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友人達の村で

383:ゲロ犬

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 少女は謝ったが今更二人がそんなことで止まるはずもなく、今も睨み合いが続いている。あれはもう放っておくしかないだろう。そのうちなんらかの方法で決着がついて大人しくなるはずだ。

「……ではいつものように、どちらがよりアキト様のレアものを出せるかで勝負しましょう」
「いいわ。勝ったら今日の夜は隣をもらうわよ」
「いいでしょう。私が勝ちますから」

 ……俺のレアものってなんだよ。
 二人の勝負の方法がどんなものかは聞かなかったことにしておこう。というかいつもなのか。ああいや、違うな。俺は聞かなかったんだ。

 俺は二人の会話を極力気にしないようにして、目の前にいる少女に意識を向けた。

「間違えたって、ゲロ犬なんて呼んでる奴がいるのか?」
「ん。あっちの山の中。ゲロ犬がいる」

 少女の指差した方角は俺たちがきた方角にある山。つまりはイリンの故郷がある方だった。

 ということは、だ。この子の知ってるゲロ犬とやらはイリンの故郷の住人である可能性が高いということだ。であれば、俺も知っている可能性が高い。
 あ、いや、待てよ? ……もしかしてだが、この少女の言っているゲロ犬というのは……

「……もしかして大きな狼?」

 イリンの故郷の周辺にいるゲロ犬と呼ばれるようなやつに一人、というか一匹思い当たる奴がいた。

「そう。みんなの嫌われ者。知ってる?」

 みんなというのが誰を指しているのかはわからないが、嫌われ者だというのは納得できる。
 確かにあいつはその根性は腐っていて、まさにゲロ犬というのにふさわしい。

「まあ知ってるか知ってないかだと知ってるが……」

 知っているどころかついこの間殺して来たばかりだ。
 だが、あいつはあんなクズだったが一応は神獣だ。そのあいつのことを知っているてことは、もしかしてこの子は……神獣、なんだろうか?

 もしこの少女が神獣であるのなら、どうして神獣がこんなところにいるのかわからないが、いる以上は仕方がない。
 俺はあのゲロ犬……じゃない。あの神獣の同類だったら面倒だと思い、少し緊張しながら問いかける。

「もしかしてだが、君も神獣だったりするのか?」

 ごくわずかな時間だが、この子と接してみた限りじゃあ特に問題ないように思えるし、さっきゲロい……もうゲロ犬でいいか。一応神獣であるあいつのことを嫌われ者って言ってたことから考えると問題はないようにも思えるが、念のために警戒を強める。

「……びっくり。神獣を知ってる?」
「ああ。そっちのイリン──君がゲロ犬と呼んだ子の方は、神獣のもとで生活している里の住民だ」

 俺がイリンのことをゲロ犬と言ったせいで、環はイリンとの話し合いの途中だというのにまた笑ってしまい、イリンに怒られている。

「そう。……私も神獣」
「神獣にしては見た目が人みたいなんだが、その辺は聞いても良いのか?」
「いい。私たちは変えようと思えば姿を変えられる」

 姿を変えられる? だがあのゲロ犬はともかく、もう一人の知り合いの神獣であるスーラは人になったのを見たことがない。もしできるんだったら結構長い間居たんだし、一度くらいは見せてくれてもいいと思うんだが……

 だがまあ、この少女は「変えようと思えば変えられる」と言っていた。つまりは自由に変えることはできず、それなりに代償があるとも考えられる。
 もしくはイリンの治療の途中だったからあまり影響が出ないようにしたとか、傷は治ったが消耗が完全に回復したわけではないとか。
 理由なんて考えようと思えばいくらでもあるか。

 とりあえず、目の前の存在が神獣だというのなら、少しでも多くの情報を集めておきたい。今後ゲロ犬の時のように神獣と戦う状況にならないとも言えないのだから。

「なんでこんなところに、ってのは聞いても良いか?」
「いい。ちょっと前にゲロ犬を力を強く感じた。不快になったからボコしにきた」

 とりあえず目的を聞いてそれを邪魔しないようにしようと思ったのだが、初っ端からダメじゃないか、これ?

 いや、この子はボコしに来たって言ってたからまだ可能性はある。不快になったとも言ってたし、なんならあいつのことを嫌っているようにも言っていた。
 正直に話しても戦いになるようなことはないんじゃないか?

「あー……そう、なんだ……」

 と、そう思うんだが、それでも「ボコしにきた」とは言っても「殺しにきた」とは言っていない。神獣仲間ということで敵討ちをするかもしれないと考えると、言葉が詰まってしまう。

「ん。けど力が消えた。……知ってる?」

 少女はそう言ったが、その視線はイリンの方を向いている。

 ……これはバレてると考えた方がいいか。

「…………ああ。俺が殺した」

 いつ攻撃を受けても大丈夫なように警戒していると、俺の様子に気がついたのかイリンと環もジャレ合いをやめてこちらを見ている。

「……そう。………………残念」

 気怠げな顔を少しだけ悲しげに歪めて少女はそう呟いた。だがそれは、あの神獣を自分で倒すことができなかったからとかではなく、もっと違う。純粋に悲しんでいるように思えた。
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