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獣人国での冬
222:魔力溜まりの討伐依頼
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ケイノアが今までイリンに向かっていた体を俺の方に向けて、金が欲しいと土下座をしてきた。
まあその言い分も分かる。このまま装備が溶けた状態じゃまともに依頼なんてできないだろう。
冒険者の中には借金して装備を揃えて依頼をこなし、そして借金を返して次の依頼のためにまた借金。というループに嵌るものもいるのでケイノアの言ってる事はそれほどおかしい事じゃない。
一度失敗すれば終わりという危険な生活がいつまで続けられるのかという問題はあるが、冒険者の中ではそう珍しいことではない。
一番の問題があるとすれば、こいつはすでに借金をしているって事だな。それも馬鹿みたいな額の借金だ。
「一応聞くけど、お前もう借金してんのわかってる?」
「でも、お金がないと何も出来ないのよ! 装備も揃えることも、お菓子を買う事も、屋台巡りをする事も、教会で寄付して子供達と遊ぶ事も! 全部できないのよ!」
……目的の半分が金稼ぎに関係ない事なんだが?
とりあえず装備はいいとして、菓子や買い食いは諦めろよ。というか教会の寄付ってなんだ。そんなことする余裕なんてお前にはないだろ。
「まあいい。まともに働いてるみたいだしな。今回のは事故だったってことで金は貸してやる」
恩もあるし、このまま俺以外から借金してまたなんか問題を起こしてその解決に手間がかかるよりはよっぽどいい。
「本当!? ありがとう!」
「但し、しっかりと働けよ? 後、これからは依頼中は気を付けろ。今回みたいなミスはするなよ」
「そんなに言われなくてもわかってるわよ。任せなさい!」
任せられないからわざわざ言ってるんだが?
まあやる気はあるみたいだし、良しとするか。
「アキトー。私明後日からしばらく留守にするからー」
装備を買うために金を渡してからしばらく経ったある日、あれ以来失敗をしないでやってこれたケイノアは突然そんな事を言った。
「お姉様、どこかに行かれるのですか?」
「うん。ちょっと依頼でね。最大で一週間ぐらいになるみたいだけど、もしかしたらもっと延びるかも」
「期間が決まってないのか? どんな依頼だ?」
普通は遠出するにしても期間が決まっている。なにせ依頼を受ける側でもその日数如何で食べ物や消耗品等、装備が変わってくるのだから。
「魔物討伐ね。ここからそんに遠くない場所にある森に、まとまった数の冒険者を送るみたいね」
ここね、といいながらケイノアは地図を出してその場所を指し示したが、俺はその場所に行ったことも調べたこともないので、言われても何があるのか分からない。
「ああ、この時期ですと、いつものですか」
だが、ケイノアが受けた依頼がどんなものなのか、シアリスには理解できたようだ。
「いつものって事は毎年あるのか?」
「ええ。お姉様の仰った森にはこの時期限定で魔力溜まりが発生するのです。それによって凶暴化した魔物が街に来ないように、毎年間引きを行なっているのですよ」
魔力溜まりというのはなんらかの影響で一箇所に魔力が集まってしまう特異地点のことだ。その魔力溜まりで力を得た動物が魔物化したり、魔物が更なる力を得たりという現象が起こるが、利用できればそれなりに便利なものだ。実際に、運良く魔力溜まりの場所を見つけた者は、その情報を売って大金を得たり、その場所に街を作ったりと活用している。
「へぇ、でも魔力溜まりなんて時期でできるものなのか? それにわざわざ毎年間引きを行うんならその場所に村でも街でも作った方が良くないか?」」
「魔力は空気中にも含まれていますからね。気候の変化でできる事は時折あります。そして村のことですが、あの場所は立地が悪く、周辺との交通の便が悪いのです。魔力溜まりも季節限定であって恒常的に使えるものではありませんし。であれば、監視を置き、魔力溜まりが観測されたら冒険者を送って間引く、という方が安上がりになるのですよ」
防衛に費用をかけるぐらいなら、この時期限定のイベントとした方が効率がいいということか。
「加えて、冬の間は活動する魔物の数が減るので必然的に冒険者の依頼が減ります。そのせいでたまった鬱憤を晴らすためと、お金のない冒険者への救済という面もありますね」
なるほど。これは素直に納得できた。暴れられる機会が減ってストレス溜まりそうな奴らが多いもんな。
