上 下
163 / 499
獣人国での冬

225ー裏:ケイノア

しおりを挟む
「ふふ~ん! これなら楽勝ね! ここで一気に稼ぐわよー!」

 目の前の森から勢いよく走ってくる犬型の魔物を見つめ、今日もやってやると気合を入れる。

「あんた達! 目を閉じて耳を塞ぎなさい! いくわよー!」

私は冒険者達に命令すると、魔術を準備していく。もう何回もやった事だから、最初みたいに冒険者達を眠らせたりはしないわ!

「えーい! 眠れー!!」

 そう言って前に伸ばした手から光の球を発射する。発射した球が魔物達の前に辿り着くと、球ははじけて辺りに音と光を撒き散らす。
 炎系の魔術みたいに派手さはないけど、これで終わり。正面にはこっちに向かってきていた魔物達が走ってきていた勢いのままに転んでるのが見える。
 それを何回か繰り返すと、視界の中に動く魔物はいなくなった。

「よっし! さあ、あんた達! あとは任せたわよー!」

 私の仕事は今ので終わり。周りにいた他の冒険者達にそれだけ言うと、いつもみたいにギルドから来た職員のところに行く。

「お疲れ様です。今回もありがとうございます」
「アレぐらいどうって事ないわ。次も任せなさい!」

ちょっと眠くなる程度で、ほとんど疲れとかないからいくらでも来いって感じよね。倒す度に報酬が出るんだから、私にはもうあの魔物達がお金にしか見えないわ。

「じゃあ私は寝てるから、後はよろしくー」

 そう言うと、用意された一人用のテントの中に入って布団の上に横になる。

「いやー、それにしても今回の依頼は楽でいいわねー。強いて言うなら娯楽がない事だけど、まあどうせ数日だけだし、その程度でだいぶ稼げるんだからいっかな」


「おはよ~……」
「あっ、おはようございます今日の分はまだ大丈夫です」
「そう? なら寝てるから必要になったら呼んでちょうだい」

 まだ寝るんですか、なんて聞こえたけど気にしない。だって寝るのは私の生きがいだもの。

 このまま適当に寝て起きて、魔術を使ってまた寝る。そんな事を繰り返してればそのうち終わるでしょ、楽なものよね。
 ただ、ちょっと気になるのは魔物の数が聞いてたよりも多いって事ね。予定では昨日には街に帰れたはずなんだけど、現実はまだここにいる。これから面倒な事が起こらなければいいんだけど……

 ま、面倒ごとなんてそうそう起こるものでもないし、大丈夫でしょ。



「眠れー!!」

 今回も数回の魔術を使って終わり。

「はいお疲れ様~。後はよろし……」
「魔物だ!!」

 でも、予想とは違ってそうはならなかった。
 眠らせて冒険者達が止めを刺したはずの魔物が起き上がって再び襲い始めた。

「なっ、なんで!?」

 なんとか倒したみたいだけど、森の奥から更に追加で魔物の群れがやってきた。
 でもどうにもおかしい。普通は魔物といえど同じ種族同士でしか活動しないはずなのに、やってくる魔物は複数の種族が混じってる。こんなことはどう考えてもおかしい。
 それに、なんだかわからないけど、魔物達から嫌な気配がする。

「ケイノアさん、おねがしいます!」
「わ、分かったわ!」

 よくわからないけど、考えるのは後。今は向かってくる魔物をなんとかしないと!

 私は魔術の使って眠くなった頭を振り、魔術を起動する。

「あんた達! いくわよ!」

 私はそう言っていつものように眠りの魔術を放った。
 ──でも……

「な、なんで……!?」
「ケ、ケイノアさん。何が!?」
「わからないわよ! 今までこんなことなかったもの!」

 そうこうしているうちに前に並んだ冒険者達のところまで魔物がやってきてしまった。

「チッ! おめえら構えろ! 元々魔物と戦うのは予定通りなんだ。いくぞ!」



「ぐうっ! こいつら止まらねえぞ!?」
「クソッ、さっさと死ねよ!」
「追加がきやがった! 奴らアンデットだ!」

 どこかの冒険者の言葉を受けて森を見てみると、そこからは体の一部が腐ったような見た目の魔物や、全身が骨でできた魔物がやってきた。

 アンデット。知識としては知っている。けどエルフの森には結界が張られてて、アンデットは発生しないから実際に会ったことはないから分からなかった。
 けどこれで私の魔術が効かなかった理由がわかった。
 私の魔術は生物を眠らせるもので、すでに死んでるアンデットには意味がないんだって。

「はあ……面倒ね。楽に稼げると思ったのになぁ~」

 私はそう零しながらアンデッドにも効果のある普通の魔術を放ち始めた。



「ああー、疲れた。眠い……けど、まだまだいるのよね……」

 もうかなりの数のアンデットを倒したけど、今まで出てきた数の半分くらいは私が倒したんじゃないかしらね?

