、予定と言ってもたいしたものではない。必要そうなものはリスト化してあるからそれを買うのはすぐに終わるだろうし、基本的には街をぶらつくのと変わらない。
「そうかい。なら明日は門の前……や、あんた達、泊まってる宿は『黄金の絆』で合ってるかい?」
「ああ。……ああそうか。エルミナもあの宿に泊まってるんだったら、わざわざ門の前で待ち合わせなんてしなくてもいいのか」
「そう言うこったね。じゃあ明日は朝の鐘が鳴る前に談話室に集合ってことでいいかい?」
「わかった。それでいい」
「じゃ、また宿で会うかもしれないけど、明日からよろしく」
エルミナはそう言うと背中越しに軽く手を振ってから去っていった。
「ん、じゃあ案内人との顔合わせも終わったし、とりあえず買い出しを終わらせるか」
俺の言葉にイリンと環は頷き、俺はそれを確認すると二人と共に冒険者ギルドを出て街に繰り出していった。
買い出しと休息の一日を終え、次の日の朝。俺達は朝の鐘がなるよりも早くにイリンに叩き起こされて準備を終えると、食事を取るべく食堂へと降りていった。
「アンドー」
食堂には何人か先客がいたが、席が埋まっているというわけでもないので適当な席を探す。
だがそうして席を選んで進んだところで誰かが俺の名前を呼び、その声のした方向を見るとそこにはエルミナがいたので、俺は向かっていた方向をエルミナの座っている席へと変えて彼女の対面へと座った。
「エルミナ、おはよう」
「ああ、おはよう」
席についた俺たちは注文をしたのだが、まさか談話室で待ち合わせをしてたのに朝食の席で会うことになるとはな。
まあでもある意味当然か。同じ宿で同じ時間に出かけようとするなら、ある程度行動が被ってもおかしくなはないよな。
「……あんたもだけど、環はすごい眠そうだが、大丈夫なのかい?」
「あー、まあいつものことだ。どうせ移動は馬車なんだし、国境には今日着くってわけじゃないんだ」
「ま、それもそうか」
どうせここから国境の街まで行くまでに二日くらいかかるんだ。今日寝ぼけていたところで、馬車に乗ってさえしまえば関係ない。
そうして料理が届いた後は雑談を交えながら準備の確認や改めての軽い状況確認などをしていたのだが、話しているうちに結構時間が経っていたようで出発を予定していた朝の鐘がなってしまった。
「──っと、ゆっくりしすぎたか」
「それじゃあ、そろそろ行くとするかね」
俺たちは国境の街へ……そしてそのさらに向こう側にある王国へと乗り込むために進み出した。
「一応認識の擦り合わせといこうか。まずは私が知ってることと今回やることを話す。何かあれば最後に訂正と補足をしてもらえるかい?」
馬車に乗ってしばらく進み、周囲に誰もいなくなった辺りでエルミナはそう言って俺たちの顔を見た。
イリンは相変わらず馬車の操縦をしているが、それでも御者席をつなぐ窓が開いているので聞こえているだろう。
「じゃあまず知ってることだ。……しばらく前から王国に行った奴が帰ってこなくなった。調査を送っても帰ってこず、こっちに家族がいるやつや実力があるやつなんかも帰ってこない」
それは俺たちも聞いているので頷くと、エルミナも頷き返してきた。本当に確認でしかないのだろう。
「ギルド連合の議会が使者を送ったが帰ってこず、今度は国境は越えずに向こうの王様に書状を送ったが帰ってきた返事は異常無し。普段通りに返事が帰ってきただけだった」
これも昨日ヒズルから聞いていた。
この国の議会……というよりも冒険者ギルドの本部長であるボイエンと、商業ギルドの実質的なまとめ役となったマイアルがそれぞれ王国に手紙を送ったが、のらりくらりと交わされたり、先延ばしにされたりしている……まあいつも通りといえばいつも通りな対応だったそうだ。
「だが異常無しと言われても何かがあるのは確実だ。でも調べに行った奴らが帰ってこないんだからどうしようもない。そんなわけで対処できそうなあんたらが送り込まれて、私はその護衛と雑用。……私が知ってるのはこんなところだね」
「いくつか聞きたいことはある。手紙を送れたのかってことと、竜級の冒険者たちはどうなったのか、ってことだな」
手紙を送ったと聞いていたのは確かだが、そういえばどうやってやりとりしているのかを聞くのを忘れていた。
国境を越えてしまえば誰も帰ってこない状況だというのに手紙のやり取りなんてできるものなのだろうか?