それに、この国は雪国ではないと言っても、降る時はそれなりに雪が降る。寒くなれば冬眠する魔物も出てくるし、そうなれば必然的に依頼が少なくなる。
依頼が減れば収入も減る。そして暴れる機会も減りストレスがたまる。それを晴らすために金を使いまくって破産する奴が出てくる。
で、この依頼はその破産したやつ、破産しそうなやつの救済措置も兼ねてると。といういうわけか。
「ただ、依頼自体は簡単なのですが、魔力溜まりが枯れるまでなので敵の数が多く、終わるまで時間がかかります。そのため討伐だけではなく、後方支援のためにも冒険者が雇われるのです」
「因みにケイノアは討伐と支援どっちだ?」
「もちろん討伐よ! そっちの方が払いがいいもの!」
だと思ったよ。お前に後方支援なんてできそうにないもんな。
……いや、イリンが色々教えてた、というか仕込んでたし、意外とできるのか? 回復とか防御とかの魔術もできるはずだ。使ってるの見たことないけど。
「まあ所詮は森の生き物の強化でしかないので強い魔物は出ませんし、出ると分かっていれば対策も取れますからね。お姉様であれば魔術を使えば楽に終わるでしょう。お姉様が眠らせて他の冒険者の方が狩る。それでおしまいです」
シアリスは簡単そうに言うが、俺はそこに一つの問題を思いついた。
「だが、ケイノアは眠りの魔術を使うと自身も眠くなるんだろ? そんな状態で魔物や他の冒険者に襲われるんじゃないか?」
戦闘中は大丈夫でも、休憩時に寝てしまい他に参加するオツムの足りない系冒険者に襲われる可能性だってある。こいつは中身はちょっとアレだけど、見た目だけなら美少女だし。
「眠気が来ても、あらかじめギルドの人に言っておけば対応してくれるでしょう。傷の少ない魔物の素材が取れるのですからギルドの利益にもなります。ですのでギルドとしても、他の冒険者達に何か事件を起こされてお姉様を手放したくはないでしょう」
冒険者は魔物を狩りその素材を売るが、戦うのだから当然ではあるが傷一つなく、とはいかない。折角素材を回収したところで、毛皮などがボロボロになっていれば意味がない。
その点ケイノアであれば眠らせるだけなので、寝ている間に殺せば最も素材が高値で売れる倒し方をすることができるはずだ。
そういう意味で言うのなら、ギルドとしてはケイノアは『いい冒険者』だろうな。
「とはいえ、戦闘では余力は残し、眠るときには必ず結界を張ってくださいね? よほどの愚か者がいないとも限りませんから」
「わかってるわ。そんなに言わなくても大丈夫よ!」
シアリスの言葉に威勢よく答えるケイノア。だが、それが大丈夫だとは安心できないのは俺だけだろうか?
なんか問題を起こしそうなんだよなぁ。味方ごと眠らせてピンチになるとか……
そしてそれは妹であるシアリスも同じように思ったようだ。
「……本当に気をつけてくださいね?」
「大丈夫だってば! 心配性ね、シアリスは」
普段の行いのせいだろう。俺だって本当に大丈夫なのかと思うし。
……心配だなぁ。
まあその言い分も分かる。このまま装備が溶けた状態じゃまともに依頼なんてできないだろう。
冒険者の中には借金して装備を揃えて依頼をこなし、そして借金を返して次の依頼のためにまた借金。というループに嵌るものもいるのでケイノアの言ってる事はそれほどおかしい事じゃない。
一度失敗すれば終わりという危険な生活がいつまで続けられるのかという問題はあるが、冒険者の中ではそう珍しいことではない。
一番の問題があるとすれば、こいつはすでに借金をしているって事だな。それも馬鹿みたいな額の借金だ。
「一応聞くけど、お前もう借金してんのわかってる?」
「でも、お金がないと何も出来ないのよ! 装備も揃えることも、お菓子を買う事も、屋台巡りをする事も、教会で寄付して子供達と遊ぶ事も! 全部できないのよ!」
……目的の半分が金稼ぎに関係ない事なんだが?
とりあえず装備はいいとして、菓子や買い食いは諦めろよ。というか教会の寄付ってなんだ。そんなことする余裕なんてお前にはないだろ。
「まあいい。まともに働いてるみたいだしな。今回のは事故だったってことで金は貸してやる」
恩もあるし、このまま俺以外から借金してまたなんか問題を起こしてその解決に手間がかかるよりはよっぽどいい。
「本当!? ありがとう!」
「但し、しっかりと働けよ? 後、これからは依頼中は気を付けろ。今回みたいなミスはするなよ」
「そんなに言われなくてもわかってるわよ。任せなさい!」
任せられないからわざわざ言ってるんだが?
