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王国との戦争

323:収納の使い方説明

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 結局ケイノアには新たに魔術具を作る費用の全額を出してやる事にした。俺の部屋だけでなく全ての部屋に効果が出るようにしてくれるって事だしな。

 まあ今回は俺に非がないわけでもない。それに話を聞いているとこいつはこいつで活躍したみたいだし、これくらいはいいだろう。

 ただ、こいつの所持金は全く残らなかった。それどころかマイナスになった。
 ケイノアは結界を作るときに計算して借金をしたと言っていたが、それでは不十分だった。確かに計算自体はあっていた。俺が報酬として渡す金額ピッタリの借金をして、材料やお菓子を買い漁ったのだ。
 だが、借金とは時間経過で増えるものであるそれはどこの世界でも同じであり、早い話が利子を忘れていたのだ。そのせいで借金を返し切ることができない。

しかも俺が帰ってきたらすぐに返せるからと、詳しい利子等の内容を確認することなく借りたせいで変なところから借りていたらしく、借金の利子はかなりの額になっていた。

「なんで全額出してくれないのよおおおお!」

 何か叫んでいるが、最初の契約通りの額は払ったんだから、まあ無視でいいだろう。頑張れば返せる額だからしっかり働け。

 そんなことよりも、環ちゃんに俺の使っている『収納』スキルについての説明がまだだ。

「さて。ちょっと横に逸れたけど話を戻そうか」

 俺はそう切り出すと隣に座っていた環ちゃんへと体を向ける。そのせいでイリンに背を向ける形になってしまい、イリンが俺の服を引っ張る力が少し強くなったが、可愛いのでよしとしよう。

「まず、俺が使えるスキルだけど、俺は『収納』しか使えないよ」
「えっ、でも『対抗魔術』は……」
「それは……まあ、有り体にいえば嘘だ」
「嘘、ですか……」
「そう。俺がやっていることは全て収納の応用だ」
「でも魔法を消したりしてましたよね?」
「ああ。でもそれも収納の能力だ。……環ちゃんは収納の発動条件はわかるかい?」
「無生物である事。それと自分が触っている事、ですよね?」

 これは環ちゃんも実際に使っているからすぐにわかったようで即座に答えた。

 だがそれは正解ではあるが、彼女は自身の言った言葉の本当の意味を理解していないだろう。

 俺は目の前に置かれていた飲みかけのカップを手に取る。

「じゃあ例えばこれ。このカップの中には飲み物が入っているけど、これを収納したら中の飲み物どうなる?」
「えっと、一緒に収納されますよね?」
「直接触っていないのにかい?」
「え? ……あ。そういえば……でもなんで……?」

 俺が言った言葉に不思議そうにしている環ちゃん。誰かに言われる事でやっとおかしいと思ったようだ。
 まあ俺もほかにスキルを持ってたら「収納? まあそんなもんか」みたいな感じになって深く調べようとしなかったかもしれないし、おかしいってわけでもないか。

「わかりやすくいえば、『収納』スキルっていうのは、スキルの使用者が『触ったと認識したもの』を出し入れすることのできる能力だ。だからこのカップも、『カップ』と『飲み物』って認識するんじゃなくて、『飲み物の入ったカップ』と認識することで直接触らなくても収納できるんだ。まあこの辺は君たちも意識しないで使ってたけど」
「触ったと認識したもの、ですか」
「そう。認識できていればそこに制限はなく、生き物以外ならなんでもしまうことができる。だからそれを応用すれば魔術だったとしても収納することができるんだ。前に君達にスキルを偽って見せたのはこれのおかげだ」

 俺は以前に収納したことのある灯りの魔術を取り出して環ちゃんに見せる。

「そして、こんなこともできる」

 出した灯りの魔術をもう一度収納して、今度は直径三十cmくらいの木片を取り出す。
 俺は取り出した木片をテーブルの上、さっきまで俺が持っていたカップの隣に置き、そしてその木片に触れながらカップの形が残るように収納を発動した。
 すると、今までそこにあった無骨な木片は消え去り、代わりに隣にあるカップそっくりになった木の彫刻が置かれていた。

「……すごい」
「これが『収納』の応用だ。と認識すればなんでも、どんな形でも収納することができる」

 そう言いながらもう一つ木片を取り出し、今度は目の前でシアリスに介護されてソファーに寝転んでいるケイノアの形に収納し、そしてできた彫刻をテーブルの上に置いた。……彫刻のタイトルは『眠れる美女』とかか? 見た目が美少女であるのは間違っていないし。……でも元になった奴を知ってると名前負けしてるように感じるな。

「環ちゃんもやってみるといい。今はこんな感じで彫刻作りみたいになってるけど、地面に触りながらやれば地下通路なんかも作ることができるし、覚えると便利だと思うよ」
「はい! ……あれ?」
「どうかしたかい?」

 いざ始めようとしたのだが、何か問題でもあったのか環ちゃんは首を傾げた。

「あ、えっと、私収納の中に必要なものしかしまってなくって……。倒した魔物とかはしまってあるんですけど、それはダメですよね?」

 魔物の死体は流石にダメだろう。できないってわけじゃ無いけど、部屋も自分も汚れるし見た目が悪い。そもそもやりたくない。肉のオブジェとか……そんなもの見たくない。

「あ、あはは。それは流石にね……俺は色々しまってるからあげるよ。収納は無限にしまえるんだから無駄だと思えるものでも色々しまっておくと便利だよ」
「え?」
「え?」

 何がおかしかったのか環ちゃんは疑問の声を漏らしたが、それに釣られて俺も同じように声を出してしまった。

 その後俺と環ちゃんは数秒見つめあった後、環ちゃんの方から口を開いた。

「……収納魔術よりもいっぱい入りますけど、制限はありますよね?」
「制限? 俺は今まで限界を感じたことないけど?」
「「……」」

 だが俺たちはそこで再び黙り込んでしまう事となった。

 収納に限界なんてあったのか? でも俺は今まで限界なんて感じたことがないぞ?
 環ちゃんの方がたくさん荷物をしまっているってことは……多分無いだろう。
 だって俺は家だとか木だとかしまっているのに限界が来ないんだ。もし環ちゃんが限界まで収納しているんだったら木片の一つでも持っているはずだろう。木片でなくても何かしらの代わりになるものはあったはずだ。
 それが無いってことは、彼女は俺のように余分なものをしまっていないということになる。

 だというのに、収納の容量に限界を感じた? 俺と環ちゃんでは収納の容量が違うのか?

「……まあ、今はとりあえず練習してみようか」
「そうですね」

 だがそうして試し始めた環ちゃんだが、その手の中にある木片は普通に収納されてしまった。そして再び取り出したのだが、またもいつもどおりに収納してしまう。

 ……初めてだから苦戦しているのか? いきなり今までとは違う使い方をしろって言っても難しいかな?

 そんなことを何度か繰り返していたのだが、そう時間が経たないうちに環ちゃんは疑問の声を上げた。

「……ふう。これすごく難しいですね」

 難しいか? 最初にこの応用を思いついてやったときにもそれほど苦労はしなかった。強いていうのなら収納する際の形を把握するのが大変だったくらいか?

「当然でしょ。そんなのそうそうできるバカはいないわよ」

 ソファーに寄りかかってだらけながら菓子を食べていたケイノアが突然そう言った。
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