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王国との戦争

291:大結界

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 敵の軍に降り注ぐ炎。そしてそれが弾け炎の波が蹂躙する様を見ていた俺は、ハッととある事に気がついた。

「海斗君、桜ちゃん!」

 敵の軍が飲み込まれたということは、それはすなわち敵軍に撤退していった二人もまた、あの炎の波に飲まれたということだ。

 勇者であるあの子たちならたかが炎程度ならなんとかなるのかもしれないけど、だから大丈夫だ、なんて放っておくことはできなかった。

 二人を助けなければと思い、俺は魔術と魔術具を用いて身体能力の強化を施して走りだした。

 だが、その足は前方に整列していた味方の軍の途中まで行ったところで止まってしまう。

 別に途中で助ける気がなくなったとか、誰かが俺の行く手を阻んでいるとかじゃない。
 そうじゃなくて、視線の先にある光景に目を奪われたからだ。

 視線の先──炎が波となって敵軍を蹂躙していきどんどん人が倒れて行く中で、強化された視力が一ヶ所だけ、人が倒れずに生き残っている場所を捉えた。

 それを表すのであれば聖域という言葉が正しいだろうか。そこは光り輝くドームに覆われ、一欠片の火の粉すら通す事はなかった。

 炎の中にあって尚、光を放ちその存在を主張しているそれは、今までに何度も見たことがあり、つい昨日も見たそれに似ている。
 だが、似ているだけであって今視線の先にあるソレは、俺の見たことがあるどれよりも神々しく輝いている。

 それは周りにいる人が焼け死んでいくという地獄のような光景の中にあるからそう感じるのかもしれないが、炎の中で人々を守るそれは、とても綺麗だった。

 そうして次第に炎は収まっていき、遂には完全に炎が消えると、そこには敵軍のおよそ半数程度が無傷の状態で残っていた。

「な、なんだ、アレは……!」

 側にいた兵からそんな言葉が漏れ、それを聞いて俺はハッと意識を取り戻す。

「桜ちゃん……」

 そう呟いて、俺は先ほどの桜ちゃんがやったと思われる結界について考える。

 半分は炎でやられたとはいえ、それでも半分は守ったのだ。
 数万もいた兵士。その半分なのだから、当然ながらそれもまた万を超えている。
 それだけの人数を守るほどの結界を作り出すなど、いくら勇者とてかなりの無茶をしなくてはできないだろう。

 もしかしたら魔力が枯渇しても尚、限界を超えてまで絞り出したのかもしれない。

 その状態は奇しくも先ほどの炎を放った姫様と同じだった。

「お、おい。これってどうすんだ?」
「どうって……俺たちより少なくはなってっけど、それでもまだ結構いるな……」

 敵の残りの数を確認すると、なんとなくだがこちらの方が多いように思える。
 半数となってようやくこちらの兵数と同程度まで落ちたのか。その事から、王国がどれだけ今回の戦争に力を入れたのかがわかるな。

 だが、その戦争もこれで終わりだろう。
 輝いていた桜ちゃんの結界が、スッと溶けるように消えていき、その中にいたおかげで生き残った王国の兵達は撤退を始めている。

 だがこちらはすぐに追う事はできないだろう。なにせこちらは多数で少数を蹂躙する殲滅戦を想定していたし、準備もそれに適したものだ。
 だが、このまま突っ込んでいけば蹂躙ではなく普通の戦いになる。必死で生き残ろうと戦う者と、心構えのできていなかった者。戦うとなれば、自力の差のおかげで多少は普通の戦いよりは有利に進むかもしれないが、それでも被害は免れないだろう。

 どうすればいいのかわからない兵達は、予定と違うのだから動かずにいるべきだという者と、予定通りに突撃するべきではないかという者でわかれそこら中でザワザワと話し合われている。

「うおおおおおお! 聴けえええええい!」

 だが、そんなざわめきをかき消すかのように腹の底に響くような声が響き渡った。
 室内ではないというのに不思議とハッキリと聞こえたその声は、どうやら前方から聞こえてきたようで全員が話し合いをやめてそちらの方向を向いた。

 軍の前に立ち叫ぶのは、今回の軍を任された総指揮官であるティーガーだった。

「貴様ら何を惚けている! 想定よりも敵の数は多い。だが、それがどうした! 姫様が未だに治りきらぬ体に無理をさせてまで敵の数を減らしてくださった。おかげでこの国は守られた。だが、全てを姫様に任せ、守られたままでいいのか? 守るはずの姫様に守られるだけでここで戦わずして、貴様らは誇ることができるのか!? 我らは何のためにここにいる! 守られるためではない。守るためにこそここに立っているのだ! 今こそ戦う時! 我らの誇りを見せつけろ!」

 ティーガーの言葉を聞いた先程まで迷い戸惑っていた者達。
 彼らからは、どうすればいいのかなどという迷いは消え去り、今では獰猛に口元を歪めて瞳をギラギラと輝かせている。

「全軍──突撃イイイイイイ!!」
「「「ウオオオオオオオォォォ!!」」」

 ティーガー総指揮官の合図とともに、兵達は雄叫びをあげながら突き進んでいった。
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