まあやる気はあるみたいだし、良しとするか。
「アキトー。私明後日からしばらく留守にするからー」
装備を買うために金を渡してからしばらく経ったある日、あれ以来失敗をしないでやってこれたケイノアは突然そんな事を言った。
「お姉様、どこかに行かれるのですか?」
「うん。ちょっと依頼でね。最大で一週間ぐらいになるみたいだけど、もしかしたらもっと延びるかも」
「期間が決まってないのか? どんな依頼だ?」
普通は遠出するにしても期間が決まっている。なにせ依頼を受ける側でもその日数如何で食べ物や消耗品等、装備が変わってくるのだから。
「魔物討伐ね。ここからそんに遠くない場所にある森に、まとまった数の冒険者を送るみたいね」
ここね、といいながらケイノアは地図を出してその場所を指し示したが、俺はその場所に行ったことも調べたこともないので、言われても何があるのか分からない。
「ああ、この時期ですと、いつものですか」
だが、ケイノアが受けた依頼がどんなものなのか、シアリスには理解できたようだ。
「いつものって事は毎年あるのか?」
「ええ。お姉様の仰った森にはこの時期限定で魔力溜まりが発生するのです。それによって凶暴化した魔物が街に来ないように、毎年間引きを行なっているのですよ」
魔力溜まりというのはなんらかの影響で一箇所に魔力が集まってしまう特異地点のことだ。その魔力溜まりで力を得た動物が魔物化したり、魔物が更なる力を得たりという現象が起こるが、利用できればそれなりに便利なものだ。実際に、運良く魔力溜まりの場所を見つけた者は、その情報を売って大金を得たり、その場所に街を作ったりと活用している。
「へぇ、でも魔力溜まりなんて時期でできるものなのか? それにわざわざ毎年間引きを行うんならその場所に村でも街でも作った方が良くないか?」」
「魔力は空気中にも含まれていますからね。気候の変化でできる事は時折あります。そして村のことですが、あの場所は立地が悪く、周辺との交通の便が悪いのです。魔力溜まりも季節限定であって恒常的に使えるものではありませんし。であれば、監視を置き、魔力溜まりが観測されたら冒険者を送って間引く、という方が安上がりになるのですよ」
防衛に費用をかけるぐらいなら、この時期限定のイベントとした方が効率がいいということか。
「加えて、冬の間は活動する魔物の数が減るので必然的に冒険者の依頼が減ります。そのせいでたまった鬱憤を晴らすためと、お金のない冒険者への救済という面もありますね」
なるほど。これは素直に納得できた。暴れられる機会が減ってストレス溜まりそうな奴らが多いもんな。
それに、この国は雪国ではないと言っても、降る時はそれなりに雪が降る。寒くなれば冬眠する魔物も出てくるし、そうなれば必然的に依頼が少なくなる。
依頼が減れば収入も減る。そして暴れる機会も減りストレスがたまる。それを晴らすために金を使いまくって破産する奴が出てくる。
で、この依頼はその破産したやつ、破産しそうなやつの救済措置も兼ねてると。といういうわけか。
「ただ、依頼自体は簡単なのですが、魔力溜まりが枯れるまでなので敵の数が多く、終わるまで時間がかかります。そのため討伐だけではなく、後方支援のためにも冒険者が雇われるのです」
「因みにケイノアは討伐と支援どっちだ?」
「もちろん討伐よ! そっちの方が払いがいいもの!」
だと思ったよ。お前に後方支援なんてできそうにないもんな。
……いや、イリンが色々教えてた、というか仕込んでたし、意外とできるのか? 回復とか防御とかの魔術もできるはずだ。使ってるの見たことないけど。
「まあ所詮は森の生き物の強化でしかないので強い魔物は出ませんし、出ると分かっていれば対策も取れますからね。お姉様であれば魔術を使えば楽に終わるでしょう。お姉様が眠らせて他の冒険者の方が狩る。それでおしまいです」
シアリスは簡単そうに言うが、俺はそこに一つの問題を思いついた。
「だが、ケイノアは眠りの魔術を使うと自身も眠くなるんだろ? そんな状態で魔物や他の冒険者に襲われるんじゃないか?」
戦闘中は大丈夫でも、休憩時に寝てしまい他に参加するオツムの足りない系冒険者に襲われる可能性だってある。こいつは中身はちょっとアレだけど、見た目だけなら美少女だし。
「眠気が来ても、あらかじめギルドの人に言っておけば対応してくれるでしょう。傷の少ない魔物の素材が取れるのですからギルドの利益にもなります。ですのでギルドとしても、他の冒険者達に何か事件を起こされてお姉様を手放したくはないでしょう」
冒険者は魔物を狩りその素材を売るが、戦うのだから当然ではあるが傷一つなく、とはいかない。折角素材を回収したところで、毛皮などがボロボロになっていれば意味がない。
その点ケイノアであれば眠らせるだけなので、寝ている間に殺せば最も素材が高値で売れる倒し方をすることができるはずだ。
そういう意味で言うのなら、ギルドとしてはケイノアは『いい冒険者』だろうな。
「とはいえ、戦闘では余力は残し、眠るときには必ず結界を張ってくださいね? よほどの愚か者がいないとも限りませんから」
「わかってるわ。そんなに言わなくても大丈夫よ!」
シアリスの言葉に威勢よく答えるケイノア。だが、それが大丈夫だとは安心できないのは俺だけだろうか?
なんか問題を起こしそうなんだよなぁ。味方ごと眠らせてピンチになるとか……
そしてそれは妹であるシアリスも同じように思ったようだ。
「……本当に気をつけてくださいね?」
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