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獣人国での冬
208:シアリスとの会談、終了
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「──あっ、そうだ。ねえねえ、なんでシアリスがいるの?」
……こいつは何を言ってるんだ? お前を探して来たって最初に言ってただろうが。さっき話してたことも忘れたのか?
「……それは森の外に、という意味でよろしいですか?」
「もちろんよ。それ以外にないでしょ?」
ああそっち。シアリスが俺の家にいる事に対してじゃなくて、そもそもエルフ達の森の外にいる事に対しての疑問か。
「私は少し前にこちらに来ました。お姉様がこちらに来る……十年ほど前でしょうか?」
シアリスはそう言ったが、十年は『少し』なんかじゃないと思う。
「そうだったの? ……あっ、だから私が起こされた時にいなかったのね」
「はい。本来であれば真っ先にお姉さまの元に向かったのですが、今回はお父様とお母様が無理に起こしてしまったので戻れませんでした」
「いいわよ、そんなの。で、なんで外に出て来たの? 私みたいに無理やりってわけじゃないでしょ?」
「はい。百年ほど社会見学でも、と思いまして。何かあった時に外を知っているのと知らないのでは違いますから」
『少し前』が十年前で、社会見学が百年か。やっぱりエルフの時間感覚は俺たちと違うな。
「ほえ~。シアリスはやっぱり凄いわね~。私はそんなこと考えたこともなかったわ」
「ありがとうございます」
シアリスはケイノアの言葉に照れたようにはにかんでいる。姉に褒められたのが嬉しいんだろう。
姉も妹も、お互いのことを大事にしてるいい姉妹だな。
「それにしても、こうしてお姉様と再びお会いできてよかったです。お姉様が宿からいなくなられた時は焦りました。所用で数日ほど街の外に出て、戻ってみたら宿からいなくなっていたのですから」
ああ、働かないせいで両親に家から追い出された姉を見守っていたのに、少し目を離した間に行方知れずになったのか。そりゃ心配もするだろうな。
その心配は俺がケイノアを回収した事で解決したのだが、俺としては一つ聞いておきたい事があった。
「その所用というのはもう終わったのですか? またこの街から離れる事が前もってわかっていると有り難いのですが……」
シアリスがいるかいないかで、今後ケイノアが何かした時に、もしくは何かあった時の対処法が違ってくる。できればシアリスがどこにいるのかは把握しておきたい。少なくともこの街にいるかどうかくらいはしておくべきだと思う。
なので、俺はそう言いながらチラリとケイノアの事を見ると、シアリスも俺の言いたい事を理解したようで頷いた。
「ええ、その件は終わりました。……ですが、そのうちまたここを離れることはあると思います。仕事がありますので」
「……仕事をされているのですか?」
「? ええ。森の外で暮らしていくにはお金が必要ですから」
こいつは何を言っているんだ? とでも言うように不思議そうに小首を傾げて答えるシアリス。
……そうか。わかってはいたが、それでもしっかりと聞く事ができてよかった。エルフはケイノアみたいに怠け者の集まりじゃなかったんだな。
「……もうこんな時間でしたのね」
それからしばらく話していると、夕方を知らせる鐘が鳴り響き、シアリスはハッとしたように外を見た。
「ともかく、お姉様が御無事で何よりでした。ですが、気をつけてくださいね。ここは森の外なのですから、いつ襲われるか分かりませんよ」
「分かってる分かってるって。大丈夫よ」
妹の心配をよそに、ケイノアはかなり軽い感じで返事をする。その姿は俺でさえ本当に大丈夫なのだろうかと思ってしまうほどだ。
「では、アンドウさん。お姉様の事をよろしくおねがします。とは言っても任せきりにするつもりはありませんので、時折様子を見に来させていただきますが」
「ええ、大事なお姉さんが心配でしょうし、構いませんよ」
