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イリンと神獣

345:出発前の一幕

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 突然聞こえたその声の方向を見ると、ソファに寄りかかりこちらに見ているケイノアがいた。

「え……おま、今のっ……! なんっ!?」 

 そういえばこいつはソファに倒れ込んでいたが、その存在はすっかりと意識の外になっていた。

「ねぇねぇ。これからどうするの? どうなっちゃうの? もしかして子供でも作るの?」
「ぶっ! お、お前何言って……!」
「私どうやって子供ができるのかわからないのよ。今まで父さんも母さんも教えてくれなかったし、誰に聞いてもはぐらかされるのよ。だからできれば見せてもらいたいな~、なんて思ったりするんだけど、どうかしら?」
「…………ど」
「ど?」
「ど……どうかしら、じゃねえよ!!」
「ひゃああああ!?」

 ケイノアは俺の大声に対して叫びをあげたが、叫びたいのはこっちの方だ! なんだよ子供を作るところを見せろって!?

「何よいきなり! なんでそんなに怒ってんのよ。私何か悪いことした? 私の何が悪いって言うのよ!? ちょっと子供を作るところを見せて欲しいって頼んだだけじゃない!」
「それがそれが悪いってんだよ!」

 見せられるわけないだろそんなもん!

「なんでよ! 繁栄のためには重要なことで、大切なことじゃない! 恥じるようなことじゃないでしょ?」

 ケイノアはそう言っているが、その様子からすると本当にわかっていないようだ。
 お前二百年は生きてんだからそれくらい知っとけよ!

 そう思ったが、そのことを口にするともれなく子供を作る方法まで教えなくてはならないような気がするので言えない。

「お姉さまとアンドーさん? どうされたのですか?」

 こいつをどうしようかと悩んでいると不意に玄関の扉が開き、ケイノアの妹であるシアリスがやってきた。

「あっ、シアリス! ちょうどいいところに来たわね!」
「あの、えっと何が……」
「あのね、さっきこの二人が目の前でキスしてたのよ!」
「え……それはその……」

 おいやめろ! そんな事、他人に話すんじゃねえよ!

 ほらみろ、シアリスだってなんて言っていいかわからない顔をしているじゃないか。
 ……というか、楽しそうに話しているケイノアと違って、シアリスは恥ずかしそうにしている。って事は、シアリスはわかってるのか?

「で、キスってあれでしょ? 子供を作る前段階の行為でしょ? だからこれから子供を作るのかなって思ってね。それで私どうやって子供ができるのか知らないからちょっと見せてもらおうと思ったのよ! それなのに、そのことを言っただけで怒鳴られたのよ! 酷いと思わない!?」
「酷いのはお前の頭だよ馬鹿野郎! どうしてこんな時だけ興味を持つんだよ!」
「何よもう! 知らないことを知りたいって思うのは当然でしょ!? 他のことはちょっと考えれば大抵どんなふうになってるかわかるけど、子供の作り方だけはどうなってうのかさっぱりわからないんだもの! 誰も教えてくれないし、興味を持ってもおかしくないでしょ!?」

 ケイノアはそう言って主張するが、それを聞いているシアリスの方は徐々にその顔を歪めていき、仕舞いには手で顔を覆ってしまった。

「あの、お姉さま。そ、そのくらいにしておいた方が……」

 そうして顔を覆ってしまったシアリスだが、覚悟を決めたのか顔から手を退けてケイノアに向きあった。
 だが、それでもやはり恥ずかしいのだろう。顔は赤くなり、言葉は所々つっかえてしまっている。

「でも私だっていつかは知らないといけない訳でしょ? 別に今だって構わないじゃない。ちょうどここには見本がいる訳だし。まあ確かに教えるのはちょっと面倒かもしれないけど、せっかくだし詳しく教えてもらいましょうよ。シアリスもいっしょに」

 妹をいっしょに誘うだなんて、なんてぶっ飛んだ奴なんだケイノアは……

 まあ冗談はさておき、知らないって怖いよな。知ってたらよほどのやつでない限り他人の子作りを見ようとしたり、ましてやそれに妹を誘ったりしない。
 俺はケイノアの話の対象が自分からシアリスに変わったことで、なんだか突然二人のやりとりを穏やかな気持ちで見ることができていた。というよりも、これは穏やかな気持ちで見ているんじゃなくて、諦めだな。
 ケイノアには何を言ったところで無駄。直接的な説明をしない限り止まらないだろうと頭が理解したのだろう。

「いえ、わ、私はその、良いです。それにお姉さまも………………後で、私が教えますので」
「え、いいの? でもシアリスが教えられるの? 流石に私だって男女が揃ってないと子供はできないって知ってるわよ? シアリスに結婚相手とかいたの?」
「う……いえ、いませんけど……」
「それじゃあ無理じゃな──」
「けど! ……概要くらいはお教えできますので、その、これ以上誰かに尋ねるのは控えてください……」
「うーん……教えてくれるって言うんならそれでいいけど、やっぱり実際に見たほうがわかりやす──」
「私がっ! 精一杯教えますのでっ! どうか大人しくしてくださいっ!!」
「え、あ、うん。シアリスがそんなに言うんなら、わかったわ」

 普段からあまり怒鳴ったりしないシアリスだが、そんな彼女が大きな声を出したことに驚いたのだろう。ケイノアはシアリスの勢いに押されて、ひとまずは諦めたようだ。

「……朝からお疲れ様」
「……いえ、こちらこそお姉さまが申し訳ありませんでした」

 この後どうするかとでも考えているのだろう。頭を押さえて悩んでいるシアリスと、そんな妹の姿を不思議そうに見ているケイノアの姿を見て俺はつい笑ってしまった。

 出発の日の朝だってのに、騒がしいのは変わらないな。



「俺たちはこれで行くとするよ」
「ケイノア、あまり問題は起こさないようにしてくださいね」
「戻って来る時にはお土産を持ってくるんで楽しみにしていてください」
「ほんとっ!? おみやげ期待してるわよ、タマキ!」
「お姉さまのことはお任せください」
「それじゃあ──いってきます」

 俺とイリンと環ちゃんの三人はケイノアとシアリスに見送られ、短くも長い間過ごした家を後にした。

 これから、俺たちの新たな冒険が始まっていくんだ! なんて言うと打ち切り漫画みたいだけど、状況的には間違ってないよな。旅立ちなわけだし。
 ま、とにかく楽しんで行こう。イリンと環ちゃんの二人といっしょに。
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