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友人達の村で

400─イリン:突入開始

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 ……そろそろ時間ですね。

 予定していた作戦の時間が近づいたので私は環へと視線を向けます。
 環も時間が近いことを理解しているようで、頷き返しました。

 ……こうして分ける必要があった事は理解していますが、それでもやはりあの人のそばにいたかったです。
 それに、もっと頼って欲しい。安全のために、と心配してくれるのは嬉しい。けれど、もっと役に立ちたい。
 それを言えばあの人は少し渋るでしょうけれど、結局は頷いてくれるはずです。

 でも……

 そこまで考えて軽く首を振りました。それ以上は考えてはいけない……考えたくない。
 そんな自分の思いにため息を吐き出してしまいたくなりますが、音を立てるわけにはいかないので堪えます。

 ……それにしても、なんだか妙な感じがしますね。
 確かにここまで匂いは残っているのですが、やけに薄いというか……

 けれど、事前にガムラから聞いていた情報によると敵の数は最低でも五十はいると予想されています。

 私のように鼻がいい者や魔物達から隠れるために匂いを誤魔化している可能性もあるのですが、なんだかそうではないような違和感。

 トントン

 違和感について悩んでいると、環に肩を叩かれました。そろそろ始めようということでしょう。

 私は振り返って頷くと、洞窟の方へと視線を向け直しました。

「私がやります。あなたは能力の使用に気をつけてください」

 本来なら声を出さない方がいいのですが、これから動くのであれば多少なら問題ありません。どうせこの声が聞こえたところで、対応する前に終わりますから。

「わかってるわ」

 環の返事を耳にする前に動き出します。

 入り口で見張りをしていた男性二人が腰に帯びていた剣を抜いて、その者達の首に突き立てます。

 今は無手ですが、アキト様からもらった収納の魔術具があるので武装はしっかりと持っています。
 ではなぜわざわざ敵から武器を奪って使ったのかというと、この者達の血で装備を汚したくなかったから。それに尽きます。
 だってこれは、あの人から貰った大事なものだから。

「お疲れ様」

 それから少し確認をしていると、先ほどまで私も隠れていた場所から環が姿を表してそんなことを言いました。

「この程度、疲れてなどいませんよ。それより、やはり決めていた通り行きますよ」
「ええ、任せて」

 環はそう言って頷くと、スキルを使って炎の鬼を出しました。
 ですが、その姿はもはや鬼というよりも、炎の戦士と言った方が正しいような気がする見た目をしていました。

 以前見たような燃え盛る炎はより凝縮され、まるで鎧でも着ているかのような紋様までその体に浮かび上がっているのが見てとれます。それが三体。並の敵であればこれに勝つことは難しいでしょう。

「──行って」

 そうして環によって生み出された三体の炎の戦士達は洞窟の中へと入っていきました。

 本当は洞窟の中などの閉所で炎は使わない方がいいらしいのですが、今回は探索用に敵がどこにいるかの確認をする少しの間だけなので大丈夫でしょう。

 私の鼻で調べても良かったのですが、賊達はここにしばらく暮らしていたからでしょう。洞窟の至る所に匂いが染みつき、わかりづらくなっていました。
 それでもやってやれないことはないのですが、アキト様以外の匂いをそんな真剣に嗅がなくてはならないというのは嫌でした。それも花やお菓子などのいい匂いではなく、男性の据えたような匂い。想像しただけで顔を顰めたくなりますね。

 そんなものをかがなくてはならないくらいであれば、索敵などせずに出会い頭に潰して行った方がよほどマシです。
 なので今回は環に索敵を任せました。

「では私たちも行きましょう」
「ええ。炎鬼達の索敵から逃げる人だっているかもしれないものね」

 環の炎鬼は普通の視覚ではなく熱と魔力を感知するようなので、それを知らずに普通の方法で隠れているものは見つけることができるでしょう。
 ですが、それでも隠れる方法がないわけではありません。
 それに、倒すことも不可能ではありません。普通の者は不可能でしょうが、普通でない者には可能です。

 炎の鬼達から隠れるにせよ倒すにせよ、生き延びることができたのであれば、その者は普通ではない実力の持ち主ということになります。
 ……少し、楽しみです。だって、そのものを倒すことができれば、それはご主人様のために尽くすことができたということですから。

「っ! いるわ」

 そのまましばらく待っていると環が驚きとともに、少し悔しそうにしながらそう言いました。
 それは事前に決めていた合図。どうやら先ほどの鬼達は倒されたようです。

「では参りましょうか」

 そうして私たちは強敵が待っている洞窟の中へと進んで行きました。

 念のため、環の出した鬼を先行させていますが……さて、どのように倒されたか分かると楽なのですけれど……。

 何も知らなくとも問題なく倒せるとは思いますが、慢心はしません。驕った結果、私たちが傷付けば、アキト様は悲しんでしまうでしょうから。

 そう考えながら歩いていると、突然前方を進んでいた鬼が消え去りました。

「どうやら、この先にいるみたいね」
「ええ。行きましょうか。気をつけてくださいね。あなたが傷つくと、アキト様が悲しまれますので」
「わかってるわ」
「それにしても、最近、ソレを消されてしまうところをよく見ますね」
「仕方ないじゃない。あなたも彰人も、後ナナも、みんなおかしいくらい強いんだもの。それにここが洞窟だから抑え目にしておいたし……」

 そんなふうに環と話しながら進んでいくと、少し進んでいったところで今までの通路の何倍も広い空間に出ました。
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