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友人達の村で

380:ガムラとキリーの村に向かって

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「次はキリーのところへ行くのですよね?」
「ああ」

 まあ正確にはガムラの故郷だけど、あいつらも一緒にいるみたいだしその辺はどっちでも良いだろう。
 もうガムラの故郷は、キリーの居場所でもあるんだ。別れたりすれば故郷じゃなくなるんだけど、あいつらに限ってそんなことはないだろう。
 別れる事あるとしたら特別な事情だろうけど、その場合でもガムラは死んでも離さない気がする。

「なんだか久しぶりな感じがしますね」
「まあ実際に二ヶ月は経ってるから久しぶりで良いんじゃないかな?」
「だいぶ時間が経ったものですね」

 その間に俺たちの関係も随分と変わった。ガムラとキリーにあったらあいつらはなんて言うだろうか?

「ここからだと……一週間くらいか?」

 前回ガムラの故郷からイリンの故郷に行くまでは歩きだったが二週間近くかかった。
 だが今回は馬車があるからその半分くらいにはなるだろう。

「はい。状況に応じて変わりますが、おおよそはそれくらいかと」
「そうか。……車が欲しいな」

 思わず口から漏れてしまったが、車が欲しい。移動時間が一番無駄な気がする。
 こうして三人で旅をするというのは楽しいではあるんだけど、街道なんてどこも代わり映えしないから、ぶっちゃけ飽きる。

「車ですか……確かアキト様のいた世界の移動手段ですよね?」
「そう。……簡単に言えば馬なし馬車だな」
「馬なし馬車……。馬車?」

 馬のない馬車とははたして『馬車』なのだろうか。イリンはそう思ったのだろう。コテン、と可愛らしく首を傾げている。
 俺はそんな様子のイリンを見てくくっと笑いを漏らすと、追加の説明をする。

「ああ、まあわかりやすく言えばってだけで、名前は馬車じゃないよ」
「あ……そうでしたか」

 イリンは自分の間違った考えを見透かされたことが恥ずかしいのか、少し顔を赤らめて視線を逸らした。
 そんな様子がまた可愛いと思えるのは、やっぱりイリンが俺にとっての特別だからだろう。

「異世界なら飛行船とかもある気もしたんだけどな。船が飛ぶって考えるとすごくファンタジーだし」

 結局そんなものはなかったけど。王国にいた時に調べたけど、そんなものは噂すらなかった。

 車があれば移動時間を短縮できてもっといろんなところに気軽に行きやすいだろうと思う。
 それに飛行船なんてものがあったら俺たち以外にもいろんな旅をする人が増えるだろう。

 けど、今のこの世界の状況からするとこのままでいいような気もする。
 だって、そんな物があれば王国は絶対に戦争のために作る。そうなれば戦争の範囲と被害は今よりももっと大きくなる。

 だから車なんかはあれば便利だけど、なくても良いんじゃないかなんて思ってしまう。少なくとも、王国が周辺への侵略を考えている今の状況では。

「飛行船? ……船が飛ぶのですか?」

 羞恥心から復活したイリンは次なる疑問を問い掛けてきた。
 移動の時間が長いのは欠点ではあるけど、こうして話す時間が増えたったってのは、間違いなく良い事だよな。

「そう。海を進む船に翼をつけて空を飛ぶ。そんなやつだ」
「アキト様のいた世界にはなかったのですか?」
「んー、まあ似たようなのはあったよ。人を乗せて空を飛ぶ飛行機ってやつが」
「……それは魔術師ではなくてもできるものなのでしょうか?」
「ああ。誰でも乗れる。で、空を飛んでいろんな国に行ったりするんだ」
「人が空を……にわかには信じ難いです。けれど、叶うならば空を飛んでみたいです」
「そうだな。いつか、そんな日がくると良いな」

 だが、確かに戦争の被害は広がるだろうけど、それでもいつかそんなことを気にしないで誰もが旅を楽しめるような世界になれば良いな。

「……」
「どうした、環? 調子でも悪いのか?」

 いつもなら話に入ってくるはずの環だが、なぜか今日は大人しい。いや、今日はと言うかちょっと前からか。朝は元気があったし、里を出てくる時も普通だった。
 ……これはあれか。そんなにあの里を離れ難く思っていたのか。……もう少し滞在を伸ばしてもよかっただろうか?

「あ、いえ、そうじゃないの。……なんだか彰人と結婚したことを伝えると言うのは、少し恥ずかしいと言うか……その……」

 なんだそんな事……いや待った。今まで知り合いに会うことなんて考えてなかったからあれだけど、そう言われると、俺もすごく恥ずかしくなってきた……

「あなたはなんとも思わないの?」

 俺と環の二人は恥ずかしがっているというのに、それでも堂々としているイリンに環はそう尋ねた。

「確かに恥ずかしいという気持ちもあります。ですがそれ以上に、堂々とアキト様の隣にいることができるようになって嬉しいと言う気持ちが勝っているのです」

 ……そうはっきり言われると、嬉しいけどそれはそれで俺が恥ずかしいんだが……

「あなたもアキト様の隣にいるという覚悟をしたのならもっと堂々とすれば良いのです。……そうでないと、あなたの居場所も、奪ってしまいますよ?」
「む、舐めないで。そんなことは絶対にさせないんだから」

 イリンと環がそんな風に戯れていると、前方に何かが見えた。
 前方にだけ探知を広げて確認すると、どうやら生き物のようだ。これ以上詳しく調べるには意識が薄れるので、馬車を運転している今の状況では難しい。
 だが……

「……ん?」
「どうかされましたか?」

 俺の漏らした声に気がついたイリンが環との戯れを止めて俺の顔を覗き込む。

「ああイリン。いや、あっちに何かいる気がするんだけど、あれはわかるか?」

 イリンは神獣の力をウォルフに送ったとは言え、それは全部じゃない。残った神獣の力によって、イリンは以前よりも強化されていた。
 その力はどうやら身体強化の方に全部使われたようで相変わらず魔術の類は使えないが、それでも強化されている事実は変わらない。今のイリンならあの距離でも確認することができるかもしれない。たとえ今はわからなくても、もう少し近づけばわかるだろう。

「……あれは人ですね」

 そう思って頼んだのだが、本当に見えたようだ。なんかもう、すごいとしか言いようがないくらい進化してるなぁ。

 ……まあそれは良い。それよりも……

「魔物じゃないのか……」

 探知で感じた限りでは人とは違うように感じたんだけど……

「はい。地面につきそうなほどの髪を持つ女性です」

 だがイリンが言っている以上はそうなんだろう。

「このままいけばすれ違うけど、まあ人なら問題ないか」

 そうして少し違和感を感じながらも俺たちはそのまま前に進むことにした。
 だが地面につくほどの髪の女か……一応警戒はしておこう。
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