どうやらシアリスの中ではこの家に来るのは確定事項のようだ。だが、それはこっちとしても願ったりだ。ケイノアの世話を手伝ってくれると言うのなら、有り難い事この上ない。
「ありがとうございます。これから付き合いも増えるでしょうし、私のことはシアリスと気軽に呼んでください。それと言葉遣いも戻してくださって構いませんよ」
「そうですか? では……これからよろしく頼む、シアリス」
「ええ、こちらこそ」
そう言って一礼をしたシアリスは、立ち上がって玄関のドアに歩き出す。
「では本日はこれにて失礼させていただきます。お姉様、またお会いしましょう」
シアリスが出ていくとパタリとドアは閉められ、少しすると家の中にはいつもの雰囲気が流れ始めた。
「ふぅ~。なかなか緊張したなぁ」
自身よりも年長で、俺を害することのできる人物の相手は疲れた。俺はその疲れを吐き出すかのように思わずため息を吐いてしまった。
「そんなに緊張することなんてあった?」
「お前は家族だからだろうそう思うんだろうけど、俺としては大変だったんだよ」
「ふーん。ま、どうでもいいわ」
ケイノアはそう言うと、ゴロンとソファーに横になってしまった。その姿を見ると、やっぱりこいつの妹があんなにしっかりしているとは思えないな。
「はぁ……」
「ご主人様。お疲れのようですし、座ってください。ただ今ご夕食の用意をいたしますので」
俺がため息を吐いていると、イリンがそう言って声をかけてくれた。
ああ、やっぱりイリンはいい子だな。癒される。こっちの残念なエルフとは違うよ。
「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」
「私のもお願いね~」
ソファに寝そべりながら手を振ってそう言うケイノアだが、その姿にイラッとするのは俺だけだろうか?
……やっぱりこいつも働かせるか?
こいつとの契約としては、食と住は確保するし借金は肩代わりするが、それ以上は出す必要がないんだ。こいつだけ食事を炒り豆だけとかにしても文句はないだろう。
いや、文句はあるだろう。と言うか確実にある。だけど、契約的には問題は無いんだ。まともに食事がしたかったら働くように後で言ってみるかな。
……こいつは何を言ってるんだ? お前を探して来たって最初に言ってただろうが。さっき話してたことも忘れたのか?
「……それは森の外に、という意味でよろしいですか?」
「もちろんよ。それ以外にないでしょ?」
ああそっち。シアリスが俺の家にいる事に対してじゃなくて、そもそもエルフ達の森の外にいる事に対しての疑問か。
「私は少し前にこちらに来ました。お姉様がこちらに来る……十年ほど前でしょうか?」
シアリスはそう言ったが、十年は『少し』なんかじゃないと思う。
「そうだったの? ……あっ、だから私が起こされた時にいなかったのね」
「はい。本来であれば真っ先にお姉さまの元に向かったのですが、今回はお父様とお母様が無理に起こしてしまったので戻れませんでした」
「いいわよ、そんなの。で、なんで外に出て来たの? 私みたいに無理やりってわけじゃないでしょ?」
「はい。百年ほど社会見学でも、と思いまして。何かあった時に外を知っているのと知らないのでは違いますから」
『少し前』が十年前で、社会見学が百年か。やっぱりエルフの時間感覚は俺たちと違うな。
「ほえ~。シアリスはやっぱり凄いわね~。私はそんなこと考えたこともなかったわ」
「ありがとうございます」
シアリスはケイノアの言葉に照れたようにはにかんでいる。姉に褒められたのが嬉しいんだろう。
姉も妹も、お互いのことを大事にしてるいい姉妹だな。
「それにしても、こうしてお姉様と再びお会いできてよかったです。お姉様が宿からいなくなられた時は焦りました。所用で数日ほど街の外に出て、戻ってみたら宿からいなくなっていたのですから」
ああ、働かないせいで両親に家から追い出された姉を見守っていたのに、少し目を離した間に行方知れずになったのか。そりゃ心配もするだろうな。