そしてもう一つは高位の冒険者達だ。竜、ないしオリハルコン級の冒険者達はどこへ行った?
俺たちでなくても、入って帰ってくるだけならできるんじゃないだろうか? どんな奴がいるのか知らないから確実なことは言えないけど。
「手紙は向こうの門番に渡すことで今でも一応のやりとりはできてるらしいよ。去年の件で王国が関わってたのは明らかだったからその抗議や賠償を求めたりする文を送ってるらしいけど……この状況だ。まあうまくいってないね」
ああ、そういえばあの時の反乱は王国からの内政干渉があったってことで抗議する、みたいなことを聞いた気がするな。
うまく行くとは思ってなかったけど、それは想像通りだな。
けどそうか。直接入りさえしなければ今のところは問題はないのか。
「竜級は一人だけ行ったさ。でも戻ってこない。それからは下手に送り込まない方がいいだろうってことになってね」
まあそうだろうな。下手すれば国を落とせる戦力を下手に消費、もしくは奪われるわけにはいかないか。
だが、竜級の冒険者ですら帰ってこられない状況となると、思っていたよりも警戒した方がいいか。
「……で、あんた達、勝算はあるのかい?」
「正直なところ……ない」
若干険しくなった表情で尋ねてきたエルミナにそう返すと、エルミナは眉を寄せてさらに表情を険しくした。
だが仕方がないのだ。向こうの状況は全くと言っていいほどわかっていない。そんな状況で絶対に安全かどうかなんて言われても、そうです、なんて肯けない。
とはいえ簡単にやられるつもりもないし、自信がないわけでもない。
「何が起こってるのかわからない以上は確実なことは言えない。だが、武力で来るならやられることはないし、それ以外の方法だったとしても、異変を感じた瞬間なりふり構わず門を破壊してでも逃げ出せば、逃げられないこともない筈だ」
最悪の場合は門を目指さなくても地面を掘っていいけば逃げることもできるはずだ。
「……ま、結局はそうなるか。仕方ないね。そのために私がいるわけだし」
俺の言葉を聞いたエルミナは息を吐き出すとそう言って肩を竦めた。
「?」
だが俺にはエルミナがなぜそんなことを言ったのかわからない。そのためにいるってどういうことだ?
俺が首を傾げていると、エルミナは俺の疑問を解消するべく説明し始めた。
「聞いてないかい? 隠れ家の用意とかも私がすることになってるんだよ」
「ああ、そういえば。なんだかいろんな雑事をやってくれるって」
「そう。こういうのは私よりもネーレの方が向いてんだけど、あいつが出るとなるとニナも出張って来そうだからね。流石に元って言っても竜級が動けば雑事に関してバレるかもしれない。そんなわけであんた達の知り合いで隠れ家なんかを用意できそうな私が選ばれたんだよ」
エルミナはそう言って呆れた様子を見せるが、それは俺にも理解できる。
別れる必要がある時は別行動をするだろうけど、何もない時であればニナはネーレに付き添ってそうだ。
でも確かに、いろんなところから情報を集めることのできるネーレなら知り合いもいっぱいいるだろうし、隠れ家の用意とか得意そうだな。
「これでもそれなりに人脈はある方だからね。隠れ家や抜け道を用意するし、もみ消しなんかも多少はできる。だから、ヤバそうならすぐに逃げてきな。あとちょっと、なんて深追いすると、ろくな結果にならないよ」
その言葉はとても真剣なもので、俺たちを心配していくれているのがわかった。
だから俺たちも、そんなエルミナの言葉に真剣な表情で頷きを返した。
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そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
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アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
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