 他の冒険者にも頑張って倒せって言いたいけど、それは仕方がない事だって分かってる。アンデットには特殊な魔術を使わないと何度でも蘇るから。
 一応身体をバラバラにしちゃえば動けなくなるみたいだけど、戦いの最中にそこまでやるのは難しいことぐらい私にだってわかる。

「そろそろ終わってくれないかしらね」

 こんな風になったのは昨日の夕方で、今は徹夜の目には刺激の強い光を撒き散らすだけの役立たずな太陽が昇ってる朝だから、戦い始めてから半日は経ってる事になる。
 アンデットなんだから朝日で死ぬって思ってたんだけど、どういうわけか目の前のこいつらは死なない。全くどうなってるのかしらね。この私が働いてるんだから太陽ももう少し仕事しなさいよ。徹夜なんて生涯で初めてしたわよ。

 アンデットと戦う前に眠りの魔術を使った事と徹夜と、それから魔力の使いすぎたことで私はかなりの眠気を感じてる。正直言って、今こうして戦ってるのどころか、起きてる事さえ億劫なほどに。

 もうベッドに横になって寝たい。最低でも一年は寝ていたいわね。ああでも、ここは森の外だし、そんなには寝れないかしら? お菓子も食べたいし、寝てるのは一週間くらいかしらね。

 そんな戦闘に関係のない事をダラダラと考えながら魔法を放ち続ける。

 ……シアリスがいてくれたら、もう少し楽になるんだけどなぁ。

 妹は私よりも魔術の扱いが上手い。そりゃあ、戦えば私の方が勝つけど、こいつらみたいに眠りのきかないヤツが相手なら、シアリスの方が適任なのはたしか。

「お姉様っ!!」

 ここにいない妹のことを考えてると、どこからか声が聞こえた。
 えっ? と思って声の下後ろを見ると、そこにはこっちに向かって飛んでくるシアリスがいた。

「御無事で何よりです、お姉様。後はお任せください」

 そう言ってシアリスは私の前にでて敵を見据えた。
 けど──

「大丈夫よ。まだやれるわ」
「ですが……」
「心配しないでよ。自分の限界くらいわかってるわ」

 妹に守られてるだけだなんて、私のプライドが認めない。

 ──だって、私はシアリスのお姉ちゃんだから。



 それからしばらく二人で魔術を使って、戦ってる冒険者を援護しながらアンデットの数を減らしてたんだけど、そろそろ本格的にやばいかな~、なんて思っていると黒い何かが敵の頭上に広がっていた。

「あれは……?」
「……空間系の魔術?」

 広がった黒い何かは多分空間に干渉する系統の魔術だと思う。それが敵を叩き潰すように勢い良く落ちた。
 アンデットと戦ってた冒険者達も巻き込まれて、勢い良く地面に向かって弾かれてたけど、当のアンデット達は弾かれずに黒い何かに呑まれてた。

 一瞬後に、冒険者を地面に叩きつけアンデットを飲み込んだ黒いのは、フッと空気に溶けるように消えてなくなった。

 ……なにあれ……今のって、もしかして……

「あー、生きてるな」

 そこで私たちの背後から、最近聴き慣れた男の声が聞こえた。

「アキト? ……今のはあなたがやったの?」
「ああ。後はこっちでやるから寝てても構わないぞ?」
「……そ。なら私は寝させてもらうわね。後よろしく」
「お、お姉様! よろしいのですか!?」
「大丈夫よ。後はアイツに任せておきなさい」

 #__あんなこと__・#が出来るなら心配なんて必要がない。対アンデット用の魔術なんかよりもよっぽど安心できる。正直しんじられないくらいあり得ない事だけど、実際にできてるんだったらそういう事なんでしょう。

 だから私はアキトに後を任せて素直に寝る事にした。

 ……はあ、今日は散々な1日だったわね。
しおりを挟む
感想 314

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

【創造魔法】を覚えて、万能で最強になりました。 クラスから追放した奴らは、そこらへんの草でも食ってろ!

久乃川あずき(桑野和明)
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ『面白スキル賞』受賞しました。 2022年9月20日より、コミカライズ連載開始です(アルファポリスのサイトで読めます) 単行本は現在2巻まで出ています。 高校二年の水沢優樹は、不思議な地震に巻き込まれ、クラスメイト三十五人といっしょに異世界に転移してしまう。 三ヶ月後、ケガをした優樹は、クラスメイトから役立たずと言われて追放される。 絶望的な状況だったが、ふとしたきっかけで、【創造魔法】が使えるようになる。 【創造魔法】は素材さえあれば、どんなものでも作ることができる究極の魔法で、優樹は幼馴染みの由那と快適な暮らしを始める。 一方、優樹を追放したクラスメイトたちは、木の実や野草を食べて、ぎりぎりの生活をしていた。優樹が元の世界の食べ物を魔法で作れることを知り、追放を撤回しようとするが、その判断は遅かった。 優樹は自分を追放したクラスメイトたちを助ける気などなくなっていた。 あいつらは、そこらへんの草でも食ってればいいんだ。 異世界で活躍する優樹と悲惨な展開になるクラスメイトたちの物語です。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。