その心配は俺がケイノアを回収した事で解決したのだが、俺としては一つ聞いておきたい事があった。
「その所用というのはもう終わったのですか? またこの街から離れる事が前もってわかっていると有り難いのですが……」
シアリスがいるかいないかで、今後ケイノアが何かした時に、もしくは何かあった時の対処法が違ってくる。できればシアリスがどこにいるのかは把握しておきたい。少なくともこの街にいるかどうかくらいはしておくべきだと思う。
なので、俺はそう言いながらチラリとケイノアの事を見ると、シアリスも俺の言いたい事を理解したようで頷いた。
「ええ、その件は終わりました。……ですが、そのうちまたここを離れることはあると思います。仕事がありますので」
「……仕事をされているのですか?」
「? ええ。森の外で暮らしていくにはお金が必要ですから」
こいつは何を言っているんだ? とでも言うように不思議そうに小首を傾げて答えるシアリス。
……そうか。わかってはいたが、それでもしっかりと聞く事ができてよかった。エルフはケイノアみたいに怠け者の集まりじゃなかったんだな。
「……もうこんな時間でしたのね」
それからしばらく話していると、夕方を知らせる鐘が鳴り響き、シアリスはハッとしたように外を見た。
「ともかく、お姉様が御無事で何よりでした。ですが、気をつけてくださいね。ここは森の外なのですから、いつ襲われるか分かりませんよ」
「分かってる分かってるって。大丈夫よ」
妹の心配をよそに、ケイノアはかなり軽い感じで返事をする。その姿は俺でさえ本当に大丈夫なのだろうかと思ってしまうほどだ。
「では、アンドウさん。お姉様の事をよろしくおねがします。とは言っても任せきりにするつもりはありませんので、時折様子を見に来させていただきますが」
「ええ、大事なお姉さんが心配でしょうし、構いませんよ」
どうやらシアリスの中ではこの家に来るのは確定事項のようだ。だが、それはこっちとしても願ったりだ。ケイノアの世話を手伝ってくれると言うのなら、有り難い事この上ない。
「ありがとうございます。これから付き合いも増えるでしょうし、私のことはシアリスと気軽に呼んでください。それと言葉遣いも戻してくださって構いませんよ」
「そうですか? では……これからよろしく頼む、シアリス」
「ええ、こちらこそ」
そう言って一礼をしたシアリスは、立ち上がって玄関のドアに歩き出す。
「では本日はこれにて失礼させていただきます。お姉様、またお会いしましょう」
シアリスが出ていくとパタリとドアは閉められ、少しすると家の中にはいつもの雰囲気が流れ始めた。
「ふぅ~。なかなか緊張したなぁ」
自身よりも年長で、俺を害することのできる人物の相手は疲れた。俺はその疲れを吐き出すかのように思わずため息を吐いてしまった。
「そんなに緊張することなんてあった?」
「お前は家族だからだろうそう思うんだろうけど、俺としては大変だったんだよ」
「ふーん。ま、どうでもいいわ」
ケイノアはそう言うと、ゴロンとソファーに横になってしまった。その姿を見ると、やっぱりこいつの妹があんなにしっかりしているとは思えないな。
「はぁ……」
「ご主人様。お疲れのようですし、座ってください。ただ今ご夕食の用意をいたしますので」
俺がため息を吐いていると、イリンがそう言って声をかけてくれた。
ああ、やっぱりイリンはいい子だな。癒される。こっちの残念なエルフとは違うよ。
「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」
「私のもお願いね~」
ソファに寝そべりながら手を振ってそう言うケイノアだが、その姿にイラッとするのは俺だけだろうか?
……やっぱりこいつも働かせるか?
こいつとの契約としては、食と住は確保するし借金は肩代わりするが、それ以上は出す必要がないんだ。こいつだけ食事を炒り豆だけとかにしても文句はないだろう。
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