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獣人達の国
155:二人の関係
しおりを挟む「ふぅ……」
っと。王がいなくなってつい安堵のため息を漏らしてしまったけど、まだ目の前には王女と王子がいるんだった。
「ふふっ。そう気を張らなくとも構いませんよ。お父様とお姉様がお認めになられた方をどうこうするつもりはありませんから。思ったところでどうにも出来ませんし」
お姉様とはあの赤い髪の女だろうか?
……おかしいな。王女に認められたはずなのに、認められたところでそれほど嬉しくないのはなんでだろうか?
「折角ですし色々お話を聞かせてもらっても構いませんか?」
「あっ! 私も聞きたいです! アンドウは冒険者なのですよね? いままでどのような事をされてこられたのでしょうか?」
なんだ? この子は冒険者に興味があるのか? それとも俺の話を聞きたいだけ?
ん~、でもどっちにしても、俺は一般的な冒険者とは違うからなぁ~。
「私は冒険者といっても、なったばかりですのでそれ程面白い事はありませんよ?」
「そうなのですか? ですが冒険者になられたばかりなのにあれほどお強いのですね!」
あれほどっていっても、この子が見たのは俺が暴漢を撃退するところだけだろう。あの程度なら多少なのしれたものなら出来るはずだ。
それ以外に何か俺が強いっていうような場面を見られたわけじゃ……あっ。もしかして予選を見られてた?
このことあったのも大会の会場だったしその可能性はあるな。
「何か強くなる秘訣とか──」
「アルディス。お客様に質問ばかりでは悪いですよ」
ポンと肩に置かれた手でハッとしたようにアルディスは隣に座るクリュテアを見上げた。
「申し訳ありません、姉上」
「お茶が冷めてしまっていますね。替えを用意させましょう。お話はそれからでも構わないでしょう?」
そう言うと机の上に置いてあったハンドベルを鳴らして使用人を呼び、お茶とお菓子の代わりを用意させた。
それからはアルディスが止まることなく話し続けていた。どうやら彼の中では俺は英雄になっているようだ。
勇者として呼ばれてはいるので、英雄というのもあながち間違いではないのだけど、実際にそういう目で見られるとちょっとむず痒い感じだ。
ガラーンガラーン
しばらく話していると鐘の音が聞こえた。
「あら、もうこんな時間ですのね」
クリュテアがそう言った直後に部屋のドアが叩かれた。
「クリュテア様。アルディス様。ご夕食のお時間です」
「では私たちはこれで失礼させていただきますね」
正直さっさと帰りたいので、そう言って帰ろうとしたのだが、そう簡単にはいかない。
「お待ち下さい。折角ですからご一緒にいかがですか? この時間まで招いておいて夕食にお誘いしないわけには参りません」
これは断っちゃまずいやつだよな?
たしかに言っていることは正しい。ここで断ったら王家を面子を潰すことになる。それは今後の関係を考えるとやめておきたいところだ。仕方ない……。
「よろしいのですか? でしたら喜んでお受けいたします」
……ああ。さっさと帰りたい。
そうして俺たちはかなりの広さの食堂に案内されたのだが、これでも第三食堂らしい。
第三って、そんなに食堂なんて必要ないだろ。
だが、ここにいる王族の数を考えればその数も当然だと思えた。
なにせこの国には、というかグラティース王には全部で二十六人の子供がいるのだから。
その全員が同時にというのはないとしても、何人かが同時に客を呼ぶことだってあるのだからそれなりに数は必要ということだ。
「イリン。今はいいから座りなさい」
そんな食堂で席についたのに。俺の後ろには相変わらずイリンが付き従っている。
だが、俺の正面にはちゃんとイリン用の席も用意されているのだ。
「ここではちゃんと給仕がいるんだから大丈夫だ」
そう言ってもまだ迷いを見せるイリン。
だが俺だってこんな時くらい一緒に食べたい。
「たまにはこうして一緒に食べるのもいいじゃないか」
いつもは一緒に食べる事はない。別に俺が嫌われているわけじゃない。本当だぞ?
イリンは最近はキリーに料理を教えてもらっている最中に食事をとっているので、俺はガムラと二人で食べているのだ。
「わかりました」
そうしてイリンも席についたわけだが、待たせた時間はそう長くはないとはいえ待たせることになって悪かったな。
「ではお食事にしましょうか」
この場で一番偉いクリュテアの音頭で夕食が始まる。
ふむ。使っている食材は普通だな。
まあこんなところでキリーみたいにへんな食材は使わないか。
「……お二人はお付き合いされているのですか?」
と、突然アルディスがキラキラと目を輝かせ、王子様スマイルでそんな事を聞いてきた。
「ただの主従関係ではありませんよね?」
アルディスの無邪気な発言に乗るようにクリュテアも目を輝かせている。こちらはアルディスと違って「キラキラ』ではなく『ギラギラ』だったが。
これは女子特有の恋愛話しになると騒ぎ出すアレだろう。
クリュテアは弁えているだろうから必要以上に突っ込んでくることはないと思うけど、アルディスが読めないな。何て言ったものか……。
「いや、まあ……そうですね」
とりあえず曖昧に言葉を濁しておいた。それだけでクリュテアは察してくれたようでそれ以上の追求をやめてくれたのだが……
「では結婚されるのですか?」
アルディスは何もわかっていないような無邪気さで問う。
……これ答えないとダメかな? ……ダメだろうなぁ。さっきみたいに曖昧にしたところで追及されるだろうし、最初から何でもない風に答えた方がいいな。
「え、ええっと。そう、ですね。で、できるならそうしたいとは思って、います」
あ、ダメだこれ。全然『何でもない感じ』じゃないわ。明らかに意識してんのバレるやつだ。
ギギギと錆びついたような首を動かして周りを見てみると、目の前にいるクリュテアもだが、使用人たちも、アルディス以外の全員が微笑ましいものを見るような目つきでこちらを見ている。
ええい! そんな目でこっちをみるな! 仕方ないだろ⁉︎ 色々と初めてなんだから!
だがそんなことを叫ぶわけにもいかないので、その場は居心地の悪いままでいるしかないのだった。
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